第243話 島と神々と再戦スイングバイ
ダフネス王国の王様に魔王討伐完了を報告した後、各地に挨拶へ行く――と見せかけて、浮遊大陸に向かった。
あの目立つものをそのままにしているのはいろいろとまずい。
特にファブリカ王国とダフネス王国は飛竜部隊を持っているので、捜索が可能になる。
また、魔王の居城ということで一方的に破壊される可能性もある。
最初は俺自身沈めていいと思っていたが、いろいろアトラの事情を知った以上、残してやるべきだと考えた。
セリカとミーニャとは途中で別れた。
セリカはエーデルシュタインで政務があるそうだ。というか祝賀会の準備だろう。国のトップがいなくては話が進まないからな。
ミーニャもなにか仕事があるらしい。
あと実家の宿屋の手伝いもする。料理の腕を振るうようだ。
勇者ゆかりの宿と言うことで、人が押しかけているらしい。
◇ ◇ ◇
妖精の扉を新たに設置し、浮遊大陸へと来た。
青空の下に浮かぶ巨大な島。
王都インダストリアの近くに大きな影を落としていた。
こんなに目立つ島を、人の目の付くところには置いておけない。
島の中央にある都市に着くなり、アトラへ言った。
「アトラ、幻影の障壁を発生させてくれ」
「再起動しないといけないのです。中央の家に行くのです」
「そういうい仕組みか。じゃあ、急ごう」
俺たちは足早に、一枚岩でできた大通りを足早に進んだ。
町並みは少し崩れていた。
無理矢理移動させた時に発生した地震のような衝撃に、古い建物が耐えられなかったのだろう。
それらを横目で見ながら通り過ぎていると、アトラが悲しそうな声で言った。
「ぼろぼろ……なのです」
「ラピシアなら直せるはずだ。障壁発生塔だって直していたんだし。あとで、ぱぱっと直してやってくれ」
ところが、隣を歩くラピシアは首を傾げた。青いツインテールが地面に付きそうになる。
「できるけど、できない」
「どうしてだ?」
「時間かかる」
「なんで――ん? ラピシア、信者数が0になってるぞ!? どうした!?」
ラピシアは歩きながら、ぴょんっと飛び跳ねた。
「お母さんに返した!」
「なんで?」
「怪我、治ってないから」
「ああ、そうなのか。だいぶ悪いのか?」
「ん~? あと1ヶ月ぐらい、って言ってた!」
「それなら待てるな。もう少しの辛抱だぞ、ラピシア」
「うん!」
ラピシアはとっても嬉しそうに、満面の笑みで頷いた。
「じゃあずっとこのままなのです?」
アトラの眉尻が下がった。泣きそうな顔。
「時間はかかるだけで直せるはず……暇なときにここへ来て、直してやってくれ」
「わかった!」
「よかったのです」
平らな胸を撫で下ろすアトラ。
ラピシアがにっこりと笑う。
「お母さんはおばあちゃんが好き! だから直したらお母さんが喜ぶ!」
「どこまでも母のためなんだな」
「うん!」
話していると街の中央にある黒い立方体の建物にやってきた。
アトラが率先して建物の中に入っていく。
壁と床に設置された魔法の光だけが照らす薄暗い室内。
アトラは上に行く階段をずんずんと上っていく。
その後ろを付いていく俺とラピシア。
そして小さな部屋にたどり着いた。
幾つかのモニターと、スイッチがたくさんある。
管制塔のような場所だった。
スイッチの並ぶパネルの前に立ったアトラが、茶髪を揺らして振り返る。
「幻影だけです?」
「そうだな……物理、魔法、幻影の障壁を前のように展開してくれ」
「わかったのです。再起動するのです」
アトラは小さな指でスイッチをぽちぽちと押した。
フィィィ――ン!
