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第77話 栞の子

夕食後。


俺は、特異職科地下演習室に戻った。


戻るなり、ミラに言われた。


「ちゃんと水飲んだ?」


「飲んだ」


「勝手に旧記録保管庫行ってない?」


「行ってない」


「本当に?」


「お前までそれ言うのか」


ミラは毛布を肩にかけたまま、にやっと笑った。


「流行ってるから」


「嫌な流行だな」


「アキトくん対策としては有効」


反論できない。


それが腹立つ。


地下演習室には、いつもの面々が揃っていた。


リュミエル。

フィン先生。

カサンドラ副院長。

ノルン。

セリア。

トーヤ。

レオン。

ヴァイス。

ミラ。


そして、少し離れた保護寝台に、エリオットとルグラン。


エリオットは意識を取り戻しているが、まだ長くは話せない。

ルグランはまだ眠っている。


二人とも、黒鐘廊に触れられた者だ。


犯人。

被害者。

証言者。

加担者。


ひとつの言葉では片づかない。


だから、今は保護対象。


それでいい。


机の中央には、帰還空欄の保護封筒。


そして、反転板。


さらに、カサンドラ副院長が用意した旧記録保管庫の管理台帳写し。


今日の議題は一つ。


栞の子。


旧地下聖堂、第二幕通路の奥。

本文と本文の間。

ページの隙間にいる存在。


帰還記述保管者の本名を知る者。


黒鐘廊が、本名を呼ばせるために使おうとしている帰還未完了者。


「まず確認する」


フィン先生が言った。


「栞の子を助けに行く、ではない」


先に釘を刺された。


俺は頷く。


「本人確認。帰還意思確認。黒鐘廊の誘導ではないことの確認」


「よし」


「あと、栞の子を本名の鍵として扱わない」


「よし」


「本名を聞き出さない」


「よし」


三回目のよし。


最近、俺は犬のしつけでも受けているのだろうか。


いや、言われるだけの前科がある。


仕方ない。


リュミエルが俺の横に立つ。


「今日は旧記録保管庫の管理台帳だけを見る」


「分かってる」


「第二幕通路には近づかない」


「分かってる」


「栞の子の声が聞こえても、返事しない」


「……分かってる」


少し間が空いた。


リュミエルの目が細くなる。


「今の間」


「声が聞こえたら、たぶんきついと思っただけだ」


「正直でよろしい」


「本当に先生っぽい」


「あなたが危なっかしいから」


はい。


反論なし。


ミラが寝台の上で、手をひらひら振った。


「栞ってさ、本の途中に挟むやつだよね」


「前世ではそうだな」


「こっちにもあるの?」


カサンドラ副院長が頷く。


「あります。特に旧記録保管庫では、危険記録の閲覧位置を外側から保持するための道具として使われていました」


「読むためじゃなくて?」


「読まないためです」


ミラは少し目を丸くした。


「おお。今の私たち向き」


「その通りです」


副院長は台帳写しを開く。


「記録栞は、本文を開かずに、記録のどこまで管理確認を行ったか示すための外側器具です。危険記録、異端記録、神殿査問記録などに使われていました」


「じゃあ、栞の子って」


ノルンが小さく言う。


「その記録栞を扱っていた子、という意味でしょうか」


「可能性があります」


「子ってことは、本当に子供なの?」


セリアが眉をひそめる。


副院長は首を横に振る。


「不明です。旧記録保管庫では、補助記録官を“子”と呼ぶ古い慣習があったとも言われています」


「じゃあ年齢とは限らない」


「はい」


少しだけ安心したような、そうでもないような。


子供が閉じ込められている可能性は、胸に悪い。


だが、大人なら大丈夫という話でもない。


閉じ込められていい人間なんていない。


「管理台帳に、栞の子の項目はあるのか?」


俺が聞くと、副院長は台帳写しを指でなぞった。


