第五十八話 ソース作り。
「まずはスライスした玉ねぎを飴色になるまで炒めます」
「飴色ってどんな色でしょうか……?」
こっちに飴はないんだっけ。
「茶色っぽい感じですよ」
「なるほど」
熱心にメモするルネさん。
「次に野菜を全部小さくカットします」
人参、トマトに林檎。林檎って果物だけどね。
「結構な量ありますね」
「まぁ平行してやればいいですよ」
大きい鍋に水を4リットル入れてその中にアリスと採ったスパイスと香辛料とニンニク、生姜チューブを入れで火にかける。
にんにくと生姜の地球産が尽きました。
「この中に切った野菜をどんどん入れてってください」
「わかりました!」
「あ、あと玉ねぎこのくらいが飴色です」
飴色になった玉ねぎをルネさんにみせる。
「かなり茶色ですけど焦げてはいないんですね……」
「こうすると玉ねぎの旨味がでるんですよ」
確かね。普段気にしないでやってるからちょっと自信がない。
「勉強になります! これはよく使うんですか?」
「玉ねぎのスープを作るときとかにもこうやって炒めますよ」
「玉ねぎでスープですか……。考えたこともなかったです」
「美味しいですよ。今度作って見てください」
「やってみます!」
ルネさんと楽しく雑談しながら作業を進める。
「野菜全部入れ終わったので沸騰したら弱火にして1時間です」
「それで完成ですか?」
「その後に他に足してまた30分火にかけます。その後にお酢を入れて一晩寝かせるんですけど……。鍋の中身を全部潰してドロドロに」
「工程多いですね……」
必死にメモをするルネさん。
「そしてそれを布で濾して鍋で煮詰めたら完成です」
「煮込んでる時間が多くて手が空きますね」
「その間にちょっとドレッシングを作りたいんですよ」
「ドレッシングですか? マヨネーズ?」
「とは別ですね。新しいのですよ」
「新しいのですか!?」
うお、凄い食いつきだな。
「はい。ビネグレットと玉ねぎのドレッシングです」
「材料は何が必要ですか?」
「玉ねぎにお酢とレモン汁があれば玉ねぎの方は作れます。こちらにないものもありますので」
「ヴィネグレット? のほうは?」
「そっちは簡単ですよ。お酢と油と塩胡椒です」
「誰でもできそうですね。では持ってきますのでお待ちください」
ローゼ以外はね。
ルネさんを待つ間にソースの鍋を軽く混ぜたり泡立て器を出したり。
「お待たせしました」
「簡単なヴィネグレットから作りましょうか」
「わかりました。ボウルだけでいいですか?」
「はい。混ぜるだけなので」
ルネさんが持ってきたボウルにお酢を入れて塩胡椒をふりかけて軽く混ぜる。
「それじゃあルネさん油をマヨネーズの時みたいに垂らしてください」
「わかりました」
油を垂らしながらお酢と混ぜて完成。簡単でしょ?
「これで完成ですよ」
「あっという間ですね」
「使うときに毎回軽く混ぜであげてくださいね?マヨネーズと違って分離しますから」
「わかりました。では次は玉ねぎのほうを!」
「元気ですね……。まず玉ねぎを微塵切りにしてくれますか?」
「新しい料理を知るのはいつでも大歓迎です。わかりました!」
ルネさんに玉ねぎの処理をして貰ってる間に必要なものを計っておく。
みりんに鰹節に醤油に砂糖にお酢。
レモンもカットしてレモン汁を絞っておく。
「ユウタ様終わりました」
「ありがとうございます。それじゃあこの材料を全部混ぜてきます」
「何を用意したんですか?」
みりんを火にかけながらルネさんに説明していく。
「って感じですね。みりんと鰹節と醤油はまだこちらにはないので代用しましょうか作るときは」
「何で代用できるのですか?」
「みりんはお酒と砂糖……ですが日本酒や料理酒はないので透明なお酒ですかね?」
多分白ワインだろうけどワインの説明が面倒くさいので省略。
「なるほど。では鰹節?と醤油はどうしましょうか?」
「鰹節は前一緒に作ったじゃないですか。それが成功すればそれでいけますよ。醤油も前に作って穴に埋めた奴が代用できますけどそれを使うならレモン汁多めのがいいかなと」
「成功したら即座に大量生産しましょう!!」
「そこまでの財力がないです」
個人では初期資産の関係で限度がある。
まぁ全部ニズリさんにして貰えばいいんだ。
「そうですか……」
「そんな落ち込まなくても……。ニズリさんにやってもらいますよ」
