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手、繋ぐ。人類滅亡間際、救いの二文字は手の中に  作者: 睦月稲荷
第2掌 芽吹き取り戻す栄華
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第十譜 比翼連理 序

「アッシュ……。そんな、今にも死にそうなこと言わないでよ」

「ごめんごめん。でも、これも僕の偽りない本音だ。覚えててくれるかい?」

「当たり前じゃない。誰が、アナタのことを忘れるもんか――」


 正論野郎と言われている背景が理解でき、アッシュの小っ恥ずかしい台詞(言葉)も約束と一緒に受け入れることにしたエトナ。

 温もり溢れる雰囲気が漂う中、ケーキが無くなってひと段落つく。紅茶で口を濡らした後、アッシュは真剣な表情へと切り替えた。


「さて、と。楽しいおしゃべりをまだまだ続けたいところだけど、時間がないのも事実。そろそろ建設的な話をしようか」

「やっと? ここまで来るのに随分、時間がかかったわね」

「良い寄り道だったとは思わない?」

「否定はしない。おかげで頭が回ったし」


 小さく――ありがとう、のエトナの呟きの感謝にアッシュは笑みだけ返し、そのまま表情を真剣なものへと変える。

 ピリッと空気が引き締まったのを感じ取り、エトナも背筋を伸ばした。


「兎にも角にも、僕たちがまず考えることは時間。次の〈任命式〉に間に合うかどうかだ。客観的に見て、エトナはどう思う?」

「……かなり厳しい。ううん、正直言って不可能に近いと思ってる」

「冷静に判断できてるようでなにより。うん、僕もそう思う。一年かけてやっと保持時間三秒の僕たちが、次の〈任命式〉に間に合う可能性はゼロに等しい」


 〈任命式〉は年に二回行われる〈執火官〉の資格授与式のことだ。

〈契りの儀〉を交わしたばかりの〈ブルーム(15歳)〉から成長し〈グロウズ(16歳以上)〉となったことで、エトナたち学生には〈執火官〉になる権利が生まれる。

 その条件はヨハンが述べたように、手を離して十五分〈合力〉を保持することと、【二ツ眼(デュオ)】を千体討伐していること。

 それらをクリアすれば〈任命式〉に参加し、王様より〈道導〉の様な二つ名をペアが授かることで、晴れて〈執火官〉となるのだ。


 ただ、ここに参加する者の()()()()()18()()

 〈典火院〉に通っていれば、二年後には確実に資格を得られるまで成長出来るようになっている。

 ただ、その中でも〈グロウズ〉に成り立ての16歳時点で参加資格を得ようとしている、ハスタ・ミィシャペア、セヴァドス・キッカペア、ミツキ・イリーナペアは上澄みも上澄み。

 〈英雄候補〉の呼び声は伊達ではなく、このままのペースで行けば、まず間違いなく四ヶ月後に行われる今年最初の〈任命式〉に彼らはいるだろう。


「〈任命式〉に参加するだけなら、平均的に見てもまだ二年の猶予はある」

「けど、私たち〈英雄〉として多くの人たちから認められるには、ハスタ達と同じタイミングで〈任命式〉に出なきゃダメ。じゃないと有象無象の中でずっと蔑まれるだけ……」


 再び焦燥が顔を出し、エトナの瞳が震える。


「やっぱりこんなとこで話し合ってる場合じゃ……。急いで課題を達成させないと……」

「ガムシャラにやったって意味ない。何がダメかを話し合わないと、同じことの繰り返し。無駄に一年を過ごすことになる――」


 震えるエトナの手にアッシュが手を重ね、落ち着かせながら〈合力〉が上手くいかない理由を一つずつ解析していく。


「まず現状の確認だ。〈合力〉を使わない状態での、僕たちの能力はなんだ?」

「〈外界〉と【隷獣】に対する知識。図書館でかなり綿密に調べたから、多分講師の真似くらいは出来ると思う」

「うん、それには自信持って良いよ。実際、座学はエトナがトップだし先生に聞いても同じ答えが返ってくると思う」


 自分の成果を褒められ、エトナが照れたようにはにかむ。

 知識の有無は生存率に関わる。不安定な〈合力〉のせいでまともに活動出来ないからこその座学だが、エトナの場合は『認められたい』が原動力となっているから全ての行動の執念が凄まじいのだ。


「そして、もう一つ優れているのが武芸。〈契り〉を結ぶ前までの、武術の授業じゃ僕がトップで、ハスタとエトナが横並び。まぁ、器用さで言えば〈気力〉の身体強化で殴る蹴るのゴリ押ししか出来ない僕より、武芸百般のエトナの方が上に来るんだけど。――っていうか改めて列挙すると、キミ万能すぎないかい?」

