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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第七章 勇者地固め編・貴族動乱

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閑話 ラピシアと遊ぶ

 ある日のケイカ村。

 晴れ渡る空と、冬の弱い日差し。


 昼を過ぎて暇になった俺は、ラピシアと遊ぼうかと考えた。

 放任しすぎだったし、判ったような気になっていたがもっと意思疎通が必要だと気付かされたからだった。


 部屋を出てラピシアを探す。

 屋敷にはいないようだった。

 表に出ると、巫女服を着たミーニャが庭を掃除していた。

 竹ほうきで石畳をさっさっと掃き清めている。

 ほうきを一掃きするたびに、白衣の袖が軽やかに揺れた。


 俺が近付くと、足音に反応して頭の上の猫耳がピコッと動いた。

「ミーニャ、ラピシアはもう学校から帰ってきたか?」

「ん。あっち」

 ミーニャがすらりとした指で庭の一角を指した。


 そこにはしゃがみこんでじっと地面を見ているラピシアがいた。

 寒さなんて物ともしない、白いワンピース一枚の姿。

 子供だから元気なのか、神だからか。

 周りには木の板などが置いてあった。


「あいつ、なにしてんだ?」

 思わず呟くと、ミーニャが答えた。

「ひみつだって」

「また変なことを……まあいいか」

 


