第154話 もふもふ大災害
貴族ミルフォードとの話し合いはこちらの要求を全部飲ませることに成功した。
ケイカ村は今後も俺の好き放題できることに。
意気揚々とケイカ村へ帰ってくると、妖精扉を設置した屋敷裏の小屋前でエルフのフィオリアが出迎えた。美しい顔が青褪めている。
「ケイカさま、お待ちしておりました」
「ん? どうかしたのか?」
「族長のヤークトさまがお呼びです。北の森で少し問題が発生したようです」
「ほう」
俺は首を傾げた。エルフの村が誰かに見つかったりしたのだろうか。
すると俺の後ろから妖精の扉を出てきたエトワールが小ぶりな胸を押さえた。
「セリカさまはよく平然と通り抜けられますわね。とても怖くて心臓がどきどきしますわ」
「慣れましたから。それに何かあってもケイカさまが助けてくださいますから大丈夫ですわ」
「そこまで信じているのね……」
ふぅ、と唇から吐息を漏らした。
そんな彼女に俺は言った。
「エトワールは引き続き村のことを頼む。俺はエルフに会ってくる」
「はい、お任せください、ケイカさまっ」
「じゃあ、セリカ。行くぞ」
「はいっ」
セリカを連れて扉をくぐった。
エトワールは勇者パーティーから外しておいた。
◇ ◇ ◇
北の大森林にあるエルフの村。
妖精の扉を潜り抜けて、村の小道を歩いていると前方からヤークトが歩いてきた。
よほど急いでいるらしい。
傍に近寄り話しかける。
「いったいどうしたんだ?」
「それが、飛竜たちのことでございます」
「ほう。あいつらがどうかしたのか?」
魔王軍に隷属させられていた飛竜200匹を保護して、大森林の西側に住まわせていた。
ヤークトの眉間にしわが寄る。
「はい。彼らのエサが足りないようで、木の皮をはがして食べているのです。それをされると木は枯れてしまいます」
「鹿かよっ。飛竜は雑食だったのか……あの巨体が200匹もいるんじゃ、エサも相当かかるよな」
特に冬前でエサが無いのかもしれない。
セリカがヤークトに尋ねる。
「話し合ってみてはいかがでしょう?」
「彼らは私たちの言うことは聞かないようです」
「俺が行くしかないか……野性の飛竜はどういう暮らししてるか分かるか?」
「一匹かつがいで、広いなわばりを支配するようです」
「なるほど。でないと巨体が維持できないというわけか……ん? 魔王軍でもそれだけ食べさせていたのだろうか?」
「申し訳ありません。そこまでは知らないです」
「本人たちに聞いてみるしかないか」
俺は《千里眼》で西を見た。
大森林の西側を見ていくと、空を飛ぶ飛竜がいた。
木になる木の実を、葉や枝ごと食べる飛竜がいた。
がじがじと幹をかじる飛竜もいる。
竜害だな、これは。
「わかった。ちょっと話し合ってくる」
「はい、お願いします」
ヤークトが頭を下げる。
「セリカは待っていてくれ」
「いってらっしゃいませ、ケイカさま」
微笑みながら信じきった声を出すセリカを後にして、俺は村を出た
◇ ◇ ◇
大森林の西側にある、小さな広場のような場所で飛竜たちに会った。
たぶん飛竜が食べ過ぎてできた広場。
200匹が体を押し付け密集している。白い羽毛が舞っていた。
「だいぶ集まってきたな。お前たちに話しておきたいことがある」
「「「きゅい?」」」
いっせいに首を傾げる飛竜たち。
「森の木の皮を食べるのは、木が枯れるからしないでほしい」
「「「きゅう……」」」
悲しげに眉間にしわを寄せる飛竜たち。お腹を撫でる飛竜もいた。
「やっぱりお腹がすいてるのか。ここなら食料が多そうだと思ったんだが、それでも足りないとはな」
「きゅきゅっ」「きゅぃあっ」「きゅう!」
