第百四話 頼み事2。
「入れ」
中から許可する声が聞こえて、使用人がドアを開ける。
部屋の奥にたくさんの紙が積まれている机と椅子が置いてありそこに領主さんが座っている。忙しい時にお邪魔してしまったかもしれない。
「どうもお久しぶり」
「こちらこそ突然の訪問で申し訳ありません」
「大丈夫ですよ。そちらの可愛いお嬢ちゃうもよくいらっしゃいました」
背中に隠れているアリスを影から隣につまみ出す。
「ほら隠れてたら失礼だろ?」
「ん」
領主さんの方へ軽く会釈をして縮こまるアリス。一度会ったことあるのに……。もしかしてわざとやってる?
「気にしないでください。お客さんなんですし」
「ありがとうこざいます」
「それよりもいつ頃こちらに?」
「数日前ですね」
「楽しんでいただけましたかね」
「えぇ。海鮮が新鮮で美味しくていい場所ですね」
「それは良かった。うちはそれしか取り柄がないのでね」
「十分強みだと思いますよ」
そんな言い方をされるとええそうですね。なんて言える身分じゃないからやめてほしい。
友達とかだったらネタにできるものだが……。
「そういえば、昨日海辺で何かしてました?」
「はい。ちょっとばかし……」
「報告があってね。許可証持ってる人をなんか捕まえてしまったって申し訳なさそうに」
「あれはこちらの不備でもありますので……。きちんと使わせていただきました。ありがとうございます」
ポケットに手を突っ込んでもらった紙を取り出して机に乗せる。
面倒ごとを回避できてかなり助かった。たこ焼きおっさんにも感謝しないと。
「あ、これは持ってていいですよ。好きなだけ使ってどうぞ」
「え、いやでも流石にそれは……」
厄介ごとの種になりそうなものは極力持ちたくないんだけど。
「あっても困らないでしょう?」
「まぁ……」
困る! こまるから返します!
と言えるわけもなく。
「気にしないで持っててください。それより昨日何か作っていたと聞きましたが」
「ただのスープと串焼きですよ」
「大変人気だったらしいですが?」
「みんなお腹減ってたんでしょう。ありがたいですね、たくさん食べもらえるのは」
「いいですね。料理はよくするんですか?」
よくするというかそういう職の予定だったし、なんなら自炊してる。
「まぁ、基本的に自分でご飯作っているので」
「なるほど。でもベルドナード家の領地は最近珍しいものが多くて料理も楽しく出来そうですな」
そういえばたこ焼きと、てきとうに作ったコースを食べたんだっけ。
あれ一応ベルドナードでは最先端なんだけど。ベルドナードというより世界でか……。
「これからもっと発展していくと思いますよ」
「羨ましいですね。私も住みたいくらいですよ」
「ご自身の領地があるじゃないですか」
こんなに素晴らしい海鮮が豊富な領地の方が十分羨ましいと思うし、住みたいと思う。
「確かに美味しいものが多いですけどね。まぁ無い物ねだりですよ」
「出店を見た感じだとスープや貝の焼き物が多いですね。美味しかったです」
「一応領地のウリですからね」
「何か加工品などは作られていないんですか?」
「加工品?」
「そうですね。例えば海藻類の乾物ですとか……魚をすり身にしたりですとか遠くの土地に送るときに生ものですと届けられないでしょう?」
「魚が腐るような遠い土地には商いをしていませんよ。まぁ当然なんですが……」
「まぁ、そうですよね。あ、そうだ……お土産を持ってきたので良ければ食べてください」
机の空いたスペースに手に持っていた籠を乗せる。
「わざわざありがとうございます。こちらはなにももてなしもできていないのに」
「いえ、押しかけたのはこちらですので気にしないでください」
「食べ物ですか」
「はい。何種類か入ってますので」
領主さんはそれを聞くと机の上に乗っていた書類を乱雑に寄せて、籠の中から料理を取り出して乗せていく。
「見たことないものばかりですね」
「こっちから酢の物、若竹煮、中華スープ、昆布〆、佃煮、茶碗蒸しとトコロテンです」
「これもベルドナードの新しい料理ですか?」
「いえ、これはこちらで豊富に取れるものをメインで作っている料理ですよ」
「うちで? どれが……」
「この酢の物に入っている緑のやつと佃煮に使われている黒いもの、そしてこの白っぽい透明のやつです」
「こんなものは見たこと無いですけど……」
「どれも海にありますよ。領主さんは泳ぎは得意で?」
「それなりには。ということは海中にあるってことですよね? それを言われても想像もつかないんですが……」
「良かったら今食べてみてはいかがですか? 出来る範囲でしたら説明しますが」
商品の営業に来たサラリーマンの如く、物を勧める。冷めちゃうから食べて欲しいだけってのもあるけど。
「そうですね。せっかく持ってきてくれたのですし。ここではなんですので応接間に移動しましょう」
凄い腰が低いというかあれだが早く食べたくて仕方がないからだろう。もとからこの人も貴族っぽい感じでは無い印象だったけど、もしかしてこの世界にやばい貴族とか存在しないのでは?
権力のゴリ押し的なザ・貴族って奴ら。





