表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
7/19

ぶっちゃけさ

 目を開く。

 身を起こした。 

 身体には毛布をかけられていた。

 周囲は森である。



 思わず立ち上がっていた。

 寝ぼけ眼で辺りを見渡し、ゆっくりと足を動かす。

 川のせせらぎの音が近くなっていく。目の前の枝葉をずらすと、少女が突き刺した棒に番傘をくくりつけ、それを日よけにして釣りをしていた。

 隣に腰掛ける。



「釣れますか?」



 尋ねると少女が無表情に見上げてきた。

 俺はそれに、できるだけニコやかに笑う。



「……まあまあかな」



 視線を川辺に戻して少女が言った。

 


「あのーありがとうございました」



 少女の隣に座り込みながら俺は言った。

 立ったまま話すのもそれそれで失礼かなと思ったからだ。



「コメカミの傷」



 指をさす。

 少女はチラリとそれを見て、また目をそらす。



「別に。目の前で死なれると鬱陶しい。それだけのことさ」


「あーでもあれっすね」

 

 

 俺は言った。

 後ろの木樽で、魚がゆらゆらと泳いでいる。



「木樽とか釣り用具とか持ってるってことは、この辺に住んでいる人なんですね。大丈夫ですか? あの獣。神獣とか呼ばれてましたけど」



 まさか木樽とか釣り用具持って冒険もないだろう。 

 いくらなんでもかさばりすぎる。



「……神獣は百年以上生きた魔物が成る存在なんだよ。珍しくはあっても善というわけではない。後別にあたしはこの森に住んではいない。旅人だよ」


「え、マジですか!? 俺、旅初心者なんですけど、釣り用具とかこういう木樽とかって、実は必須なんですかね?」


「さあな。まあ、かさばらないなら、あった方がいいだろう」


「あーっと。かさばらない持ち方とかあったりします?」



 尋ねると、少女が小さな布袋を向けてきた。

 本当に小さく、少女の掌に乗る程度しかない。



「ディメンションクロスという。あらゆるものを収納できる。無限にな」


「む……! 無限?! めちゃくちゃ便利じゃん! 古代魔具!? すげえな!」



 古代魔具とはダンジョンから出るアイテムのことで、要はレアアイテムってことである。



「そうだな。確かにすごいよ。あたしはすごいんでな」


「あたしは? まあ確かに見つけたのはすごいよね。ダンジョンを攻略するのにも実力が必要なわけだし」


「別にダンジョンで得たわけじゃない。創ったんだよ。これは」


「創った? 創ったってどういう……」



 少女が一度目を向けて、また川面に目を向ける。

 その顔は例によって無表情だ。



「どうもこうもない。ただ言葉のままの意味だ。どんな道具でも生み出し創造することができる。これがあたしの権限オーソリティー。『文明創造アイテムマスター』だ」


「は?」



 思わず間の抜けた声が出る。


 

 パシャン。



 水が跳ねた。

 釣り竿を少女が引いたのだ。

 釣り糸の先には、青々とした魚がかかっている。

 それを木樽の中に入れた。



「戻るぞ」



 少女が去っていく。

 俺は唇に指を当てた。



 権限オーソリティー

 文明創造アイテムマスター


  

 能力スキルとはまた違う。

 別の力がこの世界にあるということなのか……。



「まあでも、どうでもいいか。とりあえずは」



 ◇◇◇◇



 焚き火を囲むようにして、串に刺した魚を並べた。

 香ばしい香りを上げて、そろそろ食べれそうだ。

 しかし……。



 俺は木を背にして本を読む少女に目をやった。

 一切興味がなさそうに見える。



 食ってええんかなこれ……。



「勝手に食え」



 声が聞こえて目を向ける。

 やはり少女の目は俺に向いていなかった。



「あたしには無用のものだ。全てお前が食えばいい」


「それじゃまあ、遠慮なく……。いただきまーす!」

 

 

