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第九十八話~デザートアーケロン~

カイト達はリザードマンの村で得た百人分の労働力をドワーフ国の採掘作業に提供し、次の目的であるカンナ砂漠のマスター・オブ・デザート(砂漠の主)に会いに行った。

だがそこで思いもよらない事態に巻き込まれる事となる。


カイト達がいるサンドワームの巣に突然落ちて来た何かは、ダンゴ虫のようにくるっと丸まったままじっとしている。


「痛てててて、着地を失敗してしまった。」


すると、それはようやく動き、丸めていた体を元に戻す。この時点でカイト達はようやくその正体に気付いた。


それはうねうねとしたミミズのような巨大な体をしており、頭頂部にはサイズが合っていない小さくて黄色いヘルメットがちょこんと乗っかっている。


傍から見るとすぐにずれ落ちてしまいそうなヘルメットだが、不思議と頭にピッタリとフィットしていて落ちる様子がない。


そう、その正体はマスター・オブ・デザートの一体であるイエローだった。

イエローは痛みが治まり、こちらの姿を確認すると、芋虫のようにすりすりと近寄ってくる。


「あっ!やっぱりカイト様達でしたね!お久しぶりです!マスター・オブ・デザートのイエローです!」


「ひ、ひぃ、あ、相変わらず気色悪いわね。」


カーミラにとってイエローは下部ではあるが、その見た目から今でも苦手意識を持っている。


「カーミラ様ひどいです。そろそろ我々の姿にも慣れて下さいよ。」


「わ、分かったわ。分かったからこれ以上近付かないでちょうだい。」


「カーミラは相変わらずこいつらが苦手なんスね~。」


「うるさいわね、仕方ないでしょう!」


「久しぶりだな、イエローよ。急に頭上から降って来たから最初は何者か分からなかったぞ。まぁお前が頭上から降って来た理由はこの上にいる何かが関係しているのだろうがな。」


「はい、その通りなんです!突然現れた巨大生物がこちらに向かっておりまして、我々はピンチなんです!」


イエローは事の成り行きをカイト達に説明した。


マスター・オブ・デザートはカイト達と別れた後、カイトの予想通り、魔大陸各地の地下を掘り進め、食糧の採集に勤しんでいたらしい。


日々順調に食糧を集める事ができ、サンドワーム達の食糧問題は解決したかのように思えた。


しかし、カイト達がここに赴く少し前、サンドワーム達がいつものように採集を終えて巣に戻ると、先程カイト達が体験したのと同じ衝撃をサンドワーム達も感じていた。


「(レッド)何だこの振動は!?みんな気を付けてくれ!」


「(ブルー)ふっ、こんな時に一体何なんだ。」


「(イエロー)じ、地震か!?」


「(グリーン)み、みんな、こういう時こそ落ち着いて行動するんだ!」


「(ピンク)キャー、た、助けて~。」


「(ブラック)地震?いや、これはちょっと違うな。地表に何かがいる気配がする。レッド、様子を見に行ってくる。」


「(レッド)おい、待てブラック、俺も一緒に行く!」


「(ブラック)いや、もしこの正体が敵だったら、俺達の存在に気付かれるのは避けたい。ここは一番影の薄い俺だけで行くべきだ。」


「(ブルー)ふっ、まだカイト様に暗くて影が薄いって言われて事を気にしているのか?今は非常事態だ。地表にいる何者かの正体が分からない以上、お前だけで行くのは危険だ。俺も一緒に行かせてもらう。」


「(グリーン)そうだね!僕も一緒に行くよ!」


「(ピンク)と、当然、わ、私も行くわよ!」


「(イエロー)じゃ、じゃあ僕も!」


「(レッド、ブルー、グリーン、ピンク、ブラック)どうぞ、どうぞ。」


「(イエロー)なんでそうなるんだよ!っていうか、言い出しっぺのブラックまでなんでだよ!」


「(レッド)はっはっはっ!まぁ怒るなイエロー。いつものノリではないか。よし、そうとなれば皆で行くとするか!皆、俺に続いてくれ!」


こうして一悶着した後、マスター・オブ・デザートは巣のちょうど真上辺りの地表に向かって掘り進んだ。


地表に到着すると、レッドに続いてブラック、ブルー、イエロー、グリーン、ピンクが頭を出し、辺りの様子を伺っていた。そしてその正体はすぐに判明する事になる。


「(ブラック)おいおいマジか。レッド、どうやらあれがこの揺れの犯人みたいだな。」


「(レッド)あぁ、あれはデザートアーケロンか?こんなに巨大な個体は初めて見るな。まるで化物だ。」


「(ブルー)ふっ、やれやれ。あんなに目立つ奴がいたらとっくの昔に気付いている筈だけどな。何だか怪しい影を感じるぜ。」


「(イエロー)で、でか過ぎるよ~!こんなのがここを通ったら僕達の巣が崩れちゃうよ~!」


「(グリーン)確かにそうだね!だからと言って、あんな巨大な怪物をどうするって言うんだい?」


「(ピンク)そ、そうよ!あんなの私達じゃどうにもできないじゃない!すぐにここから離れて逃げるべきよ!」


サンドワーム達もカンナ砂漠に棲む生物の中では巨大な種に分類されるが、彼等が見つけたデザートアーケロンはそのサンドワーム達でも比べ物にならないくらいの大きさであった。


