第155話 飛竜の売り込み
明るい午後の日差しが降る王都クロエ。
俺は柱の並ぶ王城の大広間にて、ダフネス三世こと王様に謁見していた。
段上の玉座に座る王様が厳かに言う。
「勇者ケイカよ、良くぞ来た。して、今日の報告はなんであろうか?」
「はい、王様。魔王四天王の最後の一人、ゲアドルフを倒しました」
「おお! ついにやったか! 素晴らしいぞ、ケイカよ!」
「「「おおおっ!」」」
と謁見の間に居並ぶ騎士や官僚たちがどよめいた。
俺は続けて言う。
「さらに獣人たちとともに獣人地区を支配する魔王軍を追い出しました」
「なんと! ……獣人たちは魔王の手下と聞くが、大丈夫であったのか?」
「はい。獣人たちは無理矢理魔王に従わされていただけです。解放したので、今後は味方となってくれるでしょう」
「「「うおお~!」」」
「そんなことが……」「いや、まさか」「しかし勇者さまが嘘を言うとは思えん」
疑心暗鬼ながらも、受け入れる人々。
――少しは獣人たちの誤解も解けるようになったらいいな。
ミーニャが自然と暮らせるようになるためにも。
そんなことを考えつつ、言葉を続けた。
「それから――」
「まだあるのかっ!」
「魔王軍を討伐したときに、飛竜を従えました」
「ほう」
俺は言葉に力を込めて話した。
「これからも魔王軍の脅威は続くと思われます。そこで飛竜を50匹、兵として雇ってはいかがでしょうか? 上空からの攻撃に対処できますし、地上への一方的な攻撃が可能になります」
「むむっ! それは魅力的な提案であるな。是非にとも迎えたいところである」
王様は玉座から前のめりになって話を聞いた。
「ただし、無理にとは言いません。なぜなら維持費が――」
俺は飛竜の食費のこと、そして待遇について話した。
王様は、あごひげを掴むように撫でる。
「うむ。すぐには決められぬ。良く話し合ってから」
俺はここぞとばかりに話を畳むそぶりをする。
「このままですと飛竜たちの食事が賄えませんので、すべてファブリカ王国に引き取ってもらうことも考えています。それでは、向こうに話を持って行きますので、またあとで」
「むむ! ちょっと待つのじゃ! ――財務大臣、騎士団長、傍へ」
「はっ」
二人が玉座に駆け寄り、ぼそぼそと小声で話し合った。
財務大臣は顔をしかめて言う。
「出費が増えるのは問題です。それに貴族たちの反感を買うでしょう」
「しかしだな、ファブリカと軍事力に差が出てしまうではないか。外交上、不利になる」
「騎士団としましては、空からの援護がもらえるのは魔王軍に対して強力な戦力になると考えます」
「王直属にすれば、貴族たちへの抑止力にもなろう」
それからもいくつか言葉を交わし、結局、飛竜を雇うことに決まった。
大臣と騎士団長を下がらせると、王様は言った。
「うむ。最近は国内でも魔物被害が増えておる。飛竜50匹、雇うことを約束しよう」
「ありがとうございます、王様。飛竜たちも喜ぶでしょう」
内心上手くいたっと思いつつ頭を下げた。
「飛竜たちのためにありがとうございます」
隣のセリカも一緒に頭を下げた。ティアラがきらっと光った。
王様が気付いて声を掛けた。
「おお。そのティアラは、エーデルシュタインの……」
「はい。ケイカさまに取り戻していただきました」
「そうか……素晴らしいティアラだ。大切にな」
「はいっ、陛下」
美しい微笑みを浮かべて会釈した。
俺は一礼して言った。
「では、また何かあれば報告に。飛竜たちは後で連れてきますので」
「うむ。気をつけて行くがよい」
広間から退出するとき、周りの人々を観察した。
「さすがです」「素晴らしいですわ」と感激している兵士や貴婦人がいた。
しかし領地貴族とヴァーヌス教の司教が苦々しげな顔で俺を見ていた。
――俺の活躍が嫌なだけではないようだ。
やはり飛竜が王国軍に加わったのが嫌なのか。
《千里眼》で見ていると、謁見の間の隅で中年の貴族デミトス・ミルフォードと初老の司教ヒューゴがひそひそと話し合っていた。デミトスは青年ティアックの父だった。
「計画に支障が……」
「飛竜は冬眠する……修正可能じゃ」
「時期を遅らせればよいということか……」
「詳しくは今夜……」
そんなことを話し合っていた。
貴族の計画にヴァーヌス教もからんでいるようだ。
今夜か。
忙しくなって来たな。
まずは飛竜とエルフの用事を片付けてしまおう。
俺は【勇者の証】を見ながら言った。
「ラピシアは親父の店にいるようだな。迎えに行くか」
するとセリカはゆるやかに首を振った。
「……それにしても、飛竜たちを雇ってもらうなんて思いつきませんでしたわ。さすがケイカさまです」
「まあな。あとは飛竜たちが丁寧に扱ってもらえるかが気になるところだ」
「最初のうちは慣れるまでいろいろあるかも知れませんわ」
「そうだな。時々様子を見てみるか。――ともあれ、おかげでうまくいった。飛竜に慌てた貴族たちが動き出すようだ」
「まあ! ケイカさまっ、そこまで考えて飛竜たちを……さすがですわ」
