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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第八章 勇者冒険編・亡国の姫君

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第180話 三悪の意地と最後の指導!

 エーデルシュタインの王都にある城の中。

 俺はセリカとともに広い廊下を駆けていた。

 城のあちこちから声が上がる。主に魔族や魔物が戦っているようだった。

 獣人は完全にミーニャに従い、人間の騎士や兵士もほぼ無抵抗のまま降伏した。

 


 俺とセリカは先陣を切って二階へと続く階段を上がる。騎士詰め所のある一階制圧はミーニャに任せていた。


 ラピシアはどうしてるかと思い、階段を上りながら千里眼で見た。

 城の外にいた騎士隊長は城壁近くに追い詰められながらも剣を振り回していた。

「ええい、恩知らずどもめ! チーシャ女王に歯向かうとは」

「だまれ! 汚れ騎士! いつも賄賂要求しやがって!」「そうだそうだ!」


「なにぃ! 一人残らず叩っ斬ってやる!」

 騎士隊長が激しく斬りつける。

 一刀で3人ほどを切り捨てた。

 人々はひるんだが剣は構え続けている。その目は恨みに満ちていた。


 どうやらこの男、賄賂や不正で、相当人々の不興を買っていたらしい。

 ただ、さすがは騎士隊長になるだけあって強かった。

 多勢に無勢でも倒せない。人々の方が傷ついて倒れていく。



 そこへ青いツインテールを跳ねさせて、ラピシアが前に出た。

「お、おい」「あぶないぞ」「子供は下がってるんだ!」 


 人々の心配なんて気にせず、ラピシアはずんずんと足を進める。

「悪い人、やっつける!」

「なんだと、このガキ! 女王に歯向かうお前たちのほうが悪いのだ!」

 騎士隊長は吐き捨てるようにいいつつ、剣を素早く振り上げた。


 ラピシアは不愉快そうに眉間にしわを寄せると、拳を小さく握り締めた。

「きょ~きょきょきょ! きゅあぱーんち!」

 ふいにラピシアが動いた。残像を残して移動する。


 ズドーン!

 小さな拳が隊長のおなかに突き刺さる。金属の鎧が拳の形にへこんだ。


「ぐがぁっ!」 

 騎士隊長は後ろに吹き飛ばされ、人々を何人か巻き込みつつ地面に倒れた。

 白目を向いて、痙攣していた。


 ラピシアは、うむっと大人のまねをするように頷く。

「てかげん、した! ――きゅあああ!」

 すぐに手を光らせると、怪我した人を次々触って回復させた。


 ――いろいろと思うところはあるが、非常事態だしまあいいか。

 抵抗する魔物兵士たちも次々と討ち取られていく。

 城門前は任せて大丈夫なようだ。


 

 セリカとともに2階へ上がった。

「玉座の間はこちらですわ」

 金髪をなびかせて先導するセリカ。

 俺は後に続いて赤い絨毯の敷かれた広い廊下を走る。


 そこへ槍を持った全身真っ黒な悪魔が現れた。

「お前が勇者ケイカか! この槍の化身ブリザ――」

「ふんっ!」


 ザンッ!


 太刀を振りぬいた。頭から真っ二つ。

 二つに分かれた口をパクパクさせながら悪魔は倒れた。

「悪いが雑魚と遊んでる暇はないんでね」


 死体を飛び越え奥へと進む。

 そして俺は千里眼で城内を探った。

 逃げたはずのチーシャを探す。



 ――と。

 彼女はまだ玉座の間にいた。

 身長2メートルを越える骸骨と話していた。


 チーシャは燃えるような目で骸骨を睨みつけていた。

「ミスッター、あなた裏切ったわね」

「なんの話ですかな」

「事態が反乱軍側に都合よく行き過ぎてる。勇者が来ていることも、元王女や百獣ゴミ猫が反乱軍に参加していることも、あなた知っていたわね」


 ミスッターは首を傾げた。骨が乾いた音を立てる。

「はて。あやふやな報告なら受けていたかもしれませんな。しかし勇者がいなくとも、いずれこうなったでありましょうな。残念だがそなたに国を治める力はなかったのだよ」

「言ってくれるわね! これでも考えていたわよ!」

 しなやかな尻尾がピーンと立つ。


「ほほう。どうされる気だったのだ?」

「国が貧しくて立ち行かないなら、余所から奪ってくればいい!」

「――つまり、戦争をしかけると」

「大国相手じゃ無理。でも混乱続く魔王軍領ならもぎとれるわ」

 


