第211話 村の子供たち(ケイカ村日和その3)
聖剣を作るために太刀を預けてあるので、しばらくは戦えなかった。
そのため俺はケイカ村を見て回っていた。
ケイカ村の朝。
俺は屋敷の食堂でセリカ、ミーニャ、ラピシアとともにテーブルを囲んで朝食を取っていた。
パンにポトフ風スープ、ソーセージに酸っぱいキャベツ。
セリカは金髪を細い指で耳に掛けるように上げつつ、スープを飲んでいた。
優雅で気品のある仕草を眺めていると、目が合った。
「どうされました、ケイカさま?」
「いや、なんでもない。美しく食べるなと思っただけだ」
セリカは頬を染めて恥ずかしそうに笑った。
「いやですわ、ケイカさま……それで、今日はどうされるのでしょう?」
「聖剣が出来るまでは休みだな。村を見て回ろうと思う。セリカはエーデルシュタインか?」
セリカは首を傾げて思案した。
「そうなりますわ。人形さんに任せていた政務の確認と金鉱脈の採掘準備、それにファブリカ王国の外交官と金の取引についての交渉を開始しますので」
「これから各国との商談が増えるな。困ったらすぐに呼ぶといい」
「はい、ありがとうございます。ケイカさまにそういってもらえるだけで、頼もしいですわ」
金髪を揺らして静かに微笑んだ。
黙々とキャベツを食べるミーニャに尋ねる。
「ミーニャは……獣人地区へ行くんだったな」
「ん」
無表情のまま、尖った耳をぴこっと動かした。
続いてラピシアを見る。元気よくパンとソーセージを交互にかじっていた。
「ラピシアはどうする?」
「学校、行く!」
「偉いな。勉強頑張れよ」
「みんなと勉強するの、楽しい!」
早く学校に行きたいのか、凄い勢いで食べていく。
――勉強嫌いが直ったようでなにより。
見た目的に同世代な子供たちと仲良くしているのもいい傾向だった。
――と。
玄関のほうから可愛らしい声の合唱が響いてきた。
「「「らーぴしーあ、ちゃーん。おーはーよー!」」」
「きた!」
最後のパンの欠片を口に押し込むと、ラピシアはイスをガタッと鳴らして立ち上がる。
俺もスープを飲み干してから言った。
「聞いたことがある声だな」
「ナーガのナナ! それと、友達!」
《千里眼》で玄関を見ると、村の子供たちがいた。ビキニとスカートをはいたナーガ族の二人イエトゥリアとナナまでいる。
ナナは赤いランドセルを背負っていた。
「ふむ。何か俺に話があるみたいだな。ラピシア、一緒に行こう」
「わーい!」
ラピシアと手を繋いで玄関へ向かう。小さな手は温かかった。
後ろからセリカが声をかけてくる。
「いってらっしゃいませ、ケイカさま」
「ああ、いってくる」
玄関から外へ出ると、前に子供たちがいた。
「みんな、おはよ!」
「おはよ~、ラピシアちゃん」「ケイカさまもおはよう」「おはようございます、ゆーしゃさま」
子供たちが挨拶をしあって、あとは楽しげな雑談を始めた。
その声を聞きつけてか、境内のような庭の横にある奴隷宿舎から、クラゲのような赤い帽子を被ったマーリンとプルラが駆けてきた。
子供たちの嬌声が大きくなった。
イエトゥリアが銀髪を揺らして話しかけてきた。白い肌に銀色のビキニが眩しい。
「ケイカさま、朝早くから申し訳ない」
「久しぶりだな、イエトゥリア。どうした?」
「いくつか伝言を頼まれてな。それでやってきた」
「ほう。聞かれたくない重要な話なら、応接室を使うか?」
「いや、誰かに聞かれて困る話ではない」
「それなら歩きながら話すか――お前たち、学校に遅れるぞ」
きゃっきゃと笑いあう子供たちに話しかけると、元気よく返事した。
「「「は~い」」」
そしてランドセルをカシャカシャ鳴らして、跳ねるように歩き始めた。
俺たちは敷地を出て村の通りを歩く。
ナナとイエトゥリアは、舗装された石畳の上を下半身の蛇体を揺らしてするすると這っていた。
