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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第六章 勇者冒険編・北(仮)

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閑話 レオパーティーの一夜(その2)

本日2話目。

「ティルトくん、大丈夫? ティルトくん」

「んあ……?」

 ティルトは体を揺すられて目を覚ました。

 眠い目を擦りながら見回すと、辺りには10歳から15歳ぐらいの少年や少女がいた。

 廊下に面した壁はなく、代わりに鉄格子がはまっている。

 まるで牢屋だった。


 牢内の子供たちは泣いていた。泣き疲れてうずくまっている子もいる。


 寝ていたティルトは上体を起こした。ずきっと脇腹が痛んで、思わず押さえる。

「くっ……! 肋骨2~3本、持ってかれちまったぜ……」

「大丈夫?」

 横にいるのはサラだった。心配そうな顔をして顔を近づけてくる。


 ティルトは頬を赤くしながら目をそらした。

「だ、大丈夫に決まってんだろっ。こんなのかすり傷だぜっ……つーか、ここどこだよ?」

「森の中にある地下室みたい」

「なんでこんなとこに……」

「ここにいる人たち、みんな借金が返せなくて奴隷になるはずの人たちなの」

「マジで?」

 ティルトは廊下側へ近寄り、外を見た。

 薄暗い廊下の両側には同じような作りの牢屋が幾つもあって、多くの人が入っていた。

 みんな暗い顔をして俯くか、膝を抱えて座っていた。



「んー、サラの村だけじゃねーよな?」

「近くの村の人たちもいるわ。でも働くはずだった場所とは違うみたい」

「そっか。魔族はいるし、奴隷紋もまだみたいだし。こりゃ怪しいな――鍵に魔法は掛かってないか。みんな離れてろよ」

「なにするの?」

 サラが不思議そうに首を傾げた。金髪が揺れてほのかに光った。


「やられっぱなしじゃ我慢できねぇからな。ちょっと滅ぼしてくるわ」

 ティルトは拳を握り締める。鋼鉄のように硬くなった。

 さらに炎で包み込む。


 ――炎鋼拳(スチールバーニング)。

 防御値無視攻撃。ダメージ2倍。炎追加ダメージ。を持つ、強力な技。

 鉄甲拳(アイアンフィスト)と火炎拳(フレイムフィスト)の混合上級技だった。



 ティルトが牢屋の錠前に真っ赤に燃える拳を押し付けると、灼熱して曲がった。

 それを手で掴んで引っ張る。飴のように伸びて錠前が外れた。


 ティルトは口の端を歪めて笑った。

「じゃ、行ってくる。邪魔だから大人しくしとけよ?」

「ちょ、ちょっと、ティルトくん!? そんな体でどうするつもり?」

「戦うに決まってんだろ!」

「無茶よ! 強い男たちがいっぱいいるし、魔族だっているそうよ」

「それがどうした。オレなら勝てるぜ!」


 すると、部屋の隅で泣きべそをかいていた男の子が睨んできた。

「ぐすっ……お兄ちゃんだけ逃げるの……?」

「ん? そうだな、逃げる」

「「「え?」」」

 牢屋の中の子供たちが驚きの声を揃えた。



 ティルトは緑髪を掻き上げつつ、不敵な笑みを浮かべた。

「逃げるって言ったんだよ。ここはオレの嫌いなもんばっかりだからな」

「ティルトくんが嫌いなもの?」

「ガキの泣き声だよ。この世で一番大ッ嫌いだ――指くわえて待ってても誰も助けてくれねーなら、自分でやるしかないだろ……だから、待ってろ。お前ら全員、笑顔にしてやっからな」