 玉座の間の隅にクッションを敷いて寝転がっていたキマイラが呟く。

「山に囲まれたエーデルシュタインは守るには適しているが、攻めるには不利だ。山越えしてから攻めなければいけないからな。兵が疲れる。それに魔王軍は部族単位でも数が多いから無理だ」


「なんなのよ、もう!」

 チーシャはドレスの裾を翻して玉座へと向かった。

 そして玉座の手すりや背もたれをいじりだす。


 ミスッターはその背に声を掛ける。

「逃げなくていいのかね?」

「もう無理よ!」



「――その通りだ。改心して命乞いするだけが唯一の助かる方法だ」


 ミスッターが入口を振り返る。

「お前が――ぬ」

 ミスッターの視線が入口に立つ俺を通り越し、隣に立つセリカに留まった。


 同時にセリカが息を飲み、身を硬くしたのが伝わってくる。

「ま、まさか……」

 彼女はミスッターの指輪を見ながら、独り言のように呟いた。



 俺は正面奥の数段高くなった玉座を見た。

 ドレスを着たシャム猫獣人チーシャが立っていた。背中の開いたきらびやかなドレスを着ている。

 キマイラは少し離れた場所でクッションに寝ていた。猫のように体を丸めて。


「さあ、チシャ。いや、今はチーシャ女王か。決着をつけようか」

 ミスッターが骨の腕で制止する。

「待て勇者。順序が違う」


「ほう。まずはお前からか。女王を守るなんて殊勝な心がけじゃないか」

 正解だと思ったが、なぜかミスッターが首を振った。六本の腕を見せびらかすように広げる。


「違う、もっと、ほら。あるだろう? 6本腕の骸骨やキマイラ、獣人女王を見たら、普通はもっと違うことが言いたくなるはずだ、なあ?」

 骸骨は振り返って仲間たちを見た。キマイラは寝ながら長い溜息を吐き、チーシャはいやそうに眉間にしわを寄せた。



 そんな態度にピンときた。

「ああ、『お前たちは何者だ!』と言って欲しいのか」

「そう、それだ! ――ふははっ!」

 骸骨のくせに、にんまりと笑った。

 そしてマントを翻すとチーシャの横へ立ち、ポーズを決める。

 キマイラがだるそうに立ち上がり、のそのそとチーシャの横へ移動する。


 チーシャが張りのある声で叫ぶ。

「お前たちは誰だと聞かれたら!」

「答えてあげよう国のため」

 骸骨がノリノリで答えた。


 チーシャはくびれた腰に手を当ててポーズを取った。尻尾がしなやかにピンッと立つ。

「ラブリーキャットな女王チーシャ!」

 骸骨が胸を張る。

「苦悩の参謀ミスッター!」

「眠れる獅子グレスギー」

 キマイラが早口な棒読みで呟いた。


「国を統べる我らによって」

「愛と正義を伝えよう!」

「ナーンテニャ」

 キマイラだけが目をそらしながらボソッと呟いた。その目は死んでいた。



 俺は腕組みをして唸った。

「ぎりぎりだな。ぎりぎりセーフだな」

「ふんっ、どうした勇者。驚いて声も出まい!」

 骸骨は快活に笑いながら言い放った。

 ――何がそんなに楽しいんだか。


 俺はポリポリと頭を描く。

「驚いたというか呆れたな。バカなことやってないで、さっさと決着つけよう」

 ところが、骸骨は六本腕を振り回して抗議した。

「バカとはなんだ! 一生に一度の見せ場だぞ!」

「こんな――」

 こんなものが見せ場かよ、と言おうとしたら、後ろからの馬鹿でかい声で打ち消された。


「かっくいー!」

『かっくいー』とは『かっこいい』の意味だろう。


 眉をしかめながら振り返ると、案の定、入口にラピシアがいた。