「べ、別に中途半端なだけよ……。本当になんでも出来る〈道導〉に比べたら全然……」

「それ、謙遜になってないよ」


 照れ隠しで出す比較対象が現代最強の英雄なあたり、エトナの野望の強さが伺える。


「まぁそれは置いといて。で、その他諸々の総合で結果的に僕がNo.1でエトナがハスタと並んでNo.2。これが〈合力〉を使わない僕たちのスペックと実績だ」

「……でも、どれだけ成績が良くても〈合力〉が扱えないことには意味ないわ。〈気力〉だけでも〈魔力〉でも人は戦えるけど、【隷獣】には全く通じないんだから……」


 〈気力〉も〈魔力〉も単体で出来るのは身体強化のみ。

 優れた者なら〈力〉を放出できるが、それで倒せるのは人だけ。都市全体を〈合力〉の力で支えている王様と王妃や、〈道導〉なら高い威力を放てるが、それでも【二ツ眼(デュオ)】に傷をつけるので精一杯。

 〈合力〉を扱えることは、この世界で生きる前提条件なのだ。


「じゃあ次は、なんでこれだけのスペックがあって相性も良い僕たちが〈合力〉だけはまともに扱えないのか」


 その問いに、言いにくそうにエトナが答える。


「〈合力〉を釣り合わせることが難しいから、ね……。アッシュの〈気力〉の量と出力が膨大で、私の〈魔力〉が最低値だから……」


 〈合力〉は、〈気力〉と〈魔力〉の『出力』・『制御力』・『保有量』を巧みに操り、均等になるように混ぜ合わせることで発動する。

 しかし、二人の保有量と出力差は文字通りの雲泥の差。ようするにアッシュの〈気力〉にエトナの〈魔力〉が押し負けるのだ。

 アッシュが〈気力〉の繊細なコントロールが出来ればエトナに合わせることは出来るが、その器用さが彼にはない。

 エトナは〈魔力〉のコントロールは良いが、出力は弱いし保有量も少ない。

 肝心なところで正反対なのが二人だった。


「……せめて、私の保有量が平均以下だったら」

「そうだね。エトナの制御能力はピカイチだ。僕たちが曲がりなりにも〈合力〉を発動させられるのは、手を繋いでいる間ずっとエトナが制御してくれてるから。頼りっきりで本当に申し訳なくなるよ」

「それ言う……? だったら私の〈魔力〉自体が……」

「制御能力以外の二つはもう、生まれた時に決まっちゃうからね。多少の前後はあっても、どうしようもない。磨くなら、やっぱり僕の〈気力〉制御か……。でも、どうにも感覚がなぁ……。エトナはどうやってるの?」

「私は、『ここに、こうっ』て感じで、なんとなく? 保有量的に身体全体の強化は出来ないから、その都度流動的に手足に流してるの。こんな感じに」


 エトナが紅い〈魔力〉を右拳に集めると、それと同じ量を親指から小指にかけて順番に移動させる。

 その時間は瞬き以下。エトナの意志にタイムラグなく反応していた。


「うん、全然分かんないや……。その限定的な身体強化で僕やハスタと武芸の成績が並ぶんだから、やっぱり凄いよ」


 ほとほと困ったようにアッシュが肩を落とす。〈合力〉を扱う上では出力や保有量よりも、均等に混ぜ合わせられる制御能力の方が大事。

 後天的能力(制御)をいつまでも身につけられないアッシュの方がどうしても責任は重くなる。

 一番大切な人の足を引っ張っていることにアッシュは心が重くなるが、エトナが似たようなことを考えているのはもう察していた。


「まぁ、答えは出たね。僕たちがやることは、均等に混ぜ合わせられる制御能力を身に付けること。それ自体は主に僕だけど、エトナにも今以上に操れるようになって欲しい」

「それは勿論やるけど……でもどうやって? それが出来ないから、困っているんじゃない」

「大丈夫。なんてったって僕らはもう、恥も外聞も捨てたからね。プライドなんか必要ない。聴きに行こうじゃないか」

「聞きにいくって、誰に……?」


 先生たち? と首を傾げるエトナに、アッシュは八重歯を覗かせて答える。


「〈英雄候補〉の一組、ミツキとイリーナ。僕たちが目指すべきは、あの二人だ。なんてたって、あそこは僕たちと似ているからね――」

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