第九十四話~勝機~
西の湖畔にて、リザードマン達を苦しめる諸悪の根源である巨大スライムと対峙したカイト達。
ゾリューが言っていたありとあらゆる攻撃を無効化すると言っていた話は本で、カイト達の強力な攻撃さえ無効化されてしまった。
かなり厳しい状況に陥っているように思えるが、それでもカイトには勝機が見えていた。
「ボアード、カーミラ、もう一つ試したい事がある。協力してもらえるか?」
「はいッス!何なりと言って下さいッス!」
「カイト様のご命令であれば何でも従わせていただきます。」
「すまないな、では今度は我々三人で同じタイミングに攻撃を仕掛けるぞ。私は闇属性、カーミラは闇以外の属性なら何でも構わない。ボアードは先程と同様に斬撃をそれぞれ撃ち込んでくれ。では、行くぞ。ダークフレア(闇炎)」
「はい!アイスランス(氷槍)!」
「はいッス!ソードバースト(爆裂剣)!」
カイトの合図でカイト、カーミラ、ボアードがそれぞれ異なる属性の攻撃をスライム本体の別々の箇所に放つ。
カイトはスライムの性質変化は一つの属性しか変化できないと踏んで三人同時に異なる属性での攻撃を試みたのであった。
しかし、それを見たゾリューが溜め息をつく。
「はぁ、何かと思えばそんな作戦か。それくらいの事を俺達が試していないとでも思っていたのか?」
ゾリューが溜め息交じりでカイト達に無駄な事だと告げると、正にゾリューの言った通りの結果になってしまった。
スライムは攻撃があたる瞬間に再び体を変色させた。
しかも今度はカイト達の攻撃箇所に合わせて部分的に変色させている。
闇属性の攻撃には黒、氷属性の攻撃には白、物理攻撃には透明な水色といった感じにスライムは体を三色に変化させてみせた。
ボアードだけは例によってボヨンと跳ね返される。
「また跳ね返されたッス~。」
「カイト様、どうやら一つの属性だけでなく、多属性にも性質を変化できるみたいですね。」
「うむ、そのようだな。さて、どうしたものか。」
カイト達が冷静に戦況を分析していると、今まで受け身だったスライムもとうとう反撃を始める。
スライムは体を真っ赤に変色させると、自らの体の一部を体外に放出し、それをまるで槍のように鋭く尖らせて飛ばしてきた。
カイト達は防御魔法で応戦する。
「アタックシールド(物理障壁)。」
カイトは大きな物理障壁を展開し、その場にいたボアード、カーミラ、ゾリューを包み込んでスライムの攻撃から身を守る。
圧倒的な防御力を誇っていたスライムだが、幸いにも攻撃に関してはシールドで防ぐ事が出来た。
しかし、五月雨の如く降り注ぐ赤い粘液はカイト達のいる周囲の地面に着弾すると、周りの草木に火が付き燃え広がっていった。
体の性質を変化させたという事は攻撃の際もその属性が反映される。
即ち、赤く変色したら炎属性となり、攻撃も自ずと炎属性になる。
よって、周囲が燃えてしまうのは当然の事なのである。
「おっと、こいつを倒したとしてもここが焼け野原になってしまっては意味がないな。レイン(雨)。」
カイトはシールドの強度を維持しながらも周囲に大量の水を降らせ、燃え盛る草木を鎮火させる。
やがて火が収まると、スライムはまた変色し始める。
そして今度は黄土色に変色し、再び粘液を飛ばしてくる。
だがこれもカイトのシールドによって完全に防ぐものの、今度は周囲の植物たちが腐り始めてしまった。
「これは、、、もしや。」
「うわぁ!植物がどんどん腐ってしまっているッス!」
「カイト様のご察しの通り、強酸による攻撃かと思われます。」
「おいおい、これじゃあここにいる生物たちもみんな死んじまうじゃねーか!おい、早く何とかしろ!」
「確かにこれはまずいな。まさか多属性攻撃が効かないとは予想外だったな。かと言ってこのまま受け身の状態も、周りの生態系を壊す危険があり得策ではない。仕方ない、あれを使うとするか。あまり身内以外の者が見ている時に使いたくはなかったのだがな。ボアード、カーミラ、今から障壁を解除する。そうしたらスライムに攻撃を仕掛けてくれ。攻撃は効かなくても構わない。とにかく奴の動きを抑えてくれればそれでいい。その隙に私が奥の手で奴を仕留める。」
「カイト様のとっておきが見られるッスか!?楽しみッス!了解しましたッス!」
