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第五十六話~開戦~

カイト達が入口を強引に突破して中に入ると、そこには待っていましたとばかりに数百体のロボット達がお出迎えしていた。


機関銃を装備した五十体程のヒューマンタイプが入口から少し距離を取った場所で扇形に並び、銃をこちらに向けて構えている。


正面のやや後方には高さがある横に広がった足場があり、そちらからも同様に無数の銃口がこちらに向けられている。

だがそれだけではない。空中には両ウィングに小型ミサイルを装備したフライトタイプが数三十数体。そこよりもさらに後方に高さのあるコの字型の足場が見える。

そこにはビークルタイプがずらりと並び、砲身をこちらに向けてスタンバイしている。

カイト達からヒューマンタイプとの距離が二十メートル、フライトタイプが三十メートル、ビークルタイプが五十メートル程といったところか。

カイト達は地上、空中、高台からも狙われており、正に八方塞がりの状況である。

流石のカイトもこれは一旦退いた方が良いと思っていたが、コロネフは逆に一歩前に出て、コロンと共に敵陣のど真ん中に足を踏み込んで行った。


カイト達は彼らの血迷った行動を見て慌てて呼び止めようとするが、コロネフがコロンに合図を送るとコロンは急に奇声のような鳴き声を出した。


気でも狂ったのかとカイト達は思っていたが、ロボット達を見てみると、故障したかのようにその場でガタガタと震えている。


「一体何が起こっている?ビジョン(視認)。」


状況が把握できないカイトは視認魔法で普段肉眼では見えない物体、物質を探る。

すると、コロンを中心に円状に大きな波が発生しているのを発見した。


「(ん、なんだあの波は?)サーチマター(物質鑑定)。」


視認魔法で何かを発見したカイトはその正体を突き止めるために鑑定魔法を行使する。

すると鑑定した内容がカイトの頭の中に入ってきた。


「なるほど、そういう事か。それでロボット達の動きが急におかしくなったということか。」


カイトの鑑定によると、コロンが発生させた大きな波の正体は電磁波で、ロボット達はその電磁波に触れると、回路に異常が発生し挙動に変化が起こったのである。

それもコロンが発生させている電磁波はかなり強力で、電波の波はあらゆる物体をすり抜けて、建物の外を出ても広がっていく様子が確認できた。

これを好機と捉えたコロネフはこのタイミングで自分から一番近いヒューマンタイプの内の一体に向かって走り出す。


だがカイトはしばらく戦況を観察していると、コロンの鳴き声は止み、それとともにコロンから発生していた電磁波も消えてしまった。

どうやらこの技は長時間継続して使用できないらしい。

恐らくかなり技が高出力であるためコロン自身にも大きな負荷がかかり、長くは使用できないのだろう。

その証拠にコロンは鳴き止むと、パタパタと広げていた羽を閉まってクールダウン状態になった。

羽は閉ざされクールダウン状態にはなったものの、コロンは尚も空中に浮いている。

やはり奴の浮力に羽は関係なかったようだ。


そして電磁波が一旦止むと、ロボット達は正気を取り戻し、再び戦闘態勢に入ろうとする。

それも想定内だと分かっていたコロネフはこの一瞬に全てをかける。


既に標的に向かって走り出していたコロネフは、ロボット達が再び戦闘態勢に戻る前に決着をつけるため、懐に入れておいた縦長の四角いデバイスを取り出す。


それは人間の片手で持てるものの、懐に入れておくには少し大きそうな物体であった。

そんな物を懐の一体どこからという疑問は置いといて、そのデバイスはエメラルドグリーンのキラキラした筐体で内側には細くて白い光がデバイス内を行ったり来たりしている。


なんとも幻想的な装置だ。そしてそのデバイスの先端にはUSBのような端子が付いている。

すると標的の間合いまで詰め寄ったコロネフは飛び上がり、その端子をヒューマンタイプのうなじ部分目掛けて勢いよく突き差した。


その瞬間、ヒューマンタイプはビクンと体を一瞬震わせる。

そして急にビクッと動いたかと思えば、今度はしばらく停止状態になる。

あまりの急展開に思わずその場にいる全員がしばらく沈黙し、辺りは静けさに包まれる。

その数秒後、再びロボットが起動したかと思えば、今度はなんとボディが真っ黒に変色し始めた。


最初は銀色だったボディが段々と黒く染まっていき、やがては真っ黒なボディに変わってしまった。

あまりの変化にカイト達やロボット達も驚いた様子だが、それを見たコロネフは作戦の成功を確信する。


「ふっふっふっ、やったぞ、これでこいつらは倒したのも同然だ!」


ここまでの一連の流れに付いていけなかったカイト達は何が起こったのかまったく分からず、何故コロネフが勝利を確信しているのか理解できていない。


「何かあいつにぶっ差したようッスけど、どういう事ッスか?」


ボアードが三人の気持ちを代弁してコロネフに問う。


「ふっふっふっ、こいつらにウイルスを撒いてやったのさ。」


コロネフが良く分からない事を言っていると、真っ黒になったヒューマンタイプが握っていた機関銃を床にボトンと落とし、突然隣のヒューマンタイプの背中に飛び乗り、襲い掛かる。