 庭の隅にいるラピシアの傍まで行くと、しゃがんでいる後ろからのぞきこんだ。

 地面に置いた紙に異様な模様を書き込んでは、うんうん唸っていた。

「こんなところでお絵かきか?」

「ちがうの! せっけいず!」

「ほう。何を作るんだ?」


 するとラピシアは胸の前で手を握り締め、勢い込んで言った。

「ちょきん箱!」

「なるほど。小遣いを貯めるのか」

「うん!」

「偉いな、ラピシアは」


 手を伸ばしてラピシアの頭を撫でた。

 ラピシアは嬉しそうに、えへへ、とはにかんだ。



「よし、だったら手伝ってやろう」

「わーい!」

「どれぐらいの大きさにするんだ? このぐらいか?」

 俺は手で豚さん貯金箱ぐらいの大きさを示した。


 しかしラピシアは首を振った。

「もっと! あれぐらい!」

 と叫びながら屋敷へと走って行った。

 すぐに大きな箱を両手で抱えて戻ってくる。


 ときどきラピシアが頭から被っている縦長の箱だった。通称メジェド箱。

 側面には視界確保のためのスリットが入っている。

「そんなに大きい貯金箱作っても貯まらないぞ。いっぱいに入ると重くなるしな」

「でも、こんな感じにしたい!」

 ラピシアは地べたに座り込むと、紙を裏返して新しい絵を描き始めた。


 遠近法を無視して描かれた絵なので難解だが、なんとなくわかった。

 装飾を施した貯金箱を祭壇横に設置したいらしい。



「こ、これは教会にある寄付金箱や献金箱じゃないか……」

 どうやら神としての本能が、そのようなものを求めているらしかった。

 ラピシアは顔を上げて首を傾げる。

「ダメ?」


「う~ん。ダメではないが、まだ早いな……神としてのレベルがもっと上がったらだな」

 中途半端な状態で人々に崇められるようになると、思いあがった傲慢な神になりかねない。

 ……誰かさんのように。



 ラピシアは長い髪を揺らして素直に頷いた。

「わかった……でもどのぐらい?」

「えっと今は……」


 俺はラピシアを真理眼で見た。『大地母神Lv7(虚を知る)』

「Lv7だったか。まさか99まで設定してあるとは思えないから、10か20になったらだな。頑張って虚を知るようにな」

「じゅう……ケイカ、「きょ」ってなに?」

 尋ねられたが、俺自身曖昧すぎてよくわからなかった。



「うつろ。からっぽ。何もないってことだろう。例えばこれだな」

 俺は目の前にあったメジェド箱の中を指差した。

 ラピシアが縁に手を置いて、背伸びをしながら覗き込む。

「うん、からっぽ……う~ん」

「どうした?」


「でも『なにもない』がある」

 ――うわ。

 面倒くさいこと言い始めた。


「もう、そういう概念的な話を始めると哲学の分野になるな。そこまで考える必要はないかもしれない。納得したか?」

「……」

 無言なラピシアはまん丸な目で俺を見上げた。その瞳は「もっと教えて」と訴えていた。


 俺は頭を掻きつつ考えながら言う。

「虚には、ほかに嘘の意味もあるな」

「うそ?」

「人を騙すことだ。あ~、レベルアップ的には嘘を知る方が重要かもしれないな」

「嘘をつくのは悪い人。やっつける!」

 ラピシアは小さな拳を握り締めて、ふんっと鼻息荒く言った。

 理解しているようだが、光ったりはしなかった。


「または、むなしいという意味もある。充実感がなくてむなしい。やりがいがなくてむなしい」

「胸がなくてむねしい」

「新しい言葉を作るんじゃない――とりあえず」

 レベルアップには時間がかかりそうだったので話を変えた。

 おそらく今までと同じで、自分なりの答えを見つけないといけないのだろう。


 

「なぁに、ケイカ?」

「今日のところはその箱を貯金箱に作り変えてしまおう。将来を見越して献金箱としても使えるようにな」

「うん!」


 二人で製作を開始した。

 といっても作業自体はすぐに終わった。

 箱自体はラピシアが被ると目の部分にスリットが入っていたので、そこを投入口にすればよく。

 底に板を打ち付け、箱の横に取り出し口を付ければ完成だった。

 


