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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第七章 勇者地固め編・貴族動乱

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第153話 北西の町チェスター訪問

 ケイカ村から西へ三日ぐらい行った場所にある大きな町。

 ミルフォードの住むチェスターは平原にある小高い丘の上に広がっていた。

 石畳とレンガの建物、そして高い城壁を持つ、坂の多い町並。

 守りの固そうな町だった。


 俺たちはこの町で借りた馬車に乗って丘の上に立つ宮殿に向かっていた。

 俺が真ん中に座り、両隣に王女が座る。

 セリカはいつもの赤いスカートに白い上着の格好だが、エトワールは薄青色のドレスを着ていた。

 喋らなければお姫様のようにかわいらしかった。

 なんとなく車内に花のような香りが広がっている気がする。


「なかなか大きな街だな。人が多い」

「そりゃあ、旧王都ですもの」

 エトワールは当然のように言った。


 しかしセリカが馬車の外を眺めながら形の良い眉をひそめる。

「冒険者や兵士が多いですわ……」

 俺は《千里眼》で見た。

 町には人々に混じって行動する冒険者が多い。錬兵場で訓練する兵士も多い。

 《多聞耳》で聞くと、酒場で溜息を吐く冒険者の会話が聞こえた。

 

「今度は南西の村で魔物が出るってよ。また騎士が倒した後の残党狩りに行ってくれってさ」

「大変だね、こりゃ」

「まあ稼げるときに稼がないとな」

「だな」

 冒険者たちは苦笑していた。



 俺は馬車の中で頷く。

「魔物がたくさん出ているようだな」

「まあ、そうなのですか……心配ですわ」

「セリカは優しいな。……でもなんでここだけ」

 ケイカ村は至って平和。どうしてミルフォードの支配地域にだけ魔物が出まくるのか分からなかった。


 町の人の話では、ミルフォードお抱えの騎士団が魔物退治を頑張ってくれていて評価は高いらしい。

 ふむ。そのために騎士団長を競り落としたのか。

 意外と領地のことを考えているのかもしれないと考えた。



 そして馬車は丘の上の宮殿に着いた。

 庭を通り抜け、宮殿の中へと案内される。

 俺たちは応接室のソファーに座り、ミルフォードと会った。


 見た目は金髪に明るい大きな瞳をした好青年。さすがは貴族。

 にこやかに笑いかける。

「よくお越しくださいました、勇者さま、エトワールさま。それにセリカさま」


 エトワールが軽やかに頭を下げる。赤髪が美しく揺れた。

「今日は突然の訪問にもかかわらず、お時間を割いていただきありがとうございますわ」

「いえ、すばらしき方々に会えるとは、私も心躍ります。特にエトワールさまは変わられましたね。とてもお美しくなられました」

「ええ、すべてはケイカさまのおかげですわ。この方なしではもうアタクシは生きてはいけませんでしてよ」

 なんかお互い丁寧に目を細めて笑っているが、空気は緊張していた。


 ミルフォードがセリカの頭に目を止める。

「美しいティアラですね。セリカさま」

「ええ、ケイカさまが買ってくださいました。家宝ですわ」

「……それは素晴らしいですね」

 笑顔のミルフォードが目をギラッと光らせた。



 その後、ケイカ村の非認可工事や営業届け未提出の話になる。

「この度はケイカ村の代官として、ご報告が送れたことをお詫びいたします。村ではこのような工事をおこないましたのですの」