飛竜たちはバサバサと翼を羽ばたかせた。よほど困ってることを訴えたいらしい。
あとどれぐらい食べるかも教えてもらった。
毎日は食事しないらしい。
それでも約1週間に人間10~20人分ぐらいは軽く食べる。
この大森林の広さがあっても50匹住むのが限度のようだった。
でも逃げ出したりせず、俺の言いつけを守ってここにいたのは可愛げがある。
というか、俺の指示ミスだな。
「どれぐらい食べるかとか生態を知りもせずに指示を出して悪かったな。すまない」
「「「きゅいっ!」」」
飛竜たちは首を振って否定した。首元を鋭い爪で指し示した奴もいる。
どうやら魔王軍から助けてもらった感謝を伝えてくれているようだった。
「そう言えば、魔王軍ではどれぐらい食べさせてもらってたんだ?」
魔王軍は食料に困ってたはず。大喰らいの飛竜たちの世話をするなど到底出来たとは思えない。
すると、飛竜たちは顔を見つめあった。何か言いにくそうにしている。
しかし、意を決した一匹が、ぶるぶるっと震え上がる仕草をした後、顔の横に手を当てて目を閉じた。
他の飛竜たちもちょっと違ったジェスチャーをする。
でも基本は同じで、寒そうな仕草をしてから最後はみんな寝る仕草をしていた。
俺はピンと来て、手を叩いた。
「つまり、仕事がないときは氷魔法なんかで急激に冷やして、無理矢理冬眠させていたってことか!」
「「「きゅい!」」」
飛竜たちは意思が通じて嬉しいのか、可愛い声で鳴いた。
俺は顎に手を当てて、ふむ、と頷く。
「なるほど――それはとても合理的だな」
「「「きゅい!?」」」
飛竜たちは目を丸くして、おろおろした。手や翼を挙動不審にバタバタ動かす。
白い羽毛が、もうもうと舞った。
苦笑しながら言うしかない。
「もちろんそんなことはしない」
「「「きゅぅぅぅ~」」」
ほっと息を吐く飛竜たち。泣きそうになってる飛竜までいる。
ちょっと冗談が過ぎたか。
でも合理的というのは本心だったりする。さすが狡猾な魔王だけはあるな。
しかし、隷属の首輪を千切ったぐらいで、えらく懐いてくるなと思ってたら、そこまで非人道的に扱われていたとは。
そりゃあ、隷属を解除しただけで慕ってくれるのも当然だな。
う~ん、しかし。
と、俺は腕組みをして考える。
――食費が凄まじくかかる。
200匹は多すぎる。1週間の食費が4000人分。
ケイカ村だけではとてもじゃないが賄いきれない。
ケイカハーバーは食料を輸出しようと考えてるんだったか。
言えば出してくれるだろうが、町長のリオネルにだって計画はあるだろうし、あまり迷惑をかけるのはなぁ。
ただ航空戦力がほとんどないこの世界で飛竜はとても優秀な兵器と言えた。
しかし地球だって平時には戦艦や戦闘機はモスボール(凍結保管)されるもんなぁ。
金、金、金。
世の中、先立つものは金だった。
「はぁ……いや、そうか! 兵器か」
「きゅっ?」「きゅい?」
「賄いきれないなら他所に食わせればいい! 働かざるもの喰うべからず、とも言うしな!」
「「きゅきゅい?」」
飛竜たちは不思議そうに、いっせいに長い首を傾げた。
「ああ、今から50匹ずつに分かれてくれ。そしてダフネス王国とファブリカ王国に兵として売り込む! ケイカ村に50匹。残りはここで暮らすんだ。エルフに聞けば木を枯らさない食料を教えてもらえるはずだ」
片方の国だけに売り込むと戦力差が生じて戦争の種になる。
100匹ずつ売り込めば俺の負担はなくなるが、それはしない。
俺の手元に両国を凌ぐ最大戦力を残しておかないと、ケイカ村が国に襲われるような非常事態に対処できなくなる。