無機質な音がして、各種障壁が張りなおされた。
千里眼で確認する。
インダストリアの人々が、突然島が消えたことに驚いていた。
「良さそうだな。あとは浮遊大陸を海上に移動させる。アトラが一人前になったら戻ってこれるようにな。まあ、妖精の扉でつながっているからいつでも帰ってこれるが」
「わかったのですっ!」
アトラは決心したように強く頷いた。
島に引きこもっているだけではわからなかった「人々の熱い想い」に触れて、何か変わったようだった。
――いい兆候だ。
続いて、やり残したことを口にした。
「次は石化した神々の処置だな」
「地下でまだ固まったままです~」
「よし、行くか」
管制室を出て階段を下りる。
その途中、二人の女神に心話で呼びかけた。
『リヴィア、リリール、いるか?』
しかし反応がなかった。
千里眼で海上を見ると、二人は波間に倒れこみ、プカプカ浮いていた。
激しい戦いの後のように、着ている服はボロボロになっていた。
「なにしてんだ、あいつら……まあ、起きたら海に落とした神を回収させよう」
アトラが心配そうな声で言う。
「4人は海底にいるけど……ルナリスが見当たらないのです」
黒い階段を下りながら空を見上げた。
果てしない宇宙。
真理眼を発動させると、ステータスウインドウが目印となって、すぐに見つかった。
真っ暗な闇の中をどこまでも飛んでいく女神の石像。
シュールな絵だった。
「このままいくと太陽に……いや、ギリギリ横を通過して、重力に引かれて方向転換――いわゆるスイングバイをするな」
「そ、そうなると、どうなるのです!?」
「速度を落として……この星の公転軌道上を通過。ちょうど星とぶつかる。この星に落ちるか、月に落ちるな。引力がつりあえば衛星軌道に乗るかもしれないが」
「そこまで来れば手が届くのです……よかったのです」
地下三階に着いた。
腰に下げたひょうたんを取り外しつつ、ラピシアに言う。
「呪いを解除するから、そのあと石化を解除してくれ」
妖精女王オルフェリエを助けたのと同じ手順を繰り返せばいい。
――が。
ラピシアは眉間に深いしわを作って石像を見つめる。
「イヤ!」
「またでた。……理由を聞こうか」
「ケイカやお母さんの言うこと、聞かないから!」
ふーっと鼻息荒く答えるラピシア。噛み付く寸前の犬のように、鼻の頭にしわを寄せて睨んでいた。
「……なるほど――アトラが洗脳してるんだったな。でも解除できるだろ?」
アトラが首を振った。サラサラと茶髪が揺れる。
「わからないです。アトラの言うことを守って、アトラだけに優しくすればいいので。解除する方法なんて考えてなかったです」
俺は顎を撫でつつ言った。
「……でも、それが間違いだったと、今ならわかるだろ?」
アトラの両親に似せて作られた神々たち。
おそらくアトラに優しく、アトラを褒め称える存在たち。
しかし何をしても、どんなに間違えても全肯定してくれる両親なんて、満足できるはずがない。
アトラは寂しそうに頷いた。
「……結局、一人ぼっちなのは変わらなかったのです」
アトラの頭に手を置いて、わしゃわしゃと髪を撫でた。
「もう一人じゃないからな。俺もいる、みんなもいる。でもその分、厳しいぞ。それが仲間になるってことだから」
「わかったのですっ」
アトラはちっちゃな拳を握って勢い込んだ。
「ラピシア、この中で洗脳されていない神はいるか?」
「う~ん、あれだけ!」
ラピシアは天井を指差した。
はるか宇宙を飛び続けるルナリス。
太陽に近付いたため白く輝いていた。
――強烈な光の波動によって呪いが解除される。
「……なるほど」
――そうか、保険か。
俺が魔王を倒せなかった時、ルナリスは魔王の手から逃れて別の場所に着地することになる。
創世神すら「見当たらない」と言ってたんだ、魔王も当然見つけられないだろう。
魔王が完全体になるまでは二ヶ月かかる。
月の女神なら相当な実力者。しかも呪いは今解けた。
石化だけならラピシアだけで解除できる――俺がいなくても。
そういや、妖精女王は復活し、ルペルシアも一ヵ月後に復活だ。
それらに加えて海女神たちの力も合わせて、あとは魔王の本名さえ知っておけば。
俺か、または新しい勇者が、完成間近の魔王をもう一度討伐できたかもしれない。
……ラピシアはほんと、無邪気に正しい選択してるな。
そんな事を考えていると、ラピシアは目を閉じて言った。
「ケイカが、アトラより、強くなったら、解除なの」
「それが答えか。わかった。ラピシアを信じるよ」
ラピシアの頭をぽんぽんと叩いた。気持ち良さそうに目を閉じていた。
アトラが尋ねてくる。
「これから、どうするのです?」
「ケイカ村に帰るぞ。きっとパーティーだ。ソーセージも食べ放題だぞ」
「わーい!」
ラピシアは頭を撫でられながら飛び跳ねた。
今日ぐらい大好物のソーセージだけでお腹いっぱいにさせてもいいだろう。
子供たちを連れてケイカ村へと帰った。
残り4話です。