 出来上がった献金箱を前にして、ばんざいをするラピシア。

「できた!」

「壊さないようにな」

「うん! ありがと、ケイカ! ――大好き!」

 タックルするように、俺の体に抱きついてきた。細い腕でぎゅっと抱き締められる。

 幼い体温は高かった。

「こらこら、先に貯金箱をしまってくるんだ。その後で一緒に遊ぼう」

「遊ぶの? わーい!」

 目を細めて喜ぶラピシア。抱きつく腕に力が入る。



 その後、ラピシアは物凄い勢いで特大貯金箱を屋敷へ持って入り、すぐに出てきた。

「あそぶの!」 

「勢いがあっていいが――さて、何して遊ぶかは考えてない……ラピシアは何して遊びたい?」

「んん~!?」

 胸の前で腕組みをすると、鼻にしわを寄せて大げさに唸り出した。

 ラピシア自身にも難問だったらしい。


 俺は助け舟を出す。

「他の子供たちは親とどんな遊びしてるんだ?」

「ん~。本を読んでもらってた! おしあいっこしてた!」

「おしあいっこ? ああ、すもうみたいなことか」

「あと……あ! あれして! とっても楽しいらしい!」

「なんだ?」


「たかいたかい!」

「お~。定番だな――よし、いいぞ」



 脇の下に手を入れて、ぐいっと上へ持ち上げた。折れそうなほどの華奢な体が、俺の頭より高い位置にくる。


「ほ~ら、たかいたかい~」

「…………」

 ラピシアは細い手足をだら~んと垂れ下げたまま、まん丸な目で俺を見下ろした。


「――ひくい」

 声まで低かった。


「いや、これが普通のたかいたかいだぞ」

「ジャンプしたほうがたかいの」

「まあ、そうなるな」

 ラピシアの筋力は神レベルなので、垂直ジャンプで百メートルは飛んだ。

 キノコ食って大きくなる配管工真っ青のジャンプ力。

 目立ちすぎるので禁止にしているが。



 俺はラピシアを掲げながら少し考えた。

 すぐに結論を出す。

「じゃあ、もっとたかいたかいをするぞ」

「んう? わーい!」

「そぉぉぉれ!」

 俺は体をかがめて力を溜めると、ラピシアを思いっきり放り投げた。


 ばしゅっと空気を切り裂いて、ラピシアはまっすぐ上昇する。

 白いワンピースがはためき、青いツインテールが流線を描く。


 彼女の姿はどんどん小さくなっていき、低い雲を突き抜けて、遥か上へと飛んでいく。

「きゃっきゃっ! たかいたかい!」

 ラピシアは満面の笑みで喜んでいた。

 怖がるかとも思っていたが杞憂だったようだ。

 楽しそうでなにより。



 ――が。

 いっこうに減速しない。落下してこない。

 見上げる青空、小さな白い点になって消えていく。

「やべ! 第一宇宙速度を越えたかも!」


 このままだと衛星軌道上を周回して、二度と地上に帰ってこれなくなる。

 俺は慌てて千里眼と多聞耳を発動して位置を正確に把握すると、上空を流れる風を集めてラピシアをキャッチした。


 急減速がかかり、ラピシアは手足を大の字に広げてふわりふわりと落下を始めた。

「たかいたかい!」

 きゃっきゃっと喜ぶラピシア。手足を広げてばたつかせる。

 ワンピースの裾が激しくめくれ、細い足が露わになった。

 ――滞空時間を少しでも延ばしたくて本能的に手足を広げているようだ。


 しかしそれは空気抵抗を受けて風に流されるということ。

 落下位置が大幅にずれる。


 上空の風は東から西へと吹いているらしい。白い点がどんどん西へ流れていく。

 俺はラピシアを捕まえるべく庭を出て西へ走った。



 外壁を越えて村の西。畑が広がっていく。

 その先にはため池がある。

 ――このままだと池に落ちるんじゃないか?

 ラピシアは無事でも、養殖の魚が落下の衝撃で全滅しかねない。


 俺は心話で呼びかける。

『ラピシア、池に落ちたら面倒だ。その手前目掛けて落ちて来い。受け止めるから』

『わかった! わーい!』

 ラピシアは素直に従った。

 手足を体にピッタリとくっつけ、地上の俺を見据えた。

 頭から落下。重力を受けて、斜め下へと急加速していく。


 俺はため池の手前で立ち止まり、落下地点を予測する。

 白い点が急激に大きくなってくる。

 青いツインテールがうねるように跳ねている。


 俺は手を広げたが、次の瞬間、顔が強張った。

 ラピシアがますます早くなっている。


 キィィィ――ン!


 耳障りな音をたて、ミサイルのように飛来した。


「いや、ちょっと待て。早すぎ――」

 しかし逃げるわけにはいかない。

 俺は軽く腰を落とし、両足を踏ん張った。

 45度の角度で落ちてくるラピシアを必死に受け止めようとする。


 ズドォォ……ォン……。


 ラピシアの頭突きが腹に突き刺さった。

「ごほっ」

 肺の空気が全部出た。

 衝撃で俺の足元が地面にめり込む。

 さわさわと砂塵混じりの爆風が同心円状に巻き起こった。ため池の水面に波紋が広がる。



 それでも華奢な体を離さなかった。かはっと息を吸ってから、尋ねる。

「……大丈夫か、ラピシア?」

 胴体に腕を回していたので、ラピシアは体を曲げて自分で地面に着地した。

 降り立つなり、最高の笑顔で元気にぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 何かいつも以上に軽やかだ。


「たのしい!」 

「俺は死にかけたがな……体がだるい」

 ダメージはないはずだが、急に体が重くなった気がした。


 すると、懐に入れた勇者の証からピコーンという音が聞こえた。

『メンバーが新しいスキルを修得しました』


「新しいスキル?」

--------------------

【流星頭突き(ブレッシングフロムヘブン)】

 高度5万メートル上空から目標目掛けて落下して頭突きする。

 必中技。防御力を攻撃力に加算してダメージを与える。

 特殊効果・命中時、自身の行動速度を上昇させ、相手の速度を一定時間半減させる。

--------------------

 なんでルビが天の恵みなんだ。

 というか、体が重いのは追加効果のせいか!

