第三話:悪夢の終わらない再来
ナイアラの空気は、その朝、湿った土と咲き誇るハイビスカスの香りで満ちていた。
村はいつものように活気にあふれていた。
子どもたちが裸足で埃っぽい道を駆け回り、その笑い声が市場の商人たちの呼び声に混じって響いていた。
母は井戸で力強い腕で水を汲み上げ、7歳になったばかりの妹のカニはそのそばで笑いながら、小さな手でトンボを捕まえようと夢中になっていた。
俺は鍛冶場のそばに立ち、父が鉄を打つたびに飛び散る火花を見ていた。
ハンマーが金属を叩く音が響く中、父の野太い声がそれを越えて冗談を飛ばした。
「タイエ、8歳のお前にはまだこのハンマーを持つには力が足りんが、いつか自分の剣を鍛える日が来る。オレが作るどの剣よりも強いものをな。」
それは完璧だった。
それが、俺の家だった。
でも、最初の異変は、音だった。
馬の蹄の音が、大地を打つ遠い雷のように響いた。
そのリズムは次第に速くなり、迫り来る緊迫感を帯びていった。
人々が草原の彼方に目を向けた。果てしなく広がる平原の向こうで、砂埃が風に乗って立ち上っていた。
そして、彼らが現れた。
白い肌の男たちが馬に乗り、輝く鎧をまとい、風にたなびく旗を掲げていた。
赤い獅子が金の地に描かれた旗だ。太陽に反射して武器が光っていた。
父は動きを止め、ハンマーを手から滑らせた。
「中へ。すぐにだ。」
低く鋭い声でそう言った。
しかし、手遅れだった。
騎士たちは嵐のように俺たちに襲いかかってきた。剣が抜かれる音と共に、悲鳴が空気を裂き、家々が炎に包まれた。
父は俺を鍛冶場の中に押し込んだ。
「カニを連れて森へ走れ。絶対に立ち止まるな!」
「でも――」
「行け、タイエ!」
父は叫び、声が震えた。
俺はカニの手を掴み、走り出した。
世界がぼやけ、火、煙、愛する人々の悲鳴が入り混じる。
足が燃えるように痛かったが、小さなカニの足は追いつくのが精一杯だった。
妹がつまずき、俺は彼女を引っ張り起こした。彼女の顔は涙で濡れていた。
背後では村が混沌に飲み込まれていくのが見えた。
母が必死に抵抗し、暴漢に引きずられていく姿があった。
父はハンマー一本で突撃し、その叫びは怒りと絶望の入り混じったものだった。
父が倒れる瞬間は見なかったが、鋼が肉を裂く鈍い音は聞いてしまった。
森の端にたどり着き、泣き叫ぶカニを木々の陰に引き入れた。
心臓の鼓動が大きすぎて、他の音が聞こえなかった。
俺は彼女をしっかりと抱きしめ、小さな体が震えるのを感じた。
「泣かないで、大丈夫だ」
俺は囁いてみたが、自分の顔も涙で濡れていた。
「きっとなんとかなる」
しかし、ならなかった。
兵士たちは村だけでなく、森の中の逃亡者も狩り始めた。倒れた丸太の後ろに隠れた俺たちの耳には、葉を踏みしめる足音と、理解できない言葉を話す声が聞こえた。
俺は息を殺し、神々に祈った――本当に聞いてくれるとは限らないのに。
しかし、その時カニが小さな声を漏らした。怯えたような、かすかなすすり泣きだった。
彼らに見つかった。
彼らがカニを引きずり出す時、俺は叫び、必死で抗った。
噛みつき、爪を立て、何でもして彼女を守ろうとした。
「離せ―――!この人でなし!悪魔ー!!」
「ええい!邪魔するな、クソガキが!」
バコ―!
「あぐっ!」
しかし、俺はただの子供で、彼らは屈強な男たちだった。
顔を殴られ、視界がぐるりと回った。意識を取り戻した時、カニはもういなかった。
「カニいいいいーーーーーーーーーーーー!!!!」
...............
........
「-はあっー!?」
はあぁ、はあぁ、はぁあ.......
夢か?
.......この悪夢、これで南百回目か?
この永遠に終わりが見えてこないような悍ましい夢、いつまで見なければならないというんだ!
ふと天井を見ると、確かここは、
.......そうだった!
俺は今、セレスティア王女を味方に引き入れるために、彼女と仲良くなるためにリサィア王国にやってきたんだった!
「ま、まさか、またもあのおぞましい夢を見ることになるとは......」
カニ.........
本当にお前は、......
あの白い兵士達に....
殺されたのか?
それとも、......
『もっと酷いことされた?』
!!
いかん!今は任務に集中しないと!
王女殿下の護衛をだな!
昔のあれ...
あの絶望的だった記憶だけで、俺の決意は揺るがない!
「復讐を果たすためにも、絶対に【赤い獅子が描かれた旗】を持ってるあの兵士達の本国をー!」
ホ・ロ・ボ・ス・ン・ダ・
まずは、その旗がどの国のものか、調べる必要があるが、本格的に調査するにはセレス王女の月末での任務内容をこなすまでにだ。
余念を抱えながら【本当の任務】に着手すべきではないよな、カニと家族みんなのための神聖なる復讐なら!
..............
.......
「カニ......」
確かにそれ以来、妹を二度と見ることはなかった。
いくら南大陸をあっちこっち旅しながら探してみても......
あの最悪の日々は胸の中にずっと心に暗い霧として霞んでいた。
俺は村の焼け跡をさまよい、生存者を探した。
母も父も、友人たちも、誰一人見つからなかった。
ただ、廃墟と静寂だけが残っていた。
赤い獅子の旗と其れを持ってる白い顔がした男達はその後、俺の夢に現れ続けた。
それは自分が失ったすべての象徴となった。
妹の笑い声を奪われ、母の抱擁を引き裂かれ、父の目の中の誇りが消えたことの象徴だった。
生き延びはしたが、生きているとも言えなかった。
本当の意味での生は、もう俺の中にはなかったかもしれない。
そして今、異なる旗である【希望を示す白い鳩と大地に根付く力強い銀のオークが描かれたデザイン】というものを掲げるものの、俺のカニと家族すべてを奪った白い兵士達と同じく白い顔と肌を持つこの王国の民が住んでる支配層の中心に立っている。
燃え盛る記憶が胸を締め付ける中、俺は静かに復讐の炎を滾らせながら、眠っていたここの宮殿のすぐ外にある仮住まいの兵舎にある空き部屋から出ていく準備を整えていくのだった。




