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出会い

「あ、ゴメンゴメン。モンスターがいるかと思ったら、全然違ったみたい。たはは」



 シャルルーが頭に手を当てて、ぎこちなく笑う。

 感謝はするが、その言い訳は無理がある。



「なるほど。冒険者かと思ったが……ケチな盗賊だったってわけか。やられたよ」


「盗賊だと? 俺たちが? ふざけたことを抜かすなよ、世間知らずのクソ貴族が!!」



 男が剣を振り上げる。

 同時に俺は持っていた荷物をエイフィスに放った。



 カーン!!



 固い音がした。

 多分入ってたフライパンにでも当たったのだろう。


 

 空中のものに剣を当てるのは簡単だが、斬るには相応の技術がいる。鉄製のフライパンが入ってたら尚更だ。

 俺の荷物は、エイフィスの剣に弾かれるようにして、地面に落ちた。



 エイフィスが返す刃で突きを放ってくる。

 俺はそれを、バク宙して回避した。



「な、なにィ!!」



 エイフィスが驚きの声を上げる。 

 これぐらいできて『ったりめえ』よ。

 俺はアインとキルバルトに、殺人的と言っていい調練課せられてたんだ。

 俺の体術レベルは、士官学校でも随一である。

 この程度の奴等叩きのめすのはわけない。

 俺は空を旋回させていた足を地面につけた。

 そして。

 体内で《氣》を爆発させる。

 強烈な踏み込みからの掌底をエイフィスに叩き込んだ。

 しかし。



 バーン!!



 鉄を叩いた音がした。目の前には、重戦士の男が大盾を持って立っている。



 舌打ちする。

 半歩下がった。

 だが。



 チラリと目を向けた先。

 魔法使いスライが懐からビンを出し、中に入った黒い粒を飲み干す。



 ブードゥドラッグ。



 魔術は本来貴族だけの御業である。

 魔力は貴族の血に、宿るものだからだ。

 そんな貴族だけの御業と呼ばれる魔術を、庶民が使うための方法が二つある。


    

 一つは貴族の血を飲むこと。ただし顕現しないこともある上に、死ぬこともある。これはぶっちゃけ血液型の問題と思われる。

 二つ目がこの、ダンジョンで手に入るCランクアイテム。

 ブードゥードラッグを飲むことだ。



 これを飲めば庶民でも、魔術が使えるようになる。

 しかし代償として、神に寿命を差し出すこととなる。

 故にスライとエッジだけは、異様に老けていた。



 スライが大地に手を押し当てる。



「大地よ我が願いを聞けそして応えよ。我が命、大地に宿りてその姿を具現せよ。土分身アースビースト



 大地から生えた土の腕が、俺の足首をつかんだ。



「チッ!」



 舌打ちした瞬間、後頭部に衝撃が走った。

 足の踏ん張りがきかなくなり、その場に頭から倒れ込む。



「アホが。この人数に囲まれて、勝てるわけねえだろうが」



 草の足を味わいながら、エッジの声が頭を通り抜けていった。



 ◇◇◇◇



「おい! こいつ金貨二枚しか持ってねえじゃねえか! どういうことだよスライ!」



 声が聞こえた。

 手は動かない。

 どうやら拘束されているようだ。

 背中に当たる感じから推察して、大木に結びつけられている感じか。



 目を開くと、そこには言い合いしている二人がいた。

 エッジとスライだ。



「確かに俺の能力スキルシーフ・ズ・アイは相手の所持金を看破するが欠点が一つある。それはその情報は二週間前のものである、ということだ」


「何で能力スキルにそんな意味不明な欠点がついてんだよ! お前はガキの時にそんなことを望んだのか!? 能力スキルは望んだことな能力として発現するんじゃねえのかよ!」


「俗に言う能力スキルのデフレだよ。望んだ能力スキルが全て完璧な形で発現するならこの世界はもうねえよ。というか、そもそもこんなクソみたいな能力、望むわけねえだろボケ!!」


「チッ! 金貨五十枚だぜ!? どうやったら二週間で使い込めるんだよ! ったく! 貴族って奴らはどいつもこいつも! イカれていやがる!」


「ねえねえ。本当にこの子ここに置いていくつもりなの? 可哀想だよ」


「今更だな。ここでこいつを殺さなければ、俺達が殺される」


「バカ。殺される、で済むかよ。拷問されてから殺されるに訂正しとけ」


「放っておけばこの森の神獣が始末してくれる。こいつの命を対価に森も守ってくれるし一石二鳥なんだよ。実際この森が盗賊に荒らされているのは事実だからな」



 俺は五人の会話をふらつく頭で聞きながら、思った。



 確かに……。

 矛盾している――!



 スライの話だと、あの小袋に入っていた金貨は五十枚。

 もらってすぐ盗賊に大半を渡していたから枚数までは知らなかった。

 金貨五十枚は圧倒的大金だ。

 どれぐらい大金かというと、日本円にしておよそ一千万円近くの価値がある。

 それを何故――



 アイリスは、家の中で携帯していたんだ……?