肩を落としてガックリするルネさんだがそれを聞いた途端に笑顔を取り戻す。
忙しい人だなぁ。
「それなら安心ですね!」
「うまくいけばですよ。全部混ぜたら鍋に入れて一煮立ちして完成です」
「あ、サラダ用意しますね?」
そう言ってサラダの用意を始めるルネさん。
そろそろニズリさんが来る頃だと思うんだけど……。
ソースに砂糖、醤油、塩を追加しておく。
醤油も地球産が無くなりました。
魚醤が失敗してたら詰むな……。
地球産のものが無くなっていく焦燥感に駆られていると扉が開いてニズリさんがやってきた。
「やってるかね?」
「あ、ニズリさん。ちょうど良かったです今からドレッシングの試食ですよ」
「タイミング良かったみたいですね」
「はい。ルネさんー! ニズリさんの分もお願いします!」
「かしこまりました」
「何のドレッシングを作ったんですか?」
「誰でもできる簡単なやつと玉ねぎのドレッシングですよ」
ルネさんが用意してくれたサラダにヴィネグレットをかけて2人に渡す。
「ヴィネグレットのほうでしたっけ?」
「はい。こっちがヴィネグレットになります」
「ヴィネグレット……。いただきます」
ニズリさんまでいただきます党になってた。
「どうですかね? 単純なドレッシングなので子供でもいけると思うんですが……」
2人とも黙って食べ続けている。美味いにしろ不味いにしろなんか言って欲しい。
食べ終わって漸く口を開いた。
「さっぱりしてて食べやすくて美味しいですね」
「お酢と油だけでサラダがこんな風になるなんて……」
とりあえず大丈夫ってことなのかな?
「では玉ねぎの方行きますか」
玉ねぎドレッシングをかけてサラダを食べる。
初めて手作りして食べたけど案外いけるな。
バイキングとかだと必ずと言っていいほどフレンチドレッシングかけてたからなぁ。
「玉ねぎの食感もしていいですね。これが材料を作らないと作れないやつですか?」
「そうですが今回は普通の使ってますから味が多少変わってしまいますね」
「なるほどこれを作って売るのは手間がかかりそうですね」
「両方公開して材料だけ売ればいいんですよ」
「なるほど」
「あとは勝手にアレンジしていろんなのが生まれてきますよ。家庭の味というのがね。それでどんどん広まって発展します」
「アレンジですか……」
もう既にアレンジを考え始めているルネさん。
「例えば玉ねぎを最初にちゃんと飴色まで炒めてから足すとか?」
「なるほど……参考になります!」
メモメモ。ルネさんは安定に必死に以下略です。
「そうすると甘みが増して玉ねぎが嫌いな子供でも食べるようになったりもしますからね」
「公開しちゃってもいいんですか?」
「いいですが醤油と鰹節の生産が始まってからのがいいかと」
「わかりました。ユナに場所の手配をさせときます。私も仕事が溜まっているのでこれで失礼しますね」
「忙しいのにすいません……」
「いえいえこれも将来的には仕事になりますから」
出て行くニズリさんを見送ってソースの火を止めてお酢入れて混ぜる。
「このソースからまた何か作るんですか?」
「はい。このままでも調味料になりますけど今回はたこ焼きソースが欲しいので」
「たこ焼き楽しみですね」
「出したら是非出店に食べに来てくださいよ」
「もちろん行きます! それでこのソースどうしますか? 一晩置きましょうか?」
「持って帰って家で明日やりますよ。ルネさんも欲しい分だけ取ってください。だいたい完成品が1/4になるので」
「いいんですか?」
「多めに作りましたから」
「それではお言葉に甘えて少しだけ……」
「明日潰して濾して煮詰めてくださいね?」
「わかりました。後はユウタ様が持って帰ってください」
鍋の中身だけを仕舞って洗い物と片付けを済ませる。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ新しい事がたくさん知れたので満足です」
「なら良かったです。また今度きますね」
「はい。あ、ローゼお嬢様に早く帰ってこいと伝えといてくれますか?」
「わかりました。遅いとご飯抜きと伝えときますね」
「それは名案ですね。ではお願いします」
笑いながら会釈するルネさん。
「ではまた」
厨房を後にして玄関へと向かう。
帰ったら夜ご飯の準備しないと。今日は何にしようかな?