第210話 エロ女将の語る希望(ケイカ村日和その2)
聖剣が出来上がるまで丸腰になった俺は、ケイカ村を見て回っていた。
向かった先は旅館。
朝食を提供しているはずなのに、なぜか宿泊客達が屋台で買い食いばかりしていたのが気になったからだった。
朝のケイカ村。
二階建ての旅館まで来ると広い玄関から中へ入った。和風と洋風が混じった内装をしている。
下駄のまま上がると、牛獣人の女中が大きな胸を揺らしながら出てきた。
のんびりとした口調で話し出す。
「あら~、ケイカさま。おはようございます~」
「ステラはいるか?」
「はい、女将さんでしたら自分の部屋に~。あ、でも」
「なんだ?」
「夜這いでしたら、邪魔をせず知らん振りしておいて、と言われています~」
「今は朝だろ。ちょっと話を聞きに来ただけだ」
「そうですか~。では、ごあんな~い」
一階の奥へと続く廊下へ向かった。
目の前を歩く牛獣人は、のっしのっしと大きなお尻を揺らしている。
豊満だが、腰がくびれているので胸やお尻の大きさがよりいっそう強調されていた。
ステラの部屋前まで案内された。
「女将さ~ん、ケイカさまが来られましたよ~」
「ふぇ!? ちょま――あ、やっぱいいや、どうぞ~!」
俺は牛獣人を見て言う。
「案内ごくろう。下がってくれていいぞ」
「はーい。ごゆっくり~」
牛獣人は頭を下げると、のんびりと歩き去った。
木の扉を開けて中に入る。
女将の部屋といっても、机とベッドがあるだけの小さな部屋。
一歩踏み込むなり、ひも状の下着で局部を隠しただけのステラが飛びついてきた。
柔らかな肢体に胸の膨らみ。薄い腰に手を回すと白い肌は指先にとても滑らかだった。
背中にはコウモリに似た小さな羽根が、嬉しそうにパタパタ動いている。
異性を惹きつけるのが得意なサキュバスだった。
キラキラ輝く目で俺を見上げる。
「ケイカ! エッチしよ!」
「なんでそうなるっ」
「え? 夜這いに来てくれたんじゃないの?」
「だから今は朝だろっ。ただ話をしに来ただけだ」
その答えに、ステラは頬を可愛らしく膨らませた。
ぶふ~っと不満そうに赤い唇を尖らせつつも、和服の隙間から手を入れてじかに肌を触り、股に太ももを割り込ませてくる。
「アタシの肉体より重要な話ってこの世にあるわけないじゃーん。いったいなんなの?」
「旅館は朝食どうしてる? 提供してないのか?」
尋ねるたとたん、俺の体をまさぐる淫靡な指先が止まった。
「ほえ? この村特産の味噌を使った朝食をいろいろ提供してるけど?」
「じゃあなんで、宿泊客が朝食を屋台で済ませてるんだ?」
ステラは桃色の髪を揺らして「ああっ」と相槌を打つ。
「それは宿泊費を安くしたいからじゃないかな? 朝食も肉や魚がついて豪華だから」
「……ひょっとして商人のディプトリーの助言か?」
「よくわかったね、さっすがケイカ! あの人は旅館の経理担当してくれてるし、本職の商人だし。そうしたほうがいいかなって思って」
俺は軽く溜息を吐きつつ言った。
「ディプトリーの経営指南については話半分に聞いておけ。あいつは無駄に豪華にさせすぎる。朝食は豪華なのもあっていいが、品数を減らした安い朝食も用意するんだ」
「どうして? 買い食いでもよくなくない?」
「今はいいが、この先訪れる人が増えたらゴミや騒音でトラブルに発展する可能性が高い。今のうちから対策しておくんだ」
ステラは尖った尻尾を左右に揺らす。
「なるほろ~。ケイカって未来のことまでしっかり考えてるんだね~。わかった、安い朝食も選べるようにするねっ」
「ああ、頼んだぞ」
柔らかく華奢な肢体を抱き締めつつ、桃色の髪を撫でてやった。
彼女の指先がまた静かに、筋肉の形をなぞり始める。
開けっ放しの窓から風が入り、白いカーテンを翻した。
桃のような甘い香りが部屋の中に広がる。
ステラの白い肌や桃色の髪から漂っているようだ。
誘うような淫らな香りだった。
すると、腕の中でステラは急に考え深そうな顔をした。
「そっかー、そうだよね。村への影響も考えなくちゃ、だよね~。アタシはどうやって牛獣人たちにやる気を出させるか、ってことしか考えてなかったわぁ」
「それでも女将として、旅館のことはちゃんと考えていたんだな」
ステラは褒めたとたん笑顔になって胸を反らした。形の良い胸がツンッと上を向いたため、紐からはみ出そうに揺れた。
「あったり前じゃ~ん! 夜魔街ウォルピタスでやってるお店の制度を取り入れて売上倍増したんだからっ」
「……大丈夫なのか、それ」
「だーいじょうぶっ。ケイカが心配するようなエッチなサービスとかはやってないから!」
そう言いながら、ほぼ裸な肢体をぐいぐい押し付けるように抱きついてきた。服越しにすら柔らかく丸い感触が伝わる。
細い指先が背中や下腹部をじかに這っていく。
――これがもうエッチなサービスだよ!