「ふふん、勇者だからな」
セリカは心から感心して銀の胸当てに手を当てて溜息を吐いた。
「ケイカさまは本当になんでもお見通しなのですね」
「今のところは、な。間違えそうになったら遠慮なく教えてくれ。頼りにしてるからな」
「頑張りますわっ、ケイカさま」
セリカは青い瞳を輝かせて頷いた。俺を信じきった目の色。
ここまで信じてくれてると神としてもやりがいが湧く。
「じゃあ、行くか」
「はいっ」
微笑みを絶やさないセリカを連れて城を出た。
◇ ◇ ◇
親父の宿屋へ行く。
一階の酒場に入ると、昼を過ぎているが客はそこそこ入っていた。
カウンターの奥からあごひげを渋く刈り揃えた親父が顔を覗かせた。
「おう、来たかケイカ。ラピシアならそこにいるぜ」
「すまないな」
親父には、ラピシアが来たら待たすようにと頼んであった。
ラピシアは店の隅のテーブル席に座り、お茶とケーキを食べていた。
三角のショートケーキにフォークを突き刺して丸ごとかじる。
なかなかワイルドだ。
小さな口の周りは白いクリームが付いていた。
「おいしい!」
金色の瞳をキラキラ輝かせて笑った。
セリカが近付きながら青髪の頭をやさしく撫でる。
「これ、そのような食べ方はいけませんわ。前に教えたでしょう? 一口サイズにフォークで切って食べるのですよ」
「う……わかった」
ラピシアは小さく切って食べ始めた。
セリカが隣に座り、テーブルマナーを教え始めた。
親父がコップを載せたトレイを持ってやってくる。
「まあこれでも飲みな。おごりだ」
「珍しいな。ありがとう」
「ありがとうございます」
俺はラピシアの向かい側に座った。
「それでだな、ケイカ――おっと。またあとで」
親父は何か言おうとしたが、客に呼ばれて離れていった。
ジュースを一口飲む。果汁が三種混合された複雑な味。柑橘系のすっきりした甘みに、メロンのような濃厚な甘みと、りんごのような爽やかさ。
――ミーニャのやつ、侯爵のところで飲んだジュースを参考にしたな。
うまいからいいか。
と、ラピシアの手が黒く焦げていることに気が付いた。
「ん? ラピシア、その手どうした?」
「土器焼くかまどに手を入れた!」
「……熱くなかったのか?」
「うーん、もやもやした感じ?」
ラピシアは不思議そうに首を傾げた。ツインテールがさらりと垂れる。
1000度以上の高温のはずだが、ラピシアにとってはそよ風か。
なぜ突然そんなことをするんだと思ったが、次のレベルアップが「火を知る」だったな。
とりあえず、野口英世にならなくてよかった。
「……まあ、無事ならそれでいい。でも危ないことするときはちゃんと俺が傍にいるときにするんだぞ」
「わかった! また教えて!」
ラピシアは、ふんすっと鼻息荒く言った。
「そうだな、また暇が出来たらな」
といっても火を教えるってどうすりゃいいのか。
考えていると接客を終えた親父がテーブルにやってきた。
「すまねぇ、待たせたな」
「おごるってことは、何かあったのか?」
「いや……ミーニャから聞いたんだが。村に婆さん、つまり義理の母がいるんだってな」
「そうだな。……挨拶に来るか?」
「う……やっぱり行かないと、まずいよなぁ」
額に手を当てて悩み出す親父。
「そうか。会ったことないんだよな。……婆さんからすると、娘を不幸にした元凶とも言えるよな、親父は」
「やめてくれ。そんなふうに言われると胃がキリキリする」
「ま、可愛い孫であるミーニャに仲介してもらえばなんとかなるだろ」
「簡単に言うなよ――ッ」
「勇者パーティーに入れといてやるから、ミーニャが来たら一緒に連れて行ってもらえ。時々、料理の仕込みに来てるんだろ?」
「ほぼ毎日だな……腹くくって行くしかないな」
「まあ頑張れ」
俺が半笑いで言うと、親父は眉を八の字に下げて情けない顔をした。
ちょっと面白い。
そして【勇者の証】を出して親父をパーティーに入れた。
ラピシアがフォークを置いて両手を挙げた。
「ごちそうさま! おいしかった!」
太陽のように明るい笑顔。満足したらしい。
「よかったな。それじゃ行くか」
ぐいっとジュースを飲み干すと、親父が手を叩いた。
「おっと、忘れるところだった」
「ん? なんだ?」
親父がポケットから小袋を取り出した。
「これがドライドから預かってた先月の売上だ」
中には大金貨が20枚ほど入っていた。
「少し増えたな。人魚のライブの分か……セリカ、持っていてくれ」
「はい、わかりました」
ほっそりした手でお金を受け取って腰に下げた小袋へと移し変えた。
――次はエルフの村に戻って、舗装路の製作だな。
「じゃあ行くか。親父、またな」
「おう。頑張れよ、勇者」
軽く手を挙げて別れた。妖精の扉を設置してあるミーニャの部屋に向かった。
ラピシアはケーキを食べて満足したのか、セリカと手を繋いでスキップしていた。
エサの奴隷を心配しないのはおかしいとのことで、第153話に「奴隷は明日まで大丈夫」というケイカの判断を1行付け加えました。
これによる話の変更はありません。




