第十八話~カイトVSスキューレ~
テレポーテーション(瞬間移動)で俺とスキューレは、ハイペリオンから少し離れた人気の無い森に転移した。周りは木々が生い茂り、少しばかり視界が悪いが、ここなら里にも被害が出る心配はないだろう。
「あなたの死に場所はここで良いのかしら?私はどこでも構わないのだけれど。」
「ジェイルスフィア(球状牢獄)。」
俺はスキューレの問いかけに無視して魔法を唱える。俺は自分を中心に半径百メートル程の半球状の結界を展開していく。
あっという間に結界は完成し、スキューレを結界内に閉じ込めた。
この結界は物理的に通り抜ける事は出来ず、強い衝撃や強力な結界破壊魔法で結界を壊すか、術者が解除するか、術者を殺さない限り突破することは出来ない。
ラミスが発動させた結界魔法にも近いもので、クリフのような卓越した術者でない限り破壊出来ないだろう。
「あら、私を閉じ込めて何のつもりかしら?」
「お前がまた鱗粉を撒き散らして里の者達が苦しまないように閉じ込めさせてもらったよ。さすがの私もあれを広範囲に撒かれたら対処が面倒なのでね。」
「ふふふ、あなた面白い事をするのね。確かにここから出る事は容易じゃなさそうだけど、こんな密閉
空間で私の鱗粉を浴びたらあなた、一溜まりもないんじゃなくて?」
「安心しろ、私がお前如きに遅れを取る事は無い。そう思うのなら思う存分やってみるがいいさ。」
「あら、ずいぶん余裕ね、その余裕がいつまで続くかしらね!」
スキューレは羽を大きく広げ、羽から大量の鱗粉を撒き始めた。
前回は広範囲に薄く撒かれていたが今回は違う。
視界が霞む程の粉が結界内に立ち込める。これを一人が全て浴びたらどうなるだろうか。
俺がいかに膨大なマナを持っていたとしても流石にマナが枯渇してしまうだろう。
鱗粉の波が押し寄せる中、俺は魔法を発動させる。
「タイダルウェーブ(大津波)。」
何もなかった地面から突如として大量の水が目の前に湧き出た。
水はあっという間に俺よりも前方の結界の隅から隅まで広がり大津波となった。津波がスキューレの方へと押し寄せる。
結界内が覆い尽くされる程に撒かれた鱗粉も、タイダルウェーブカイトによって次々と飲み込まれていく。
「くっ、ウィンドブラスト(暴風)!」
それに対し、スキューレは風魔法で応戦する。風の力で津波を退けるつもりだ。
すると動きは多少緩やかになったが、それでもまだスキューレを飲み込まんばかりと津波は前進する。
鱗粉は本来、水を弾く性質を持っている。だが、この水量を弾く事は到底出来ないし、この密閉空間では弾いた水が逃げる場所もない。スキューレが撒いた大量の鱗粉は跡形もなく波に飲み込まれた。
無慈悲に襲い掛かってくる津波はスキューレの目前で高度が下がってきた。すかさず結界のギリギリまで高く飛びスキューレは難を逃れる。
俺は津波をコントロールして結界の外へと流し出し、消失させた。
スキューレごと飲み込んで終わらせるつもりだったが、強力な風魔法のせいで少し押し返され、計算が狂ってしまった。
「ほう、溺死は免れたようだな。でもこれで分かっただろう。お前の鱗粉は私には通用しない。さぁ、どうする?」
「ふん、鱗粉を防いだからって調子に乗るなぁ!アクセラレーション(加速)!」
スキューレは加速魔法を唱え、パタパタと羽を羽ばたかせて上下に揺れている。
「この私のスピードに付いて来られるかしら?行くわよ!」
スキューレは猛烈なスピードで飛び立った。魔法の強化も相まって、あまりのスピードに一瞬スキューレを見失う。
しかし、スキューレはこちらへ一直線で向かって来る訳でもなく、俺の周りを縦横無尽に飛び回っている。
そのスピードは目視でスキューレの姿を捉えられず、スキューレが通った跡の残像を目で追う事しか出来ない。
「ポイズンニードル(毒針)!」
スキューレは飛び回りながら無数の毒針を放つ。
俺は辛うじてスキューレの殺気を感じ取り、防御魔法で防ぐ。しかし毒性が強く、防御魔法は一回の攻撃で溶解するかのように破壊されてしまった。
スキューレは再び飛び立ち、また高速移動を始める。そして隙をついて毒針を飛ばす。それを俺は紙一重で防御する。そんな攻防が暫く続いた。
このまま防御に徹しても埒が明かない。スキューレもいずれ体力に限界が来るだろうが、あの動きを見るまだ底が知れない。こちらもまだマナには余裕があるが、いつ決定打を受けてしまうか分からない。長期戦は奴の思う壺だ。なるべく早く決着を付ける必要がある。
「ロックバリア(岩壁)、ドローウィング(空間掌握)!」
俺は岩の壁を四方八方に形成し、全身を完全に岩の中に隠す。周囲を完全に岩で覆ったため肉眼では外の様子を伺う事が出来ないが、ドローウィングの魔法で外の状況は手に取るように分かる。
スキューレはそんなもので防げる訳がないと、攻撃を続ける。しかし、先程の防御魔法は一度で破壊されたが、今度は何度攻撃を受けてもびくともしない。そんな筈はないと、スキューレは毒針を放ち続けるが、岩は破壊されるどころか少しも削れたりしない。
さすがに諦めたスキューレは一旦攻撃を止めて次の手を打つようだ。
