第8章 赤蜥蜴と赤羽根、巨人の里へ 第11話、激戦のその後で その8
第11話その8
自らが帝国のスパイであることを認めたフェルフェル。アレイスローはそのフェルフェルの自白を聞き、思わず唇を噛みしめた。
「やはり目的は……ドレイクさんの監視…ですか?」
「………それ…は……言えない…」
返答を拒否するフェルフェルだったが、アレイスローに言わせれば、明確な否定が無い時点でイエスと答えているようなものだった。
「最初から……ドレイクさんに近づくためにこのパーティーに?」
「……ウェ~イ……それ…は……ただの……偶然…」
「偶然?」
「……フェルの……任務は…皇帝…陛下の…覇道の……邪魔になる…存在の…調査…及び…可能な…場合は……排除…」
「覇道の邪魔になる存在………例えば、真なる竜であるドレイクさん……等ですね?」
アレイスローの言葉に頷くフェルフェル。
「……もち…ろん……赤…蜥蜴も…そう……だし…カオス…ラグナ……とか…あと……ベル…フルフも……邪魔な…存在……」
「……なるほど…」
納得するアレイスロー。ようは皇帝にとっては強い力を持つ者は全て覇道の邪魔となる存在なのだ。
「……赤…蜥蜴…や…フリル…と…会って……妙な…奴等……だった…から……帝国に……連絡…したら……監視を……続けろ……って……」
「そういう事でしたか……」
妙に納得するアレイスロー。つまり、フェルフェルはドレイク達を狙ってスパイとして潜入したのではなく、あくまで帝国に仇なす可能性のある勢力の調査の為に冒険者に偽装して各地を調査していたのだ。確かに旅の冒険者ならば世界各地を回っていてもおかしくはないし、その旅の途中で様々な情報を得ることが出来るだろう。フェルフェルにとってはその情報こそが目的だったのだ。しかしドレイクやフリルフレアと出会い、状況が変わってしまったのだ。絶滅したはずの赤鱗の部族のリザードマンや存在しないはずの赤い翼のバードマン、そんな怪しげな連中を見かけたら帝国に報告しない訳にはいかないだろう。そして、その結果フェルフェルはドレイクとフリルフレアの監視を続けることになってしまったのだろう。そして恐らくフェルフェルがドレイクやフリルフレアの監視を続けると同時に帝国でもドレイクやフリルフレアの正体について調査したのかもしれない。だが、やはり直接仲間として一緒に行動しているフェルフェルから得られる情報以上のものは得られなかったのだろう。だからこうして数か月間もドレイクとフリルフレアのいるこのパーティーに所属し続けたのだろう。時々フェルフェルが所用でいなくなることがあったが、その時にきっと帝国へ報告していたのだろう。
「……それ…で…」
フェルフェルはそう言うとアレイスローをジッと見つめた。その瞳には……いつもの様な半眼ジト目ではなくいつになくジッと見つめるフェルフェルの眼差しには……どこか決意のような色が見て取れる。
「……アレイは……フェルに…それを…言って……どう…する……つもり…なの…?」
少し緊張した面持ちのフェルフェル。しかしそれはアレイスローも同じだった。アレイスローはフェルフェルの方に杖を向ける。
「フェル、帝国は………いえ、皇帝ギルガスト・メギド・ゲオルシュバッハは非常に危険な人物です。己の覇道の為に他種族はおろか、自国の民まで利用し犠牲にする。そんな人間に従っていたらあなただっていつかは………」
「……何が…言い…たい…の…」
「フェル……帝国のスパイをやめてください。いくら帝国でも、連絡を絶って世界中を回っていれば居場所を特定される心配はないはずです」
「……………⁉」
アレイスローの言葉に驚きを隠せないフェルフェル。てっきり断罪し、フェルフェルをこの場で追放、下手をすれば殺害するつもりだと思っていたのだ。そしてフェルフェル自身はある意味ではそれも仕方のない事だと考えていた。仲間になって数か月だが、その間ずっと騙してきたのだ。自己紹介の時点でウソをついていたのだ。名前だって………。
「……アレイ…」
「フェル…」
「…ゴメンね…」
「⁉」
チャキッ!
一瞬だった。フェルフェルが身体に巻いたバスタオルの中に隠し持っていた袋を取り出した。恐らくは防水布で作られた袋だろう。そしてその袋の中から何か小さな黒い物体を一瞬で取り出し、入り口近くにいるアレイスローに向けた。
「………フェル、それは?」
「……小型銃……弾は…2発……まともに…当たれば……人も…殺せる…」
フェルフェルはそう言うと改めてその小型銃をアレイスローに向けた。狙うは身体の中心。まともに当たればアレイスローの命を……奪える。
「……アレイ……ごめん…フェルは……帝国を…裏切れ…ない…」
静かにそう言ったフェルフェル。
「……アレイ……ゴメン…ね…」
「フェル!私は……!」
パァン!パァン!
銃声は2発。フェルフェルの小型銃から硝煙が立ち上っている。そして彼女の瞳からは一筋の涙が零れ落ちていた。