「直接の項目はありません。ただし、“記録栞補助者”という項目があります」


「それが栞の子?」


「可能性が高いです」


ヴァイスが反転板を準備する。


「名前は黒塗りにする。役割名、所属、担当、削除跡だけを見る」


「本名は?」


「見ない」


ヴァイスが即答した。


「貴様の目が滑りそうなら、リュミエルに塞いでもらえ」


「言い方」


「事実だ」


最近、みんな俺の扱いに慣れすぎている。


いや、信頼の形だ。


たぶん。


「注釈枠を作る」


俺は言った。


【注釈枠】


――これは栞の子の本名開示ではない。

――これは栞の子を本名の鍵として扱うための閲覧ではない。

――これは旧記録保管庫の記録栞補助者に関する外側確認である。

――本文、命令文、読者への呼びかけを取得してはならない。

――取得対象は、役割名、担当範囲、削除跡、封印痕、帰還意思に関する外側痕跡に限定する。

――栞の子を素材、鍵、案内役、誘導役として扱わない。

――本人の名前は保留。

――本人の選択を保護する。


魔力が少し抜ける。


軽い。


問題ない。


リュミエルが横から確認する。


「無理は?」


「してない」


「本当に?」


「本当」


「顔は普通」


「顔認証通った」


「今のところ」


厳しい。


でも、それでいい。


ヴァイスが反転板を台帳写しの上にかざす。


黒塗りの項目が浮かぶ。


名前は見えない。


よし。


まず表示されたのは、登録情報。


【記録栞補助者】

【所属:旧記録保管庫・臨時補助】

【担当:異端記録の閲覧位置管理】

【補助対象:帰還記述保管者】

【主担当記録:篠原夏希関連記録】

【備考:本文閲覧禁止】


「本文閲覧禁止」


ノルンが呟く。


「この子も、本文を読んではいけない立場だったんですね」


「記録栞を扱うなら当然だろう」


ヴァイスが言う。


「読む役ではなく、読ませないための目印を置く役だ」


栞の子。


読むためではなく、読ませないための子。


それだけで、少し輪郭が見えた。


「削除跡は?」


フィン先生が聞く。


ヴァイスが反転板の角度を変える。


黒塗りの周囲に、細い傷のような線が浮かぶ。


【削除痕:神殿式】

【上書き痕:黒鐘廊式】

【本人封印痕:なし】

【帰還記述保管者による保護痕:あり】


「本人は名前を封印していない」


リュミエルが言った。


「帰還記述保管者が保護した?」


「そう見える」


ヴァイスは眉を寄せる。


「本名の削除は神殿式。黒鐘廊がその上に役割名を上書きしている。だが、さらに外側に帰還記述保管者の保護痕がある」


「つまり、帰還記述保管者がその子を守ろうとした」


俺は言った。


胸の奥が少し重くなる。


名前を消され、役割を上書きされ、それでも誰かが守ろうとした。


「備考を見ろ」


フィン先生が言った。


ヴァイスが頷く。


追加の外側情報が浮かぶ。


【備考】

【当該補助者は、第二幕通路の閲覧位置を外側から保持】

【本文への落下防止に貢献】

【最終記録:第二幕通路内に残留】

【状態:栞化】


「栞化……?」


セリアが顔をしかめる。


「嫌な言葉ね」


「同感だ」


俺は呟いた。


状態、栞化。


人間に使う言葉ではない。


「栞化とは?」


カサンドラ副院長が台帳の別項目を確認する。


「旧記録保管庫の用語では、本来は記録栞が本文内へ沈み込んだ状態を指します」


「道具の状態ですよね?」


ノルンが不安そうに言う。


「はい。本来は人間には使いません」


本来は。


この世界で本来という言葉は、だいたい破られる前振りだ。


「人間が栞化するとどうなる」


フィン先生が聞く。


副院長は少し沈黙した。


珍しい。


「記録の途中位置を保持する存在として、本文と外側の間に固定されます」


「つまり?」


「通路を維持するための目印になります」


ミラの表情が強張った。


「鍵扱いと似てる」


