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第十七話~グリーンドラゴン~

「でっかい樹ッスね~、ここにスキューレってのがいるんスか?」


「あぁ、そうみたいだな、未知の敵だ。油断せず進むぞ。」

俺達は警戒しながら少しずつ歩を進める。すると、ハイペリオンの方から強烈な風が吹いてきた。


「くっ、何スかこの風は。」


「気を付けろ、敵の仕業かもしれん。」


すると、前方から風に乗って虹色の鱗粉が飛んできた。


「あれが、スキューレの鱗粉か。カーミラ!」


「はい、シールドウォール!」


俺の指示でカーミラは素早く防御魔法を展開し、鱗粉から三人を守る。

この鱗粉がマナを吸収し、里の連中を弱らせているようだ。


俺達はしばらくその場で鱗粉の様子を観察する。すると、ハイペリオンから里に向かって流れ出ていった鱗粉が、今度はふわふわと漂いながらハイペリオンの方へ集まっていく。


「何やらこの鱗粉は怪しい動きをしますね。風に乗って里に流れ込んだかと思えば、意思を持っているかのように戻ってくる。やはり、あの樹にすべての黒幕がありそうですね。」


「そうだな。ここまで来たが、相手が出てこない以上、こちらから出向く必要があるな。

二人とも行くぞ。」


俺達はカーミラの防御魔法に守られながらハイペリオンに向かった。


ハイペリオンに着くと、蝶のような紫色の羽を生やした女が樹の上部からパタパタと降りてきた。


「あら、あなた達は何者?ここに何の用かしら?」


「私は魔王国のカイトだ。この里を占拠する聖大陸軍からこの地を奪還するためにやって来た。お前がスキューレか?」


「そうよ、私が聖大陸軍騎士団七騎士セブンナイツ第六騎士スキューレ。よろしくね。ここを奪還ですって?無理よ、無理。あなた達がこの私に勝てるとでも?私のデビルツリーを倒したようだけど、それくらいでつけあがらないで欲しいわね。」


「あの森の魔物もお前の仕業だったッスか!?」


「そうよ、オークちゃん。あの子は大事に育てていたのだけど残念ね。でもあれはもう良いの。私にはこの子がいるから。さぁ、そろそろ孵化する頃よ。」


ハイペリオンの上部が怪しく光る。よく見ると、樹の幹の窪みに巨大な卵がある。

さっき撒かれてマナを吸収してきた鱗粉が卵に集まる。卵は鱗粉が吸収したマナを受け取り栄養とする。里の連中から吸収したマナをこの卵やデビルツリーに与えていたのだ。


十分に栄養を吸収したのか、卵は更に光を増し、ピキピキと音を立てる。卵にヒビが入り出した。孵化が始まってしまったようだ。


「さぁ、出でよ!私のグリーンドラゴン!」


巨大な卵は完全に割れ、中から緑色のドラゴンがうめき声のような産声をあげて出てきた。生まれたばかりとは言え、あの巨大な卵から出てきた個体だ。人の大きさは優に超えている。ドラゴンはバッサバッサと翼を羽ばたかせながら降りてきた。


「さぁ、私の可愛いドラゴンよ!あいつらを殺ってしまいなさい!」


「ギャオーン!」


ドラゴンは主の命令に従順に従い、猛スピードでこちらに突進してくる。これはまともに受けるとまずそうだ。俺がカーミラに再び防御魔法を命令しようとした。


「ズドーン!」


ボアードがそれより早くドラゴンの前に立ちはだかり、大剣でドラゴンを受け止めた。


「カイト様、ここはお任せ下さいッス!このドラゴンは自分が退治しますッス!」


「そうか、ではここはお前とカーミラに任せる。私はあの蝶女を殺るとしよう。」


「カイト様、私もカイト様と共に参ります。」


「カーミラ、すまないがお前はボアードの援護を頼む。あいつ一人では少々荷が重いかもしれん。私の事は心配するな。すぐに片付けてくる。」


「承知いたしました。私はあいつの援護に回らせていただきます。」


「うむ、では私は行くとしよう。」


「作戦会議は終わったかしら?私とこの子を倒す算段は付いたかしら?まぁ、無理に決まっているけど。」


「あぁ、すまない、待たせたな。お前の相手は私がするとしよう。テレポーテーション(瞬間移動)。」


カイトは瞬間移動の魔法を自身とスキューレに唱え二人は消えた。


「さぁ、カイト様が帰ってくる前にこんなトカゲ、ぶった切ってやるッスよ!おりゃあ!」


ボアードはドラゴンを押し返し、大剣を振りかぶって思いっきり斬りつける。


「ガキーン!」


ボアードは全力で叩き斬ったつもりだったが、ドラゴンの硬い鱗に弾かれる。続けざまに連撃を放つが、ドラゴンの全身は硬い鱗で覆われてまるで歯が立たない。唯一刃が通りそうな腹を狙うが、鋭い爪で弾かれ、阻止されてしまう。


まだ成熟していないとは言え、ドラゴンはこの世界では最強の種族とされている。生まれ持った能力がそもそも他種族とは桁が違う。生まれながらにして最強の生物なのである。


ボアードの攻撃は傷一つ付かなかったが、ドラゴンは腹を立てて激昂し、反撃を始める。鋭い爪を振り回しボアードに襲い掛かる。ボアードは何とか大剣で受け止めるが、猛攻を受け、徐々に後ろに押され始める。押されながらも耐えていたボアードだったが、怒涛の連撃に対処しきれずバランスを崩す。その隙を見てすかさずドラゴンは体を一回転させて尻尾を振り回し、ボアードに叩きつける。


