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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第六章 勇者冒険編・北(仮)

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閑話 ラピシア、はじめてのお出かけ(その3)

 次の日の夜。

 ラピシアはケイカ村の屋敷にいた。

 食堂にはラピシアのほかに、ケイカ、セリカ、ミーニャ、フィオリア、リィ。給仕としてクラリッサがいた。

 クリームシチューの甘い香りが漂っていた。


 みんなでの食事が終わると、ラピシアが言った。

「あのね、プレゼントなの!」

 ケイカが目を丸くする。

「お? なんだ?」

「まあ、ひょっとして感謝の日だから?」


 セリカの言葉に、青いツインテールを揺らして頷く。

「うん! 待ってて!」

 てててっと走って部屋へ行く。



 すぐに荷物を抱えて戻ってきた。

「まず、クラリッサ!」

 大きな土鍋を手渡した。名状しがたい花の模様が描かれている。


 クラリッサが目を細めて喜ぶ。

「まあまあ。ありがとうね――美味しい料理、たくさんつくらなきゃね」

「わーい!」


 ケイカが驚いた声で言う。

「これ、ラピシアが作ったのか……」

「うん!」

「さすがだな」

 ケイカには神の力を使って作られたのがわかったのだろう。

 

 ちなみに。

 本来、焼く前に1週間の乾燥期間が必要だったが、ラピシアは能力を使って粘土を固めて水分を押し出したので、もう釉薬をかけて本焼きを済ませてあった。


 

「次、ミーニャに!」

 ラピシアが取り出したのは、土の板だった。白一色に塗られている。

 受け取るミーニャが首を傾げる。

「これは……?」

「まないた!」

「……ありがとう」

 ミーニャは膨らみかけの胸を押さえながらお礼を言った。

 包丁があるからまな板を贈ろうと考えただけで、決してミーニャの胸が大きくならないのを皮肉ったわけではなかった。

 

「フィオリアとリィは、これ!」

 出したのは、普通のお皿と、庭仕事で使う植木鉢。

 植木鉢は釉薬が塗られて室内でも使えそうだった。

「ありがとう、ラピシアちゃん。ラピシアちゃんの好きな花をいっぱい咲かせようかしら」

「わーい! ありがと! 次がケイカとセリカ!」



 ラピシアが取り出したのは湯飲みが2つ。

 夫婦湯飲みのように、大きさは違うけれども形は同じだった。

「まあ、ありがとう。ラピシアちゃん。……わたくしの方は宝石柄ですが、ケイカさまのは……?」


 ケイカが湯飲みを手に持って眺める。

「ラピシア、セリカ、ミーニャ、イエトゥリア、ダリア、エトワール、マダム、フィオリア、リィ、ルペルシア、アイ……その他。全部、名前だな」

 魚の名前が書かれたすし屋の湯飲みのように、人物名がずらずらと書かれていた。



 ラピシアは笑顔で答える。

「うん! ケイカの女! ハーレム湯飲み!」

 ぶはっ、とケイカが息を吐く。ごほごほと咳き込む。


 他意はない。

 純真なだけに、突き刺さるものがあった。


 このハーレム湯飲みで飲むことを考えたらしいケイカは微妙な顔つきをした。

 それでもお礼を言う。

「……ありがとうな」

「驚いた?」

「ああ、とっても驚いた。さすがの神でも想定外だろう……嬉しいよ」

「えへへ……っ」

 頭を撫でられたラピシアは顔を緩ませて喜んだ。



 その後、ラピシアは他にも持っていくと言い、妖精の扉を使って出て行った。


 ミーニャはまな板を包丁で叩きながら呟く。

「これ、すごい。包丁で切れない」

 ただ土を固めただけだというのに、超震動包丁でも切れない魔法の品に仕上がっていた。


 ケイカが頭に手を当てて言う。

「失敗したな、何も用意してない」

「申し訳ありません、ケイカさま。最近、忙しすぎてプレゼントにまで気が回りませんでしたわ」

「今から何か作るといってもな……」

「お菓子でも作りましょうか」

「お菓子? あ、今日はシチューだったな? ミーニャ、牛乳は余ってるか?」

「ん、余ってる」


「砂糖もあるな。卵もある。だったら俺の力を使えば……」

「何作る?」

「焼くのは時間がかかるから、手っ取り早く作れるものを。季節外れだし、香り付けが問題だが――」

 手順を説明する。作り方自体は簡単だった。


「それなら、できる」

 ミーニャが自信を持って頷いた。尖った耳がピッと動く。

 クラリッサが言う。

「カエデシロップや果実酒を入れて香り付けしてもいいかもしれません」

「ああ、そういうのもあるな。――よし、みんなも手伝ってくれ」

「「「はいっ」」」


 こうしてケイカたちは作業を開始した。

 ラピシアが戻ってくるまでに。


       ◇  ◇  ◇


 一方のラピシアはエルフの村に来ていた。

 地面に設置された魔法の明かりが照らす道を危なげなく歩いていく。

 そして世界樹のところへ出た。


 世界樹は、わさわさと不思議そうに枝を揺らしている。

 こんな夜に来たので疑問に思っているらしい。


 ラピシアが元気に言う。

「葉っぱありがと! これ、お礼!」

 手に持っていた筒状のものを掲げた。


 大きな笛だった。


 さすがに指で押さえる穴は空いていないが、振ればひょろろ~と音が鳴った。

 口の部分を隠すように押さえると、音程が変わる。

 音楽好きな世界樹でも演奏できる土の笛だった。



 世界樹がぐいっと幹と枝をしならせて前かがみになる。

 枝の先で笛を受け取った。

 子供のためか幹が異様に柔らかい。

 