 串を一本取り、口にくわえる。



「うめー! 塩も醤油もないけど、やっぱ焼きたてはうめえなー! 何本でもいけちゃうぜ!」



 一人じゃないって安心感もあって、ガツガツ食べてしまう。

 二匹目の魚の腸に食らいつきながら、ふと少女を見つめた。

 少女は今も無表情に、本を読んでいる。



 パラリ。



 少女が本をめくる。

 まるで何度も読んだ本でも見るかのように、その表情に変化はない。



「あのさ」



 俺は思わず声をかけていた。



「なんだ?」


「あーいや、さっきオーソリティがどうとか言ってたけど……」


「……そのことか。言葉のままの意味だ。それがあたしの能力なんだよ」


「それは能力スキルとは違うの?」


「全く違う」


「どういう風に?」


「次元が、違うんだよ」


「ちゅ、抽象的だなー。もしかして、聞いたらダメなやつ?」


「いや。あたしは千年生きててね。神の代理人。あるいはシャドウと呼ばれている。説明してもわかるまい。だから省いたまでの話だ」


「千歳か。つまり不老ってこと? 神のように」


「まあ、そういうことだな」


「ふーん」



 あまり驚かなかった。

 ぶっちゃけて言おう。



 ありがちだなと、思ったからだ。



 どうせ抱えている闇は、永遠の孤独とか、虚無の時間とか、そんなところなんだろうななんて、荒んだことも考える。



 終わっているな……。

 我ながら思う。

 状況が終わってるんだ。

 仕方ないのかもしれない。



 そんなクソみたいな自己弁護を挟む。



 パチパチパチ。

 無言になると、焚き火の爆ぜる音が夜闇に響いた。



「シャドウって何をするの?」



 間を埋めるように、俺は尋ねた。



「特に何も」


「え」


「神は何もしない。神は精神生命体アストラルたいで、人の不幸を糧に生きている。天災を起こせば神は満たされるが、人の数は減ってしまう。幸福にすれば糧が減るが、人の数は増えていく。つまり何もしないが正解、ということになる」


「じゃあ君は、えっと……」


「その通り。あたしに意味なんてないよ。まあ全くの無意味というわけではないがな。神は対価で返す。それが精子生命体アストラルたいの在り方だからだ。しかしあたしは人間だ。故に、神が何かをしたい時は、あたしを通せば対価という縛りから解放される。あたしにその任を託すにあたり、与えられた対価が不老と権限オーソリティというわけさ」


「なるほど。わからん」


「ふ。そうか」



 パチパチパチ……。

 また火の爆ぜる音だけが、静かに響く。



「あのさー」


「何だ」


「君は食べないの?」


「いらんよ」


「でも俺だけ食べるというのも」


「二百年ほど前に、吐いたことがある」


「は?」


「同じものばかり食べていたからだろう。つまりズボラだったからなのだが。その時からもういいかと思うようになった。パンもリンゴも魚も肉も。何もかも」


「……」


「だから―――いらないんだよ」



 この話を聞いてイラっとくる俺は、多分性格が終わっているんだろうなと思う。

 最高スペックを積んだ人間の不幸話ほど、ムカつくものはない。

 じゃあ代われよその席。

 そんなことさえ、思う。

 


 だが落ち着け俺。

 相手は少女。

 何より、命の恩人でもある。



 これでキレたら完全に頭おかしいだろう。



権限オーソリティを使ったら?」



 指を立てて、俺は提案した。



「どういうことだ?」


「いや。その能力というか、権限はどんな道具でも作れるんだよね? めちゃくちゃ美味い飯になるような道具を作ればいい。頭をハックできるような、チート調味料をさ。どうだ?」


「チート……? まあいいか。いずれにしても、あまり興味はないな」


「何故?」


「そこまでして食べたいとは思わない」



 イライライラ。

 不快指数がどんどん溜まっていく。



 宝の持ち腐れとはまさにこのことではないか。

 俺がこの権限を持っていたならば、それこそ無双できるのに。

 超絶バカかつ、人生に絶望したドラえもんでも見ている気分になってくる。



 しかし落ち着け。 

 何度も言うが、彼女は命の恩人。



 これでキレたら頭おかしいだろう、俺は。



「ぶっちゃけさ」


「何だ」


「俺って異世界人なんだよね」



 指を立てて、俺は言った。

 

【緑フェルナンテ王国】緑に囲まれた獣人フェルナンテの王国。王が二人おり、女王は内政。獣王(夫)は外政を担当する文化。ただし最終決定権は常に獣王にあるものとされる。恩には恩を。報復には報復を。の文化であるため、獣人フェルナンテがさらわれた時には戦争も辞さない。また獣人フェルナンテの習性なのか、助けてもらったものに仕えてしまうところがあり、多くの獣人フェルナンテが『自らの意思で』他国に仕えている。獣人フェルナンテがさらわれる原因の一つでもある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