 しかも必中技って。

 問題は5万メートル上空から落下するという前提が難しいことだが。


「……今覚えた技は人に対しては使わないように。隕石が落ちるのと同じだから、甚大な被害が出る」

 俺が言うと、ラピシアはくるくるとその場で回った。青い髪が弧を描き、ワンピースの裾が広がった。

「わかった! でも、たかいたかい、たのしい!」

「それはよかったな」


「昼なのに星がみえた!」

「ほう。高度10万メートル近くいったのか」 


 ラピシアは金色の瞳をキラキラと輝かせて俺を見上げた。

「もういっかい! もういっかい!」

「ダメ。一日に何度も受けたら生活に支障が出る」


 するとラピシアは悲しげな顔をして肩を落とした。

「初めて遊んでくれるって言った……嘘だった」

「う……っ!」


 確かに俺から遊ぼうといったのは初めてかもしれない。

 勇者としての活動が忙しかったからなのだが、それはいい訳だなと反省する。

 仕事が忙しくても家族サービスを欠かさない父親だっているんだし。


「俺の言葉に嘘はない……っ! もう一回だけな」

「わーい! ありがと!」

「ただし風で流されるから、村の東でやるぞ」

「うん!」

 わくわくしているラピシアを連れて、東へ向かった。



 村の東の荒地へ出ると、さっきよりもゆっくりとした動作で彼女の脇の下に手を入れた。

 そして上空へ投げる。

 力自体は変わってないので、同じぐらいに飛んでいく。


「たかいたかい~!」

 きゃっきゃっと喜んで空の彼方へ消えていく。


 俺は砂に足を取られるような気持ちで、重い体を動かして西へ走った。


 ため池近くへ来ると、落下地点を予測して構える。

 そんな俺目掛けて、ラピシアが何の迷いもなく、頭をこちらに向けて斜めから直行してくる。

 キィィィ――ンとつんざく音を連れて。


「ってか、さっきより早いっ! 効果がまだ切れてないのかっ!」

 俺は顔をしかめつつも、腕に力を込める。


 青い髪が目前に迫る!


 ――ズドォォォン!


 激しい爆発音とともに、俺を中心にして小さなクレーターができた。

 衝撃波がサラサラと枯れた野原へ広がっていく。


 ラピシアは地面に降り立ち、両手を挙げて飛び跳ねた。

「楽しい!」 

「お前はな。こっちはとても大変なんだぞ……」

 体がさらに重くなる。両肩に岩でも乗っているような感じ。


 するとラピシアは悲しげに眉を寄せて上目遣いで俺を見た。

「もういっかい……ダメ?」 

「……ああ、もうこうなったら、限界まで遊んでやる!」

「わーい!」

 ラピシアは笑顔になると、両手を挙げてばんざいした。



 その後、5回ほどたかいたかいと言う名の、流星頭突きを喰らった。

 そのたびに速度が低下して、最後はまるで水の中を歩いているような緩慢さになった。

 さすがに西まで走れなくなったので終わり。


 なんで俺は異世界にまで来て『ミサイルを素手で掴む練習』をしているんだろうか、と思わざるを得なかった。



 赤い夕日の差す村の小道を屋敷に向かって歩く。

「楽しかった!」

 笑顔のラピシアはぴょんぴょん跳ねて喜んでいた。追加効果で残像を生むほど動きが早くなっている。


「まあ、いい経験になった……」

 子供の相手はとても疲れるということが。

 するとラピシアは俺の前で立ち止まり、にっこりと微笑む。

「ケイカ、ありがと。大好き!」


「……ああ、また遊ぼうな」

「うん、明日も!」

「さすがにそれは無理。また今度な」

「わかった! またこんど!」

 ツインテールを波打たせて大きく頷くと、瞬時に俺の横へと移動して手を繋いできた。

 小さく柔らかな手。

 二人のつながった影が、東へと長く伸びる。

 

 俺は重い体でゆるゆると歩きながら、いつしか暖かい気持ちになっていた。

 子供を持つ親は大変だなと思ったけれど、でも悪くないなとラピシアの笑顔を見ながら考えた。


   閑話・ラピシアと遊ぶ 終

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GAノベルより1月15日に3巻発売します!
何度も改稿してなろう版より格段に面白くなってます!
勇者のふりも楽じゃない
勇者のふりも楽じゃない書籍化報告はこちら!(こちらはまだ一巻)
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