でも戦力差を知られるとまずいから、50匹は森に隠しておく。
人を素直に信じるほど良い神様じゃないからな、俺は。
――それに、国王直属の兵力が増強されると、反発する貴族たちは何かしらアクションを起こすはずだ。
まあ企みを断念して大人しくなってくれるのが一番手っ取り早いが。
飛竜たちは、顔を見合わせて話し合った。
きゅい、きゅぅ、と長い首を振ったり議論したり。
最終的には全員俺を見て、声を揃えた。
「「「きゅいっ!」」」
「そうか、やってくれるか」
しかし一匹の飛竜が「きゅぅい」と鳴きながら、変なジェスチャーした。
働く仕草、それから落ち込む仕草、そして逃げる仕草。
俺は、うむ、と頷く。
「大丈夫だ。ずっと働くわけじゃないぞ、イヤになったらやめてもいい。いちおう契約は各自一年ごとにするつもりだ。待遇も悪くはしないぞ。――では、話し合って分かれてくれ。そうそう、それぞれの国の特色はだな……」
両国の違いを簡単に説明、あとは村での暮らし方やエルフと仲良くするようにとも伝えておく。
飛竜たちはまた、真剣に話し合いを始める。
「では、決めておいてくれ。その間にエルフの村に話を通してくる」
「「「きゅいっ!」」」
飛竜たちの可愛い声を背に、俺は東へと向かった。
◇ ◇ ◇
俺は大森林の東にあるエルフの村に戻った。
妖精の扉の前でセリカが待っていた。
「お帰りなさいませ、ケイカさま」
「ただいま。なんとかなりそうだ」
そう言うと、 金髪を揺らして頷いた。
「さすがケイカさまですわ――では、ヤークトさまがあちらでお待ちです」
「そうか」
セリカに案内されて小さな家が点在する村の小道を歩いていると、前からヤークトがやってきた。
「どうでしたでしょうか、ケイカさま?」
「50匹ずつ分かれて暮らしてもらうことになった。西の大森林には50匹だけ住む。木以外の食料がどこにあるか、教えてやって欲しい」
「わかりました、森を守るために尽力しましょう。それに彼らも魔王に苦しめられたものたちでしょうし」
「ああ、そうだ。よろしく頼む。――俺はこれからダフネス王国とファブリカ王国に飛竜を売り込みに行ってくる」
「なるほど、飛竜を兵士、もしくは竜騎士に、ですね。――そうそう、元世界樹さまの切り株の町が完成しました」
「お。そうなのか。だったら、ついでにファブリカ王国に話を通すか。切り株を観光地にして、エルフ塩の販売を許可してもらわないとな」
「どうかよろしくお願いします、ケイカさま」
ヤークトは深く頭を下げた。一族を背負った決意のお辞儀。
こんな真摯な態度をされたら、笑みを浮かべて頷くしかない。
「ああ、任せておけ! じゃあ、行ってくる」
「安心してくださいヤークトさま。ケイカさまならきっとうまくやれますわ」
セリカは美しい笑みを浮かべて言った。
――この信頼にも応えないとな。
俺は妖精の扉へ向かいつつ言った。
「まずは、王都クロエだな。ラピシアに切り株から王都までの舗装路を作ってもらわないとな」
「まだ村には戻ってなかったはずですが」
「まだ水路拡張をやってるのか? ――ん? 王都にいるな」
懐から【勇者の証】を取り出して見た。
どうやら、大河まで行ったらイエトゥリアに乗って川下りをしたらしい。
確かに村へ帰るより、王都経由で妖精の扉を使ったほうが早い。
勇者の証の表示を見ていると、散歩なのか王都のあちこちを見て回っている。
「揉め事に巻き込まれなければいいが……いや、なんとなく大丈夫な気がする」
「ラピシアちゃんは特別ですから」
ふふっと花が開くように笑うセリカ。
よしっ、と俺は気合を入れて、まずは王都クロエに向かった。




