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第百五話 試食。


「それじゃあ、まずはこれから……」


 きゅうりとわかめの酢の物をいつのにか用意したフォークで口へ運ぶ。

 シャキシャキといい音が部屋に響く。わかめも歯ごたえがあるし結構食べ応えありそう。


「酸っぱいんですね。さっぱりしてて美味しい」


「小鉢なので少し食べる感じのものですよ。まぁ簡単に言うとサラダみたいなものです」


「なるほど、酸っぱいサラダとは考えたこともなかった。次は魚ですか?」


「食べてみるとわかるんですが生魚を切っただけに見えますけど、ちゃんと味がついているのでどうぞ」


「本当だ……。見た感じ何も付いてないのに」


「これに挟んで寝かせておいたんですよ。そうすると旨味が染み込むんです」


 机に並べられた佃煮を指差して手で挟む動作を見せる。


「こんな柔らかいくっつきそうなものでですか? その割には見た目が綺麗ですけど」


「これはそれを再利用して別なものにしたんですよ。ゴミを減らせますし、勿体無いですからね」


「なるほど。それではこの容器に入ってるものは……? 凄い柔らかいですね」


「それが茶碗蒸しですね。これは多分新しい感じだと思うんですけど、ベルドナード領で最近出てきてる新しい料理です」


 さりげなく、そこはかとなく嘘をつく。全てルネさんに押し付ける流れを忘れない。


「簡単に説明しますと、海のものでスープを取って、卵と混ぜて同じく海で撮れるものを具材にして混ぜ合わせて、それを蒸したものになります」


「これにもたくさん使われてるというわけですね。……⁉︎ 食べたことない味……こんな美味しいものがあるのか」


 すでに人肌程度に冷めた茶碗蒸しを美味しそうに平らげていく。こういう姿をみると嬉しいね作った甲斐がある。


「最後にトコロテンなんですけど、今回は甘めでデザート感覚になってますので食べてみてください」


 茶碗蒸しの言及を避けてトコロテンをすすめる。

 さりげなく、そこはかとなくベルドナードに、更に言うとルネさんに押し付ける。


「これも面白い形をしてますね」


「作り方特殊なものでして。これも食感が珍しいと思うので口に合うとよろしいのですが」


「掬うのが難しいですね……」


 フォークで滑るトコロテンを諦めたのか突き刺してゆっくりと持ち上げて口へと運んでいく。

 こういう時は箸じゃないのが辛そうだ。日本人でよかったとおもう。

 外国の人はトコロテンを食べるときはどうしてるんだろうか? トングみたいなのを使ってたりして。まずトコロテンを食べないか……。


「面白いですねこれ。確かに甘くて、柔らかくて食べやすいし子供が喜びそう」


「結構簡単に作れるのでお手頃ですよ」


 乾燥させる手間を除けば、ね。


「これは何で作ってるんですか?」


「テングサと言ってこれも海にある海藻です」


「なるほど……。ユウタさんは詳しいんですね。領主の私が知らないようなことをたくさん……」


「まぁ、色々とお世話になってますので……」


 嘘はいってない。確かにお世話にはなっているし。


「……ユウタさんはこの後のご予定は?」


 何かを考え込むように一瞬黙り込んで、予定を聞いてくる。予定といえば海に行くくらいだけど。海藻系はとりあえずいいとして、海老とかを買い込んでおきたいが……。


「特にこれといって急ぎの用はありませんが……」


 さすがに海に遊びに行きますので。とは言えるはずもない。


「そうですか。もし良かったらなんですがこれから海に行こうと思うのですがご一緒していただけませんかね? どれを使っているのカを知っておきたい」


 ただ養殖してもらいたいだけなのにめんどくさい方向に進んでる気がする。あっちの頼みを断っていたらこっちの頼みも聞いてくれないだろうし、ここは付いていこう。

 それにどちらにせよ物がわからないと話にならないんだ。


「大丈夫ですよ。それぐらいでしたらいくらも」


「ありがとうございます。」


 そう言って、くるときに案内してくれた使用人に何やら伝言を告げると、使用人は急いで部屋から去っていった。

 よくわからないけど、そんなに急がなくてもいいんじゃない? 口には出さないが。


「すいません。実は先に、他にもお客さんが来てましてそちらは特段何かあるわけじゃないのですが一応出かけることを伝えておかないといけないので」


「先客がいらっしゃったんですか? それは申し訳ないことをしてしまいました。でしたらまた後日でも……。あと数日は滞在するつもりですので」


 庭先に止まっていた馬車はそういうことだったのか。ちょっと考えればわかることだったのにやらかした。こっちは本当にいつでもいいからお構いなく相手してほしい。


「いえ、大丈夫ですよ」


 領主さんがそう言うと、先ほど使用人が出て行った扉が音を立てて開く。


「領主様。お伝えしたところご一緒させていただきたいとのことで……」


 申し訳なさそうに顔を下げる使用人。その隣には勝ち誇ったように微笑むローゼと疲れ切ったキースさんが立っていた。



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