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第九十三話 焼き海胆。


「多分これが1番美味しいと思いますよ。さっきのに違うのを1つ足してみただけなんですが」


 同じように2人に手渡す。

 貝に残った汁は全部回収して容器に移して保存しておこう。

 これで炊き込みしたら絶対に美味しいよね。


「おかわり」


「ないよ」


 それを聞いたアリスはまるで大好きなお菓子を落としてしまった子供のような、絶望と悲しみに染まった顔になってしまった。

 食べたいなら牛乳の生産を始めないといけないよ。殺菌とか何も無いから生乳でお腹壊しそうだけどね。


「こっちの方が美味しいですね……。生きてきた中で1番美味しいものかもしれません。お客さん何者ですか」


「ただの旅行にきた暇人ですよ。それにここの宿のご飯だって美味しいじゃないですか」


「そうかもしれませんけど……。それくらい衝撃的といいますか」


「まぁ、なかなか食べられるものじゃないですから。ラッキーだったと思ってください」


 それじゃあ、お楽しみの焼き海胆の出番だ。

 同じように真ん中を丸く、くり抜く。

 すると貝の中で蒸された海胆と磯の香りが混じり合った湯気が立ち昇り食欲を唆る。


「わさびしょうゆとかがあれば完璧なんだけどなぁ」


 取り出して口に運ぶ。

 生で食べる時とは違って甘みが増して食感もしっかりといている。

 ジュースと飲みたい。え? お酒は未成年なのでちょっと……。

 今度ジュースも作り置きして置こうかな。果汁100%なんて絞るだけだし、すぐでしょ。ローゼにやらせよう。


「ん」


 みると2人とも此方を見つめてよだれを垂らしている。

 あげるの忘れてた。これじゃ独り占めしているみたいじゃないか。

 一口ずつ口に放り込んで残りは食べちゃおう。1つじゃ量もしれてるからね。


「今日はこれで終わり」


「ユウタ」


「ん?」


「ここに住もう」


「ローゼが悲しむぞ」


「尊い犠牲」


「そんなことしたらローゼのことだからここまで乗り込んでくるんじゃないかな」


「迷惑」


 そこまだ露骨に嫌そうな顔をしなくても。

 ローゼ可哀想じゃないか。ローゼだって大事な人手なんだからね?


「だいたい住むところないでしょ」


「あれ」


「ん?」


「もらった紙」


 はいストップ。その話はここでは禁止ですよ?

 アリスの口に手を当てて言葉を遮る。厄介ごとはごめんなんだ。


「紙……? なんの話ですか?」


「あ、気にしないでください。この子の戯言です!」


 貴族と面識があると言うだけで普通には過ごせなさそうなので出来るだけ伏せておきたい。


「そう……ですか。私はそろそろ戻りますね。サボってるのばれたら怒られちゃうので。美味しいものありがとうございました」


「はい。こちらこそ庭使わせていただいてありがとうございます。また夕食の時に」


 手を振って宿娘さんと別れ、腕の中で暴れるアリスを解放してあげる。


「余計なこと言わないの」


「暴力!」


「冤罪」


 可愛い幼女に手なんて出したらフェミニスト達に殺されてしまう。


「むぅ」


「とりあえず今日はもう終わりかな。後は乾いたらまた洗って干してを繰り返すだけだよ」


「ん。明日は?」


「ん〜。どうしようかなぁ」


「出掛ける」


「珍しいね」


「潜る」


 アリスなら大丈夫だろうし、こっちもこっちでぶらぶらしようかな。

 テングサは使える前にかなりかかりそうだからなぁ。雲丹の処理とか街の探索とか色々やることはあるし。


「了解。それじゃ、明日は各自で行動しようか」


「ん」


 明日に向けてご飯までごろごろして過ごしますか。

 今日のご飯はなにかな?



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