「ククク。クククク……」



 俺は思わず笑っていた。

 俺の笑い声を聞いて振り返る五人を睨めあげる。



「覚悟しとけ。俺に魔力が戻ったら、お前らは全員殺す」


「ハン。拘束された贄の分際で笑かすな」

 

「ちょっと待って!」


  

 シャルルーが耳に手を当てる。

 何かを聞き取ろうとしているようだ。



「何か大きな精神生命体アストラルたいが動いてる! ヤバいよこれ!」


「本当かよ!」


「あたしのクラスはハンターだよ!? 啓示も受けてる! 間違いないって!」


「よし! ずらかるぞ!」


「え! この子は!?」


「さっきの話聞いてなかったのか!? ここまでやったらもう引き下がれないって言ったろ!」



 シャルルーが振り返る。

 それを見て俺は笑った。



「心配すんな。また生きて、会いに行ってやるさ。殺しにな」


「だ、そうだ。おら行くぞ、シャルルー!」


「ちょちょちょ! エイフィス!」



 エイフィスがシャルルーの手を引っ張って逃げていく。

 その時。



 背後から、今までどこにいたんだよってぐらいの、巨体の獣が現れた。

 精神生命体アストラルたい故に、その姿は自由自在ってことか!



 殺されてたまるか!



 振り返って、念じた。



 殺されてたまるか!

 殺されてたまるか!

 殺されてたまるか!

 殺されてたまるか!

 殺されてたまるか!



「ふ」



 でもまあ……。



「無理か……」

  

 

 ボタリボタリと、重さすら感じるヨダレが頭上に落ちる。

 俺の頭を噛み砕くように、獣が大口開けているからだ。

 獣が上顎と下顎を閉じた時、俺の人生は終わる。



 全てを悟り、諦めていた、その時。



「動くな」



 女の声だった。

 獣と俺が振り返る。



 顔立ちは見えない。

 番傘で顔を隠しているからだ。

 傘に鈴が吊るされており、風が吹くたびに音が鳴っていた。



「ほう……」



 少女が番傘を持ち上げた。

 鈴がいっそう軽やかな音を立てる。



「驚いた。あたしの呪を跳ね返すとはな。少しはやるじゃないか。死に遅れの分際で」


「グルル……」


「しかしまあ、あたしの敵ではない。退け。決断のしどころだぞ」



 諭すように少女は言った。

 だが神獣としてのプライドが許さなかったのか、獣が少女に飛びかかった。

 巨体で覆いかぶさるようにして、少女に肉薄する。



「バカが! たかが百年の生で、このあたしに勝てると思うのかっ!」



 少女が番傘をひるがえす。

 鈴の音が荒々しく響いた。

 少女の手がゆっくりと、獣に触れる。

 そして。



闇爆破ダークエクスプロード


 

 力ある言葉を号砲に、神獣の身体が大きく膨らみそして、四散した。

 雨が降る。鮮血ではなく、漆黒の。それは身体を濡らすことなく、触れると煙になって消えていく。

 少女は黒い雨を番傘で受け止めながら、静かにそこへとだずんでいた。

 


 ――チリン。



 鈴の音が響く。少女が振り返り、番傘が揺れたのた。淡い紫の瞳が、俺を捉えた。

 ふとその瞳が見開かれる。



「まさかこんなところで会うとはな」



 うつむきながら、少女が言った。

 何を言っているのかわからなかったが、どちらかというと、悲しげな顔をしていることはわかった。



「え……」


「お前には関係のないことだ。じゃあな」


「ちょちょちょ! ちょっと待ってくれ!!」



 手をこすり合わせる。

 爆散した獣の血のおかげだろう、大木にくくりつけられたロープが焼き切れた。

 立ち上がる。

 側頭部がズキズキと痛む。

 そういや殴られたんだった。

 手で頭を押さえるが血は止まらず、今もドバドバと流れてきている。

 しかしここで倒れるわけにはいかない。



 俺にとっては、地獄に垂らされた最後の蜘蛛の糸。

 そんな気がした。



「あ、あんた! 何者だ? 何故俺を助けた? 何の目的で!」


「アホが。視界に入ったからだよ。目の前で死なれたら迷惑なんだよ」



 バタン。

 倒れた。

 意識が闇に呑まれる。

 そんな中。



「チッ!」



 舌打ちが聞こえた。



「だから目の前で死ぬなと言ったろ。ボケ」


 

【ラクシュータ公国】かつて大国だったが、三国に分かれる前のベルンツィア帝国に呑み込まれ、力が大きく低下した。南北戦争時には東ベルンツィアに力を貸し、北ベルンツィアを潰そうとしたが、その時に息子、娘、妻の全てを、戦、調略、暗殺など、ありとあらゆる方法で殺し尽くされ、残っているのは大公と孫だけである。魔法王国マジックキングダムとも呼ばれており、魔術の開発に余念がない。またベルンツィア帝国を常にかき回そうと画策している。

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