と思ったが、それより何をしたのか気になったので尋ねる。
「ほう。じゃあ、なにを?」
「チップや指名を貰ったり同伴出勤したらポイントつけて、給料に反映させるようにしたのっ!」
「キャバクラみたいなシステム、やめろ!」
思わず荒い声が出た。
ステラは拗ねたように口を尖らせる。艶やかな唇が誘うように赤かった。
「え~? 意味わかんないけど、別にいいじゃ~ん。みんなのやる気につながるんだしぃ~。ていうかさ、こうでもしないと牛獣人たちって動きがとろくて仕事になんないのよね」
俺はのしのし歩く豊満な体つきの牛獣人たちを思い浮かべた。
思わず眉間にしわが寄る。
「あ~、必要悪ではあるのかぁ。勇者の村とは言え、サキュバスが女将ってことも知られてきたし、これぐらいならまだいいのか」
「まあ、何かあっても牛獣人は人の三倍ぐらい強いし、アタシも男の欲望に満ちた思考なんて一瞬で消去させて使用不能にできるし、大丈夫じゃない?」
尖った尻尾をぶんぶん振って得意げに言った。
「さすがサキュバス。頼もしいな」
「えへへ~」
頭を撫でてやると、今までとは違って子供のような、はにかみ笑いをした。
どうやら女将としてではなくサキュバスとして褒められたのが心底嬉しいらしい。
ステラはエロ知識豊富で強気に振舞っているが、いまだ未経験の処女。
サキュバスとしては落ちこぼれだった。
だから余計に嬉しかったのだろう。
ステラは微笑みながらしばらく俺に身を任せて、撫でられるがままになっていた。
閉じられた瞳は睫毛が長い。
桃色の髪は滑らかで、指先に心地よかった。
抱き合いながら、なんとなく口を開く。
「それにしても、宿泊客が増えたもんだな。魔物がいるのにこうも旅人が増えるとは」
「そりゃ、ケイカのおかげじゃ~ん?」
「どういう意味だ?」
ステラがパッチリと目を開く。明るい瞳が俺を見上げる。
「アタシってさぁ、子作りの支援係として人間社会の傍にいたじゃん? だから客観的に人間たちのこと見てたんだけど。人間ってずっと絶望してたのよね。時には大声で血気はやる時もあるけど、全部カラ元気でさぁ。大抵はみんなうつむいて暮らしてたの」
「なんとなくわかるな。魔王は強大すぎるからな」
「でしょ~。それがケイカが四天王全部倒して、魔王も倒せるんじゃないかって状況になってさぁ。みんな顔を上げて生きるようになったんだよね。未来へ希望を見れるようになったっていうかさ。だからまだ魔物がいるってのに、危険を犯してまでケイカ村まで来るんじゃん」
「希望を持てるようになったのはいいことだな。でも、どうして村にまで」
「この村が、勇者ケイカの第一歩となったからじゃない? 希望の生まれた村って思われてる」
「今までやってきたこと、しっかりと根付いていたんだな」
ステラが細腕を伸ばして俺の体をぎゅっと抱き締めた。
「当然じゃん! じゃなきゃ、アタシが惚れたりしないよっ! ねっ? だからエッチしよ?」
「また今度な」
「ぶふ~」
不満そうに口を尖らせ、上目遣いで睨んできた。
――と。
ステラの頬がこけているのに気付いた。
口ではさんざんエロいこと言ってるのに、俺に対して操を立てているのはいじらしい。
小さなお尻を掴んで持ち上げてやる。尻尾の付け根辺りを撫でると、爪先立ちになって可愛い悲鳴を漏らした。
「ひゃあ!? ――や、ちょっと――ふぁぁ、なによぉ……」
歯を食い縛って頬を染め、俺の胸にもたれるように抱きつく。
「俺のために頑張ってくれてるお礼だ。朝食代わりに受け取れ」
「う、嬉しいけどぉ……んうっ」
唇を重ねると、華奢な体がビクッと震えた。唇の端から「ん……ぁっ」という甘いと息を漏らす。
相変わらず、押しには強いが責められると弱いようだった。
柔らかな体を抱き締めつつ、生気を注ぐ。
態度では嫌がるが、濡れた舌が俺を求めて歯をこじ開け、生き物のように絡み合う。
「あ……もっと……熱いの……んっ」
舌の裏側を舌で舐めてくる。ちゅくっと淫らな音が響いた。
生気を取るのは久しぶりだったせいか、段々と求める激しさが増した。
俺の首に細い腕を回し、ついばむように唇を合わせ、さらには必死に舌を差し入れてくる。
胸が押し付けられて胸の先っちょを隠す紐がずれた。
尖った尻尾が激しく揺れる。背中をしなやかに反らしつつ、華奢な肢体を小刻みに痙攣させる。
眉間に苦しげなしわを寄せて「ああ……っ」と淫らに喘いだ。
しばらくして手を離した。
ステラは膝が抜けるように崩れ落ちた。桃色の髪がゆるやかに広がる。
床の上に細く長い手足を広げて、はぁはぁと荒い呼吸を繰り返す。
そのたびに露わになった胸が揺れ、立ち昇る桃のような甘い香りが強くなった。
「大丈夫か? じゃあ、さっきの件、頼んだぞ」
部屋から立ち去ろうとすると、ステラは寝転んだ姿勢から腕だけ伸ばして俺の和服の裾を掴んだ。
「やだよぅ……もっと、傍にいてよぉ……」
切なく潤んだ瞳で俺を見上げてきた。
少し体を捻ったあられもない姿だったため、妙な色気が出ていた。
「また今度な……できるだけステラが餓えない程度に来るから」
「ほんとに? ――ありがとっ。それにわかった。ケイカは魔王倒さなきゃだもんね。アタシ、待ってるからっ」
頬を紅潮させつつ、はにかんで笑う。
「ああ、またな」
彼女をそのままにして俺は部屋を出た。
旅館の廊下を歩き外へと向かう。
――そろそろ朝食を食べに屋敷へ戻るか。
エトワールに会いに行くのはそのあとだな、と乱れた和服を調えながら考えた。




