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第二話:ボードゲームの駒たち

午後の暖かな日差しがリサイアン宮殿の図書室の格子窓から差し込み、磨き上げられたオーク材のチェス盤を照らしていた。


盤には精巧に彫られた駒が並べられ、その美しさに目を奪われる。


そう、さっきの庭での初対面の朝時から、王女に振り回され色んなところへと案内されたが、ここの【王城】の役割を果たしている豪華な大宮殿のとある一角に荘厳でありながら伝統と優雅さの漂う雰囲気を醸し出している大図書室に連れられた。


セレスティア王女はベルベットのクッションがついた椅子に腰掛け、金髪のカールが光を受けて輝く中、駒を丁寧に並べていた。


その向かい側では、俺ことタエ・アマディが硬直したまま立っており、椅子に座ることを絶賛拒否中なんだ。


「まだ座らないの?椅子が噛みつくわけじゃないのよ?」

セレスティア王女はチェス盤の端を指で叩きながらからかうように言った。


俺の唇がわずかに動き、不安そうな笑みを浮かべてしまった。

「立っている方が好きなんですよ」


セレスティア王女は肩をすくめ、ポーンを盤上に滑らせた。


「好きにすればいいわ。さて、これはチェスというゲームよ。戦略と知恵が求められるゲームで、正確さ、集中力、そして――」


「忍耐力?」

俺が眉を上げて口を挟んだ。


王女は鋭い目つきで俺を睨んだ。

「話を遮るのは無礼よ。そして、そう、忍耐力。あんたに必要なものね、そこの落ち着きのない男」


俺はゆっくり息を吐き、椅子の背を掴んで支えにしながらも、座ることは断固拒否した。


俺の視線はセレスティア王女の白い手や明るい肌の色をちらちらと捉えてしまっては、すぐに反らした。それは単に彼女の外見だけではなく、彼女の態度、そして自信に満ちた仕草がすべてだった。


彼女のすべてが、俺にとっては危険を告げる警鐘のようだった。それは俺の過去に根ざした、本能的な恐れだったかもしれないね。


それでも、【約束を果たさなければならない】。

そのために、白人の上流階級を怖がりながらも勇気を出してここまでやってきたのだから。


このリサイアン王国 の王様がテストとして出してくれた王国騎士団と近衛騎士団の精鋭達50人程度を試合で倒してみせたまでに、どうしてもそこの小さい王女様とお近づきにならなければならなかったから。