襲われたヒューマンタイプは味方の奇襲に不意を突かれ、抵抗しようとするが、背中におんぶするように乗っているため中々振り解けない。

そんな仲間割れの様子をカイト達一行は呆然と眺めていたが、この後さらに衝撃の出来事が起こる。


相手の背中に乗っていた真っ黒なヒューマンタイプが突然右腕を高く上げ、手を手刀の形にする。

すると手の形が先のコロネフが使用したデバイスの接続部と同じ形状に変化する。

そして次の瞬間、相手のうなじ目掛けてそれを突き刺した。

うなじを突き刺されたロボットの結末はコロネフがデバイスを差し込んだ一体目と同じだった。

ロボットは突かれた瞬間、一瞬ビクッと反応し停止する。

そして再び起動するや否や、ボディが真っ黒に染まり始める。これで二体目の完成である。


実はコロネフの作ったデバイスにはウイルスプログラムが組み込まれており、このプログラムが一旦ロボット内に入り込んでしまうと、大抵のロボットはコロネフが作ったプログラムに書き換えられてしまうのだ。

コロネフが作ったプログラムは先程の惨状の通り、仲間を襲うようになり、自分と同じプログラムを埋め込んで増殖するというものである。

そう、地球で言うところのコンピューターウイルスをコロネフは開発していたのだ。


このデバイスを一体だけに差し込み、読み込ませる事が出来さえすれば、後は勝手に仲間を増殖していくという寸法である。


その一瞬の隙を作るためにコロネフはコロンを改造し、ドロイドのロボット達だけに効果がある有害な電磁波を流させたのだ。


更にコロネフはこのデバイスをもう一つ作っており、コロンを経由してダンバーに予め持たせていた。


そしてコロンが放った強力な電磁波がダンバー達の戦場に届き、ロボット達の挙動の変化が生じれば作戦開始の合図となる。


この電磁波は先に述べた通り、あらゆる物体を貫通してスクラップ工場まで届くほど強力な波である。

それによってこちらの状況よりはやや遅れる事になるが、それでもほんの数秒の差でスクラップ工場の監視ロボット達にも挙動の変化が起こり、その隙にコロネフがやってみせたようにダンバーがデバイスを適当な一体に差し込むという手筈だ。


コロネフの術中にはまったロボット達が一体から二体から四体と倍々ゲームで増えていく。

だがそれでも工場の奥からは次から次へと敵が現れ、その数はざっと数千は超えている。

ドロイドが人間を支配するため製造したロボットだけでも三千体はいるのでまだまだ敵はうようよと出て来ることが想定される。


そのためコロンは、ウイルスに感染したロボットが数に押されて負けてしまわないよう、定期的に電磁波を流し続けたのであった。

この電磁波は完全にドロイド側のロボット達にしか効かない周波数で発信されており、ウイルスに感染した機体には効果が無い。

そのため、感染されていないロボット達は陣形を整えようとするが、コロンの電磁波で動きが何度も封じられ、その隙に問題なく動ける感染ロボットの餌食となるのである。

正に完全無欠の作戦であった。


その結果、あっという間に何体ものフライトタイプ、ビークルタイプも真っ黒に染まっていく。

カイト達が傍から見た感じでは、戦場にいるロボットの比率は黒色と銀色が半々といったところだが、これが黒一色になるのも時間の問題だろうと確信する。


入口でもたついていた時は最初どうなるかと思ったが、ここはコロネフの言った通り、上手くいったようだ。


「さぁ、ここは私とコロンに任せてこの先の研究所にいるドロイドの所に向かってくれ。ここにいる雑魚達はもう見ての通り我々だけでどうにかできる。だが、ドロイドにこれは効かない。プログラムを書き換えようとしたところで、奴の自慢の学習能力が解決法をすぐ見つけてしまう事だろう。という事で我々の役目はここまでだ。すまないが後は頼む。」


そんなに凄いデバイスを作っていたのならこれをドロイドに差せば良いのでは?とカイトが思っていた矢先にコロネフにこれは通用しないと言われてしまった。

カイトはもしかしたら楽ができるかもと淡い期待を抱いていたのだが、その期待はこちらが聞く前に裏切られてしまう形となった。

まぁだからこそコロネフはカイト達の力を必要としていた訳なのだが、あまりにもコロネフのデバイスが優秀だったためそんな妄想をしてしまっていたのである。

こんな甘ったるい考えをしていたのが周りにバレないようにカイトは振る舞う。


「うむ、お前の作った装置は素晴らしい物だ。正直これ程までの効果があるとは思わなかったぞ。だがしかし、それでもこれがドロイドには通用しないだろうとは思っていた。だからお前は我々の力を借りたのだろう?」


