パーティ
『アイン=ローディス。マリナス大司教から、聖戦士の称号を与えられる! バーバラ侯爵の孫娘、リリーシャ=バーバラとの恋愛も順調であり、近いうちに御結婚するのではと話題!』
黒いローブにフードを被りながら、俺は新聞を見ていた。
あれから二週間経ったが、俺のニュースもベレト殺害のニュースも出ていない。
父上にとってもあまりに醜聞すぎるから、情報統制が取られているのか。
特に今は、アインとバーバラ侯のご令嬢との婚約で、色々重要な時期だからな。
俺みたいな存在を、ニュースにしたくはないだろう。
思いながら、俺はアインの白黒写真が載せられた新聞を、ゴミ箱へと捨てた。
立ち上がる。
ザグリ。
足を踏み出すと、積もった雪が音を立てる。ベルンツィア西部は寒冷地方なのだ。
「北のヒストリエ四世は、兄のヒストリエ三世を殺し、帝位を簒奪した!! これは決して許されることではない!! 講和したなどと言っているが、断じて認められぬ!! 元々ベルンツィアは一つ!! 我々西ベルンツィアが北を討ち、東を合わせ、ベルンツィアをあるべき姿へと戻すのだ!!」
右翼のおっさんが、寒い中がなり立てている。
聴衆が地味に何人かいるのが怖いところだ。
おっさんが言うように、ベルンツィアは今三国に分かれている。
分かれた理由も、おっさんが言っていた通りで、それにより戦争も起きた。
南北戦争と呼ばれるものだ。
逃げるなら北かと思ったが、南北戦争の経緯も考えれば、一応は同盟国の東か……?
だが犯罪者として引き渡される可能性も……。
ザクリ。
「おーい! 馬車入れろ! こっちだこっち! その馬車はそっち! はいおーらいおーらい!!」
全身コートに身を包んだおっさんが言った。
馬車が何台も入ってきている。
馬車を背に、商売しているものも数多いた。
ザクリ。
俺の手元には、まだ二枚の金貨がある。金貨二枚は、日本円で言えば大体四十万円ぐらいの価値がある。つまり一枚二十万円。
この世界の物価で例えると、金貨一枚で銀貨百枚。銀貨一枚で、木賃宿に三日は泊まれる。飯も、銀貨一枚あれば一日は目一杯食えるといった感じか。
アイリスはしばらくは食っていけると言っていたが、なるほど、あれだけあれば身なりを整え逃亡資金も加えた上で、三年は食べていけたかもしれない。
給料も決して多くないだろうのにさ……。
ザグリ。
また雪を踏みしめる。
キィ……。
扉を開いた。
ギルドの扉である。
金貨はあると言ってもいずれは底をつく。どうにか稼がねばならない。
全てにおいて無知な俺が稼ぐ手段として考えたのが、冒険者だ。
もちろん適当である。そりゃそうだ。現世において、ド底辺の存在でしかなかった俺に、この状況の最適なムーブなんてわかってたまるか。
さてどうするか。
とりあえず簡単な依頼……。
スライムか? スライムを狩ればいいのか?
ゲームならそれが定番と言ったところだが……。
「そこの君。ちょっといいかな」
ギルドに張り出された依頼を見ていると、声をかけられた。
振り返ると、そこには戦士風の男が立っていた。
「俺はエイフィス。仕事を手伝わないか? 仕事内容は、旧道から森深部にかけてのモンスターの討伐だ。ちなみにあっちにいるのが、俺の仲間だ」
男がガントレットをはめた親指で後ろを指す。指された先のテーブルに、三人の男と、一人の女が座っていた。
「オグマだ」
重戦士風の男が言った。
「俺はスライ。よろしくな」
魔法使い風の男が言った。
「エッジ」
僧侶風の男が言った。
「えっと、あたしはシャルルー。で、でもあのさ! 嫌だったら断ってくれてもいいんだよ!? ほ、ほんとに!!」
ハンターの女が言った。
自慢じゃないが、俺は前世でも今世でも童貞である。
何もしてなくてもこうして、女から嫌われたりしてしまうのだ。
地味に傷つくが、状況が状況だけにただ薄く笑った。
「おいシャルルー!」
戦士風の男が強く叱責した。
女を怒るのは、度胸がいる。
誰だって女には嫌われたくないのだ。
それでもしっかり怒ってくれた。
多分このエイフィスって人は、いい人なのだろう。
「いや、すまないね。うちの仲間が」
「いいよ。別に」
「で、どうかな? 俺は一人より大勢だと思ってるんだけど……」
まさか俺の状況など知るまいが――むしろ知ってたらヤバい――言っていることは事実である。
俺の捜索が出てるとしても、『一人』でいる可能性が高いと向こうも考えているはず。
パーティに紛れていれば、少なからず見つかる可能性は減るかもしれない。
「……わかりました。じゃあ一緒に連れて行ってもらっていいですか?」
「決まりだな。馬車の手配もこっちでするから安心してくれ」
肩を叩かれるようにして、俺はパーティと一緒に外へと向かった。
◇◇◇◇◇◇
西ベルンツィア旧道。
マルタの森。
「ここは錐行の陣で行こう」
森に入ると、リーダーであろう戦士の男が言った。
「正面にはサイモン君。二列目に俺とオグマ、三列目にシャルルー、エッジ、スライ」
ちなみにサイモンは俺が適当につけた偽名である。それはさておき――
「俺が正面か?」
「身軽そうだからね。ああモンスターが現れたら、君は横に避けてくれていい。囮といえば言葉が汚いが、注意を引きつけてほしいのさ」
「……」
まあ、同行させてもらっている身だ。
強くは反対できない。
いざとなったら、即トンズラかませばいい。
ぶっちゃけ、こんな奴等どうなろうと知ったことか。
「わかった」
言って、俺は前に出た。
その時だった。
「ワーッ!!」
シャルルーが声を上げるので振り返る。
その先で、オグマとエイフィスが剣を抜いていた。
こいつら……まさか。
【北ベルンツィア】。皇帝暗殺により、帝位簒奪した皇帝が治める国。その卑劣な行いから当時の侯爵と公爵が反発し、国を三つに割る元凶を作った。北、東、南の三国から締め付けられたが、最終的にはどこよりも国力を上げている。蒸気機関の発祥の地でもある。




