11 最終話
吐いた息が凍る音の無い世界。月が冴え冴えと空も白銀の大地をも支配している。
エッガー家では重要な会談がされている中、ルナは一人、妖精のお喋りに付き合わされ、雪道……ほぼ雪原と格闘している。
馬車が通った跡を辿りながら、雪を掻き分けて歩いている。身体中に真っ白な粉雪を浴び、ひたすらに進む。何度持ち替えてもトランクを持つ手が痺れる。
『ルナ~、つきがきれいだねぇ』
『あしたははれるよ~~』
凍える寒さ以外、妖精は非協力的。ルナの思惑を無視して、耳元では絶えず妖精たちが騒がしい。
「あぁ、もう。あなた達、元気ね」
『ルナがげんきだからだよ~~』
「……おかげさまで」
息が上がって、小休憩。吐いた息が夜空の星と重なりキラキラする。元来た道を振り返ると、栗毛の馬が月の光に照らされて駆けてくる。
舞い上がる白い雪の粉塵が、ルナの手前で止まる。馬上から降りてくるのは、フィンリー。
「ルナ……よくこんな夜中に雪中行軍なんてするね。妖精たちがいなかったら今頃凍え死んでるよ」
フィンリーは、ルナの手を取って手繰り寄せる。胸の中に強く抱きしめる。
「フィンリー様、苦しい、離してください」
「離さないよ。連れて帰る」
ルナはフィンリーの腕を解こうと抵抗を試みるが、ビクともしない。気持ちが裏腹過ぎて力が入らない。
「妖精が私に何もしてこないけど? ルナの本心は? 」
ルナの身体を少し自由にして、フィンリーはルナの顔を覗き込む。
「今度こそ、ルナをどこにもやらないよ。どこか遠くにでも行きたいのなら、一緒に行こう。連れて行くから」
「フィンリー様、……私……」
フィンリーを見上げて、ルナは次の言葉が出てこない。フィンリーの言葉の効力の方が強くて、気持ちが解放されてしまう。
「ルナにメイドの部屋は無いよ。ずっと私の部屋で暮らせばいいだろう? まだ屋敷の中で入ったことがない部屋だよね」
「……私が担当します」
「そういうことじゃ無いんだけど、妖精に聞いてみるよ」
フィンリーは、ルナの返事に困ったように微笑むと、ルナの頬を包んで、唇を重ねた。
妖精たちは二人の周りを飛び交い笑いながら歌をうたう。ルナにそれはなんの歌か分からないが、多分、祝福の歌なのかと思う。
歌の合間に、「けいやくりこうする~」って盛り上がるけど、それは本当に程々にしてくれるかな……
……相変わらず、煩いほど賑やか。フィンリーには聞こえていない。
fin
完結です。
お読みいただきありがとうございました(ฅ'ω'ฅ)
思いがけず完結ブーストが発生。
異世界恋愛日間最高10位を記録。
沢山の方に読んでいただけて驚くとともに大変うれしく思っています。
拙作で長期連載や短編なども有りますので、是非、そちらにもお越し下さいませ♡
頑張って作品作ってまいりますので、今後ともよろしくお願いします。
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続編?スピンオフ
「まだ部屋のないメイドです。」を公開しました。
14話で13000万字程度なので、宜しければ、そちらも続けてお読みください。
(2020.1.19)