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第46話 第三幕の在処

【ナツキ・シノハラの第三幕を探す】


黒板に書かれたその一文を見て、俺――アキト・アオキは息を吐いた。


七日以内に旧地下聖堂へ出頭せよ。


転生者狩りはそう言った。


けれど、ナツキ・シノハラの残響は言った。


【最終処理を見ないで。先に、第三幕を探して】

【旧地下聖堂には、私の結末はない】


つまり、旧地下聖堂へ行けば、相手の台本に乗る可能性が高い。


なら、先に探すべきは第三幕。


ナツキが脚本家として残した、物語の続き。


その在処だ。


「第三幕って、記録名なのかしら」


セリア・フレイムロードが腕を組んで言った。


「脚本家なら、そういう比喩を使いそうではあるわね」


ミラ・クロウが窓枠で尻尾を揺らす。


「でもさ、普通に考えたら第一幕、第二幕、第三幕って流れだよね。じゃあ、第一幕と第二幕もどっかにあるんじゃない?」


「あるかもしれない」


俺は頷いた。


「ナツキの上位記録は、発見から引き渡しまでを時系列でまとめていた。あれが第一幕と第二幕に分かれている可能性はある」


リュミエル・アークレインが黒板の前に立ち、淡々と整理する。


「仮説を立てましょう」


彼女はチョークを取った。


【仮説】

一、第一幕=ナツキ発見から学園移送まで

二、第二幕=転生者狩りへの引き渡し、旧地下聖堂での処理

三、第三幕=旧地下聖堂後の移送先、またはナツキ自身が隠した記録


「この中で、今調べられるのは第三幕の手がかり」


フィン先生が黒板を見ながら言った。


「旧地下聖堂へ行くのは危険。だが、行かずに調べられる情報はある」


「学園の記録ですか?」


俺が聞くと、先生は頷いた。


「上位記録保管庫で全文閲覧はできない。だが、記録名や索引は探せる可能性がある」


「索引」


「本の目次みたいなものだ」


「あ、それなら分かります」


「お前の世界にも目次くらいあるだろう」


「ありますよ。さすがに」


ミラが笑う。


「新人くんの世界、たまに変な便利道具いっぱいあるのに、目次あるか疑われてるの面白いね」


「俺の世界を何だと思ってるんだ」


「空飛ぶ鉄の箱がある世界」


「飛行機な」


「あと、遠くの人と喋れる板」


「スマホな」


「あと、眠らない黒い箱」


「パソコンか?」


「やっぱり変な世界じゃん」


否定しきれない。


だが、今はその変な世界の知識が役に立つかもしれない。


脚本。

幕構成。

伏線。

索引。

裏に残されたメッセージ。


ナツキ・シノハラは、俺と同じ世界から来た脚本家だ。


なら、彼女の残した手がかりも、俺の世界の物語構造に近い可能性がある。


「脚本の第三幕って、だいたい何なの?」


ノルン・エルシアが小さく手を上げた。


「物語の終盤だな」


俺は答えた。


「ざっくり言えば、第一幕で状況が始まり、第二幕で問題が深まり、第三幕で決着する」


「決着……」


ノルンが小さく呟く。


「じゃあ、ナツキさんは、自分の物語の決着が旧地下聖堂にはないって言ってるんだね」


「そうだと思う」


レオン・グランベルが静かに言った。


「なら、転生者狩りが見せたい結末と、ナツキ・シノハラが残した本当の結末が違うということか」


「たぶん」


俺は頷いた。


「転生者狩りは、ナツキは校閲済みだと言った。でもナツキは、私はまだ終わっていないと言った」


その差。


そこに第三幕がある。


フィン先生が黒板に新しい文字を書いた。


【調査先】

一、上位記録保管庫の索引

二、神聖科の古い巡礼記録

三、旧地下聖堂から四聖巡礼地への移送記録

四、未承認職【脚本家】関連記録

五、ナツキ・シノハラ本人が残した異界語痕


「班を分ける」


先生が言った。


「アキトとリュミエルは、俺と一緒に保管庫索引の確認。ノルンは神聖科の巡礼記録。セリアは火属性術式の痕跡照合。レオンは補強式側から“筋書き矯正”の痕跡を探せ。ミラとトーヤは、北門と学園外周の警戒を継続」