「それでね」

セレスティア王女が盤に目を戻しながら話を続け、俺の注意を引き戻した。


「目的は私のキングを捕まえながら、自分のキングを守ることよ。駒ごとに動きが決まっているの。この馬みたいな形の駒、これがナイト。『L』字に動くの。わかった?」


「『L』字ですね。わかりました」

考え中だったので、あまり話を聞いてなかったが戸惑いながらも頷いた。


「よろしい」

彼女はナイトを盤に戻し、王冠の形をした背の高い駒を指さした。


「これがキング。動きは遅いけど、すごく重要。これを失ったら、すべてを失うの。理解した?」


「キングを守るんですね。了解です。」


セレスティア王女は満足げに微笑んだ。

「ほらね、全く無能ってわけじゃないのよね、あんた?」


彼女は他の駒の説明を始めたが、俺の体が再び硬直し、彼女が近づくたびに椅子を握りしめる俺の手が強くなってしまったのを王女は見逃さなかったようだ。


「またやってるわね。」

突然、彼女が言った。

思わず目を瞬かせた。


「何をですか?」


「私がいたずらであんたを驚かそうと飛びかかるとでも思ってるみたいな態度よ。」

彼女は首を傾げながら言った。


「おかしいわよ。どうしてそんなに……怯えてるの?」


突然、俺の顎が引き締まった。

「怯えてるわけじゃありません。ただ、用心深いだけです」


「用心深い?」

セレスティア王女は腕を組み、椅子に寄りかかった。


「何に対して? 親切でチェスを教えてやっている小さな11歳の王女である私に?だったら失礼ね!」


「......」

俺の沈黙が長引くと、セレスティア王女の好奇心は次第に苛立ちへと変わっていった。


「ずっと私を何か――何かの脅威みたいに見てるけど、どういうこと? 駒で投げたり攻撃するとでも思ってるの?」


ため息をつき、ついに椅子に腰を下ろしたが、俺の体は依然として硬直している。


「それは……王女殿下個人ではありません」

目をそらしながら言ってみた。


「王女殿下のような【北の大陸に住んでる人たちの上に立つ支配層】なんです。これまでの経験では、彼らとの関係が……いいものではなかったから」


セレスティアは眉をひそめ、目の中の遊び心が次第に消え、より真剣な表情に変わった。


「私のような人たち? 肌が白い人? 髪が明るい人?」

俺は頷いた。


「ナイアラでは、殿下のような人々が来た時は、たいてい問題が起きるんです。指導者の命令だと思うがそれで白い人の兵士達によって土地が奪われたり、家族が引き裂かれたり……そういうことを忘れるのは難しい」


「........」


初めて、セレスティアは言葉を失った。


彼女はチェス盤を見下ろし、駒が突然つまらないものに見えるようだった。


「そう……」

彼女は静かに言った。その声にはいつもの気合とやる気が欠けていた。


俺は気まずそうに身じろぎし、自分の言葉の重さに気づいた。


「でも、殿下がそうだと言っているわけじゃありません」

俺もすぐに付け加えた。


「ただ……その恐怖を拭い去るのは難しいんです。本能であって、理性ではありません」


トントン、トントン!

セレスティア王女はテーブルを指で叩きながら考え込んだ。


やがて、突然クイーンを動かして俺のポーンを取った。


「あんたの番よ」

彼女はきっぱりと言った。

驚いて目を瞬かせた。

「え?」


「次はあんたの番よ」

彼女はもう一度繰り返し、その声には決然とした響きがあった。


「キングを守りたいなら、集中しなさい」

ためらった後、ナイトを手に取り、彼女の指示通りに『L』字に動かした。


セレスティアは満足げに頷いた。

「いいわね。聞いて、ナイアラのことも、あんたが経験してきたこともよく知らないけれど、私はあなたを傷つけるためにここにいるわけじゃないわよ。ただ勝つためにここにいるだけだわ」


彼女はいたずらっぽく微笑んだ。


「恐怖に気を取られてたら、負けるわよ?」

彼女の率直さに思わず笑ってしまった。


「本当に容赦ないですね」


「もちろんよ、ふふふ...」

彼女は誇らしげに微笑ながら別の駒を動かした。


「だから、私をドレスを着たライオンみたいに見るのはやめて、真剣にやりなさい。さもないと、5手であなたを倒してみせるわ」


「え、ええ。分かりましたよ、殿下」


「あと、その『殿下』って呼び方もやめてちょうだい。今度は二人っきりの時だけ、私のことをセレスと呼んでほしい。分かった?」


「い、いいえ、王女様ともあろうお方にそんな呼び捨ては恐れ多ー」


「私が良いと言ってるんだからいいのっ!王女である私の言葉が聞けないの?それに、『二人っきりの時だけ』って言ってるじゃない?次にまたも拒否してきたら承知しないわよ?」


「....う、まあ、それなら、...えっと、......せーセレス...王女?」


「セレスだけでいいと、...まあ、この際それだけでも譲歩してくれてるなら我慢しなくもないわ」


どうやら納得してくれたみたいだ。ふぅぅ.....


「でも、いつか私のことを『セレス』ってだけ呼んでくれるまで追求していくことをやめたりしないわ。いいー?」


「はい。そう呼べるようになるまで努めさせて頂きますね」


「よろしい」


ゲームが進むにつれ、俺達二人の間の緊張は少しずつ和らいでいったが、自分の動きには依然として慎重さが滲んでいた。


セレスティア王女の鋭い知性と強い意志が、駒を一つずつ進めるたびに俺の防御を崩していった。


試合が終わる頃、俺は少なくとも心の中でこう認めざるを得なかった。


我が儘な王女かと思いきや、実はただの尊大な態度をただの見せかけかにしながら、実は親切そうに接してくれてる、思いやりのある小さな王女はもしかしたら、計画通りに……俺の見方になってくれるかもしれない、と。

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