 エトワールが鞄から書類を出してテーブルに乗せた。


 ミルフォードは白い歯を見せて朗らかに笑う。

「気になさらなくて結構ですよ。エトワールさまのなさることですから。私としましても、これからもお力になりたいと思う次第です」

「まあ、ありがとうございます。ミルフォードさまはお心が広いですわ」


「もったいないお言葉。――この事業、エトワールさまだけでは大変でしょう? 私も微力ながらお力添えしたいのですが……」


「いえいえ、アタクシにはケイカさまがいますし、ご迷惑をかけた上にお力添えなど。このたびのことについて、お詫びの印を……」

 金を提示しようとするエトワール。

「何をおっしゃいます、エトワールさま。そのようなものは……」

 それを押し留めるミルフォード。



 エトワールが違約金を払うことで話を付けようとするのに対し、ミルフォードは商店や温泉旅館の経営に関わりたいらしい。

 いや、それをとっかかりにして村に影響力を持ちたいのか。

 やんわりと拒絶するエトワール。

 バカ丁寧な言葉の応酬で話し合いは続いた。


 しかし勝手に建物を作った手前、俺たちが不利なようだった。

 どうしたもんかな。



 会話は2人に任せて、俺は千里眼で宮殿を見ていく。

 メイド部屋、厨房、客間や遊技室、書庫や寝室。

 家族の部屋は見当たらなかった。騎士たちの部屋も。離れにあるらしい。

 部屋数は多いが、よくある貴族の部屋。豪華で派手。

 1階2階は何もなかった。


 ふと階段が地下に続いていたので目を向ける。

 地下牢になっている区画があり、鎖でつながれた奴隷がいた。

 一気に陰惨な様相に。

 ――奴隷を購入しながら働かせないなんて無駄なのだが、なぜだろうか。


 そして地下室の一角には豪華な内装の部屋があり、そこに黒い翼を持った魔族がいた。

--------------------

【ステータス】

名 前:アズス

種 族:邪風魔族

職 業:魔王近衛隊騎士

クラス:魔法騎士Lv60 悪魔Lv40

属 性:【魔】【疫風】


 攻撃力:1500

 防御力:2250

 生命力:1000

 精神力:3000


【スキル】

スラッシュ

  邪風斬(イビルフォース):2回斬りつける。追加で毒ダメージ。

 真空旋風(ソニックトルネード):風の刃の竜巻。


 昏睡霧雲(スリープクラウド):霧のような眠りの雲を生み出す。 

 腐死風(ルインドラフト):生物を蝕む風を発生させる。

 異空召喚(サモンサーバント):手下を呼び出す。

--------------------

 ――ほう。魔族と関係しているのか。

 しかも良好な関係を築いているようだ。


 ということは魔族の大量出没は自作自演で決定だな。

 なぜ、そんなことをする必要があるか疑問だが。


 ……ここで倒すのはどうだろうか。

 他の貴族と関係している可能性もある。

 もう少し泳がせたほうがいいかもしれない。


 俺は回りに分からないように、ぶつぶつと呪文を唱える。

「我に従うそよ風よ 奇声嬌声を集め留めよ――《集音風印》」

 俺は風に命じて悲鳴を階段のところへ設置した。



 応接室ではエトワールとミルフォードの水面下で殴り合いをするような会話がまだ続いている。

「でしたら私の兵を出しまして、村の警備を少しだけ担当するというのはどうでしょう? 勇者さまはずっと村におられる訳ではないので、エトワールさまに万が一の事があれば私としましても責任を感じてしまいます」