 さっそく枝を振って、ひょおお~ひゅろろ~、と音を奏でた。

 そして嬉しそうに枝をざわざわと鳴らした。


 ラピシアも笑顔で答える。

「うん! ありがと! また遊ぼ!」

 世界樹は右側の枝を大きく振り、ラピシアも手を振って返し、走り去った。


       ◇  ◇  ◇


 次に向かったのはドラゴンの住むグリーン山。

 ラピシアは広い洞窟にたたずむドラゴンの元へ、荷物を持って駆け寄った。

「ドラゴン! プレゼント!」

 両手で抱えて差し出すのは、真っ白な丸い玉。

「な……これは」

「たまごのニセモノ! 石で作った!」

「なぜそんなものを……?」

「ドラゴン、たまご好きだから!」


 ドラゴンは口を半開きにして苦笑した。

「いや、好きとかではなくてだな……そなたでなければ煽られたかと思うぞ……」

 誘拐された子供の代わりに子供の人形プレゼントしますと言うようなものだった。



 ラピシアは良く分からず、首を傾げた。ツンテールが垂れる。

「そうなの?」

「まあ、悪意はないからいただこう。我の目にも区別つかぬほどそっくりだから盗難防止にも使えるだろう……ありがとう、神の少女よ」


「うん! ――あ、侯爵は?」

「すぐに呼ぼう。少し待つといい」

「わかった!」

 ドラゴンは管理画面を呼び出して操作した。



 5分ほどして侯爵がマントを翻しながらやってきた。

「どうした、こわっぱ? こんな時間になんのようだ?」

「侯爵に、これプレゼント!」

 ラピシアが差し出したのは、手のひらサイズの円柱。

 黒一色に塗られている。


 受け取った侯爵の眉間にしわが寄る。

「……なんだ、これは?」

「はんこ!」

 その言葉に、侯爵は円柱の底を見た。

 ドクロにコウモリの羽が生えたイラストが掘り込まれている。

 でも少し潰れたせいか、デフォルメのようになっていて逆に可愛らしい。


「む……これはなかなか……いいだろう。我輩のサイン代わりに使用してやろう! ありがたく思うが良い、ふははっ!」

「わーい! ――それじゃ、ばいばい!」

 ラピシアが手を振って駆け出した。ツインテールが後方になびく。


 ドラゴンが言った。

「うむ。ケイカにもよろしく」

「せわしない奴だ、まったく」

 そう言いながらも侯爵は、じーっとハンコを見ていた。


「名状しがたき崩れたデザインが冒涜的なおぞましさを醸し出しているな……この狂気じみた異形を使ってキーホルダーを作ってみるか……くくくっ」と呟きつつ。

 ドラゴンは『ただの2頭身デフォルメだろう』と思ったが、大人なので言わなかった。


       ◇  ◇  ◇


 プレゼントを配り終えたラピシアはケイカ村の屋敷に帰った。

 するとリィが小走りにやってきて、ラピシアを誘った。

「ラピシアちゃん、こっちきて!」

「なあに?」

 すたすたとリィの後について食堂へ向かった。


 食堂ではケイカたちがニコニコと笑顔で待っていた。

 プレゼントを用意していなかった後ろめたさがあるので、みんな過剰な笑顔を作っていた。



 ケイカが白い物体の入った木の器をテーブルに置きながら言う。

「おかえり、ラピシア。さあ、お返しのプレゼントだ」

「……これ?」

 ラピシアは椅子に座ると、器に入った白いものを眺めて小首をかしげる。


「甘くておいしいぞ」

「ふーん――はむっ」

 スプーンですくって、小さな口で一口食べた。

 もぐもぐしたあと、金色の目がまん丸に見開かれる。

「冷たい! 甘い!」

 目をキラキラさせて両手で頬を挟んで叫ぶ。

 それから凄い勢いで、はむっ、はむっ、と食べ始めた。


「これがアイスクリームだ。柔らかくておいしいはずだ」

「うん! おいしい! ――おかわり!」

 空になった器を差し出した。



 ケイカは、よしっとガッツポーズをしながら言う。

「そこまで気に入ったか! まだまだたくさんあるからな。みんなで作ったんだぞ」

「そーなの? ケイカ、セリカ、ミーニャ、クラリッサ、フィオリア、リィ、みんなありがとー!」

 お礼を言いながらも、目は鍋からよそわれるアイスクリームに釘付けだった。


 苦笑しながらケイカが言う。

「俺たちも食べよう。みんなで食べたほうがきっとおいしいからな」

「「「はいっ」」」


 そして賑やかで楽しい食後のデザートとなった。

 ラピシアがあふれんばかりの満面の笑みでスプーンを口に運んでいた。


       ◇  ◇  ◇


 星空の広がる深夜。

 ラピシアは一人で村の外に出ていた。

 

 外壁から少し離れた空き地に来ると、手に持っていた瓶をぶちまけた。

 ポーションだった。

 土の中へと凄い勢いで染み込んでいく。


 ラピシアは寝ている人の耳元へ囁くような声で言った。

「お母さん、プレゼント。怪我に効くの! 早くよくなって――きゅああああ!」

 呪文も唱え終わると、くるっと背を向けて村へと戻っていった。


 しばらくしてポーションをまいた辺りが、黄色い光を放ち始めた。

 『やれやれ、一日も早く復活せねばなりませんね』と母であるルペルシアの喜びの声が聞こえてくるようだった。


  閑話 ラピシア、はじめてのお出かけ 終

ラピシアが頑張るお話でした。

子供は無敵! なのです。

少し余韻が少なくなってしまったので、その点は反省です。


第七章のプロットはまだ難航中です。

獣人地区は早めに切り上げて、内政問題解決になりそうです。


次の閑話はレオかリオネルかな。では、また数日後に。

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