参番隊
吸血部隊が住宅街を車を走らせていると、丑蜜がヴァンパイアの気配を探知した。
「あの家にヴァンパイアがいるでありんす」
車を停めると、丑蜜は奥まった場所にある家を指さした。
咲は別の家を強襲している最中で、車には丑蜜の他には、中村と運転を担当する隊員、ナビ役の安江が乗っていた。
中村達は車を家の近くに回した。
「この家で間違いありんせん」
丑蜜は家と言ったが、実際は二階建ての箱型の家をゲストハウスに改装した建物だった。入口にゲストハウス名が書かれた看板が設置されている。もともとは古い一軒家だったのだろうが、木目調の壁材を使って現代風にリフォームされていた。
二階には大きな窓が三つ並んで開放的な雰囲気だ。しかし、今はカーテンが閉め切られ、中の様子が見えないようになっていた。
「でも変でありんす。家の中にヴァンパイアが三体いるんでありんすけど、一体は死にかけているような……。それに、人間は十人以上いるでありんす。家の中を自由に動き回っているようだし、様子が変でありんす」
「あー」
中村が額に手を当てて、顔をしかめた。何かを察したようだった。
「鳴海」
中村はマイク越しに鳴海に声をかけた。
「聞こえてたぜ。多分、三木が言ってた奴らだな」
すぐに鳴海から返事があった。話を聞いていたようだ。
「肆番隊の隊長さんが?」
丑蜜が首をかしげた。
吸血部隊は四つの小隊で構成されている。咲の壱番隊、燐の弐番隊、鳴海の参番隊の他に、三木という男が小隊長を務める肆番隊が存在する。
ヴァンパイアの制圧を主任務とする壱番から参番までの小隊とは異なり、肆番隊は諜報活動を主任務としていた。前線に出ることはほとんどないが、重要な役割を持つ隊である。
「丑蜜ちゃんは気にしなくていい」
スピーカーの向こうで、鳴海が言った。
「頼めるか?」
中村は、鳴海にゲストハウスの位置情報と映像を送った。
「俺たちの向きの仕事だな。うまくやっとく。中隊長にはあんまり見せたくねえしな。あの人、顔に出さないけど、結構、繊細だからな」
「よろしく頼む」
「というわけだ。参番隊、出るぞ!」
鳴海は参番隊の隊員達に号令をかけた。
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ゲストハウスはセルフチェックイン方式で、オーナーは別の場所に住んでいた。あえて、そういう施設を選んだのだろう。
オーナーに電話で話を聞いたところ、市役所の決闘があった少し前から大学のサークルの貸し切りになっているとのことだった。
隊員達が外から建物を見て回ったところ、全ての窓が閉め切られ、中が見えないように目隠しされていた。
「おあつらえ向きだな。ガスを使うぞ」
鳴海が言った。
「了解」
参番隊の隊員達が建物を取り囲んだ。
隊員達は皆、左右に円形のフィルターを備えたガスマスクを装着している。
手慣れた様子で隊員達が、麻酔ガスが入ったボンベを箱型の送出装置に取り付けて、一階と二階の換気口に送出用のチューブを差し込んだ。
鳴海の合図とともに、送出装置のスイッチが入れられた。
低いモーター音とともに、ゲストハウスにガスが送り込まれた。
おっぱい好きが集まっていることは間違いないが、仮にも吸血部隊の一翼を担う存在である。それだけではない。参番隊には、咲や燐のようなヴァンパイアがいない。人間だけの隊員で構成されている小隊だ。
元々は対テロリスト対策に関わっていた人間が多く、隊員は通常の銃器だけでなく、薬品やトラップなど、ありとあらゆるものを使用する。
人間を相手にする場合と違って、ヴァンパイアを相手にする場合、使用する銃器や薬品、道具に関する制約は緩い。非人道的だと非難されることがないからだ。隊員達はそれらのものを使いこなす上、独自のアイテム類も開発していた。
人間だけの部隊でヴァンパイアに対抗できるのは、それなりの理由があるのだ。
ガスが十分に充満したタイミングを見計らって、参番隊がゲストハウスに突入した。
玄関を入ると、ラウンジがあり、若い男女数名が倒れていた。
「ぐうう……一体、何が……」
倒れていた男が頭を上げた。まだ、意識がある。ヴァンパイアだ。
鳴海は拳銃でヴァンパイアを撃ち殺した。
「ひいいいっ!」
ラウンジの奥の部屋から女の悲鳴が聞こえた。二段ベッドが並ぶ女性専用の部屋からだ。
隊員達にサブマシンガンを突き付けられた女のヴァンパイアがいた。他にも人間の女がいたが、意識を失って床に倒れていた。
ヴァンパイアは意識があったが、体がいうことをきかず、床に這いつくばっていた。
鳴海がヴァンパイアの前にしゃがみこんだ。
ガスマスクをつけているので、鳴海の表情はわからない。
「一応、聞くだけ聞いておくけど、お前ら、教団だろ?」
「……何のことだかか、分からないわね」
ヴァンパイアは顔を背けた。
「そうか」
鳴海はヴァンパイアに銃を向けた。