「あぁ、そういう事さ、分かっているなら話は早い。これ程の効力を見ればひょっとすると、とお前は甘い考えをするかもしれないと思っていたが、そんな愚か者ではないようだな。」


カイトはそんな愚か者であり、コロネフの言いぐさに少しカチンときたが、それは自分の愚かさを認めてしまう事になるのでここはグッと堪える。


すると単純男のボアードが正直な感想を述べてきた。


「なんだ~そうなんスね、てっきりこれでドロイドも一網打尽に出来るかと思ったッス。けどそれだと自分達の楽しみが無くなってつまらなくなるとこでしたッスね!」


「本当にお前はオーガに進化しても馬鹿という言葉が似合うブタ野郎だわ。そんな甘い考えを持つ愚か者はお前だけだ!ですよね、カイト様?」


カーミラの毒づいたツッコミに心が痛くなるカイトだったが、冷静を装いボアードに渇を入れる。


「そ、そうだぞ、ボアードよ!そんな気の抜けた甘い考えでは、この先の敵に足元をすくわれるぞ!今一度気を引き締めるのだ!」


カイトはなんだか自分自身に言っているようで虚しい気持ちになっていたが、自分も同じく甘い考えをしていたなどとは口が裂けても言えないため、ボアードよすまない、と思いながら自らを立てるためにボアードを矢面に立たせて犠牲にしたのだ。


「この先を真っすぐ進むと研究所に上がるエレベーターがある筈だ。それに乗って研究所に向かってくれ!」


「あぁ、分かった。コロネフ、お前の言った通りここまでは上手くいっているようだ。入口でもたついていた一件は忘れ、褒めて遣わそう。そして後の事は我々に任せるのだ。」


こうしてカイト達はロボット達が仲間割れしている間を縫うように駆け抜け、中央のエレベーターへと向かった。


エレベーターに辿り着くとそこはレーダー塔のものと同じようなエレベーターがあった。

どうやらレーダー塔を模して造ったようで、例に倣って大きな円形の形をしている。


「着きました、ここみたいッスね、レーダー塔にあったのと同じっぽいッスけど、また変な仕掛けがないと良いッスね。」


ボアードがフラグが立ちそうな事を言ってきたので、カイトは周囲を確認し、注意を促す。


「いや、入口にもあったようにここにも罠が張ってあってもおかしくはない。いや寧ろ罠がある前提で進んだ方が良いだろう。エレベーターの右側を見てみろ、先程と同じような操作盤がある。行き先を選ぶ際に操作するのだろうが、その前に先程のような暗号の入力が必要である可能性が高いだろう。」


「そうですね、またここでいちいち時間を使うのも効率的ではありませんね。カイト様、いかがいたしましょうか?」


「ふむ、そうだな、では今回は私がやるとしよう。ブラスティング(爆破)。」


カイトはそう言うと、一歩前に出て、片手を前に出し、エレベーターに向かって爆破魔法を唱える。

すると目の前のエレベーターは爆発し、周囲に爆風が吹き荒れた。

あまりの風圧に堪らず腕で顔を隠すカーミラとボアード。

爆風に乗って何かの金属片等が周囲に飛び散る。


そしてようやく爆風が止むと、もはや扉は存在していたか分からない程に跡形もなく粉砕され、ちょうど工場のフロアに降りていたエレベーターは黒焦げになり、天井には大きな穴がぽっかりと開いていた。

あまりの惨状に威力のコントロールを若干見誤ったカイトは少し反省する。


「すまん、少しやり過ぎてしまったようだ。もう少し頑丈に作ってあると思っていたのだがな。」


だが、カイトの反省をよそに二人はカイトの凄まじい魔法を賞賛する。


「いえ、カイト様、見事な一発でした。威力も申し分なく、ちょうど良かったかと。これで先に進めそうです。」


「相変わらずの破壊力ッスねぇ、あまりの威力に自分も爆風で吹き飛ばされそうになったッス!やっぱり流石は我らのカイト様ッス!」


あまりに魔法の威力が強過ぎると上層の研究所が全て崩壊し、悲惨な結末になるところであった、とカイトは思い少しだけ反省していたが、二人から不信感を抱かれる事はなかったようだ。


「二人ともありがとう。では早速上層に向かうとするか。フライ(飛行)。」


こうしてカイト達は作戦通り、先手を打つ事に成功し、カイトの飛行魔法でぽっかりと空いたエレベーターの天井を伝って研究所のフロアに進むのであった。

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