表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/19

アーストゥエバーグリーン

「ほう」 


  

 真実としても。

 ハッタリとしても。



 さすがにこの言葉には、少女も興味深そうに目を開いた。



「どういう意味だ」


「いや、そのままの意味。俺は一度死んでいる。一度死んで、目が醒めるとこの世界にいた。今の俺はこんなのだけど、元々の俺は、実は三十三歳童貞のオッサンだ。今は十三歳だけどな」


「ふ。そうか」


「……あまり驚かないのは、信じていないからか?」


「いや? どうでもいいからだ」


「行ってみたいとか思わないの?」


「何故?」


「いや退屈そうだから。どうせそのラインだろ。あんたが抱えている闇は。ぶっちゃけありがちだからな。百万回見たわその不老設定」


「ふ。百万回か……」


「あーいや、えーと」



 やば。

 ついつい本音言っちまった。

 まあオタクなら誰でも思うことだろう。

 勘弁してほしい。

 とりあえず、話題変えるか……。



「あーと、そうそう。あっちの世界、地球には、ネットってものがある。世界中の人間が、リアルタイムで話したり、掲示板に言葉を残したりできる。そんな道具。こっちの世界で言うなら魔具か」


「ほー」


「だから今のあっちの世界は、一人で考えているようで、全員で一つを、あるいは多数を考えられる。まあそんな便利なものがあっても悪い奴も大勢いて、世界自体は全然綺麗じゃないけど――初めて触ったら、きっと楽しいと思うよ。こんなところで鬱屈としてるぐらいなら、行ってみてもいいんじゃない? 君の権限オーソリティを使ってさ」


「……なるほどな」



 少女が言った。

 その目はどこか遠くを見ているようだ。



「だが遅いな」


「千年だろ? 捨鉢すてばちになるには早すぎるだろー。要は人生十回繰り返したって話で、それで何もかも見てしまったとしても、俺の世界にいけばリセットできるじゃん。簡単なことじゃねえかよ、そんな苦悩を打開することなんて」


「……」


「君は強いし、権限オーソリティなんて何でもありのチートもある。全然余裕だと思うけどな。俺の状況に比べたらさ。ぶっちゃけ浸ってるだけだと思うよ。自分の力に酔いしれてさ」


「ふ。言ってくれるものだ」


「……」


「ただ理由があってな。あたしはもう自分の結末が見えている」


「え……」


「言ったろ? あたしはどんな道具でも作ることができる。それがあたしの権限なんだ。だから、そういう道具を使って確認した。自分の最期がわかる道具をな。そしてあたしの死に場所は、お前の言っているような異世界ではなく、この世界、エバーグリーンだった。つまりそういうこと、ということだ」


「なるほどな。でもそれは、ここで何もしなかったからじゃないのか? 今いけばもうねじ曲がる。その程度のものでしかないよな」


「やけに勧めるな。あたしを丸め込んで自分の世界に帰ろうという腹か?」

 

「あー」



 確かにここで、この子にその道具を作ってもらえれば、逃げ出せる。

 殺人犯の冤罪をかけられたこの世界から。

 またあの世界に変えることにはなるが、この世界にいるよりかは、幾分かマシかもしれない。

 だが――



「考えてなかったな。その手があったか」


「ふ」


「だけど、考えていたのは、そんなことじゃない」


「……」


「笑ってほしかった。いや違うな。本当は、腹が立ったんだ。最強の能力を持っているのに、どうしてそんな不幸面ができるのか。俺には不思議で仕方がない」


「……ふ」



 少女がまた嘲笑するようにして、笑った。

 


「無益だな」



 立ち上がる。



「それだけ舌が回るなら、もうあたしがいる必要はあるまいな。どうやらケンカも売られているようだ」


「……そうだな」



 俺もゆっくり立ち上がる。

 状況を考えればすがるべきだった。

 俺の状況は何一つ好転していない。

 しかしすがりたくはなかった。



 イラつくぜ。



 何が孤独だ。

 何が永遠の時間だ。

 弱者として生きるわけじゃないなら、それでいいじゃねえかよ……。

 いやでも。



 違うな。

 俺はただ、今のどうにもならない状況にイラついて、当たっただけだ。

 


 この子はこの子で、辛いだろうに。

 俺の空想では、測りきれないほどに。



 今の俺のムーブは、ただのクズ野郎そのものだ。



「ちょっと待った」



 俺は少女の背を追い越し、正面に立った。



「多分どうせ俺は死ぬからよ。冥土の土産に、面白いもの見せてやるよ」



 パン。

 両手を合わせた。



「アーストゥエバーグリーン」


 

【魔術】


 元来神の力であり、それを与えられた人間が行使する力の総称。故に魔力は血に宿っており、その血を持つものを貴族と呼ぶ。貴族の血を飲み、うまく適合すれば、凡人でも魔術が使えるようになることもある。このことから貴族は魔術を神の御業と呼び、庶民からは悪魔の術と呼ばれ、恐れている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