第百六話 烏賊。
「とりあえず仕舞っちゃおうか」
「ユウタ」
「どうした? アリス」
「この大きさのどこで出すの?」
足だけでユウタより大きいイカ。クラーケンなんだけど……。まぁ超巨大なダイオウイカだと思えばイカだ。
「宿の庭は……流石に無理か?」
「ん」
「どうしようか」
「ここで小さくしてついでに食べちゃおうよー!」
ついさっきまでおかしいと言ってたくせに切り替えが早い。食べる事になるとなんでも良いのかこの子は……。
「食べるかはさておき、バラさないと後々面倒なのは予想できるしやりますか」
そう言ってアリスにお馴染みの中華包丁を渡す。
もちろんやるのはアリスなんですけどね〜。大きいものはアリスに任せる方が断然早い。アリスの方が小さいのに情けない話だね。
「まず足を全部落としちゃおうか。根元から10本よろしく」
「ん」
中華包丁を手に豆腐を切るようにスパスパと切断されていく。
絶対こんなに柔らかくないよなぁ……。
「次は……顔を持って引っ張ってみて?」
「こう?」
足を仕舞いながらアリスに指示を続ける。
「反対側を抑えながら……ってアリスのサイズじゃ無理か。ローゼ出番だよ」
「え、私なの? 普通、力仕事はユウタがキースくんじゃない?」
「アリスがやってるのにそんなこと通用すると思う?」
「アリスちゃんは特別でしょ……。しょーがないなぁユウタのわがままに付き合ってあげるよ」
文句を言いながら海に足をつけて耳の部分を掴むローゼ。
「アリスちゃんいくよ〜?」
「ん」
お互いに強く引っ張りあう。内臓がちぎれそうで怖い……。
「ちょっアリスちゃん力つよ……」
なんとか頑張ってるローゼだけど、これ抜けたら反動で海にダイブしそう。
あっ、ほら言ったそばからローゼが水飛沫を立てて海に浸かった。
「どうしてくれるのよユウタ!」
濡れたことを怒ってるのか? あんな引っ張り方さたら予想できるでしょうに……。
「濡れたぐらいで文句言わない」
「濡れたのも問題だけど! 私のお城がぁぁ……」
波でローゼが作っていた砂の城が溶けたみたい。どうせ持って帰るもんじゃないから気にしない気にしない。
「えい! こんなもん!」
追撃で足でゲシゲシと踏んであげた。未練を断たせてあげる優しさ。
「うぅ〜しょっぱいし頑張って作った城も無くなるし、びしょ濡れだし……」
「来ない方が良かったんじゃない?」
「うるさいなぁ。ユウタがなんて言おうと絶対くるのは確定してたんですよーだ! それよりキースくん馬車から着替え持ってきて〜」
「着替えですか……?」
「持ってきてどうするの? それも濡らすの?」
「な訳ないでしょ! 着替えなんだから着替えるに決まってるじゃないの!」
「ならローゼが馬車に行って着替えなよ」
「え? なんで? ここで良いでしょ」
わいせつ罪で捕まっても知らんぞ? キースさんも困ったような表情を浮かべてどうしようか迷ってるし。
「ローゼ」
「んー? なにアリスちゃん」
アリスはイカの顔を持ったままローゼに近寄って。
「ほんとに女の子?」
「え? どうい……う」
それをローゼに顔に押し付けた。
うわ〜流石に気持ち悪いな……。されたらキレそう。
「ぶっ……ちょっとなにするのアリスちゃん! なんかぶにゅってしてて気持ち悪いぃ」
「ローゼはみんなに裸見せるの趣味?」
どんな痴女だ。ああなんだローゼのことか。
「そんなわけないでしょ。好き好んで見せる人なんているわけないじゃないー」
世の中にはいるんですよ。ローゼの想像を超えた変態達がね。男の子的には良いかもしれないけど、身内にいるのはちょっと勘弁かなぁ……。
「アリスにいじめられるローゼ。これが正しい姿か」
「ユウタ? 聞こえてるからね」
「ん」
勝ち誇ったような顔でこちらを見るアリス。でもとりあえず内臓が傷つきそうだからはやく渡してほしい。
「アリス早くそれちょうだい」
「ユウタもされたい……?」
「そんな趣味はないから今後ともやめてくれよ」
「私だけはずるいよ! ユウタもされるべきだと思うよ」
「みなさん楽しそうですね。でもお嬢様そろそろ着替えないと風邪ひきますよ?」
こっちで風邪をひくのは怖いのでうつされたくないな。
「早く着替えてきなよ」
「だからーキースくん着替えもって……」
「もかい付ける?」
アリスの圧力に負けたローゼは渋々、馬車に向かって歩いていった。
「お二人ともお嬢様の扱いが慣れてますね」
「黙ってくれれば可愛いお嬢様なんだけどねぇ……」
「自由すぎ」
「あはは……。まぁ流石にここで脱がれるのは問題ですもんね」
ローゼはわざと問題を起こしにきてるんじゃないの?
「ローゼがいない間に終わらせて帰りましょうよ」
「ん」
耳を外して軟甲を外す。
「これは?」
「これはいらない。ゴミだね」
「硬い」
「食べるところじゃないんだよね。かといって海に捨てるわけにもいかないか」
持って帰って肥料にでもするか。畑にはもう十分だと思うが……。
「あ、畑だ」
「ん?」
「ローゼに畑の水やり頼んだのにここにいるじゃん」
貴重な食糧が死んでしまう。
「あ、それならルネさんに頼んだって自慢げに言ってましたよ」
ルネさんに頼んだなら大丈夫だとは思うけど……。こっちにも来れずにローゼから雑用させられるなんて可哀想に。
「帰ったらお礼言いに行かないといけませんね」
今度ローゼの抜いてパーティーでもするか。怒るだろうけど。
「胴体はどうしよう……。3つに分けちゃおうか」
輪切りにしておけばなんとかなるでしょう。イカフライとか作ったら超巨大の作れそうだけど池ぐらいの油が必要になりそう……。
「ありがとアリス」
「イカ食べたい」
包丁を回収してアリスの頭を撫でる。そしてこの子も食べることしか考えてなかった。
食べるためにわざわざ取ってきたんだろうから当然なんだけども。
「じゃあとりあえず宿に戻りますか。キースさん達は宿はどうしてるんですか?」
「今日着いたばかりなのでまだなにも決めてませんよ。多分何も考えてないのかと……」
ローゼですもんね。ローゼらしくて良いと思うよ。
「ならこっちの宿にとりあえず向かいましょうか」
イカを使ってなにを作ろうか。イカリング? 箱舟?
買い物しながら考えよう。





