光と闇と
光の剣。効果モンスター特攻。モンスターと対峙した時、瞬発力、耐久力、心肺機能、魔力、装備の強度、威力、全てが二倍となる。
ずっと不思議に思っていた。
スキルは、十五年の歳月で経た経験や願望によって効果が決まるもの。
なのにアインのスキルは何故、光の剣なのか。
アインの人生に、魔物と多く関わった経歴はない。それなのに、アインがスキル光の剣を会得できるのはおかしい。しかしその答えが今わかった。
こいつはずっと、俺のことを魔物と思い定め、それをいつか討ち果たすことを目的に、生きてきたんだ……。
「行くぞ、クロ!!」
「チッ!!」
光の奔流となって突撃してくるアインの剣を、俺は舌打ちして迎え撃った。
剣と剣が打ち合い火花が散る。
斬れる。
その隙は何度もあった。
しかしその度に剣が止まる。
斬ろうとする度に、俺がもっとも嫌いな人物が、目の前に現れたからだ。
《はぁ……。お兄ちゃんはできるのに、どうしてこの子はこうなのかしら》
夕暮れ時。
母親の声が脳裏で響く。
この世界の母のものじゃない。
転生する前の、母親の声だ。
俺をみてはため息をつく。
心底嫌いだった。
だが何よりも嫌いだったのは――妄想で呪うことしかできなかった、無力で底意地の悪い、自分自身。
ギィン! ギィン! ギィン! ギィン!
麦の穂が、風で揺れるのが見えた。
石造りの井戸。
まわりでは村の女たちが洗濯物を干しながら談笑している。
これは転生先の故郷。ブリンストンの記憶だ。
《ベレト様もすごいけど、やっぱりクロード様よねー》
《そうね。盗賊にさらわれたカトリ様を三歳て救い出したぐらいだし、話しててもまるで大人と話しているかのよう。何より貴族とは思えないほどお優しいの》
《それに比べてアイン様は……》
《本当に長男なのかしら?》
《何年も早く産まれているのに――ベレト様やクロード様に、何一つお勝てになれないなんて……》
俺は確かにそれを聞いていた。
だがそれを聞いて俺は、心を削られることもなく、ただ静かに、笑った。
ああ。
俺はついに、こっち側に来たんだなと。
そう思ったからだ。
「風よ我が声を聞けそして応えよ。空を貫く力よ、この手に宿って弾け散れ。風裂弾」
「チッ!」
俺は飛び上がり、アインの魔術を回避した。だが頭上。洞窟の天井に、アインが足をつけ剣を振りかぶっていた。
「遅い!!」
天井を蹴り飛ばし、袈裟斬りに剣を振るうアイン。俺はそれに剣を合わせた。刃と刃が噛み合い火花が散る。
まずいな。アインの強烈な思い込みのせいか、光の剣の効果が剣と蹴り足に乗っている。
ただのブロードソードじゃ止めきれない。
ガキィン!!
剣がへし折られ、血が舞った。
俺は石畳に足をつき、後方に大きく下がった。
とっさに投げたナイフがいい牽制にはなったのか、アインはその場から動くことなく、剣先を石畳に向けながら、荒々しく息をついている。
「勝てる!! 勝てるぞ!! 今度こそ僕は、クロに勝てるんだ!!」
アインの全身から、光の粒子が炎のように立ちのぼる。
狂気にも似たその執念。昔からこいつのことが嫌いだった。
歪み淀み、異臭さえ放つその精神性。死ねよと常に思っていた。
だが、心の奥に沈む声が、小さくささやく。
本当に歪んでいるのは、あいつか?
いや。
俺じゃないのか?
俺がこの世界にとっての異物だった。俺がすべてを狂わせた。
もし、俺がいなければ――
アインはもっと、変わっていたんじゃないのか……?
「何だ。まだ片付けてなかったのか」
透き通った声と共に、アインの背中側にある階段から、ライザが姿を現す。
俺達を見て、ライザは少し困惑した顔を見せた。多分俺が、この程度の相手に手こずっていたからだろう。
「う、うぅ……」
ライザが足下に目をやった。
アインが先程運んだキルバルトが、うめき声を上げていたのだ。
正直ちょっと驚いた。
まだ生きてたのかこいつ……。
五回は死ねる一撃を与えたと思ったんだけどな。
なんて硬さだ。
マジで老人か?
「よせ!! キルバルトに手を出すな! 僕が許さないぞ!」
正義面して、アインが言った。
どの口がと思いつつ、斬ろうと思うとまた過去の自分が顔を出してくる。
誰かと比べられ続け、歪みひねくれていった自分が。
「そうか。こいつもか」
アインの言葉を無視して、ライザが腰を下ろした。キルバルトに光る手を当てる。
再生をかけようと言うのだろう。
うめき声をあげれるだけでも奇跡と言えるほどの致命傷を与えたと思ったが、ライザの再生なら治るだろう。
まあ再生衝撃――治癒力の強化により体力が摩耗しすぎること――で今度こそ気絶するだろうが。
「人間一人をここまで壊しておいて今更迷いも何もあったものじゃないな、クロ。お前のそれは迷いじゃない。優しさでもない。浸っているっていうんだ」
目を開く。
浸っているって言うんだ。
この台詞は――
『ぶっちゃけ浸ってるだけだと思うよ。自分の力に酔いしれてさ』
三年前。
俺がライザに言った言葉と、同じだ。
「お前はあの時あたしに同じことを言った。あの時のお前がそうだったように、あたしもまた、お前のしみったれた考えに付き合うほど優しくはない。ただバカめと思うだけだ」
パンパンと服を払いながらライザか立ち上がる。
再生は終わったようだ。
手を前に出す。
ライザの全身から莫大な、ダンジョンを揺るがすほどの高魔力が放出される。
「お前が消えるとあたしも色々と不都合なんでな。どけ。お前がやらないなら、あたしがやってやる。一撃で終わらせてやるよ。――魔術の何たるかをお前らにみせてやる」
マジで言ってるもんなー。
この人……。
恐ろしい奴。
こいつ本当に神の代理人か?
情がないにも程があるだろう。
だがしかし――
吹っ切れすぎてて、逆に笑っちまうんだよな、これがさ。
俺は立ち上がって、折れた剣を横に構えた。精神を集中する。
「闇の精霊よ。我が声を聞け。そして応えよ。我が手に集いて、全てを切り裂く刃と化せ。暗黒剣」
剣を振るった。
剣は半ばから折れているにもかかわらず、石畳を切り裂き煙を上げた。
「悪いな、アイン。待たせちまったが、今更ながら思い出したよ」
「何をだ!」
剣を構える。
俺は口の端を持ち上げ言った。
「俺はお前のことが――ずっとずっと、嫌いだったってことをだ! 来い! アイン! 一撃で終わりにしてやるよ!」
アインが呆然と俺を見据える。
そして。
吹き出すようにして、アインが笑った。
「何を今更ほざいていやがる! かかってこい、クロ! 今日こそは僕が勝つ!」
アインが光の弾になって突っ込んでくる。
俺も同じく突っ込んだ。
アインは突進力を殺さぬままの上段振り下ろし。
俺は身を低くしての下段からの切り上げ。
光と闇が衝突する。
そして――
古代魔術。突如として世界に現れる、ダンジョンに存在する魔術。覚えると精霊魔術が一切使えなくなるが、非常に変わった魔術を習得可能。