デザートアーケロンはカンナ砂漠に生息するリクガメの一種で、硬くて巨大な甲羅が特徴の亀である。


リクガメの一種であるため動きは遅いのだが、その強固な甲羅で外敵から身を守れるため、天敵となる生物はいない。

性格も穏やかで、他の生物を襲ったりする事は滅多になく、普段消費するエネルギーも僅かなため、砂漠で稀に生えている草木をたまに食べれば生きていける。


標準的な体長は四メートル程で、体重はニトンと、生物の中ではサンドワームと同じく巨大な種に分類されるのだが、それでもサンドワームの方がまだサイズは大きい。


しかし、今回マスター・オブ・デザートの前に立ちはだかっているそれは基準を遥かに上回る化け物であった。


そのアーケロンの体長は見たてで約百メートル、高さが約五十メートルはあろうか。このスケールになれば体重は数千トン以上にはなるだろう。


体と甲羅は肌色をしており、甲羅には苔や植物が生えている。

小鳥などはその植物を目当てに甲羅の上に飛んできて餌をつついている。このアーケロンの巨大な甲羅はちょっとした島になっているようだ。


そんな自分の目を疑うような化け物がのそのそとこちらに向かって歩いている。

サンドワーム達からはまだ数百メートル以上離れているとは言え、数千トンの塊が歩けば周囲はその度に震えるだろう。


こんな相手をどうにかするなど、サンドワーム達には出来ようもない。

蟻が象に戦いを挑むようなものだ。

だが、それでも正義感に駆られてこの窮地をどうにかしようとする者がいた。


「(レッド)確かに俺達じゃあどうにもならないかもしれない。だが、俺達があのカイト様から授かった名前を忘れたか?俺達はここの砂漠の主、マスター・オブ・デザートだぞ!?その名に懸けてここを簡単に引くわけにはいかない。それにデザートアーケロンは穏やかな性格の筈だ。話せば分かってもらえるかもしれない。俺が話を付けてこよう!」


「(イエロー)レッド、ちょっと待って!って、あぁ、行っちゃった。。。大丈夫かなぁ。」


「(ブルー)ふっ、こういう時は大抵上手くいかない事が多いからな。レッドの交渉が失敗するのを前提に、今の内に次の作戦を考えるべきだな。」


「(グリーン)うん、そうだね!僕もそう思うよ!っていうか、もう逃げるしかないんじゃないかな?」


「(ピンク)そ、そ、そうよ、あんなの最初からどうにか出来るような相手じゃないわよ!」


「(ブラック)俺も同感だ。じゃあ、レッドの交渉が失敗に終わり次第、レッドを連れて撤退するぞ。」


「(イエロー、ブルー、グリーン、ピンク)ラジャー!」


こうしてイエロー、ブルー、グリーン、ピンク、ブラックはレッドの自爆をその場から見守るのであった。


他のメンバー達はレッドの声はアーケロンには届かず踏みつぶされそうになるか、聞こえたとしても無視されて素通りされるかであろうと予想していた。


果敢にも単騎で巨大なアーケロンに近付いて行くレッド。

そして、声が届きそうな距離まで近付いたところで声を掛ける。


「おーい、そこのアーケロンよ、聞こえるか?私はサンドワーム、別名マスター・オブ・デザートのレッドという。この近くの地下には我々の巣があるんだ。お前さんの地響きのような足音だと我々の巣が破壊されてしまう。どうか進路を変えてくれないだろうか?」


レッドがアーケロンに声を掛けるも、予想通り反応を示さない。聞こえていないか、無視されているとも捉えられる。だが、レッドはめげずにさっきよりも大きな声で再び声を掛ける。


「おーい!聞こえているか―!こっちの話を聞けー!」


レッドが、腹に力を入れて大声で話しかけると、アーケロンの動きはピタリと止まった。

どうやらレッドの声が聞こえたようだ。


「おっ、やっと気づいたか、まったく鈍感な奴だなぁ。」


しかし、レッドが自分の声が届いた事に安堵していると、アーケロンの様子が変貌した。


先程までは眠たそうな顔でボーっと歩いていたアーケロンだったが、声がする方に首を向け、レッドの存在を確認すると、その垂れ下がった目はギラリと吊り上がり、赤く光ったのだ。


それを見たレッドは本能的に奴に殺されると察知する。


「まずい!」


慌てて逃げるレッド、しかし、獲物を見つけて血相を変えたアーケロンは大きな口を開けてレッドに襲い掛かってくるのであった。

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