第244話 宴の前に
昼をだいぶ過ぎたケイカ村。
案の定、村の中は人々でごった返していた。
近隣の村や町からもお祝いに駆けつけているらしい。
食堂で大量の料理を作るクラリッサおばさんが言う。
「お疲れさまですね、ケイカさま! さあさあ、料理はでき次第、庭に運んでるから、そこでみんなで食べちゃって!」
ちらっと外を見ると、境内にはものすごい人がいた。銅像を拝む人、酒を飲んで騒ぐ人。
わりと広い敷地が、人々で埋め尽くされている。
ラピシアが指をくわえて尋ねる。
「ソーセージは?」
「もう茹でて大皿で出したよ! 早く行かないとなくなっちゃうよ!」
「いくー!! アトラも!」
ラピシアはアトラの手を掴んで勢いよく駆け出す。白いワンピースの裾がめくれて元気な足がみえた。
「ひゃあああ!」
アトラは足が空中に浮いたまま引っ張られていった。
クラリッサの邪魔をしても悪いので、俺は苦笑しつつ玄関へ向かった。
外からは人々の驚きの声。
「小さい子がきたぞ!」「ラピシアちゃん、帰ってきたのかい!」「小さいのによく頑張ったねぇ!」「わぁ、ラピシアちゃんだ! 本当にありがとー!」
子供たちの声まで聞こえる。
ラピシアが元気に答える。
「うん、がんばった! ――ソーセージは?」
「こっちにあるよ~」「ラピシアちゃん、おいで~」
ナーガのナナや特待生のララと仲良く食べ始めたらしい。
誰かが言う。
「そっちの子は?」
「アトラ! ババア!」
「はわわ! ババアじゃないのです!」
アトラの怒る声。
「アトラちゃん、よろしくね~」「学校くるのかな~?」「あとで遊ぼ~」
友達ができたようで何より。
――アトラも馴染めるといいな。
扉を開けて外へ出る。昼過ぎの暖かい日差しが目にまぶしい。
境内へ出た。
俺の姿を見るなり、騒いでいた人々が静かになっていく。
というか手を上げた姿勢のまま、パンを食べようと口を開けたまま、固まる。
静寂が庭の端まで行き渡った。
と同時に、歓声が爆発した。
「ケイカさまっ!」「ありがとうございます!」「あなたがいてくれて本当によかった!」「初めてお会いした時から真の勇者じゃと思うておりましたのじゃ!」
次から次へと褒められた。
大人も子供もおじいちゃんも。
泣きながらの笑顔で、握手を求められる。
ご飯を食べる暇すらない。
それでも言わなくちゃいけないことがあった。
タイミングを見て、庭の中央にある拝殿――神楽舞台へ飛び乗った。
庭を埋め尽くす人々見ながら言った。
「みんなの祈りは確かに聞こえた。助かったぞ。ありがとうな」
「「「ケイカさまぁぁぁ!」」」
うわぁぁぁ、と歓声が波のように押し寄せる。
喜びの声が風となって俺の髪と和服を揺らす。
心地の良い風を受けつつ、内心思う。
――強いから神じゃないんだ。人々を導くからでもない。
祈り、守り、支えあうからこその神なんだ。
ふと、敷地の前に乱れたミニスカ浴衣を着た、エロい女将が立っているのに気付いた。
ステラだ。狐獣人族長のマハルと、ビホルダーゲルのアイもいる。
俺は人々に軽く挨拶しつつ、外へと向かった。
庭先の道路に出るなり、ステラが飛びついてきた。柔らかな全身を押し付けるように手足を絡ませてくる。
でも、俺を見上げる明るい瞳は潤んでいた。
「ケイカってば! アタシを抱かずにどこか行ったら、イヤなんだからねっ」
抗議をするように、背中の小さな羽根がパタパタと鳴る。
「祈りは聞こえたよ。ありがとうな」
耳を甘噛みしつつ、ぎゅっと抱き締めてやった。
「はぅぅ~!」
ステラは耳まで真っ赤になって、くたっと俺の胸に倒れこんできた。
マハルが所在無さ気に、筆のように太い尻尾を揺らしてる。
ステラの華奢な肢体を抱きとめつつ、話しかける。
「マハルもありがとうな」
「いえ、ご無事で何よりでした……魔王を退治していただき、本当にありがとうございました。これで、獣人たちも安心して暮らせます」
「これからどうするんだ? 獣人地区へ帰るのか?」
「いえ、狐人族は数も少なく、独立して暮らすのは難しくなりました……この村に住まわせていただこうかと」
「そうか。これからも獣人たちのまとめ役、頼んだぞ」
「はい、お任せください」
そして横にいて触手をうねらせている巨大アメーバに話しかける。
「アイ、村を守ってくれてありがとうな。あの時はもうダメかと思った」
アイは照れたのか、大きな目玉を赤くしてうつむいてしまう。
「あれは褒美モノだな。あとで何かプレゼントしよう」
そういうと、目玉をますます真っ赤にさせて、ずるるるる~と這い去ってしまった。
「……いや、何が欲しいか聞きたかったんだが……」
すると腕の中でステラが身じろぎした。甘い香りが漂う。
「アイってば、この間、雑貨屋でカーテンをまとめる飾り紐を物欲しそうに見てたよ」
「なんでカーテンの紐を?」
ステラが細い首を傾げると桃色の髪が柔らかく動いた。
「さあ? 神獣の考えることなんてアタシ、わかんない」
「まあ、それが欲しいなら買ってやるか……どれだかわからないから後で買って届けてくれ」
「あいさぁ~。代金はエトワールにでも請求しとくね~――って、そうそう! エトワールに伝えてって言われてたんだった! なんか早馬で王都に行ってきますわ~、だって」
「ふぅん……王都にね」
王様の意味深な発言を踏まえると嫌な予感がした。
――魔王を倒した勇者はお姫様と結婚して末長く暮らす、というのがセオリーだしな。
だが、長い目で見るとエーデルシュタインに迷惑が掛かる。
一番大切にしたいのはセリカなんだから。
何か、対策を考えないと。
ただ、王国側をむげにはできない。勇者の権限を使用できたのは、王様のお墨付きがあってこそ。
それを踏まえた上で、俺が本当に欲しいものを……いや、まてよ?
うまくやれば領土問題も全部解決できるかも知れないぞ。
俺はステラの小ぶりなお尻をキュッと掴んで持ち上げた。手に吸い付くようなしっとりした肌。
「ひゃんっ!」
「伝言、確かに聞いた。……よし、それじゃ、王都に行くか」
「頑張ってね、ケイカっ」
ステラは俺の頬に、ちゅっと可愛いキスをしてきた。
それだけで彼女の頬は真っ赤になっていた。
本当に淫らなサキュバスなのか疑問に思う。
――というか、魔王を倒したし、そろそろ約束を果たしてやるべきかな。
二人と別れると、人ごみを掻き分けて妖精の扉へ向かった。
短いので、夕方にも更新します。たぶん5時ごろに。