「はい」


副院長の声は静かだった。


「ただし、鍵よりも悪いです。鍵は開閉に使われますが、栞は途中位置を保持するため、そこに残り続ける」


地下演習室が静まり返る。


栞の子。


ページの隙間にいる。


その意味が、少し分かってしまった。


第二幕通路の途中で、本文への落下を防ぐために残された存在。


いや。


残されたのか。

残ったのか。

残らされたのか。


それが問題だ。


「本人意思は?」


俺は聞いた。


「外側痕跡にあるか?」


ヴァイスが反転板を調整する。


「探す」


反転板が淡く光る。


黒塗りの周囲に、小さな断片が浮かんだ。


文字ではない。


声の跡。


ノルンの発話保護が反応する。


「声があります」


「内容は?」


「本文ではありません。短い発話記録です」


フィン先生が頷く。


「聞く。ただし一文だけだ」


ノルンが手を伸ばし、発話保護で包む。


小さな声が響いた。


子供の声ではなかった。


若いが、年齢は分からない。


細い声。


でも、はっきりしていた。


「ここで止めます」


それだけ。


地下演習室が静かになる。


「ここで止めます」


俺は繰り返した。


「本人意思……なのか?」


リュミエルが静かに言う。


「それだけでは判断できない」


その通りだ。


ここで止めます。


自分で選んだようにも聞こえる。

命令に従ったようにも聞こえる。

誰かを守るために残ったようにも聞こえる。


まだ分からない。


「前後の外側記録は?」


ヴァイスが続けて確認する。


【発話前状況】

【第二幕本文流出危険】

【篠原夏希関連記録、本文側へ沈降】

【帰還記述保管者、遮断失敗】

【記録栞補助者、自発的に位置保持へ移行】


「自発的」


レオンが呟く。


「だが、状況が状況だ。自発と自己犠牲は近い」


重い言葉だった。


ミラの時と同じだ。


本人が選んだ。

でも、その選択が自己犠牲の役割に呑まれていないか。


確認しなければならない。


「その後は?」


ヴァイスが表示する。


【発話後状況】

【第二幕本文流出、一時停止】

【篠原夏希関連記録、舞台袖側へ退避】

【帰還記述保管者、本名封印】

【記録栞補助者、第二幕通路内に残留】

【状態:栞化】


ナツキの記録を舞台袖へ退避させるために、栞の子が第二幕通路を止めた。


その結果、栞化した。


「助けたんだ」


ノルンが小さく言った。


「ナツキさんの記録を……」


「それも、本人の意思だった可能性はある」


リュミエルが言う。


「でも、今もそこに残りたいかは別」


そうだ。


過去の選択と、現在の意思は違う。


あの時、残ることを選んだとしても。


今も残りたいとは限らない。


「現在の発話記録は?」


俺は聞いた。


「今の声は取れるか?」


カサンドラ副院長が首を横に振る。


「この台帳では無理です。これは過去記録です」


「じゃあ、現在の意思確認は旧地下聖堂側へ行く必要がある」


フィン先生が頷く。


「そうなる」


来た。


いずれ行くしかない。


旧地下聖堂。

第二幕通路。

ページの隙間。


ただし、正面からではない。


「栞の子へ接触するには、第二幕本文を通る必要は?」


ヴァイスが反転板を見ながら言う。


「通常なら必要だ。だが、栞化した位置は本文と外側の間にある。管理側から近づける可能性はある」


「また裏側か」


「また裏側だ」


地味道、続行。


「栞は途中位置を示すものだろ」


俺は考える。


「なら、栞の子に接触するには、本文を読むんじゃなくて、どこで本文を止めているかを見る必要がある」


「ページ位置の確認か」


ヴァイスが言った。


「そう。内容じゃない。ページ番号だけ見る」


「第二幕にページ番号があるかは知らんがな」


「そこは比喩だ」


「比喩が多い」


「前世の感覚なんだよ」


俺は少し息を吐く。


栞の子。


読ませないための目印。

