第九十四話 応募だけ的な
昼頃に起きると既にアリスの姿がなく、朝早くから出掛けてしまったようだ。
勤勉だなぁ。とりあえず、着替えて街でも散策しようか。
「あ、おはようございます」
「おはようございます」
部屋を出ると今日も元気に働く宿娘さんの姿があった。
「今日はあの子と一緒じゃないんですね」
「なんか1人で出掛けるって朝からどこかへ行っちゃいましたよ」
「1人で大丈夫なんですか?」
「ああ見えて、そこら辺チンピラとかよりも数段強いので問題ないですよ」
「強い、ですか……? あんな小さい子が」
「なので大丈夫です。それよりも少しお伺いしたいことがあるんですが」
「なんでしょうか?」
首を捻って頭の上に、はてなマークを浮かべる。
そんな大したことじゃないから安心して。
「ギルドに行きたいのですが、どこらへんにあるのかな……と」
「ギルドですか? それでしたら先日行った方角の少し左側の方に大きな建物がありますから、すぐにわかると思いますよ」
「ありがとうございます。それなら大丈夫そうです。行ってみます」
「気をつけてくださいね」
宿娘さんに手を振られながら宿を離れ、ゆっくりと歩き出す。
冒険はしないけど登録だけでもしてみたい。異世界らしいことを1つくらい体験しておかないとね。
「えぇと……。多分ここらへんにあるはずなんだけど」
昨日の浜辺の方へ歩いてギルドの建物を探す。
それっぽい人についていけば……。
「おぉ、あったあった。結構大きいな」
角を曲がると、大きい建物が1つだけ目立だている。
たぶんこれがそうだろう。期待に胸を膨らませて扉を開く。
小説やアニメの様にきっと賑やかで酒を浴びてる奴がいるはずだ。あれ? お酒ってレアなんだっけ……。
お酒がなくても骨つきの肉とか野生的なものを食べてる奴がいるかもしれない。
中へ入ると、ガヤガヤとした喧騒が耳を襲う。
数人のまとまりがあちらこちらで騒いだり言い合ったり、1人でブツブツと壁に向かって話しかけているやつもいる。
賑やかなのはいいけど、なんか思ってたのと少し違う……。酒場みたいなイメジだったのに。
奥にそれらしいスペースはあるものの何かを食べたりしている人は少ない。
「こんにちわ」
入り口から動かず辺りを観察していたからだろうか、職員さんらしい男性に話しかけられた。
「あ、こんにちわ?」
「ここに来られるのは初めてですか?」
「わかりますか」
「だってそんな珍しそうな顔して突っ立ってれば誰でもわかりますよ」
そういって笑われてしまった。
なるほど……。初心者プレイしてしまっていたらしい。
「それにここに来る人は大抵決まってますからね、顔見知りか依頼に来る人か」
「なるほど」
「それで今日は何しにここへ?」
「登録ぽいことをしに来たんですが……」
「でしたらこちらですよ」
そう言って奥の受付の様なところへ案内される。
「ここでできますから。詳しくはギルドの方に聞いてください。私はこれで」
職員じゃなかった……。ただのいい人でしたね。
心の中でお礼を言って受付に向かう。
登録だけして街の探索にいこう。
「すいませんー」
「はい。どうなさいましたか?」
「初めてくるのですが、登録的なのをしに来たのですけど……」
「え? あ、依頼ですか?」
「いえ、多分違いますね。ここにいるみんなと同じ様な……。アイテム売ったりお肉売ったりする感じの」
そんなにひ弱そうに見える? 確かに武器とかも装備してないから仕方がないのかも知れないけど……。
「そうでしたか。失礼しました。それではこの紙に記載事項を書いていただいてもよろしいですか?」
「わかりました」
渡された紙にスラスラと書き込んでいく。
名前に住んでるところ……。領地の話かな? ベルドナード領っと。
あとは使用武器? こんなの書く必要あるか? ない奴はどうすれと……。
登録するなってことです。わかってますよ。
ここまでましたら登録しておきたいので、てきとうに剣と書いておこう。別に実力見せてとは言われないだろうし。
「終わりました」
「では、少しお待ちください」
事務処理はやはりどこの世界も時間がかかるね。
待っている間に近くの紙がたくさん貼られている、掲示板の様なところを覗きにいく。
「なるほどこれが依頼とかなのね」
先ほど受付の人が言っていたものだろう。
他にもモンスターの出現情報や討伐などいろいろだ。
アリスの言っていたイカの紙もある。だけど相当古びていて長らく解決してないことが伺える。流石に海の中で討伐しに行く猛者はなかなかいないのだろう。
賞金が1匹につき銀貨8枚。アリスの話だとうじゃうじゃといるはずだから倒せたら物凄い稼げるのでは……?
討伐だけだし、本体は貰っていいんだよね? それならイカで色々作れるからアリスに頼んで……。
「ユウタさんー」
どうやら終わったみたいだ。
手早く受付に戻って終わらせちゃおう。
「すいません」
「いえ、登録が完了しました。これで大丈夫ですよ。こちらをどうぞ」
受け取ったのは小さな銅貨。間違えて使っちゃいそう。これは功績をあげたりすると銀とかになっていくやつかな。
「何に使うんですか?」
「ただの証みたいなもので特にはありませんね……」
「いいんですかそんなんで」
「まぁ、記念ですね」
さいですか。
お礼を言ってとりあえず建物を出る。
このまま街を練り歩きますか。