第百五話 砂城。
「言った通り」
微妙そうな顔で少し前にいるローゼを見ながらアリスが呟く。
「本当にきたね……」
来てもおかしくはないと思ってたいたけどまさか来るとは……。
しかもタイミングが絶妙すぎる。ここ以外で鉢合うことなんてないってところをしっかりと当ててくるとは。
「ローゼ様は自由ですからね……。いつもご迷惑をかけます……」
「一番大変そうなのはキースさんじゃないですか」
この様子だと無理やり連れ回されてるんだろうな。
ローゼはともかくキースさんには何か作ってあげよう。
「ローゼ様がユウタさんの家から戻ってきたなり馬車を手配して拉致られ、気づけばこの領地に足をつけていましたよ」
本当に他人の都合を考えないお嬢様だこと。
そんな自由なお嬢様の愚痴をこぼしていると、前から本人が戻ってきた。
「なんの話〜? へモン伯が待ってるよ」
「ただの雑談だよ。それよりなんできたの?」
「なんでとは失礼な! ユウタ達だけ美味しいものを食べるのはずるいでしょ?」
「ずるいのか……?」
「だからきた」
「聞いた俺が馬鹿だったよ」
何やら文句を言っているローゼの言葉を聞き流してへモン伯とやらの貴族様のところへ向かう。
ローゼが言うまで名前なんて完全に忘れてたよ。全部貴族様でいいと思うけど……。
「すいません遅れました」
「いえ大丈夫ですよ。それよりここら辺でいいのかな?」
「あ、はい。基本的にはどこでも獲れますから。それより大丈夫なんですか?」
「ん? なにがですかね」
「領主様でこんなところで海に入っちゃって……」
少し離れたところの領民達の視線がすごい。と言うか警備もザルすぎるし。
「まぁ、貴族の行動とは思えないでしょうが別に構いませんよ。自分の領地のことですし」
「そうですか。ならパパッと始めちゃいますか」
領地で半裸の領主様。なかなかカオスだと思うようん。
海に入って簡単に説明していく。
「これが酢の物に使った……酸っぱいやつに使っていたものですね。わかめと言うんですけど……。スープに入れたりサラダに和えたり色々と使えます」
「そこら中にあるものがあんなに美味しかったなんて、驚きですな」
「つぎに似たような物なんですけどこっちの茶色いのが昆布と言いまして、基本的には一度乾燥させてから使います」
次々と説明をしていく。なんか全部信じちゃうから毒物を食べさせて暗殺とかできそ……。
冗談でもよくないな。
「こんなにたくさんあるなら確かに新しい特産品にもできそうだ」
「ですが注意が必要なんです。人が食べる量に追いつかないと思うんですよ。流石に海が広いからと言って取りに行ける範囲も限られてますからね」
「ふむ……」
海に浮かびながら頭の中で色々と考えている領主さん。ここらで養殖の話を流し込めば……。
「提案なんですがこの海草達を養殖してみてはいかがですか?」
「養殖……ですか?」
「そうですね簡単に言いますと、農業みたいに人工的に管理して作るんですよ。海の一部に区画を作ってわかめを作るみたく」
口では簡単だけどそんなに上手くいくのかはわからない。
けどそれは知りません。能力の問題ですよ、なんとかして増やして欲しいところ。丸投げ万歳。
「なるほど。いろいろと調査して……やるとなると仕事としての人手も……」
ぶつぶつと養殖について考えているみたいだ。そして今のところローゼの役に立っているところ0ですね。何しに来たんだかほんとうに。
ちなみにアリスは俺の横でプカプカ浮いて気持ちよさそうにしているが、ローゼは砂浜で砂のお城を作って遊んでる。
食べること以外は参加する気がないらしい。
「そうですね。一回戻ってからみんなと相談してみることにします」
「はい。やるとなると大規模ですからね。慎重に決めた方がいいでしょうし」
今すぐにやると言う言葉が聞きたかったが、前向きな感じだしひとまずいいとしよう。
「ユウタ」
「どうしたのアリス?」
「ちょっと行ってくる」
「えー。もう戻るよ?」
「ん」
いや……ん。じゃなくて戻るんだって。
領主様はもう戻り始めてるし……。まぁアリスだから大丈夫でしょ。
領主様の後を追って浜辺へと戻る。
「あれ? ユウタ、アリスちゃんは?」
「なんかどっかいくってさ」
「自由だね〜」
アリスもローゼにだけは言われたくないと思うよ。
「それでどうだったの?」
「どうだったとは?」
「なんか話してたでしょ」
「あぁ、へモン伯次第じゃないの?」
俺に聞かれてもね。
「うまくいかないと私が困るんだよ! 美味しいもののために」
「勝手に来といてわがままいうな」
ローゼの相手をしているうちにへモン伯は着替えを済ませていた。
「ユウタさんありがとうございました。私は屋敷に戻ろうと思うのですが。どうされますか?」
「少しやることあるもあるのでもう少しここに居ようかなと思いますので、ここで失礼させていただきます」
「そうですか。わかりました。私から誘っておいて申し訳ない。お土産もありがとうございました」
では。と屋敷に戻っていくのを見送ってから海の方を見つめる。
「アリスどこまで行ったんだ」
「アリスちゃん遅いね。それよりお土産って……」
「お、あれか?」
ローゼのめんどくさいお土産の興味を完全にスルーして水面が揺れている方を指差す。
「それにしては揺れが大きくないですか?」
目をやったキースくんが呟く。確かにアリスの身体からしたら波が大きい気がする。
なんだろうか? と待っていると……。
「ん?」
やはりアリスだった。オマケが付いてきてるけど……。
「ん? じゃないよ。何持ってきてるの」
「イカ」
「ちゃんと死んでるの?」
「ん」
「ならよし」
死んでるなら仕舞えるもんね。
「いやよしじゃないでしょ?! モンスターじゃないのこれ!!」
「ローゼはいちいちうるさいなぁ」
「うるさい」
「流石に私の反応が正しいと思うんだけど……。キースくん?」
否定されて隣のキースくんに助けを求めるローゼ。
「流石に驚きましたけど……ユウタさんが良いなら問題ないんじゃないですか?」
流石ローゼに振り回されてるだけのことはあって慣れてしまっているみたい。
「死んでれば食べ物だからね」
「おやつ」
「タコみたいな味なんですかね?」
「えぇ……。おかしいのは私だけ……?」
珍しくまともなことを言ってる気がするローズだが周りの反応で自分が間違ってると思い始める。これが集団の心理というやつなのかな?
まぁ、ローゼだしほっといても大丈夫でしょ。頭の中は以下をどう調理しようかでいっぱいなんです。
イカだけに。