「いえいえ、今見てきたところに寄ると、ミルフォード領は魔物の発生が大変なご様子。ケイカ村は小さな村ですが万全の体勢をとっておりますので大丈夫ですわ」

 おほほ、と口にしなやかな手を当てて笑う。

「我が領地が大変だからこそ、気に掛けるのですよ。兵力も充実させてみせます」

 ミルフォードは爽やかに髪を掻き上げて言った。目は当然笑っていない。



 俺は強引に2人の会話に割って入った。

「ファブリカの騎士団長まで招いて兵士の増強をしたようだが、それも魔物が増えたためなのか?」

「え? ――はい、そうです。領地を守るためには兵を増員するしか方法がなかったのです」

「そうか。大変だな。ならケイカ村は自分たちだけでやるから、ミルフォードは自分の領地のことだけを考えていればいい」


 むっと鼻白むミルフォード。

「ですが……」

 俺は懐から【勇者の証】を取り出しながら言った。

「そうか。まだ話が長引くか。だったらその間、宮殿の中を見回って来ていいよな?」

「え!? 何をおっしゃられるのやら……」


「なに、魔物の気配を感じた気がしてな。勇者の俺を追いかけてきたのかもしれない。地下室にでも入り込んでいたら問題だ。なので家捜しさせてもらう」

「な、なんと!」

 ミルフォードは焦りで目をきょろきょろさせた。

 地下室という言葉に過剰反応していた。



 ――そして。

 俺は指をクイッと曲げた。

「きゃー!」

 外から悲鳴が聞こえた。もちろん魔法を発動しただけ。


 セリカが、はっとして入口を振り返った。金髪が乱れる。

「い、今、悲鳴が!?」

「きっとメイドでしょう」


「いや、地下のほうから聞こえたな」

「そんなはずは……」

 何か言おうとするが、言葉に詰まっている。

 勇者には魔族関連の捜査権があるからな。

 ミルフォードはますます挙動不審に体を動かした。



 気付いたセリカが美しい笑みを俺に向ける。

「さすがケイカさまですわ。魔物退治のことを考えられていて。……どうぞ、ここはわたくしとエトワールさまに任せて、見てきてくださいませ」

 並びの良い歯を見せて微笑む。頭のティアラがキラリと光った。


 ミルフォードは慌てて立ち上がる。

「いやいや、きっと何かの間違いでしょう! ですが、万が一ということもありうる! ここは私の住居。私が部下たちとともに探りに行きましょう!」

「話し合いはもういいのか?」


「ええ、今は火急の事態。ケイカ村の設備や商売はご随意におやりください!」

 エトワールが、しなやかな指ですうっと書類を前に押す。

「では、こちらにサインをいただきたいですわ」

「……く。わかりました。――これでいいですね。では、入り込んだ魔族を探してきますので、これにて失礼! 何かあれば執事へ申し付けてください!」

 ミルフォードは書類にサインを書きなぐると、どたどたと無作法な足音を立てて外へ出て行った。

 地下へ向かって走っていく。

 ――俺は魔物としか言わなかったのに、魔族って自分から言ってしまったな。



 静かになる応接室。

 エトワールはすみれ色の瞳を丸くして大げさに驚いていた。セリカは逆に青い瞳に信頼の光りを称えて俺を見ている。

「さすがケイカさまです。たった一言で思い通りになさるなんて」

「驚くしかありませんわ。なぜ悲鳴が……」

 美しい王女2人から心からの尊敬を向けられると、さすがにくすぐったいものがあった。


 ――たいして特別なことはしてない。

「まあ、勇者の資格を持ってたおかげだな」

 俺は頭を掻きながら言うしかなかった。 


 

「では、話し合いは終わりましたし、帰りましょうか」

 エトワールが書類を集めながら言った。

「そうだな」

 俺は立ち上がりつつ《千里眼》と《真理眼》でミルフォードを追った。


 階段を駆け下りて魔族の部屋に入った彼は、慌てて言った。

「頼む! しばらく隠れていてくれ!」

「どうかしたのか?」

「勇者が家捜しするかもしれないんだ!」

「打ち合わせの日ではなかったのか?」

「すまない、それも予定をずらそう。明日で頼む」


 魔族はバサッと翼を広げると立ち上がった。

「仕方あるまい。空は危険か……地を潜っていくしかないか。この借りは高くつくぞ」

「うっ……わ、わかった。今以上の食料を提供しよう」

 ミルフォードの言葉に、ふんっと鼻で笑って魔族は消えた。



 ――立場的には魔族の方がミルフォードより上っぽいな。

 そして食料提供の代わりに、魔族の力を借りているようだ。

 ということは地下牢の奴隷がそれか。


 まだ全体像が見えないな。

 明日の密談を調べるとするか。

 おそらくエサの奴隷たちも魔族がいなくなったのだから明日までは取って喰われることはないだろう。

 すべては明日だな。


「じゃあ、帰るぞ」 

「はい、ケイカさま」

「仰せのままに」

 俺はセリカとエトワールを連れて宮殿をあとにした。

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何度も改稿してなろう版より格段に面白くなってます!
勇者のふりも楽じゃない
勇者のふりも楽じゃない書籍化報告はこちら!(こちらはまだ一巻)
― 新着の感想 ―
[気になる点] 第115話 王様とケイカ村交渉で 「……わかった。ケイカ村とその農地をわが国の直轄領とし、エトワールをケイカ村の代官に命じよう」 と直轄領となったのに何故前領主の許可が要るのか? 直轄…
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