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現代ヴァンパイアは楽園を探す  作者: 津村マウフ
第二章 吸血部隊
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気配探知


「姐さんはわっちのことが嫌いなんでありんす!」


 ホテルに向かう車中で、助手席に座った丑蜜(うしみつ)は盛大に愚痴をぶちまけた。

 運転しているのは燐である。


 丑蜜(うしみつ)と燐は同時期に咲に拾われ、ホームで暮らした経緯を持つ、旧知の間柄だ。


 もっとも、奔放な丑蜜(うしみつ)に対して、生真面目な燐の性格は正反対である。昔から燐は丑蜜(うしみつ)が何か問題を起こす度にフォローしてきた。咲に叱られて丑蜜(うしみつ)を慰めるのは、いつも燐の役回りだった。


 丑蜜(うしみつ)はそうした燐に感謝するどころか、それが当たり前だと思っているフシがあった。


「中隊長は丑蜜(うしみつ)のことを心配して言ってるんだから、ちゃんと聞いたほうがいいよ」


 ふくれっ面をして同じ言葉を繰り返す丑蜜(うしみつ)に、燐は生真面目に言葉を返した。


「燐ちゃんまで姐さんの味方をするんでありんすか?」


 丑蜜(うしみつ)が声を荒げて燐の肩をつかんだ。

 ハンドルが回り、車が対向車線を越えそうになった。


「ちょっと、危ないって」


 燐は慌ててハンドルを切った。


「だから、味方とかじゃなくて……」


「じゃあ、何でありんすか?」


「怒るってかなりエネルギー使うんだよ。本当にどうでもいいんだったら、何にも言わないよ。その方が楽なんだし」


 丑蜜(うしみつ)は収まらない様子だったが、不貞腐れた顔で燐の話を聞いていた。


「それに今回のことは明らかに丑蜜(うしみつ)が悪い。丑蜜(うしみつ)が遅れたせいで、今日一日無駄になったんだから。そもそも何で遅れたの?」


「道に迷ったって言いんした」


 丑蜜(うしみつ)はそっぽを向いた。


「それだったら電話してくれれば、誰か迎えに行ったのに……」


「スマホの充電が切れたんでありんす。もう、いいでありんす。みんなでわっちを悪者にすればいいんでありんす」


「だからぁ……」


「燐ちゃんはいいでありんすよね。姐さんのお気に入りでありんすし、ホームの希望の星でありんすもの。それに比べてわっちは叱られてばっかり……」


 丑蜜(うしみつ)は口を尖らせた。


「そんなことないって」


 燐はそう口にしながら、ホームの希望の星と言われてひそかに喜んだ。


 今は予算の無駄と陰口を叩かれているホームだが、燐にとってはようやく得た安息の場所だ。丑蜜(うしみつ)の他にも仲間のヴァンパイアが大勢いる。咲が苦労して作り上げた場所だ。


 ホームを守ることが燐にとって何よりも大切なことだった。そのために結果を出したい、と常日頃から燐は考えていた。


 二体が乗った車はライトアップされた斜張橋に入った。二基の主塔から伸びるケーブルが光を受けて闇夜に白く浮かび上がっている。ケーブルの向こうには貨沢市街の夜景が広がっていた。


 吸血部隊が定宿としているビジネスホテルは橋を渡ってすぐの所にある。


「姐さんは女を捨ててるから、可愛い女のまんまでいるわっちのことが癪に障るんでありんす」


「それはちょっと失礼じゃないか?」


 燐は苦笑いした。


「だって、まことのことでありんす」


 丑蜜(うしみつ)はつんとした。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 翌朝。

 丑蜜(うしみつ)の姿が貨沢市役所屋上にあった。


 雲一つないよく晴れた日で、屋上からは貨沢市の街並みを遠くまで見渡すことができた。市役所を中心に建築物が密集し、その先は水田の緑が広がっている。はるか遠くには雪を頂く山々が連なっていた。


 丑蜜(うしみつ)は、一番の高所である屋上出入口の屋根に上がると、座禅を組んだ。そして、目を閉じて意識を内側に集中した。


 しばらくすると、丑蜜(うしみつ)の体が淡く白い光を纏った。かと思うと、光は水が波打つように四方へ広がっていった。

 光は丑蜜(うしみつ)から遠ざかるにつれ薄くなり、やがて消えた。


「あっちの方が一番沢山ヴァンパイアの気配を感じるでありんす」


 丑蜜(うしみつ)は目を開けると、市役所から西に当たる住宅街の方を指さした。


 丑蜜(うしみつ)には生気(オーラ)を薄く広げて、生き物の気配を探知する能力があった。その距離、おおよそ五百メートル。


 丑蜜(うしみつ)から離れるにつれ、細かな情報を得ることはできなくなっていくが、そのくらいの距離であれば、人間かヴァンパイアかの区別をすることができた。


 丑蜜(うしみつ)を見守っていた吸血部隊の隊長達は、一様に肩を落とした。


「住宅街か……盲点だったな」


 咲が口を開いた。


「巡回はしてるはずなんですがねえ」


「家に入られちゃ、外からは分かんねえよ。他人はそうそう踏み込めないし、絶好の隠れ場所だよなあ」


「大人しく家を借りて住んでるってことはないですよねえ」


「あーあ、何人やられていることやら……」


 鳴海が嘆いた。


「ここで嘆いていても仕方がない。嘆くのは後だ。まずは正確な状況を把握しよう。場所を変えて何度かやってみるぞ。中村、結果を控えていってくれ」



 咲達は貨沢市内を移動し、高所に上っては気配探知を繰り返した。そして、その結果を中村が地図に書き込んでいった。


 密かに丑蜜(うしみつ)は、笹島のために鉤爪(クロー)らしき気配も探っていたのだが、探知範囲に話で聞いたほど強力な気配を感じることはなかった。


 丑蜜(うしみつ)の探知が一通り終わると、咲達は一度ヴァンパイア対策本部に戻った。

 疲れ切った丑蜜(うしみつ)は、詰所に置かれた簡易ベッドで横になった。


 大会議室に集まった隊員達は、探知結果の報告を受けた。


 ヴァンパイアが最も数多く潜伏しているのは、市の西側に位置する住宅街。住宅街に潜伏しているヴァンパイアはほとんど動きがない。貨沢市を拠点にすべく、機会を窺っているのだと推測される。


 次いで繁華街。こちらのヴァンパイアは一か所にじっとしていることがなく、常に移動している。また、市内から離れた貨沢城や旧茶屋街などの観光名所にもちらほら見られた。繁華街や観光名所にいるヴァンパイアは、観光を楽しんでいるものと推測された。


「人が躍起になって仕事してんのに、呑気に観光かよっ!」


 会議の席上で鳴海が怒鳴り声を上げたが、隊の全員の気持ちを代弁していたので咎められることはなかった。


 意外なところでは、市の中心を流れる浅手川沿いの水田にまとまった数のヴァンパイアが存在したことだ。下水を処理する水質管理センターがあるあたりだ。


 何かを探しているらしく、これらのヴァンパイアは常に移動していた。生きているヴァンパイアだけでなく、ヴァンパイアの死体が見つかった付近でもある。


 咲はこのあたりに幻術使いが潜伏しているのだろうと当たりをつけた。そして、幻術使いが生きているらしいことにほっとしている自分に気がついた。


(我ながら、ここまで執着するとはな。確かに仲間は欲しい。喉から手が出るほど欲しいのは事実だが……判断するのは、一度会ってからだ)


 そして、ヴァンパイア殲滅作戦が実行に移された。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は3/29(金)投稿予定です。


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