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現代ヴァンパイアは楽園を探す  作者: 津村マウフ
第三章 屍食鬼
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幻術使いとの対話2


 ふふんと笑うと、咲は話を変えた。


「そういえば鉤爪(クロー)はどうなった?決着はつけなかったのか?」


「知らないな。俺はあれっきりだ」


「それで、わたしのもとに来る気になったか?」


「答えは最初から決まっている。断る」


「理由は?」


「俺は自由な男でね。何かに縛られるのは性に合わない」


「お前の言う自由とは、正体を隠して、こそこそ生きることか?」


 咲はせせら笑った。


「ーーっ!」


 ムッとして、幻術使いは咲を睨んだ。


「それは生きているとは言わない。死んでいないというだけだ」


「ふん。あんたのところに行けば変わるとでもいうのか?」


「さあな。それは自分で考えてくれ。だが、少なくとも正体がばれることを恐れてびくびく生きる必要はなくなる」


 幻術使いは再びじっと考えこんだ。


「お前は孤独だ。そして、この世界に自分の居場所がないと感じている。だから何かを求めて、わたしの話を聞きに来たんじゃないのか?」


「まるで俺のことをよく知っているような言い方だな」


 幻術使いは咲を睨んだ。


「これでもそこそこ長く生きているからな。話をすればおおよそのことは分かる。誰でも自分こそ特別だと思いがちだが、そうじゃない。大勢のヴァンパイアが同じ問題に苦しんできた。何も一人で苦しみ続けることはない。たまには、先人の知恵を学んでみるのもいいと思うぞ」


「あんたは答えを持っているのか?」


「答えがあるとすれば個人的なものだ。そんなものを伝えても意味がない。わたしはお前の答えを教えることはできないが、少なくとも安全な居場所と正当な身分を提供することは約束しよう。もちろん、仕事はしてもらうことにはなるが、悪い話ではないと思うぞ」


「……悪いが、全面的にあんたを信じることはできない」


 幻術使いはしばらく考えこんだ後、そう答えた。


「構わないさ。今すぐ返事をしろとは言わない。ゆっくり考えてくれればいい」


「ずいぶん、物分かりがいいんだな」


「無理強いしても仕方ないからな。できれば、殺さなくてもすむように願う」


 咲はにっこりと笑ってみせた。

 ほんのりと上気した白い肌が咲の笑顔を一層際立たせた。それはまるで、暗がりに大輪の花が咲いたかのようだった。


「そろそろ時間だ」


 幻術使いは特に反応することもなく、そっけなく言った。


「何の時間だ?こちらは一晩中話をしてやってもかまわないぞ」


 咲はソファーにもたれかかると、背もたれに腕をかけた。


「こう見えても、色々と忙しくてね。まあ、話を聞けてよかったよ」


「最後に顔を見せたらどうだ?わたしほどの美女を前にして緊張するのは分かるが、いい加減慣れてもいい頃じゃないか?」


 幻術使いは笑った。


「言っただろ。俺は恥ずかしがり屋なんだ」


「恥ずかしがるにも程がある」


 咲はあきれた顔をした。


「ああ、そうだ。忘れるところだった。市役所の屋上を見に行ってみるといい」


 そう言うと、幻術使いは咲に背を向けた。


「何があるんだ?」


「行けば分かる」


 カーテンがゆれた。幻術使いは消えた。


 咲はふぅっと大きく息をつくと、脱力して天井を見上げた。


「ふふふふふ、ずいぶんと分かりやすくてかわいいヤツじゃないか」


 咲は笑い出した。

 ひとしきり笑うと、そういえば、ヴァンパイアの未来について話をしたのも久しぶりだ、と気がついた。


 理解されないどころか、中傷されるばかりで、そういった話をすることも絶えて久しかったが、やはり心は飢えていたのだろう。自分の話を真剣に聞いてもらえたことは、素直に嬉しかった。


「だが、不可解な点がある……」


 咲にはどうしても気になって仕方がないことがあった。


「あれだけセクシーポーズを連発してやったというのに、何であいつは反応しないんだ?若い男という話だったが……もしかして、女に興味がないのか?」


 どうでもいいことだった。


 咲は鏡に向かってセクシーポーズを試し始めた。

 咲は少し自信を失っていた。




 ドアが激しくノックされた。


「中村です」


 中村の焦った声が聞こえた。


「ちょっと待ってくれ」


 やっているうちに楽しくなって、セクシーポーズの練習に無駄に熱が入ってしまった。SNSをやっていたら、勢いで動画を投稿していたかもしれない。


 咲はガウンの乱れを整えて帯を締め直すと、ドアを開けた。


「うおっ」


 中村は咲の姿を見て、視線をさまよわせた。


 これが正常な反応だ、と咲は密かに自信を取り戻した。


「どうした?」


「参番隊が姿を消しました」


 中村は顔を引き締めた。


「何?」


「ヴァンパイア本部の詰め所から全員の姿が消えています」


 なるほど、そういうことか、と咲は納得した。


「市役所の屋上を調べてみろ」


「え!?何か知っているんですか?」


「幻術使いが現れた。少し話をしたよ。ヤツの仕業だろう」




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「ははっ、やられたな」


「面目ありません……」


 救出された参番隊の面々はうなだれていた。


 参番隊は落下防止柵を乗り越えて、全員が市役所屋上の先端で直立姿勢で立っていた。

 一歩前に出れば、地上に真っ逆さまである。


 聞けば、どうしてこういうことになっているのか誰も覚えていなかった。

 ただ、とても重要な命令を待っていたような気がすると口をそろえた。


 署内の警察官に聞いても、参番隊が出ていったことに気がついたものはいなかった。

 防犯カメラの映像も全て削除されていた。

 あまりの鮮やかな手口に笑うしかない。


「本件は幻術使いの仕業とみて間違いない。いつでも皆殺しにできるという警告だな。手を出すなということだろう」


「誰一人として傷つけていないところが嫌らしいですね。事件にもできません。恥をさらすだけです。実にいいところを突いてくる」


 メモを取りながら、中村はため息をついた。


「情報も取られたようだ。ホームのことも知っていた。ただ、わたしたちと敵対するつもりはないようだ。しばらく泳がせておけばいい。その間にこちらの準備を進める」


「本当に幻術使いを仲間に引き入れるつもりですか?」


 中村が尋ねた。


「もちろんだ。話をして、ますます欲しくなった」


 咲は猛禽類を思わせる笑みを浮かべた。


 これは逃げられないぞ、と中村は幻術使いに少し同情した。


「……しかし、こうも易々とトラップを突破されると落ち込みますぜ」


 鳴海は珍しく本気で落ち込んでいた。


「そのあたりは改善が必要だろうな。次はうまくやってくれよ。期待してるぞ」


 咲は鳴海の肩を叩いた。




ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は5/28(火)投稿予定です。


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