第五十五話~突入~
こうしてコロネフとの約束を取り付けたカイトであったが、内心はとても焦っていた。
なぜなら先のコロネフとの会話ですらすらと述べた水源の確保の件はカイトのハッタリだったからである。
そんな事を知る由もないボアードとカーミラはハッタリとも知らずにカイトに敬服する。
「流石はカイト様ッス!この都市の人間をロボットの支配から救うだけでなく、天候操作の問題も一気に解決しようとしてしまうなんて!」
「まったくですわ!カイト様のお考えはいつも我々の一歩も二歩も先を想い描いていってらっしゃる。無理だと分かってはおりますが、どれ程の研鑽を積めば我々はカイト様の足元に及ぶ存在になれるのでしょうか?我々が努力した時点でカイト様は更にそれ以上の高みに登り詰めておられる。
まさに絶対的存在、カイト様は神そのものです!」
内心焦っているカイトに追い打ちをかけるかのようにボアードとカーミラがプレッシャーをかける。
止めてくれと声が漏れんばかりのカイトだが、今はいろいろと考えても仕方がない。
それよりもドロイドの討伐を急がねばと自分に言い聞かせて気持ちを切り替える。
「あぁ、も、勿論だ。私の力を侮ってもらっては困るな!だが、それよりもまず我々がどうにかしなくてはならないのはドロイドであろう。今はこちらに専念するのだ。それで、コロネフよ、今しがた我々も腹をくくったところだ。そろそろお前の作戦を聞かせてくれないか?」
「そうだな、では作戦を話すとしよう。既に民達には今回の作戦については伝えてあり、私からの決行の合図を待つのみとなっている。お前達には先程から述べているようにドロイドの討伐をお願いしたい。」
「任せるッス!っで肝心のドロイドは今どこにいるッスか?」
「ドロイドは今この都市の北側に位置する広大な土地に巨大な研究所兼工場を構え、そこを根城にして日夜ロボットの開発に勤しんでいる。」
コロネフはこの後も知っている限りの情報をカイト達に伝えた。
レーダー塔はマーベルのほぼ中心に位置しているが、それよりも奥の北側に進むと、なんとも怪しい雰囲気の巨大な建物が見えてくるのだそうだ。
そこにはもちろんドロイド以外にも大勢のロボット達がおり、ロボットの製作や研究を行っているとの事だ。
その建物はドロイドがマーベルの人間を支配した後、元々密集して建てられていた複数の研究所を取り壊し建てたものらしい。
研究所にも大小様々あるが、特にこのマーベル北部の研究所地帯は優れたエンジニアが集まっていた区域である。
優れたエンジニアという事はそれなりに需要のある良品を発明しており、故に資金も豊富である。
そのため、研究所も大きくて立派な建物が多い。それをすべて取り壊してしまったのだから相当の面積になるだろう。
だが、流石にコロネフも建物の中まで入った事はなく、そのエリアに入った際は慎重に行動するようカイト達に伝えた。
カイト達はドロイド討伐部隊として作戦決行時にはコロネフとコロンも同行する。
先に述べたようにドロイド以外のロボットも大勢いるため、ドロイドの根城に着いたらまずコロネフとコロンがある物を使ってドロイド以外のロボット達を足止めする。
その隙にカイト達は標的のドロイドを最短で討ちに行く。
ドロイドの討伐と他のロボット達の制圧が完了すれば本隊討伐部隊の作戦は完了である。
そして、工場にいる人々もコロネフの合図である物を使い監視ロボット達を制圧する。
街中にも普通に生活しているロボット達がいるが、今回のターゲットはドロイド、研究所兼工場にいるロボット達、そして監視用のロボット達である。
それ以外のロボットは基本的に戦闘や防衛の機能は備わっていないため、万が一敵対的な行動をされても恐れるに足りない。
言ってみればドロイド達が軍隊で、街中のロボット達は武装していない一般市民みたいなものなのである。
こうして作戦会議を終えたコロネフ達は、決行の日を明日の明朝とし、コロンを使ってダンバー達に決行の日を伝えるのであった。
そして翌日、作戦が動き出す。
コロネフとカイト達一行は作戦通りドロイドの根城であるマーベルの北部へと向かった。
しばらく歩みを進めていると標的が姿を現してきた。
「見えてきたぞ、あれがドロイドのいる工場と研究所だ。恐らく奴は研究所の方にいるだろう。」
カイト達は物陰に無を潜めながらコロネフが指を差す方を見ると、そこには怪しい雰囲気の巨大建造物の姿があった。
建造物の一階と思われる部分は巨大な工場となっており、横長の建物が広大な敷地の端から端まで広がっている。
長四角い形をした工場の四辺には煙突が立ち並び、もくもくと見るからに有害そうな黒煙を吐き出している。
この工場の中で日々ロボット達が製造されているのであろう。
そして視線を更に上に向けると、その工場の中心から上に一本の太い円柱の建物が伸びている。
恐らくはこれが研究所であろう。
面積は工場ほど広くはなく、よく見るとその太い円柱は三層に区切られている。
一層だけでも十分面積と高さがあり、それが三段重ねになっている格好だ。
あの層の最上部にドロイドがいるのは容易に想像がつく。
「これはなかなかの規模だな。中には相当のロボット達がいそうだが、コロネフとコロンだけで本当に大丈夫か?」