本文と外側の間に残った補助者。

ナツキの記録を舞台袖へ逃がすために、第二幕通路を止めた存在。


本名を知っている。

でも、本名のために近づいてはいけない。


目的は、現在の意思確認。


帰りたいか。

まだ止めたいのか。

保留したいのか。


どれでもいい。


本人が選ぶことが大事だ。


「今後の方針」


フィン先生が言った。


「一。栞の子に関する台帳外側記録を保存」


「はい」


ヴァイスが記録を保存する。


「二。栞化という状態の解除条件を調べる」


「解除できるんですか?」


ノルンが聞く。


「分からん。だから調べる」


フィン先生は容赦ない。


「三。旧地下聖堂へ行く前に、記録栞そのものを用意する」


「道具としての栞?」


「そうだ」


「なぜ?」


「栞の子に近づくなら、同じ機能を一時的に代替する必要があるかもしれん」


ああ。


つまり、栞の子が本文を止めているなら。


その子を戻すには、別の栞が必要になる可能性がある。


いきなり解除すれば、第二幕本文が流出する。


「代わりの栞を置いて、本人を自由にする」


俺は言った。


「理屈はそうだ」


フィン先生が頷く。


「ただし、人間を代わりにするな」


「しません」


即答した。


絶対にしない。


ミラの時と同じだ。


人間を鍵にしない。

道にしない。

栞にしない。


必要なのは道具か、術式か、注釈だ。


人間ではない。


「記録栞は旧記録保管庫に残っているか?」


カサンドラ副院長が台帳を確認する。


「保管品として、三本あります。ただし、どれも封印劣化しています」


「修復できるか?」


ヴァイスが口を開く。


「魔導具としてなら私が見る」


「記録具としては?」


カサンドラ副院長が頷く。


「私が確認します」


「発話保護は?」


ノルンが手を挙げる。


「もし栞の子の声を拾うなら、私が必要です」


「精神保護は私」


リュミエルが言う。


「退避固定は俺」


トーヤが続ける。


「照明は私ね」


セリアが炎を揺らす。


「神殿式反応は俺が見る」


レオンも頷く。


「ミラは休む」


フィン先生が先に言った。


「また!?」


ミラが叫びかけて、ノルンに睨まれて声を小さくした。


「また……?」


「お前はまだ回復中だ」


「でも、栞の子って、道に関係ありそうじゃん。斥候の出番じゃない?」


「だからこそ、今は使わない」


俺は言った。


ミラが俺を見る。


「アキトくん?」


「お前がまた道や鍵として使われる可能性がある。今は休め」


ミラは少しむっとする。


「それ、過保護じゃない?」


「そうかもしれない」


「本人意思は?」


刺さる。


痛いところを突くな。


「聞く」


俺は言った。


「ミラは行きたいのか?」


ミラは口を開きかけて、止まった。


珍しくすぐ答えない。


少し考えた。


「行きたい」


やっぱり。


「理由は?」


リュミエルが静かに聞く。


ミラは毛布を握る。


「栞の子が、私と似てる気がするから」


「鍵や道にされたから?」


「うん」


ミラの声は軽くなかった。


「自分で残ったのかもしれない。でも、ずっと残りたいかは分からない。そういうの、私が聞けるかもしれない」


分かる。


すごく分かる。


だからこそ危ない。


自分と似た相手には、踏み込みすぎる。


俺が追放された者に弱いように。

レオンが役割固定に敏感なように。

エリオットが裏方に反応したように。


ミラは、道にされた者に反応する。


「今は保留できるか?」


俺は聞いた。


ミラは少し目を伏せる。


「……できる」


「本当に?」


「それ私に言う?」


「流行ってるから」


ミラは少し笑った。


「本当。今すぐは行かない。まず回復する」


「助かる」


「でも、行く時は候補に入れて」


「本人意思として記録する」


カサンドラ副院長が即座に羊皮紙を出した。


