第8章 赤蜥蜴と赤羽根、巨人の里へ 第11話、激戦のその後で その6
第11話その6
「………………え?……ア、アレイ……?」
さすがにアレイスローが入って来るとは思っていなかったフェルフェル。しかもここは女湯だ。決して男湯ではないし、混浴でもない。さすがに目を見開いてジッとアレイスローを見つめてしまう。いつもは無表情なフェルフェルだが、さすがに今は困惑と動揺が見て取れた。
「………フ、フヘヘへ……ア、アレイ…どう…したの…?」
動揺しながらジッとアレイスローを見つめていたフェルフェルだったが、なんとかいつもの調子を取り戻すと、そのまま冗談めかしてアレイスローに声をかけた。そして湯船から上がると、体に巻き付けたバスタオルに手をかける。
「…ウェ~イ……もし…かして……フェルの…身体に…欲情…しちゃ…った?……浴場だけに…」
「あの、フェル?誰が上手いことを言えと……?」
バスタオルをはだけさせようとするフェルフェル。もちろん本当に裸を見せるつもりなど無く、あくまで見せようとするフリだけだ。そしてそれに対するアレイスローの返答はジト目でのツッコミだった。
「……フヘヘ……もしかして…アレイ……フェルと…一緒に…お風呂……入り…たかった…?」
「え⁉一緒に入って良いんですか⁉」
「え⁉…………………………ダメ」
「自分で振っておいてぇぇぇぇぇぇぇ!」
フェルフェルの冗談に対して本気で欲望のままに返答してきたアレイスロー。そのあまりの熱量に驚いて思わず素で返答してしまうフェルフェル。あまりの手のひら返しに思わずアレイスローは両手と膝をついていた。
「くっ!…………………ま、まあ冗談はおいておいてですね」
若干悔しそうに立ち上がるアレイスロー。どうやら一瞬本気で期待したらしい。だが…………………アレイスローがフェルフェルと一緒にお風呂に入りに来た訳では無いことは実は一目瞭然だった。何故なら………アレイスローは服を着て入ってきたのだ。さらに言えば、ローブを身に纏いその手には杖を携えている。言うなれば……冒険、そして戦闘のための装備を整えているという事だった。
「……そ…れで……一体…何の…用…?」
アレイスローをジッと見つめるフェルフェル。その視線は半眼ジト目なくせにアレイスローの一挙手一投足も見逃さない、そんな用心深さが見て取れた。そしてアレイスローもまたそんなフェルフェルの反応に鋭い視線を送っていた。
「実は……フェルに一つ確認したいことがありまして」
「……確…認…したい…こと……?」
アレイスローの言葉にフェルフェルの中で警報が鳴り響く。これ以上アレイスローに好きに喋らせてはいけない、そんな気がする。
「はい、確認したいことです。………フェル、あなたに」
頭の良いアレイスローなら何時気付いても不思議ではない、そう思っていた。もっともそれはアレイスローに限った話ではない。フリルフレアはああ見えて非常に頭が良い。ここでアレイスローが気付かなくてもいずれ彼女ならば自分の秘密に気付くだろう、そう思っていた。ローゼリットも同じだ。ローゼリットは暗殺者だけあって非常に現実主義で物事の最悪な状況を想像するのが非常にうまい。特に罠や裏切りを見抜くのは彼女の得意分野ともいえる。スミーシャは一見楽観主義者だが、意外とウソに敏感なところがある。フェルフェルの秘密には気付いていなくても思惑がある事にはとっくに気付いていてもおかしくない。
そして、何よりもドレイク……あの男は真なる竜と言うだけあってか非常に勘が鋭い。直感だけで人の本性を見抜きかねないところがある。理屈として何も考えていなくてもフェルフェルが何かを隠していること、そして状況によってはいずれ敵対するかもしれないことに気付いていても全くおかしくは無かった。それだけ、フェルフェルは仲間たちの事を買っていたのだ。だから、いつかはこういう時が来るであろうことは覚悟していた。もっとも、その時はフェルフェルが考えていたよりもずっと早く訪れてきてしまったのだが……。
「……フェルの…何を…知り…たい…の…」
「…………………………」
少し冗談めかして言うフェルフェル。それに対しアレイスローは無言のまま杖の先端を向けてきた。アレイスローの眼は鋭くフェルフェルを射抜いている。
「フェルの……胸の…サイズ?……それ…とも……今日の…パンツの…色?」
「残念ですがフェル」
「………うん…」
冗談めかして言うフェルフェルに対してアレイスローの言葉は静かで……どこか残酷な………。
「どっちも非常に気になりますが!きょうの用件はそれじゃありません」
「………気には……………なるんだ…」
アレイスローの言葉に凄く嫌な顔をするフェルフェル。結構本気で言っているっぽかったのが余計に嫌だった。だが、アレイスローの眼を見ればこれから言おうとしているのがフェルフェルにとって都合の悪いことであるのは火を見るよりも明らかだった。
そしてアレイスローは静かに口を開く。
「………フェル、あなたは………帝国の…ゲオルシュバッハ帝国のスパイですね?」
「………!」
思わず唇を噛みしめるフェルフェル。アレイスローの言葉は彼女にとって………予想通り、そしてもっとも聞きたくない言葉だった。




