アーストゥエバーグリーン
「ほう」
真実としても。
ハッタリとしても。
さすがにこの言葉には、少女も興味深そうに目を開いた。
「どういう意味だ」
「いや、そのままの意味。俺は一度死んでいる。一度死んで、目が醒めるとこの世界にいた。今の俺はこんなのだけど、元々の俺は、実は三十三歳童貞のオッサンだ。今は十三歳だけどな」
「ふ。そうか」
「……あまり驚かないのは、信じていないからか?」
「いや? どうでもいいからだ」
「行ってみたいとか思わないの?」
「何故?」
「いや退屈そうだから。どうせそのラインだろ。あんたが抱えている闇は。ぶっちゃけありがちだからな。百万回見たわその不老設定」
「ふ。百万回か……」
「あーいや、えーと」
やば。
ついつい本音言っちまった。
まあオタクなら誰でも思うことだろう。
勘弁してほしい。
とりあえず、話題変えるか……。
「あーと、そうそう。あっちの世界、地球には、ネットってものがある。世界中の人間が、リアルタイムで話したり、掲示板に言葉を残したりできる。そんな道具。こっちの世界で言うなら魔具か」
「ほー」
「だから今のあっちの世界は、一人で考えているようで、全員で一つを、あるいは多数を考えられる。まあそんな便利なものがあっても悪い奴も大勢いて、世界自体は全然綺麗じゃないけど――初めて触ったら、きっと楽しいと思うよ。こんなところで鬱屈としてるぐらいなら、行ってみてもいいんじゃない? 君の権限を使ってさ」
「……なるほどな」
少女が言った。
その目はどこか遠くを見ているようだ。
「だが遅いな」
「千年だろ? 捨鉢になるには早すぎるだろー。要は人生十回繰り返したって話で、それで何もかも見てしまったとしても、俺の世界にいけばリセットできるじゃん。簡単なことじゃねえかよ、そんな苦悩を打開することなんて」
「……」
「君は強いし、権限なんて何でもありのチートもある。全然余裕だと思うけどな。俺の状況に比べたらさ。ぶっちゃけ浸ってるだけだと思うよ。自分の力に酔いしれてさ」
「ふ。言ってくれるものだ」
「……」
「ただ理由があってな。あたしはもう自分の結末が見えている」
「え……」
「言ったろ? あたしはどんな道具でも作ることができる。それがあたしの権限なんだ。だから、そういう道具を使って確認した。自分の最期がわかる道具をな。そしてあたしの死に場所は、お前の言っているような異世界ではなく、この世界、エバーグリーンだった。つまりそういうこと、ということだ」
「なるほどな。でもそれは、ここで何もしなかったからじゃないのか? 今いけばもうねじ曲がる。その程度のものでしかないよな」
「やけに勧めるな。あたしを丸め込んで自分の世界に帰ろうという腹か?」
「あー」
確かにここで、この子にその道具を作ってもらえれば、逃げ出せる。
殺人犯の冤罪をかけられたこの世界から。
またあの世界に変えることにはなるが、この世界にいるよりかは、幾分かマシかもしれない。
だが――
「考えてなかったな。その手があったか」
「ふ」
「だけど、考えていたのは、そんなことじゃない」
「……」
「笑ってほしかった。いや違うな。本当は、腹が立ったんだ。最強の能力を持っているのに、どうしてそんな不幸面ができるのか。俺には不思議で仕方がない」
「……ふ」
少女がまた嘲笑するようにして、笑った。
「無益だな」
立ち上がる。
「それだけ舌が回るなら、もうあたしがいる必要はあるまいな。どうやらケンカも売られているようだ」
「……そうだな」
俺もゆっくり立ち上がる。
状況を考えればすがるべきだった。
俺の状況は何一つ好転していない。
しかしすがりたくはなかった。
イラつくぜ。
何が孤独だ。
何が永遠の時間だ。
弱者として生きるわけじゃないなら、それでいいじゃねえかよ……。
いやでも。
違うな。
俺はただ、今のどうにもならない状況にイラついて、当たっただけだ。
この子はこの子で、辛いだろうに。
俺の空想では、測りきれないほどに。
今の俺のムーブは、ただのクズ野郎そのものだ。
「ちょっと待った」
俺は少女の背を追い越し、正面に立った。
「多分どうせ俺は死ぬからよ。冥土の土産に、面白いもの見せてやるよ」
パン。
両手を合わせた。
「アーストゥエバーグリーン」
【魔術】
元来神の力であり、それを与えられた人間が行使する力の総称。故に魔力は血に宿っており、その血を持つものを貴族と呼ぶ。貴族の血を飲み、うまく適合すれば、凡人でも魔術が使えるようになることもある。このことから貴族は魔術を神の御業と呼び、庶民からは悪魔の術と呼ばれ、恐れている。