 ぐっと奥歯を噛み締めた。


 ――ティルトはエルフの村のことを思い出していた。

 世界樹が倒されて奪われた子供時代。

 取り戻そうとしても力が足りず、魔王軍に追われてエルフたちは逃げ惑う日々。

 みんな暗い顔をしていて、特に子供は何かあればすぐ泣いた。

 誰も助けてはくれなかった。

 だから、自分で何とかしようと村を飛び出した。

 みんなの笑顔を取り戻せるぐらい強くなりたかった。


「ティルトくん……」

 サラの頬が赤く染まった。大きな瞳が、ぼうっと潤む。

 子供は泣きやんで、気まずそうに言う。

「兄ちゃん、ごめん」

「気にすんな! お前がどんだけ絶望したって、オレは見捨ててやんねーよ」


 ティルトは、へっと鼻の下を擦って悪態をつくと、牢屋の扉を開けて廊下に出た。

 その背にサラが声を掛ける。

「無理しないでね」

「任せろ。オレは無謀なことしかしないぜっ」

 ティルトは白い歯を見せて微笑みかけると、そのまま廊下を素晴らしい勢いで駆け出していった。


 残されたサラは、石の床に座りなおして、ふうっと息を吐いた。

「無茶ばっかり……、見た目は綺麗なエルフなのに、やることは男の子ね」

 呆れるように呟くサラだったが、頬は赤く染まりっぱなしだった。



 ティルトは石材で作られた廊下を駆け抜けた。

 階段手前にはイスとテーブルがあり、太った牢屋番が座っていた。

「あらよ、っと!」

「な、なに!? ――ぐぼぉ!」

 ティルトの拳が無防備な牢屋番の腹に突き刺さる。

 太った牢屋番は口から泡を吹き、白目を向いて気絶した。


「ちょろい――鍵、渡しとくぜ」

 ティルトは牢屋番の腰から鍵の束を奪い、手前の牢屋に放り込んだ。

「おおっ」「助かった……」

 と、どよどよと騒ぎ始める。


「全部倒してくるまで待っといてくれ」

 そう言い残して、ティルトは階段を駆け上がった。

 ポケットに入っていた予備の仮面を装備した。



 1階は絨毯の敷かれたエントランスだった。

 吹き抜けの天井にはシャンデリアが光っている。

 2階へ続く幅広の階段がある広間の隅には、騎士の甲冑が置かれていた。壁には剣が十字にして飾られている。

 貴族の屋敷を思わせた。


 床に円座を組んで座り込み、カードゲームに興じる男たちがいた。数は3人。

 ティルトの突然の出現に、手を止めて目を丸くしていた。

「な、なんだ? お前誰だ!?」 

「へへん、なんだろね? ――りゃ!」

 ティルトの瞬間移動を思わせる突撃。

 華奢な腕から繰り出される鋭い拳。炎をまとう衝撃波。


「「「ぐわ!」」」

 3人の男が吹き飛んだ。

 壁や床に叩きつけられて動かなくなる。



「あいつはどこだ?」

 ティルトは屋敷の中を走って探した。

 魔族の男をどうにかしなければ、村人を連れて逃げてもまた捕まえられてしまう。


 廊下や食堂にいた男を殴りつけて気絶させる。

 しかし1階を探し回っても魔族の男は見つからなかった。

「2階にいんのかな?」

 ティルトは広間へと戻った。



 入ったとたん、目の前に真っ赤な塊が広がった。

「うおっ!」

 ティルトは右手に炎を生み出し、とっさに叩き潰す。

 バンッ! と空気を震わせて火の玉は砕け散った。


 見上げれば2階の欄干から黒い翼を持つ、真っ黒い男が立っていた。

「ふんっ。ネズミが逃げたか……奴隷商が来るまで大人しくしてろ」

「あいにく大人じゃないんでね! ――らぁ!」

 ティルトは緩く弧を描く幅広の階段を駆け上がった。


 階段の上に立つ魔族は手を前に出し、また火の玉を飛ばした。

 ティルトは両手両足に炎を纏わせながら言う。

「芸が無いな、お前! ――ふんっ!」

 火の玉を砕きつつ、強烈な飛び蹴りを放った。

 飛鳥を思わせるつま先が華麗な弧を描く。

 ――飛燕脚。

 一撃目は空を切るが、流れるような連続蹴り――炎舞脚(バーストダンス)が魔族を襲う。


 後ろに飛んで距離を取る魔族が顔を鬱陶しそうに歪めた。

「ちっ、変な技を使うな」

「ユニーク、って言ってくれよな! ――ハァッ!」

 2階へ上がったティルトは一気に距離を詰め、炎の拳を繰り出す。

 魔族の頬を掠めた。

 

 魔族は鋭い爪を持つ手を振りかぶる。

 ティルトは軽くしゃがみこんでかわした。緑の髪が数本ちぎれて空を舞う。

 屈めた脚に溜めた力を解き放つ。

 伸び上がりながら繰り出した右足が、魔族の胴に突き刺さった。

「ぐはっ!」


 魔族が前かがみになる。一瞬動きを止めた魔族へ、さらなる拳と蹴りを叩き込む。

「らぁぁ! どうだ、少しは効いただろ!」

「く、くそう……!」

 魔族は手を振り抜くが外れる。鞭のような尻尾が追撃するも、半歩引いただけのティルトに見切られる。


「お返しだ!」

 踏み込みながら放たれる拳。

 体制を崩して横を向いた魔族の脇腹に突き刺さった。

「ぐあっ!」

 魔族は吹っ飛び、壁に激突する。

 ティルトの右手が真っ赤に燃え上がり、鋼鉄のように硬くなる。

 ――炎鋼拳(スチールバーニング)!


 ズンッ!