「ふん、それで私の攻撃を防いだつもり?守っていてばかりでは勝てなくってよ。そんな臆病な戦い方をせずに出てきたらどうなの?」
挑発して誘き出そうとしているようだが、そんな安い挑発には乗らない。
頭に来たスキューレはウィンドブラストを唱えるが、それでもまだびくともしない。この岩壁は完全防御になっているようだ。
奴は只の岩の塊だと思っているようだがそうではない。この岩は何層にもなっており、洗練したマナを込めている。岩の持つ本来の硬さと魔法による効果が相まって強力な盾となっている。
その様子を見て、スキューレは再び俺の周りを旋回し始めたようだ。
今度は毒針を放つわけでも、別の攻撃をしてくる訳でもなく、ただ何度も何度も俺の周りを行ったり来たりしている。どうやら岩をよくよく観察しているようだ。
暫く飛び回った後、スキューレは一本の木のてっぺんに着地した。
「なかなか頑丈な岩のようだけど、これはどうかしら?スプリットスレッド(切断糸)。」
スキューレが片手を前に突き出し、手の平を広げると糸が飛び出して来た。
そしてスキューレがそのまま指を段々と閉じていくと、俺の周りに張り巡らされた透明な線が動き出す。
スキューレは飛び回っていた際に自身の指から糸を出し、糸を張り巡らしていたのだ。
糸が徐々に俺の方に向かって集まっていくのが分かる。糸にはスキューレのマナが込められており、糸本来の硬質さと相まってかなりの強度になっているようだ。
無数の糸は周りの木々や岩を切断しながら更に迫ってくる。だが、こんな状況に陥っても決して慌てる事はない。
「もう諦めたか、少々腕が立つ相手だと思ったのだけど、残念ね。これで終わりよ!」
スキューレは手をぎゅっと強く握る。
「ギリギリギリギリ、スパン、スパン、スパン。」
スキューレの合図で全ての糸が素早く動き出し、岩壁を押しつぶしながら切り刻む。遂にはあれ程にも強固だった岩が豆腐のように切り刻まれた。そして、岩壁が完全に切り刻まれた時点で攻撃は止んだ。周囲には静けさが漂っている。
勝利を確信したスキューレは粉々に切り刻まれた岩壁に近づく。
「流石にこれじゃあ跡形もないわよねぇ。死体を見られなくて残念。まぁいいわ、じゃあこっちは終わった事だし、あっちの二人の死体でも見に行くとしようかしら。」
スキューレはグリーンドラゴンの元へ戻ろうとするが、ある違和感に気が付いたようだ。そう、俺を間違いなく仕留めた筈なのに結界が解除されていない。
「まさか、まだ生きているっていうの!?」
スキューレはそんなまさかと思い、切り刻んだ岩の残骸をどかしてみるが、木端微塵にされた筈の肉片や血の跡もない。おかしい。そしてスキューレは地面をよく観察すると、穴を見つけた。まさか!?スキューレは背後から体が震える程の恐ろしい殺気を感じた。そして、振り返る間もなく首根っこを掴まれる。
「気付いたようだな。だが、もう遅い。」
「くっ、貴様まさか、地下に隠れていたのか!?」
「ご明察だ。だが気付くのが一歩遅かったようだな。まさかあれで仕留められたとでも思ったのか?お前を倒す手筈が整ったので、岩に纏わせたマナを解除してわざと脆くしたのだよ。」
スキューレが糸を周囲に張り巡らせている間に俺は気付かれないように魔法で地面に穴を掘り、地下を掘り進め、身を潜めていた。
そして、わざと岩を脆くしてスキューレに破壊させ、勝利を確信し、様子を見に来て油断しているところを狙い、地下から出て背後を取った。
スピードでは敵わない相手だったが、捕らえてしまえば何の問題もない。
「くっ、くそが~!離せ離せ離せー!」
「無駄だ、パラリシスタッチ(麻痺付与)。」
スキューレは体をバタバタとさせて必死に抵抗するが、麻痺効果を付与すると動きが止まる。
「そ、そんな。。。」
「終わりだ、サンダーボルテージ(超高電圧)。」
「バリバリバリバリ!」
「グギャー!」
スキューレの首を掴んだ手から超高電圧の雷を放出する。
抗いようもない高電圧に打たれ、スキューレは黒焦げになった。体はピクリとも動かず、黒い煙を上げながらビリビリと放電している。
そして黒い灰と化したスキューレの体は粉々になり宙に舞い消えていった。
「さてと、少してこずったが、片付いたな。二人もそろそろ終わる頃だ、行くとしよう。テレポーテーション(瞬間移動)。」
俺は戦闘を終え、二人の元へ戻る事にした。
二人の元に戻ると、そこには一刀両断されたグリーンドラゴン、ボアード、そしてカーミラの姿があった。どうやら無事に討伐したようだ。
「あっ、カイト様ッス!お疲れさまでしたッス!」
「カイト様。お帰りなさいませ。無事で何よりです。こちらも無事に討伐が完了しました。」
「うむ、二人ともご苦労であった。これでこの里の脅威はさり、無事に領土も奪還出来たな。一旦里に戻って報告するとしよう。」
俺達は無事に聖大陸軍のスキューレとグリーンドラゴンを討ち取り、里へと帰還するのであった。
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