ミラが顔をしかめる。


「なんでも契約になるじゃん」


「大事です」


「はい……」


ミラは素直に頷いた。


今回の学習は深いらしい。


「では、次の作業は記録栞の確認だ」


フィン先生が言う。


「ただし、今日は台帳記録の保存までで終える」


「また休む?」


セリアが意外そうに言う。


「そうだ」


「先生、最近優しくない?」


「現実を見ろ。疲労した状態で危険記録に触るのは自殺だ」


やはり現実的なだけだった。


でも、ありがたい。


今日はここまで。


そう決められることが、今は重要だ。


俺は台帳記録を外側保存する。


【保存】


記録栞補助者。

補助対象、帰還記述保管者。

主担当、篠原夏希関連記録。

本文閲覧禁止。

状態、栞化。

最終発話、「ここで止めます」。

第二幕本文流出一時停止。

篠原夏希関連記録、舞台袖側へ退避。


保存完了。


痛みはない。


よし。


無理していない。


リュミエルが俺を見る。


「無理は?」


「してない」


「本当に?」


「本当」


「今日は顔も普通」


「よかった」


顔認証成功。


人間としてそれでいいのかは分からない。


だが、今はいい。


台帳写しが閉じられる。


帰還空欄の保護封筒も反応しない。


第二断片からの再提出も来ていない。


静かだ。


その静けさの中で、俺はふと思った。


栞の子は、ずっとどんな時間を過ごしていたのだろう。


ページの隙間。


本文と外側の間。


読まれないように、流れないように、止め続ける。


誰にも気づかれず。

名前も消され。

役割だけ残され。


それでも、最初の言葉が。


「ここで止めます」


だった。


強い。


でも、強さだけで片づけたくない。


その強さに甘えてはいけない。


「栞の子を戻すなら」


俺は呟いた。


「まず、代わりの栞を作る」


フィン先生が頷く。


「そうだ」


「人間じゃない栞を」


「そうだ」


「そして、本人に聞く」


リュミエルが続ける。


「戻りたいか。残りたいか。保留したいか」


「はい」


ノルンが両手を握る。


「声を守ります」


ミラが毛布の中から言った。


「保留って言ったら、ちゃんと保留ね」


「もちろん」


俺は頷く。


「誰も急かさない」


ヴァイスが反転板を閉じる。


「そのためにも、記録栞の修復が先だ」


「できそうか?」


「見てからだ」


「頼む」


「頼まれるまでもない」


素直じゃない。


でも、やる気はある。


セリアが伸びをした。


「じゃあ今日は終わり?」


「終わりだ」


フィン先生が言う。


「全員、食え。寝ろ。明日、旧記録保管庫の保管品を確認する」


「食べるの大事?」


ミラが聞く。


「大事だ」


トーヤが即答した。


「よし。盾の許可出た」


「食べすぎは駄目です」


ノルンが言う。


「治癒師の制限も出た」


ミラは真剣に頷く。


「難しいね、人生」


「甘味量で人生語るな」


俺が言うと、ミラは笑った。


少しだけ、いつもの調子が戻ってきている。


地下演習室を出る前に、俺は台帳写しをもう一度見た。


栞の子。


名前はまだない。


呼ばない。


聞き出さない。


でも、忘れない。


栞は、続きを忘れないために挟むものだ。


なら、俺たちが今すべきことは。


その子の続きを、勝手に書くことじゃない。


その子が自分で続きを選べるまで。


ページを閉じずに、守ることだ。


俺は静かに息を吐いた。


また一つ、やることが増えた。


でも、不思議と嫌ではなかった。


物語を進めるためじゃない。


誰かが、自分の物語を取り戻すため。


それなら。


編集者を降りる権利を持ったままでも。


もう少しだけ、この役目を続けてもいいと思えた。

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