 壁にめり込む魔族。ティルトの拳が胸に突き刺さっていた。


 ――が。

 ガシッと魔族がティルトの右腕を両手で掴んだ。

 口の端から赤黒い血を流しつつ、いやらしく笑う。

「ちょろちょろと動くネズミが……捕まえたぞ!」

「ちょ、離せよ!」 

「――炎囲壁(フレイムバリア)!」

 魔族の体が炎に包まれる。

 当然ティルトも燃え上がった。


「うわぁぁぁ! は、離せ!」

 真っ赤に燃える左拳で殴るが魔族は止めない。

「私には炎など効かんのだよ、くははっ!」

「――へっ、そうかよ……教えてくれてありがとよ」

 ティルトは左拳を握り締めると、炎を消して鉄の塊のように硬くした。

 ――鉄甲拳(アイアンフィスト)。



 ティルトは燃えながらも何度も拳を叩き込む。

「ぐはっ! ま、まだ動けるのか、貴様!」

「あいにくオレも炎は得意なんだよ!」

 逃げようとする魔族を掴み、さらに拳で殴りつける。

「くそっ! ――ぐ、離せッ!」

 ミシッ、メキッと鈍い音が響き続ける。

「はぁぁぁあ! とどめだ!」

 竜を思わせる叫び声とともに強烈な一撃を繰り出した。

 ――烈破咆哮(ドラゴンハウリング)。筋力と素早さを上昇させる。


 ズドンッ!

 大砲を思わせる一撃が魔族の胸を貫いた。

 壁が丸くへこみ、黒い血が花のように飛び散った。

「くっ……きさま……名は?」

「ティルト。今は――勇者ケイカの仲間だ、って言っとこうかな」

「ゲアドルフ様を倒したあいつの……」


 魔族はまだなにか言おうとしたが、黒い体が砕けた。

 粉のようにボロボロと崩れていき、最後はただの灰となる。



 見届けたティルトは、ふうっと息を吐いた。

 全身のあちこちに火傷をしていた。

「いちちっ、ちょっち無茶しすぎたぜ――さあーて、みんな連れて戻るか」


 1階へ降り、さらに地下室へと入った。

 通路に立ち、大声で叫ぶ。

「おーい! もう大丈夫だ。魔族は倒した。さっさと逃げよーぜ!」

 ティルトの声が通路に反響した。

 人々がおそるおそるといった感じで、鉄格子をくぐって廊下に出てきた。


 サラが金髪をなびかせて走ってくる。

「ティルト!」

「うわっ! ――いててっ」

「あ、ごめんなさいっ!」

 思いっきり抱きついたものの、急いで離れた。


 サラは心配そうに眺める。

「そんなに怪我して……無茶しすぎよ」

「たいしたことねーよ。そんなことより早く逃げようぜ」

「うん」

 ティルトを先頭にして村人達が続いた。

 50人ほどがいた。



 階段を登り、エントランスに出る。

 ティルトが何気なく一歩踏み出したときだった。

 突然、その足が止まる。プルプルと震えるが動けない。

「――な!? なに!」 

 ティルトは目だけを動かして、1階の広場を見た。


 いつの間にか両開きの入口が開いて、司祭の服を着た男と剣を持った騎士が立っていた。

 司祭は光る錫杖を掲げている。

「しまった! 魔法か――! みんな、隠れろ!」

「うん!」

 サラと村人たちは慌てて階段へと戻った。



 司祭は事務的な口調で言う。

「あのものは危険です。処分してきてください」

「命令を、実行します」

 騎士の1人が真っ黒な鎧をガシャガシャと鳴らして走り出す。


 ティルトは体を動かそうと必死で力を込めながら思う。

 あの騎士、人間じゃねぇな、と。

 重そうな全身鎧を着ているというのに、軽々と広間を横切って近付いてきた。



 入口からは司祭たちに続いて網元の男と荒くれ者たち、それにフードを被った男――地区長官まで入ってきた。

 フードを取りながら笑う。

「やられてしまいましたな」

「なに、新しく使役すればいいんですよ。代わりはいくらでもいるのですからね」

 くくくっと笑う2人。

 それから網元と奴隷商に指示を出した。

「お前たち、あいつらを捕まえて全員無条件奴隷にしろ」

「へぇ、お任せくだせえ」

「ちょっと怪我さしてしまうかもですが、げへへ」


 ティルトはなんとか魔法の効果から逃れようと暴れた。

 しかし体は金縛りにあったように、まったく動かなかった。

 サラが階段から顔を覗かせて悲痛な声で呼びかける。

「ティルト――ッ!」

「オレはいいから、隠れてろっ!」

 そうは言っても動けない。


 鎧騎士が近付いてくる――。

 ティルトの額から焦りの汗が流れた。

次話は明日の夕方か夜に更新です。

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何度も改稿してなろう版より格段に面白くなってます!
勇者のふりも楽じゃない
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