イエトゥリアは赤い瞳を俺に向ける。
「ケイカさま、まずはドルアース町長からの伝言だ」
「町長から?」
銀髪を揺らして大仰に頷く。
「うむ。ケイカさまのところで世話になっている息子のリオネルを家に戻してはもらえないだろうか、とのことだ」
「そうか。長男のジャンが死んだものな」
「あのなまっちろい白豚が死ぬとは驚きだ」
俺は片方の眉を上げて驚いてみせる。
「えらく評価高いな」
「ケイカさまに何度も反抗して生きていたのだから、悪い意味で運があると思っていた」
「なるほどな。町長は悲しんでいたか?」
イエトゥリアは少し悲しげに細い眉を寄せた。
「それは当然、親だからな。ただ『いつかはこうなるとは思っていた』とも言っていた」
「覚悟の上か……う~ん。リオネルは辺境大陸の町を作ってもらっている。俺が魔王を倒して一段落したら、帰すことにしよう。そう遠い未来ではないはずだ」
「わかった。そのように伝えておこう――で、もう1つの伝言は服屋のマダムからだ」
「虎獣人のマダムか。おそらく注文の服のことだろうな」
「えーと……『仕上がりは順調。ただし単一の素材で作るのはもったいない。何か珍しい素材があれば組み合わせたい』だそうだ」
俺は顎に手を当てた考えた。
「ふむ……そういや集めた素材が倉庫に放置してあったな。あれを持っていってもらうか――いや、妖精の扉を使ったほうが早い。村を見て回ったあとで届けることにするよ」
「わかった。おそらく間に合えば言っておこう」
イエトゥリアがスカートを揺らして立ち止まる。
いつしか村の中央にある十字路まで来ていた。
村人たちが多く住む南西のほうから獣人の子供たちが手を振って駆けてくる。
狐の子は筆のように太い尻尾を跳ねさせて走り、狼の子は力強く石畳を蹴って走った。
もちろん人間の子も集まってくる。
「おはよー!」「みんな、おっす!」
「「「おはよー!」」」
「あ、ケイカさま。おはようですっ」「勇者さま、おはようございます」
「うむ。みんなおはよう」
手を上げて挨拶に答えた。
子供たちの騒ぐ声が一段と大きくなった。
イエトゥリアは目を細めて微笑み、子供たちを眺めている。
「素晴らしい眺めだな。人、獣人、ナーガ、人魚、変なクラゲ。――人とナーガ族が肩を並べて生きるドルアースも素晴らしいが、この村は桁違いだろう。本当にケイカさまは想像を絶する偉大な方だ」
「いやいや、まだまだだよ」
「謙遜するとは。そこがまた……その、いい男、だ」
彼女は顔を真っ赤にしてうつむいた。銀髪が頬を隠す。
「恥ずかしくなるなら言うなよ」
手を伸ばして頭を撫でるとイエトゥリアはビクッと身を震わせ、ますます顔を赤くした。
恥ずかしいのか、下半身の蛇体がしゅるしゅるとうねる。
でもぶっちゃけ、謙遜ではなかったりする。
地獄侯爵はこれらに加えて魔族や魔物の子まで一緒に育てているからだ。
まだまだやれる。侯爵に可能性を見せられた以上、負けられない。
するとラピシアとナナが笑顔で振り返った。
「じゃあ、ケイカ。行ってくる!」
「いってきます、ケイカさん、イエトゥリアさん」
「ああ、勉強頑張れよ」
「仲良くするのじゃぞ、ナナ」
「は~い」
子供たちは俺たちへ別れの挨拶をしながら村の北へと歩いていった。
「ふむ。では我も帰るとしよう。ケイカさま、また会おうぞ」
「またな」
イエトゥリアは村の中央から南へと道を進んでいった。
「んー。学校も上手く運営されてるか見ておきたいが。その前に何かすることがあった気が……ああ、エトワールか」
王女エトワールの住む代官屋敷は十字路に面した目の前にあった。
俺は代官屋敷の門を開けて中へと入った。
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次は9月1日更新、あとは3の倍数の日に更新します。