 入口の隅に体を隠して顔だけのぞかせている。金色の瞳をキラキラさせて、玉座前でポーズを取るチーシャたちを見ていた。

 ――まあ、子供だましにはなるのか。


 呆れて何も言えない。

 ふと死んだ目をして窓の外を眺め続けているキマイラに気付いた。

「なんだかお前も大変そうだな」

「……言ってくれるな、勇者よ」



 俺は下腹に力を入れて気を取り直すと、太刀を構えた。

「じゃあ行くぞ、骸骨」

 ――と。

 セリカが俺の横に並んだ。ふわっと赤いスカートが広がる。

「お待ちください、ケイカさま」

「どうした?」

「わたくしはこの人と……わたくしが相手します」

 ミスッターの正体を感じ取ったのだろう。


 彼女の横顔は悲壮なまでに真剣だった。それだけに美しい。

 うなずくしかない。

「……そうか。頑張れ」

 セリカはちらっと俺を見て微笑んだ。

「ありがとうございます、ケイカさま」



 そして金髪をなびかせて、颯爽と前に出た。ティアラがキラリと光る。

 細身の剣を素早く抜き放った。フローズンレイピアの青白い光とともに、辺りに白い冷気が広がる。


 骸骨はゆっくりと段上から降りると、五本の腕に剣を持ち、一つの腕に盾を構えた。

「そんな細腕でワシにかなうと思うのかね?」

「今のわたくしは、もう子供じゃありません! 強さを見せてあげますわ――はぁっ!」

 セリカが大きく踏みこんだ。細腕を残像させて、鋭い二連突きを放つ。

 大きな胸が銀色の胸当てごと揺れ動いた。


 が、ミスッターは軽やかな剣捌きで二つの突きを下段の剣2本で弾く。

 さらに上段の剣が振り下ろされる。


 セリカは横にステップして斬撃をかわした。踏みつけた赤い絨毯にしわが寄る。

 骸骨が笑いながら言った。

「どうした、切っ先に迷いがあるぞ。貴様の想いはその程度か」

「そ、そんなことありませんっ!」


 セリカの剣が美しい光に包まれた。

 そして縦横無尽に振り回される5本の剣を避けつつ切りかかる。

 至近距離からの【流星光破(スターライトストライク)】本来は剣から光線を放つ遠距離攻撃。

 赤いスカートが激しく波打つ。


 しかし、彼女の輝く細剣は盾に防がれた。

 広い玉座の間に、金属のぶつかるカーンという音がむなしく響く。

 いや、違う。

 ぶつかる瞬間盾を引いて、姫騎士スキルの強大な威力を打ち消している。

 完全に動きを読まれていた。



 セリカが荒い息をこぼしつつ呟く。

「そ、そんな……」

 銀の胸当てが呼吸に合わせて上下した。


 ミスッターは5本の剣を構えながら言う。

「忘れるな。そなたは一人ではないと。その頼りないほど細い切っ先には国民すべての想いが込められているのを忘れるな」


「――っ! くぅっ!」

 セリカは細剣を腰溜めに構えながら、一歩、二歩と後ろに下がっていく。

 骸骨が首を振る。

「やれやれ、逃げるか。しょせんは口だけの人間だったとは――なっ!?」


「やぁっ!」

 セリカがはねた。いや、飛んだ。

 華奢な体をバネのように弾けさせ、全身でぶつかっていく。捨て身の一撃。


 不意を突いたためでもあるが、あまりの速度に骸骨はすぐには対応できなかった。


 彼女の輝く金髪が、広がるように後ろへなびき。

 全身の力を切っ先に乗せて、ひときわ激しく肋骨辺りを切りつけた。


 ――シャランッ!


 鉄琴をバチで掻き鳴らすような音がした。

 動きは派手だが、斬撃が軽いせいだ。

 かすり傷程度のダメージしか与えられなかった。


 が、ここでフローズンレイピアの特殊効果が発動する!