ミラが手を上げる。


「私は記録調査じゃないの?」


「お前は外周を見ろ。昨日の記述釘を見つけたのはお前だ」


「それはそうだけど」


「逃げ道担当だろう。逃げ道を潰されていないか見てこい」


ミラは一瞬黙った。


それから、にやっと笑った。


「その言い方なら、やる」


トーヤも頷く。


「俺も同行する」


ノルンは少し緊張した顔で言った。


「神聖科の巡礼記録なら、閲覧できると思う。ただ……古い記録は神殿寄りの内容が多いかも」


「それでいい」


フィン先生は言った。


「神殿が何を“美談”として残しているかを見るのも重要だ」


「美談……」


ノルンの表情が少し曇る。


神聖科で学んできたもの。


神殿の教え。


その中に、転生者狩りや人格整文の影が混じっているかもしれない。


それを調べるのは、ノルンにとってきついはずだ。


「ノルン」


俺は声をかけた。


「無理なら――」


「大丈夫」


彼女は俺の言葉を遮った。


その声は震えていた。


でも、前より強かった。


「私は、震えても命のために声を上げる治癒師になるって書いたから」


黒板に書かれた彼女の現在記述。


その一文が、今の彼女を支えている。


俺は頷いた。


「頼む」


「うん」


セリアは赤い水晶を手の中で転がしている。


「火属性術式の痕跡って言っても、ナツキ・シノハラの記録に火は関係ないんじゃない?」


フィン先生が答える。


「人格整文や筋書き矯正は、精神系と記述系が主だろう。だが、転生者狩りの装備には古い浄化術式が混ざる。浄化には火属性が使われることが多い」


「なるほど」


セリアの目が鋭くなる。


「つまり、“清める”とか言いながら燃やした痕跡があるかもしれないわけね」


「そうだ」


「最悪ね」


「だから調べろ」


「分かったわ」


レオンは静かに頷いた。


「俺は補強式を見る。筋書き矯正に似た反応があるか確認する」


「無理はするなよ」


俺が言うと、レオンは少しだけ眉を上げた。


「お前に言われるとはな」


「俺だから言える」


「否定できん」


レオンは小さく息を吐いた。


「だが、分かっている。俺はもう、自分の中の違和感を力任せに切ろうとはしない」


その言葉に、少しだけ安心した。


レオンも学んでいる。


俺たちは全員、少しずつ変わっている。


転生者狩りは、それを知らない。


だからこそ、今の俺たちで戦える。


フィン先生が手を叩いた。


「動け。今日中に第三幕の場所候補を絞る」


「今日中ですか」


俺が言うと、先生は容赦なく言った。


「七日しかない。今日はもう二日目だ」


そうだった。


北門の脅迫から一夜。


七日間のうち、もう二日目。


時間は少ない。


けれど、ゼロではない。


俺たちはそれぞれの班に分かれて動き出した。


俺、リュミエル、フィン先生は、再び上位記録保管庫へ向かった。


昨日見た白い扉。


【記録は神の所有物ではない】

【しかし、記録は人の所有物でもない】

【記録は、失われた選択の墓標である】


その文字を見た瞬間、胸が少し重くなる。


ナツキ・シノハラの記録は、まさに墓標のようだった。


でも、彼女は言った。


私は、まだ終わっていない。


なら、墓標で終わらせてはいけない。


オスカー記録官が中で待っていた。


「副院長から許可は出ています。今回は本文閲覧ではなく、索引検索のみです」


「索引検索なら危険は少ないんですか?」


俺が聞くと、オスカーは少しだけ困った顔をした。


「本文よりは少ないです」


「つまり、危険はある」


「はい」


正直でよろしい。


リュミエルが俺の横に立つ。


「精神保護を張るわ」


「頼む」


「索引だからといって油断しないで」


「分かってる」


「本当に?」


「本当に」


フィン先生がぼそっと言う。


「この確認、一日に何回やるんだ」


「必要なだけです」


リュミエルが即答した。


先生は肩をすくめた。


「まあ、必要だな」


否定されなかった。


俺は閲覧台の前に立つ。


オスカーが認証水晶を置いた。


「検索語を指定してください」


