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兆候

 ガキぃん!!



 剣と剣をぶつけ合う。

 アインがかみ合った剣を力強く横に振るうので、俺は押されるまま後ろに下がった。

 


 態勢を崩す俺めがけて、アインが突撃してくる。俺はそれを冷静に見据え、迎え撃った。



 ガキぃん!!



 また剣がかみ合う。

 その時。



 ガバリ。



 服を掴まれる。

 身体とマントで死角にしながらだ。



「風よ我が声を聞けそして応えよ。空を貫く力よ」



 チッ!

 こいつ!



 呪が禁止されている大会だってのに!



「この手に宿って弾け散れ」



 この野郎!

 そっちがその気なら――

 

 

風烈弾(ガストブラスト)!」



 アインが呪を唱え終わる。

 まるで腹に巨大な鉛玉でもぶつけられたようだった。

 ヨダレをまき散らしながら吹っ飛んだ。

 地面に両手足をついて、うずくまる。



「ガハ! ゲホ! ゴホゴホ!」



 何度も咳き込む。

 そしてうっすらと開いた目で正面を見据えた。



「チッ……っ!」



 アインが剣を地面に突き刺し、地面を見つめながら、フラフラと震えていた。

 


 クソ!

 貫けなかったか!



 風烈弾ガストブラストをぶち込まれる寸前に、飛び上がってアゴを蹴り上げてやったんだがな。

 十三歳の俺の身長タッパじゃ、クリーンヒットしきれなかった!

 


「殺す……!」



 剣を抜きながら、アインが言った。

 くそったれのアインのことだ。

 マジでやる気だろう。

 俺はこれから殺されるかもしれないってのに、割と淡々とアインを見つめていた。


 

 過去のことを思い出していたのだ。

 走馬灯じゃない。



 別に『ぶっ殺してもいい奴だった』なと、再確認していただけだ。



 俺は笑った。

 


「お前さー。わかってるよな?」



 膝についたほこり払いながら、俺は立ち上がる。



「殺すって言ったからには、自分も殺されるかもしれないって」



 パン。

 と、両の手を合わせた。

 それを見て、アインがニヤリと笑う。



「ハッタリか? 『今の』お前に俺は殺せない。お前はもう天才じゃないんだよ」


「殺せるんだよ。それがさ。――アーストゥエバーグリーン!」


「ア、アーストゥ、エバーグリーン……だと?」



 闘技場がひび割れ、破片が舞い上がる。

 合わせた俺の両手からは、バチバチと雷が走っていた。

 


 この世界には魔術の他に、十五年の間に望んだことを具象化する、能力スキルという術式がある。

 アインなら『モンスターに対して全ての能力を二倍』にする『光の剣』を持っている。

 俺は今発動しているこの術式『アーストゥエバーグリーン』が、産まれた時から刻まれていた。

 恐らくそれは、俺の実年齢が、異世界前のものも含めると、十五歳を優にこえているからであろう。



 その効果は――



 地球から、この世界エバーグリーンに、一つだけ何でも持ち込める、というものだ。

 


 バチバチ。

 バチバチ。



 手の中で雷がほとばしる。

 何を呼び出してやるか深く考えていなかったが、俺の殺意に呼応してか、手の中にズッシリ重いものが現れ始める。



 拳銃だなこれは。

 丁度いい。



 どうせこの世界には再生リザレクションという術式があり、脳みそさえ吹き飛ばなければ大体治る。痛みはあるけどな。



 最後にお前に教えてやるよ。

 陰キャがブチ切れた時が、一番怖いってことをな。

 


「我が今求めしものを、この場へと転送――」


「ヒッ! あ、ああ……!」



 アインが怯えた顔を見せた。

 


「審判! 反則だ! 反則! こいつ! 魔術を使おうとしているぞ!」

 


 魔術だと?

 クソボケが。

 そんなもの使えたら苦労しねえんだよ。



 もしも俺に魔力が戻っていたなら、真っ先にてめえをぶっ殺してるわ。



 いや待て。

 両手を見て、床に転がった自分の剣を見た。

 そこに自分の姿が映っている。



 その瞳は黄金に輝いていた。



 魔呑症!?

 急激に魔力が膨れ上がると、瞳の色が変わり、心が殺意に支配される魔術現象。

 まさか―― 

 


 魔力が、戻りかけ――!!



「ぐはっ!!」



 その時。

 思い切り腹をどつかれた。



 ずざざざざざ。



 地面をこすりながら俺は吹っ飛び、闘技機から転げ落ちた。

 腹を押さえながら、何度も咳き込む。

 見上げた先にいたのは、副審であり、ローディス家の剣術指南役兼アインの護衛。

 キルバルト。



「おいおいどうなってんだよこれは!」


「反則だろ!」


「いやそもそもアインが先に魔術使ってなかったか!?」


「侯爵の孫の許嫁だからってエコ贔屓ひいきかよ!」



 そこかしこから声が上がる。

 


「大丈夫? クロ。今、再生リザレクションをかけてあげるね。我の心に汝あり。汝の心に我はあり。我、偉大なりし汝の御名、ロシエリンデの名を知る者なり。今こそ汝の癒しの力、我が想い人に分け与え、今ここに命を創生せよ。再生リザレクション



 話しかけてくれたのは、客席から下りてきたカトリ姉さんだった。

 俺の折れているであろう肋骨に手を当て呪を唱える。



 クソ。

 あいつら……。



 心の中で毒づきながら、手を見つめる。



 やはり魔力は戻っていない。

 一過性?

 それとも魔力が戻り始めているのか。



 チッ!!

 もしも魔力が戻ったら、アインの野郎をぶっ殺してやったのによ。

 悔しいぜ。



「競技の結果! 双方魔術を使ったとして、両者失格! 両者失格とします!」



 審判の声が響き渡る。

 そして御前試合は、ベレトの優勝で幕を終えた。



 ◇◇◇◇



 父ディスケンス=ローディスが統司する村。

 ブリンストン。



 緑一杯で、茫洋とした田舎の村に、一際大きな屋敷が立っている。

 その屋敷の居間で、ローディス家の家族が食事をとっていた。



 長テーブルの上には、豪勢な食事がたくさん並んでいる。



 ベルンツィア最強の剣士にして男爵。ディスケンス=ローディス。

 その妻であり四伯爵の一人、ゼクス伯の娘。シエル=ローディス。

 長兄アイン。

 次兄ベレト。

 長女カトリ。

 俺。

 そして次女にして末っ子のエイチカ。 

 父上と母上の後ろには、護衛として四人立っている。



 父上の護衛。長槍のテリー。

 母上の護衛。重戦士のナイツ。

 そして。

 剣術指南役のキルバルトと、魔術指南役のアイリス。

 

 

 この四人は、ローディス家の人間が食べ終わった後、ヒマを見て食べることになっている。



「父上」



 布巾で口を拭き、手を上げながら、ベレトが言った。



「これから少し、お時間をいただけないでしょうか?」


「……。何故かな?」


「前の御膳試合をみていて、わかったことがあるからです」


「ほう。それは別に構わないが――」



 わかったこと……?

 何のことだ……。



「ふむ。それは構わないが――」


「待て!! ベレト!!」



 がちゃんとテーブルを叩いて、アインが立ち上がった。



「どういうつもりだ……? お前」



【ラムゲイト大陸】南東に位置する大陸。大大陸は全部で四つある。物語の舞台でもある。またラムゲイトととは、神魔戦争時代の英雄の名前でもある。彼がその地を復興させようとした時に人が集まり、やがてその名前がついた。

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