凄まじい一撃を受けてしまったボアードは先程通って来た森まで吹き飛ばされる。ボアードが衝突した森の木々は次々となぎ倒される。かなり遠くまで飛ばされたところでようやく止まったが、ボアードは全身ボロボロで瀕死の状態だ。回復にはしばらくかかるだろう。ドラゴンは追い打ちをかけるようにボアードが吹き飛んで行った方向へ飛び立とうとする。


「はぁ。役に立たない奴ね。ダークスフィア(闇球)。」


ボアードの不甲斐ない姿に、見るに見かねたカーミラが魔法を放つ。直径数メートルの黒い球体がドラゴンに襲い掛かる。球体は直撃し、ドラゴンは黒炎に包み込まれる。カーミラが放った高出力の炎に耐えられる者は僅かだろう。だが、ドラゴンは尻尾を振り回し、炎を掻き消したかと思うと、ゆっくりと煙から姿を現し、ケロッとした様子を見せている。


「くっ、どれだけ硬いのよあのトカゲは!サンダーアロー(雷矢)!」


今度は無数の鋭利な矢を雷の如く目にも止まらぬ速さで相手に放つ。ドラゴンは警戒したのか、翼を盾にして身を守る体勢を取る。数百、数千の矢が次々と襲い掛かる。流石のドラゴンも防戦一方である。あらゆる角度から矢は放たれてくるため、少しでも急所を見せようものなら小さな隙間を縫って致命傷を与えるだろう。ドラゴンはじっとしたまま時が経つのを待つ。暫くして、ようやく矢の攻撃が止んだ。


しかし、手数を増やしてみたがこれも効果がなく、ほぼダメージを与えられていないようだ。


「ちっ、仕方ない。かくなる上は、あれを使うか。おい、ボアード、剣を出せ。」


そこには数キロ先まで吹っ飛ばされボロボロになっていたボアードが、いつの間にか傷一つ無い状態で戻っていた。


「はいッス!あれをやるッスね!」


「これをやるとお前と協力した感じがしてとても嫌なのだが、今回は仕方ない。確かにカイト様のお察しの通りだった。お前も私も一人では厳しかっただろう。」


「そうッスね、じゃあお願いしますッス!」


ボアードが両手で大剣を空に向かって突き上げる。


「エレメンタルウェポン(武器強化)。フィジカルエンチャント(身体能力向上)。」


カーミラが武器強化魔法と身体強化魔法を発動させる。ボアードの剣はマナを纏い、元々化け物染みた身体能力はカーミラの魔法により更に強化される。


「じゃあ、行くッスよ!」


ボアードは大剣を構えながらドラゴンに向かって走り出す。ドラゴンは例の如く鋭い爪と尻尾を振り回し応戦する。先程は大剣で攻撃を受け止めるのが精一杯だったが、身体強化されたボアードはドラゴンの攻撃を軽々と受け止める。自慢の爪で何度切り裂こうとしても片手で持っている剣を棒の如く軽々と振り回し弾き返す。さっきボアードを吹き飛ばした尻尾による殴打を繰り出してくるが、今度は剣を地面に突き刺し拳を振りかぶって素手で尻尾を弾き返してみせた。


あまりの変わりように少し動揺しつつも、怒ったドラゴン緑ブレスを吐き出す体勢に入る。


ドラゴンの口元が緑色に光り出す。緑色のエネルギーの塊が口元で徐々に大きくなっていく。


次の瞬間、ボアードを目掛けて高出力のブレスが吐き出された。

ブレスの衝撃で周囲のハイペリオンや周りの木々、地面までも激しく揺れる。カーミラは防御魔法で衝撃を防いでいる。これがドラゴンの本気の一撃である。小さな山の一つくらいは消し飛んでしまうだろう。


そんな一撃を前にしてもボアードは怯まない。大剣を風車の如く高速回転させ、ブレス無効化している。魔法で強化された剣に触れたブレスは塵となって霧散する。それでもなおブレスは止まないが、ボアードはブレスを弾きながらゆっくりとドラゴンとの距離を詰めていく。


お互いの間合いが近づいた所でドラゴンはブレスを止め、自棄になったようにボアードに嚙みつこうとする。こうなってしまえば、もう勝負がついたのも同然だ。ボアードは噛みつき攻撃をひらりとかわし、宙に飛ぶ。


「これで終わりッス!喰らえ、ソードバースト(爆裂剣)!」


ボアードはマナを纏った大剣を振り落とし、ドラゴンの首を目掛けて剣を振り落とした。さっきは弾かれてしまったが、今度はそうはいかない。カーミラの強力なマナを纏い、身体能力が強化されたボアードの腕力で振り降ろされた剣に切れないものはない。


ドラゴンは首を斬り落とされ、その場に倒れた。即死である。


「ふう、終わったッスね。さすが、カーミラの魔法ッス。」


「ふん、今回は貸しだ。そんな事よりカイト様を探すぞ。」


「そうッスね、さっきテレポーテーションしちゃったッスもんね。どこに行ったんスかね。」


 二人はスキューレが丹精込めて孵化させたグリーンドラゴンを屠り、カイトを探す事にした。

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