俺は少し考えてから言った。


「ナツキ・シノハラ。脚本家。筋書き干渉。第三幕。四聖巡礼地。旧地下聖堂。人格整文」


閲覧台が淡く光る。


天井から無数の糸が揺れた。


検索結果が空中に浮かぶ。


【検索結果】


一、台本外来訪者対応記録 第一号個体:ナツキ・シノハラ

二、未承認職記録:脚本家

三、転生者狩り部隊術式目録:筋書き矯正

四、四聖巡礼地移送台帳:封印対象者一覧

五、旧地下聖堂処理記録:第二幕対象

六、第三幕計画書:閲覧不可

七、人格整文術式最終報告:閲覧不可


俺は、六番を見て息を止めた。


第三幕計画書。


あった。


本当にあった。


リュミエルも目を細める。


「第三幕計画書……」


フィン先生の顔が険しくなる。


「計画書、だと?」


オスカー記録官も驚いた顔をしていた。


「これは……私も初めて見ます」


「閲覧不可ってことは、存在は確認できるんですね」


俺が言うと、閲覧台がさらに情報を表示した。


【第三幕計画書】


分類:

神殿・学園共同封印記録


作成年月:

王暦三百十三年 冬月二日


関連対象:

ナツキ・シノハラ

台本外来訪者

未承認職【脚本家】

四聖巡礼地

筋書き干渉

神託外物語構造


閲覧権限:

学園長

副院長

神殿特別監査官

封印管理者


状態:

分割封印中


分割封印。


嫌な響きだ。


「分割封印って何ですか?」


俺が聞くと、フィン先生が答えた。


「一つの記録を複数の場所に分けて封印することだ。全文を見るには、各断片を集める必要がある」


「なぜそんなことを?」


リュミエルが静かに言う。


「一箇所で読ませないため。あるいは、一箇所を破られても全体が分からないようにするため」


「つまり、重要記録」


「かなり重要ね」


俺は続きを見る。


閲覧台に、断片所在が表示される。


【第三幕計画書 断片所在】


第一断片:

王立アルカディア魔導学園 上位記録保管庫


第二断片:

王都神殿 旧地下聖堂


第三断片:

四聖巡礼地 白波結界院


第四断片:

所在不明


胸が強く鳴った。


旧地下聖堂は第二断片。


つまり、ナツキが言った「旧地下聖堂には私の結末はない」は正しい。


そこにあるのは一部だけ。


第三幕の全部ではない。


そして、四聖巡礼地。


ノルンが言っていた巡礼地が、本当に出てきた。


「白波結界院……」


リュミエルが呟く。


「知ってるのか?」


俺が聞くと、彼女は頷いた。


「四聖巡礼地の一つ。海に面した古い結界院よ。神殿より古い結界術の流派が残っている場所」


「行ける場所?」


「行けるけれど、遠いわ。王都から陸路と船で数日。普通なら一週間以上かかる」


「七日以内には厳しいな」


フィン先生が言う。


「だが、今すぐ行く必要はない。まずは第一断片だ」


俺は閲覧台を見る。


第一断片。


学園にある。


「第一断片は見られますか?」


オスカー記録官が権限を確認する。


「索引以上の閲覧には追加許可が必要です。ただし、存在確認と断片表題なら出せます」


「お願いします」


閲覧台が光る。


【第三幕計画書 第一断片】

表題:

【脚本家ナツキ・シノハラの筋書き干渉を利用した神託外物語構造の封印計画】


俺は、その表題を読んで固まった。


利用した。


神殿は、ナツキをただ処分したわけではない。


彼女の能力を利用した。


「……どういうことだよ」


声が低くなる。


リュミエルが俺の腕に触れた。


「アキト」


「分かってる」


怒りが上がる。


でも、飲まれるな。


フィン先生の顔も険しかった。


「神託外物語構造……聞いたことがないな」


オスカー記録官も頷く。


「通常の学園記録には出てきません」


「ナツキの【筋書き干渉】を使って、何かを封印した?」


俺は呟いた。


「何を?」


閲覧台は答えない。


だが、第一断片の補足だけが表示される。


【補足】

対象者ナツキ・シノハラの能力は、神託台本外の因果筋を一時的に生成可能。

当該能力を用い、封印対象を既存神託系統から隔離する第三幕構造を構築。


封印対象:

閲覧不可


「封印対象が隠されている……」


リュミエルが言う。


「ナツキは、何かを封印するために利用された」


フィン先生が低く言った。


「そして、その封印構造が第三幕と呼ばれている」


俺は息を呑む。


第三幕は、ナツキの結末ではない。


ナツキが作らされた、あるいは残した封印構造。


神託台本外の因果筋。


つまり、神の台本から外れた筋書き。


それを使って、何かを封じた。


「もしかして」


俺は言った。


「ナツキは、その封印の中に自分の結末を隠した?」


リュミエルが目を細める。


「あり得るわ。神殿が利用した構造の中に、自分の残響を隠した。だから“第三幕を探して”と言ったのかもしれない」


フィン先生が頷く。


「第一断片だけでは足りない。第二断片は旧地下聖堂。第三断片は四聖巡礼地。第四断片は所在不明」


「旧地下聖堂に行く理由ができたわけですね」


俺が言うと、先生は鋭い目で見た。


「出頭ではない。第二断片の回収だ」


「分かってます」


「本当に?」


今度はフィン先生に聞かれた。


「本当に」


リュミエルもこちらを見る。


「単独では行かない」


「行かない」


「相手の指定日まで待たない可能性も考える」


「はい」


「旧地下聖堂に結末はない。だから、そこで終わらせようとしない」


「分かってる」


彼女は少しだけ頷いた。


「ならいいわ」


閲覧台の光が弱くなり始めた。


オスカー記録官が言う。


「索引閲覧時間が終了します」


「最後に一つだけ」


俺は言った。


「第四断片の所在不明について、関連語だけ出せますか?」


オスカーは少し迷った。


「索引範囲内であれば」


閲覧台が最後の表示を出す。


【第三幕計画書 第四断片】

所在:

不明


最終関連語:

【名無しの観測者】

【舞台袖】

【未完の脚本】

【主人公候補】


主人公候補。


その言葉を見た瞬間、タイムラインが強く震えた。


【警告】


用語【主人公候補】に反応。


関連:

台本外来訪者

神託外物語構造

筋書き干渉

編集操作


解析不能。


俺は息を呑んだ。


主人公候補。


ナツキの脚本。

神の台本。

台本外の編集者。


その全てが、嫌な形で繋がりそうだった。


リュミエルが俺を支える。


「ここまで」


「……ああ」


閲覧台の光が消えた。


白い部屋に静寂が戻る。


フィン先生が低く言った。


「分かったことは多い。だが、謎も増えた」


「いつものことですね」


俺が言うと、先生は少しだけ笑った。


「特異職科らしくなってきたな」


嬉しくはない。


だが、少しだけ誇らしい気もした。


教室へ戻ると、他の班も集まっていた。


ノルンは神聖科の古い巡礼記録を抱えている。

セリアは赤い水晶に火属性痕跡を記録している。

レオンは補強式の照合ログを持っている。

ミラとトーヤは外周地図にいくつか印をつけていた。


俺たちは、それぞれの情報を黒板に集めた。


まず俺が、第三幕計画書について話す。


「第三幕は、計画書だった」


全員が静かになる。


「ナツキの【筋書き干渉】を利用して、神託台本外の因果筋を作り、何かを封印したらしい」


ミラが眉をひそめる。


「ナツキは利用されたってこと?」


「たぶん」


ノルンが胸元の聖印を握る。


「ひどい……」


「断片は四つある。第一は学園。第二は旧地下聖堂。第三は四聖巡礼地の白波結界院。第四は所在不明」


リュミエルが黒板に書き込む。


【第三幕計画書】

第一断片:学園上位記録保管庫

第二断片:旧地下聖堂

第三断片:四聖巡礼地・白波結界院

第四断片:所在不明


【第四断片関連語】

名無しの観測者

舞台袖

未完の脚本

主人公候補


レオンが「主人公候補」という言葉を見て眉をひそめる。


「主人公候補とは何だ」


「分からない」


俺は答えた。


「でも、俺のタイムラインが反応した」


セリアが言う。


「嫌な予感しかしないわね」


「同感」


次に、ノルンが古い巡礼記録を開いた。


「神聖科の記録で、白波結界院について調べてきたの」


彼女は少し緊張しながら読み上げる。


「白波結界院は、四聖巡礼地の東端にある海沿いの結界院。罪を清める場所として有名だけど、古い記録では“神託から外れた魂を一時的に匿う場所”とも書かれていた」


「匿う?」


俺は聞き返した。


「うん。神殿公式の説明では清める場所。でも古い注釈には、匿うって」


フィン先生が目を細める。


「面白いな。神殿が処分したと言う対象を、結界院が匿った可能性がある」


セリアが赤い水晶を置く。


「私の方でも、旧地下聖堂系の浄化術式に火属性痕跡があった。でも、白波結界院の古い結界術は水属性と風属性中心。火で焼く神殿式とは相性が悪い」


「つまり、白波結界院は神殿と完全には同じじゃない」


リュミエルが言った。


「ええ」


セリアは頷く。


「神殿が校閲するなら、白波結界院は消火する側だったかもしれない」


ミラが地図を広げる。


「外周の方は、北門以外にも二カ所、古い釘の匂いがあったよ。でも、刺さってはいなかった」


トーヤが続ける。


「学園の外周を測っていた可能性がある。次に打ち込む場所を探していたのかもしれない」


「つまり、転生者狩りはまだ周囲を見ている」


フィン先生が言った。


「警戒を強める」


最後に、レオンが補強式のログを出した。


「俺の補強式を見た。筋書き矯正と完全一致はしない。だが、“行動経路補正”という機能がある」


「行動経路補正?」


俺が聞くと、レオンは苦い顔をした。


「戦闘時、俺が取るべき行動を補正する機能だ。前進、攻撃、勝利条件の優先。これが強くなると、退避や交渉が選びにくくなる」


「筋書き矯正の戦闘版か」


「おそらく」


レオンの声は硬い。


だが、逃げていない。


「俺は、自分の補強式に転生者狩りの技術が流用されている可能性を認める」


その言葉は重かった。


勇者候補が、自分の力の歪みを認める。


簡単なことではない。


フィン先生が黒板に全情報をまとめる。


【現在判明していること】

一、ナツキ・シノハラは第三幕計画に利用された

二、第三幕計画書は四断片に分割封印されている

三、旧地下聖堂は第二断片の所在地

四、白波結界院は第三断片の所在地

五、第四断片は所在不明

六、白波結界院は神殿と異なる立場だった可能性

七、転生者狩りの技術は勇者候補補強式へ流用されている可能性が高い


黒板が情報で埋まっていく。


これは、俺たちの七日間の台本だ。


相手に書かれた出頭命令ではない。


俺たちが調べ、選び、並べた筋書きだ。


「方針を決める」


フィン先生が言った。


「旧地下聖堂には行く。ただし、七日目を待たない」


教室が静まる。


「明日の夜、下見をする」


「明日?」


俺が聞き返す。


「相手は七日目にお前が来ると思っている。なら、こちらは先に見る」


ミラがにやっと笑う。


「相手の待ち合わせ時間を無視するの、いいね」


リュミエルが慎重に言う。


「下見の目的は、第二断片の所在確認と罠の把握。突入ではない」


「分かってる」


俺は答えた。


「本当に?」


教室の数人が同時に言った。


俺は少し傷ついた。


「本当に」


フィン先生が最後に言った。


「そして明日の昼までに、全員の校閲防御をもう一段強化する。役割差分防御だけでは足りない」


「何をするんですか?」


俺が聞くと、先生は黒板の七人の現在記述を見た。


「次は、互いの現在記述を覚える」


「覚える?」


「そうだ。自分だけではなく、仲間の名前を呼べるようにする」


その言葉に、胸が少し熱くなる。


転生者狩りは、俺たちを役割で呼んだ。


なら、俺たちは互いを名前で呼ぶ。


当たり前のようで、たぶん一番大事なこと。


俺は黒板を見た。


アキト。

リュミエル。

レオン。

ノルン。

セリア。

トーヤ。

ミラ。


ナツキ・シノハラ。


彼女の名前も、そこに書き加えたいと思った。


消された脚本家。


まだ終わっていない物語。


俺は黒板の端に、小さく書いた。


【ナツキ・シノハラ】

私は、まだ終わっていない。


その一文を見て、教室が静かになった。


本人の現在記述ではない。


俺が勝手に定義してはいけない。


だから、これは引用だ。


彼女が残した言葉。


リュミエルが静かに言った。


「引用としてなら、いいと思うわ」


「うん」


俺は頷いた。


「これは、彼女の言葉だから」


脚本家が残した一行。


それは、俺たちを第三幕へ導く灯りになった。


七日間の二日目。


旧地下聖堂へ向かう道は、もう見えている。


でも、そこは結末ではない。


俺たちは、結末ではなく、続きを探しに行く。

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