再会(三人称視点あり)
◇◇◇◇三人称継続◇◇◇◇
「やっぱりあんただったのね。アイン」
カトリが言った。
アインは茫洋とした目で、カトリを見下ろしてる。
その目には、昔にはなかったクマがあった。
「相変わらずバカだなお前。俺を糾弾してられる状況か? 俺がお前を助けに来たとは考えねえのか」
「考えるわけないでしょ気色の悪い。目の下にクマまで作って何やってるわけ? バカじゃない? 小心者なら小心者らしく、大人しくしてなさいよ」
ガン!!
アインが牢屋を蹴り飛ばす。
カトリはそれを鋭く見据えた。
「いい度胸だな。お前も死んでおくか? カトリ」
「どうせ殺す気なんでしょうが」
「いや。お前を殺す気はない。どうせなら、俺とリリーシャ様がより強く結ばれるための、礎となってもらう。――こいつでな」
アインが胸元から小瓶を取り出した。
中には黒い粒が無数に入っている。
「ブードゥドラッグ!?」
「御名答。本来庶民が魔術を使うための闇商品だ。代価として寿命を必要とするがな。こいつには面白い使い方がある。三日水と飯を抜き、胃の中を空にしてから二十粒以上を同時服用する。どうなると思う?」
「もったいぶらずにとっとと言いなさいよ」
「聞くところによると、人格が壊れるらしい。具体的に言うと幼児退行する。そして決して戻らない。ここの囚人で何人か実験済みだ。確かだよ」
「……クズ野郎」
「何とでも言え。さて」
アインが懐中時計を取り出す。
時間を見てアインがニヤリと笑う。
「念の為に四日待ったが、だが更に念を入れて後三時間待つことしよう。死なれても困るんだ。ぶっ壊れたお前を俺が救い出す。そうすることで、俺の邪魔をするものは消え、更に俺の評価があがることになる。家督を継いだ後の弟妹なんて邪魔なだけだからな。ここでお前の命を使わせてもらうことにするよ」
「呆れた。やっぱりあんたなんじゃない。ベレト兄を殺したのは。何が『そんなはずはない』よ。こんな時まで下らない嘘つかないでくれる? うざいから」
「残念だったな。あれは本当に俺じゃない」
「嘘つけ」
「お前は何もわかっていないな。いいことを教えてやるよ。カトリ」
アインが鉄格子をつかんで、カトリを見下ろす。
その口は三日月かと思うほどに、歪んでいた。
「ベレトを殺したのは――父上だ」
カトリとアインが睨み合う。
まるで時が止まったかのように。
「でまかせを! お父様を愚弄するな!」
「心底バカだな。ベレトが殺された日の前後を思い出してみろ。あいつは父上と話した後に殺されているんだぞ?」
『これから少し、お時間をいただけないでしょうか? 前の御膳試合をみていて、わかったことがあります』
カトリの頭の中に、家族で食べた、最後の日の光景が思い浮かぶ。
「犯人は俺じゃない。キルバルトでもない。アイリスでもない。お前でもない。クロでもない。母上でもない。当時六歳のエイチカは論外。残っているのは、ナイツ、テリー、父上、暗夜の長ギークくらいのもので、ナイツを除いて全て父上の手足みたいなものだ。つまり誰であっても実質犯人は父上なんだよ。それ以外あり得ない」
「そ、そんな……」
「これが現実だカトリ。俺達貴族にとって、家族というのは邪魔者でもあるんだよ。家族を担いで自分が成り上がろうとする者がいるからだ。ベレトは強すぎた。だから、リリーシャ様との関係を進める俺の邪魔になる可能性があった。だから――父上はベレトを消したんだ。そういう人だよあの人は。昔からな」
「クッ!!」
ギリリと、カトリは歯を噛み締めた。
「ふざけるな! お父様がそんなことをするはずがない! よりにもよってお前みたいなクズ野郎に! 血が繋がっていることさえ虫唾が走る!」
さすがに言い過ぎたのか、アインのこめかみに青筋が走った。
ガシン!!
アインが力強く格子をつかんだ。
「全く同意見だよ。俺も虫唾が走る。お前らと半分でも血が繋がっていることがな」
「え……」
半分?
「だが覚えておけよゴミども!! 俺達は絶対に消されない! 本当の母様や、姉様のためにも! 俺達は必ず生き残る! 絶対にだ!」
本当の母様や姉様?
こいつ……。
何を言って――
「ふーん。驚いたな。ベレト兄を殺したのは、兄さんじゃなかったのか?」
突然の声の乱入に、アインとカトリが振り返る。
「放っておけば他にも色々聞けそうだったが、まあそんなことは、お前をとっちめてからまとめて聞けばいいことだ」
二人の顔色が変わっていく。
姿や態度は変わっても、声色は変わらないのだ。
驚愕に顔を染めるアインを庇うように、キルバルトが前に立つ。
それを見て、黒いコートの男は笑った。
肩を揺すって笑いながら、丸いサングラスを持ち上げる。
「久しぶりだなー」
その声からは隠しきれない愉悦が漏れていた。
「兄さん」
魔呑症の証。
黄金の瞳を光らせて、次兄殺しの冤罪をかけられたクロード=ローディスが笑った。
◇◇◇◇ここから一人称◇◇◇◇
「「クロ!!」」
アインとカトリ姉の言葉が重なる。
キルバルトは俺を鋭く睨み据えたままだ。
「バ、バカな……」
アインが一歩下がった。
その身体は産まれたての子鹿のように震えている。
「お前……魔力が……」
「ああ。おかげさんでな。戻ったよ。アイン兄さーん」
「坊ちゃん」
アインを守るように手を出したのは、キルバルトだった。
下がるアインとは対照的に前に出る。
その勇ましさが、逆に俺の頬を緩ませる。
「ここは私がやりましょう」
「クク。ククク……」
サングラスを持ち上げながら、俺も前に出る。
キルバルトはやはり俺を見据えている。
しかしその顔が――
「うっ! まさか! こんな――」
徐々に驚愕に染まっていく。
いや、恐怖か?
キルバルトの顔が、脂汗でまみれる。
『お前が叶えたい願いというものは。復讐なんて矮小なことではない。そうだな?』
頭の中で誰かの声が響く。
俺は――
「覚悟。できてるよなー? キルバルトォー」
それが誰のものだったかもよくわからず、段階的に魔力を膨らませながら、笑った。
【神降ろし】一応は黒魔術に属し、神降ろしはその極致と呼ばれる。発動すると辺り一帯が吹き飛び戻ることもない。精霊魔術に近いが呼び出しているものは精霊でもないため、黒魔術に分類されている。またその威力もあり使い手が非常に少なく、歴史的に使えたとされるのは三人のみ。またその威力から全員に魔王の異名がついている。しかし時折地形が変化していることから、大陸に一人から二人は常にいるのではとされている。主人公もまた、神降ろしの使い手である。