 かすり傷を中心に、青白い氷が生まれて広がっていく。

 ミスッターが3秒間凍りつく!

 それまで余裕の態度だったミスッターが、骸骨顔を震わせた。

「な、なに……!」



 そんな大きな隙を逃すセリカではなかった。

 金髪を跳ねさせ、軽やかに手首を返して追撃する。

「これが、エーデルシュタイン王国の重みですわ! ――やあっ!」

 繰り出す細剣の切っ先が五つに分かれた。

 姫騎士スキル【星烈突き(スターダストスティング)】だ。五つの突きを同時に放つ。

 ミスッターの太い骨に、ズドドドドとマシンガンのような勢いで穴を開けた。

 そして開けられた穴が光を放ち、それを頂点にして、一つ隣の点へと2本の線が延びていく。

 ミスッターの体に五芒星が刻まれた。


 セリカな流れるような動きで、華奢な肢体を捻る。

「やっ!」 

 鋭い呼気とともに、細剣の切っ先が円を描く。

 今度は【満月斬り(ムーンエングレイブ)】か。防御値無視の攻撃。

 星の頂点をなぞるように丸い円が刻まれた。


「ん、これは……?」

 まるで魔法陣。



 ミスッターはまだ動けない。

「な、なんだ……!?」

 自らの体に刻まれた魔法陣を呆然と見下ろすしかなかった。


 セリカは剣を持ったまま、顔の前で両手を握り合わせた。

 神へと願うように、目を閉じる。

「迷える魂よ、安らかにお眠りなさい――滅葬《ターンアンデット》!」

 その祈りとともに、魔法陣が激しく光った。

 ミスッターが清浄な光に包まれる。

「こ、これは……なんという温かさだ……」



 チーシャが目を見開く。

「な、なによこれ!」

 俺も驚いた。

「セリカって僧侶スキル使えたのか!?」


 ――って、違う! これ姫騎士スキルの【乙女祈願(プリンセスデザイア)】だ!

 本来味方にしか使えない光の加護を、魔法陣を直接相手に刻むことで敵にも付与できるようにしたんだ!


 そのための【星烈突き(スターダストスティング)】と【満月斬り(ムーンエングレイブ)】だったのか。



 ミスッターが光に包まれたまま膝を突いた。

 ガラン、ガラガラ、と彼の持つ剣と盾が床に落ちる。


 セリカは静かな足取りでミスッターに近付いた。

 もう剣は鞘に収めている。

 そして悲しいほどの微笑を浮かべて優しく言った。

「お父さま……」


 ミスッターは首を振った。心なしか骸骨顔が微笑んでいるように見える。

「そなたの父は、この国が滅んだときに運命を共にした。……よいか、過去の幻影を追い求めるでない。苦しくも輝かしい未来を目指すのだ、セリカよ」


 セリカはあふれる涙を指先で拭う。

 けれど微笑みは浮かべたままだった。

「はい、わかりましたわ――必ずや」

「……それで、いい」

 骸骨はカタカタと顎の骨を鳴らした。高らかに笑ったようだった。

 そして清浄な光の中、粉になって消えていった。

『感謝する、我が娘よ』という、か細くも暖かい余韻を残して。



 光が消えると、セリカはほっそりした手で端整な顔を覆った。

 すぐになだらかな頬を透明な雫が伝う。

 薄い肩が震えていた。


 俺は励ましと慰めの言葉をかける。

「よく頑張ったな、セリカ」

 セリカは何も答えず、ただ頷いただけだった。

 きっと口を開けたが最後、号泣してしまうからだろう。



「あとは俺が引き受ける――さあ、次はどっちだ?」

 城内の戦う音が、やけに遠くから聞こえてくるように感じつつ。

 俺はチーシャとグレスギーのいる玉座へ、ゆっくりと歩き出した。


 ……ちなみにミスッターの「父ではない」発言に対して、後ろのほうから「きょっ」「きょきょっ」と奇声が聞こえていたが、あえて無視した。

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