「承知いたしました。私もカイト様の強さの一端が見られる思うと胸が高まります。」
「よし、では行くぞ!」
カイトの合図で障壁は解除され、ボアードとカーミラはスライムに怒涛の攻撃を仕掛ける。
ボアードは直接斬りかかるとボヨンと跳ね返されてしまうため、斬撃を飛ばす攻撃に切り替える。
カーミラは遠距離からありとあらゆる属性の魔法を連続詠唱する。
この二人から鳴り止む事のない連続攻撃を受けてしまえば、実力のある猛者でもたまったものではないだろう。
それは例え二人よりも実力が上であるカイトであったも例外ではない。
しかし、スライムはそれをものともせず、次から次へと体を変色させ、見事に対処している。
この姿を例えるならレインボースライムとでも言えようか。
ボアードとカーミラの激しい攻撃により、戦場はまるで天変地異が起きているかのような様相を見せている。そんなこの世のものとは思えない光景を見せられていたゾリューは、カイトが言っていた格の違い以上のものを感じていた。
「な、なんなんだこの戦いは。決してあいつらの攻撃は効いていないのだが、あの威力の斬撃にあの魔法の連続詠唱。こんな凄い戦いを俺は見た事がない。」
そして、ここまで難なく攻撃に対処していたスライムも遂に我慢の限界が来たのか、突然眩しい光を放つ。
「くっ、なんスかいきなり!」
「う、眩しい。」
スライムの体内から放たれた光はみるみるうちに周囲に広がり、湖一帯は眩しい光に包まれる。
そして光が消えると、スライムは今までに見せなかったシャボン玉のような虹色に変化していた。
「なんスか?この色は?今まで見せて来なかったッスね。」
ボアードが疑問に思っていると、カーミラはいち早くその正体に気が付く。
「これまでの状況からしてこのスライムは色の変化によって耐性を変えていた。そう考えるとこのいくつもの色が折り重なったような虹色は全ての属性の耐性を持っている可能性があるわ。」
「ま、まじッスか!?じゃあこいつはいちいち色を変えずに済むようになったんすか!?」
「カーミラの推測で間違いないだろうな。恐らくこの戦闘で奴はこのような技を編み出したのだろう。とすると、もう奴は防御に手間を割く必要が無くなったというわけだな。」
すると、スライムは突然分裂を始めて小さなスライムの集団に変化していく。
「これが奴、いや奴等の切り札ってところか。面白い、ボアード、カーミラ、すまないがもう少し耐えてくれ。今マナを集中させている。」
「わ、分かりましたッス!ってなんか一斉に突進してきてるッスよ!?」
「いちいちうるさいわね!そんなのは見れば分かるわ!とりあえず今はカイト様の準備が整うまで時間を稼ぐのよ!ちなみにあいつらに飲み込まれたら溶かされると思うから気を付けなさい。」
「そんな怖い事冷静に言わないで欲しいッス!カイト様、急いでくださいッス!」
「おうおう、これじゃあ俺達全滅しちまうぞ!どうするんだカイト!?」
「もう少しだ、もう少しだけ待ってくれ。」
迫り来るスライムの大群にボアードとカーミラは怒涛の攻撃を浴びせ何とか動きを遅らせるが、それでもじわじわとスライム達はこちらに押し寄せてきている。
「この、この、この、この、この!しつこい奴等ッスね!もうすぐそこまで迫ってきているッス!」
「うるさいわね!いちいち言われなくても分かっているわ!我々はカイト様を信じてご命令通り足止めすればいいのよ!」
とは言ったものの、ボアードが言った通り、スライムの大群はもう既にカイト達の目の前まで迫っている。
「あぁ、もう見ちゃいられねぇ、俺も参戦させてもらうぜ!」
この状況に痺れを切らしたゾリューが戦闘に参加しようとしたその時であった。
「よし、待たせたな、皆、湖から離れて私の後ろに下がってくれ!」
カイトの合図でボアードとカーミラは即座に攻撃を中止し、後退する。
前進していたゾリューもボアードに軽々と担がれて退避する。
「やれやれ、今回は少し手こずってしまったな。だが、これで終わりだ。ホーリーメテオ(聖流星群)。」
カイトがホーリーメテオなる魔法を唱えると、空から流星の如く無数の白く燃えた隕石がスライムを目掛けて落下してくるのであった。
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