「あぁ、昨日も言った通り我々には秘策がある。それを使えば問題ない。」
「それにしても入口や周りには誰もいないッスね。人間が近寄らないとは言え、こんな不用心でいいんスかね?現に自分達が侵入しようとしてるんスけど。」
「相変わらず馬鹿ね。こんなの罠に決まっているじゃない。恐らく我々の行動はドロイドに筒抜けの筈よ。それを知った上で敵は自分達の陣地で我々を迎え撃つ気だわ。」
「あぁ、恐らくカーミラの言う通りで間違いないだろう。ボアードよ、分かっているとは思うが念のため言っておく。敵の気配が無いからといって油断したり、勝手に飛び出したりするなよ?」
「(ぎくっ!)も、も、もちろんッスよ!まずはコロネフが突入して工場内のロボット達を制圧する。そしてその隙に自分達がドロイドのいる研究所に乗り込むんスよね!?」
「あぁそうだ。分かっているならよろしい。という事でコロネフ、我々はいつでも出撃の準備は出来ている。作戦開始の合図はお前のタイミングに任せる。」
カイトがこちらの準備が整った旨をコロネフに伝えると、コロネフの掛け声で作戦が決行された。
「よし、では行くぞ!」
コロネフは掛け声と共に工場の入口目掛けて走り出す。そのすぐ隣をコロンが、そしてカイト達がその後を追う。
先程の様子の通り、門を通り抜けて入り口まで近づいても敵の気配は全く感じない。
この様子だと恐らく中に入るまで敵に遭遇する事はないだろう。
そう確信したコロネフは勢いを抑える事なくそのまま工場に突入していく。
入口には扉があったが、目の前まで近づくと自動でドアが開いた。恐らく人感センサーのような仕組みなのであろう。
そして難なく中へ入ると、そこにはエントランスのようなこぢんまりとした空間があり、前方には入口と同じ形をした閉ざされた扉が一つ。
扉の上にはランプが付いており、今は赤く点灯している。
その扉の右側に目をやると、扉を制御する操作盤のような台が設けられていた。
「どうやらこれで扉を開けるようだな。」
コロネフがそう言いながら操作盤に近付いた次の瞬間、カイト達が入って来た入口のドアが閉まり、上方の点灯ランプが青色から赤色に変わる。
どうやら入口の扉を塞がれてしまったようだ。
「いきなり閉じ込められたようッスけど、大丈夫ッスか!?」
「あぁ、この操作盤で前の扉を解除すれば問題ない。少し待っていてくれ。」
そう言うとコロネフは操作盤の前に立ち、空中に浮かんでくるウィンドウに向かって素早い手つきで入力し始める。
このコロネフの巧みな指捌きの様子だとすぐ扉を解除できるだろうと誰もが思っていた、コロネフ本人も含めて。
しかし、何度か扉を解除するパスワードを入力してもブッブーという分かりやすい効果音が出て弾かれてしまう。
「あれ、可笑しいなぁ。これでどうだ!」
もう一度入力してみるが、やはりロックは解除されない。
「なんだか雲行きが怪しくなって来たッスね。」
ボアードの言う通りである。勢いよく駆け出したものの、ほんの数分の出だしで躓いており、何とも格好悪い状況だ。これではこの先が思いやられそうである。
カイトも同じ事を感じていたが、声に出すと何かのフラグが立ちそうな気がして敢えて黙っていた。そして、コロネフが三回パスワードを間違えた時点でフラグは回収される事になる。
「パスワードヲ三回間違エマシタ。警備システムガ起動シマス。」
次の瞬間、操作盤からの警告アナウンスと共に部屋の四隅から白い煙が散布される。
催涙ガスの類であろうか?いずれにせよご丁寧に警備システムの起動を宣言してくれた以上、体に良いものではなさそうだ。
カイトはもうこれ以上は任せてられないと思い、ボアードとカーミラに命じる。
「ボアード、扉を破壊しろ。カーミラそれまでこのガスから我々を守るのだ。」
「はいッス!まったくこうなるなら最初からこうすれば良かったッス。おりゃあ!」
カイトが命じると、ボアードは勢いよく扉を殴りつける。
「今回ばかりはこの馬鹿力と同感ですね。こんな扉さっさと壊してちょうだい。マジックシールド(魔法障壁)。」
カーミラは文句を垂れながら全員を覆うように防御魔法を展開する。
すると、噴き出したガスはカーミラの結界に接触すると跳ね返さる。
それ以上進む事が出来なくなったガスは行き場を失い、その場に停滞し続けている。
ボアードはその間に己の拳を連打して扉を破壊し続ける。
「おーりゃりゃりゃりゃりゃー!なかなか硬い扉っすね!おりゃー!」
数十秒の間に目にも止まらぬ速さで何百発もの正拳を撃ち続けた結果、扉はボコボコになり、今にも粉砕されそう状態になった。
そしてボアードが最後の掛け声と共に飛び蹴りを食らわせると、とうとうその重厚な扉は破壊され、工場内へと吹き飛んで行った。
そんな力技で障害を突破していく様をポカンとした表情で見ていたコロネフだが、道が開けると、ふと我に返る。
「よ、よし!これで中に入れる!さぁみんな着いてこい!」
扉を突破出来た事をまるで自分の手柄のように言いながら、コロネフはカイト達を引き連れる。
そしてようやく中に入ると、そこには予想はしていたが、全く予想通りの展開が待っているのであった。
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