「じゃあ、さようなら」
「!!」
ヴァンパイアは必死に立ち上がって逃げ出そうとした。
しかし、左右からヴァンパイアの体をナイフが貫いた。
ヴァンパイアは崩れ落ちた。
二階は個室が並んでいた。五室ある一番奥の個室に、死にかけたヴァンパイアがいた。
ヴァンパイアはロープで椅子に縛り付けられていた。口枷をかまされ、後ろ手に結束バンドでがっちりと固定されている。両足首も結束バンドで固定する念の入れようだ。
ヴァンパイアの左腕には採血用の注射器が取り付けられていた。注射器から延びるチューブは窓際のテーブルに置かれたビーカーにつながっている。ビーカーはヴァンパイアの血で半分ほど満たされていた。
テーブルの上には、他に血で満たされたビーカーが何本も並んでいた。
部屋の中には他に、スタンガンを持った学生らしき二人の男が昏倒していた。こちらは見張りだろう。
ヴァンパイアはまだ意識があった。突入してきた隊員達をおびえた目で見ていた。
鳴海は無造作にヴァンパイアの頭を撃ち抜いた。
ゲストハウスを調べたところ、冷蔵庫の中からヴァンパイアの血が入った大量のビーカーが出てきた。二階で見つかったヴァンパイアのものにしては数が多すぎる。
ビーカーには日時とヴァンパイアの特徴が書かれたラベルが貼られていた。どうやら、今回の騒ぎで集まったヴァンパイアを捕まえては、血を抜き取っていたようだ。
探せば、付近のどこかでヴァンパイアの死体が見つかりそうである。
二階の一室では、二人の男と一人の女が倒れていた。
テーブルの上には血液が入ったビーカーとガラス製のスポイトと試験管、シャーレが並べられていた。何らかの実験を行っていたようだ。
倒れた男は試験管を手にしており、倒れた拍子に中身の血が床にこぼれていた。
また、ゲストハウスの裏庭に停められていた大型バンの荷台にビニールシートに包まれた死体が見つかった。
全身から血を流して死んでいる人間の他に、ヴァンパイアになりそこねて異形化した死体もあった。
なりそこねは胸に刺し傷があった。なりそこねた段階で始末されたようだ。
いずれもヴァンパイアになれずに死亡した者達である。
生きている人間と、死体がラウンジに集められた。
人間は全員、手錠で拘束した上でである。
ガスの効果が弱まり、昏倒していた人間たちが意識を取り戻し始めた。
「うう……」
代表と思しき男が意識を取り戻した。
「お目覚めか。ゴミくず」
代表の前にはガスマスクをつけた鳴海が座っていた。
鳴海の後ろに並べられてるヴァンパイアの死体が、代表の目に入った。
「ああっ、神官様!」
鳴海は立ち上がると、代表の腹に蹴りを入れた。
「ぐえっ」
代表は転がって、咳きこんだ。
「げほっ、げほっ」
「おい、ゴミくず。大学のサークル活動にしちゃあ、おいたが過ぎるんじゃないか?」
「お、お前ら!こ、こんなことをしてただで済むと!」
「うるせえよ。ゴミくず」
鳴海はさらに男の腹に蹴りを入れた。
代表は腹を抱えて呻いた。
「おい、ゴミくず。人間でよかったな。問答無用で殺されないですむんだから」
代表が鳴海を殺気のこもった目で見返した。
「ヴァンパイアは人間の上位種だ!僕たちは人間をさらなる高みに引き上げようとしているんだ!人間をヴァンパイアに作り変える方法が確立すれば、世界が変わる!これは僕たちに課せられた重要な使命だ!」
「うるせえよ。そんなことは裁判所で言いな。ゴミくず」
鳴海は代表を踏みつけた。
「それで、あれも使命とやらの一環か?」
鳴海はヴァンパイアの横に並べられた死体をあごでしゃくった。
人間の形を保った死体もあれば、なりそこねて異形化した死体もある。ヴァンパイアの血に適合しなかった者達だ。
「……みんな覚悟の上だ。事前検査ではヴァンパイアになれる可能性が高かった」
代表はきまりが悪そうにうつむいたが、すぐに顔を上げた。
「知ってるぞ!お前ら吸血部隊だろ!お前らのボスだって、ヴァンパイアじゃないか!僕たちと何が違うっていうんだ!」
鳴海が男の腹に蹴りを入れた。
「あの人をお前らみてえなゴミくずと一緒にするんじゃねえよ!」
代表は両腕で腹をかばったが、鳴海は構わずその上から何度も蹴りを入れた。
「小隊長、そのへんで」
まずいと思った隊員が出てきて、鳴海を止めた。
「あん?」
鳴海が代表を踏みつけながら、不機嫌に振り向いた。
「死んじゃいますよ」
代表の顔色が土気色に変わっていた。
「ん?……ああ、そうだな。死なすと面倒だしな」
鳴海は代表から足をどけた。
「市警に言って、護送車を回してもらえ。こいつらは三木に引き渡す」
鳴海は代表をもう一度、蹴飛ばした。
いくつかのアクシデントはあったものの、吸血部隊はヴァンパイア殲滅作戦を着実に進めていった。
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次回は4/9(火)投稿予定です。




