第百二話 頼み事。
このアイテムボックスの難点は時間が進まないことだと思う。いや、それは利点であり凄いところなんだけどあれだ。漬けたい物も全て時間が止まってしまうから外に置いておかないといけない。
とはいえこの方が十分に使い勝手がいいんだし文句は言えない。腐らないでストックできるのがどんなに素晴らしいか。
「早起き」
そんな事を考えているとアリスが庭の方へやってきた。
「さっき起きたばかりだよ」
少し早起きして昆布を使い少し料理をしていたのだ。昨日できなかったやつね。
と言っても昆布はまだまだあちらで売られていたような乾燥したものとは遠い半乾きだが……。もっと乾燥させていい感じにするのは家に帰ってからでもいいだろう。
「はい。茶碗蒸し」
お腹を空かせた顔のアリスに茶碗蒸しを取り出して渡し、今日の予定を伝える。
「とりあえずこの後ちょっと買い物に行って必要なものを買ってからなんとかさんのところに行こうか」
熱々の茶碗蒸しを小さな口でふぅふぅさせながら小さく頷くアリス。
「まぁゆっくりでいいから食べ終わったら行こうか」
そーいえばアリスってあんなに髪長いのに寝癖とかつかないよな。この時代ってアイロンもドライヤーもないからやっぱりメイドさんとかが朝櫛で梳いてるんだろうか。
そう考えていくと異世界というか中世にいるように錯覚しちゃうな。言葉通じるし貴族階級あるし。
「ご馳走さま」
「よし、じゃいこっか」
「何買うの?」
「木編みの籠みたいのが欲しい」
「籠?」
「そ、作ったもの持ってくのに流石に何もないところから出すわけにはいかないでしょ」
手ぶらじゃないのに手ぶらで行くのはちょっと嫌だし。
目当ての物を買い、出店の物をつまみながら籠に料理を入れてアイテムボックスに仕舞う。
直前まで入れておかないと冷めてしまう。どうせなら出来立てを食べて欲しいし。まぁ、出来立てではない気がしないでもないけど……。
「ていうかアリスは別に来なくてもよかったんじゃない? 知らない人いっぱいいるよ?」
「いく」
「珍しい。人見知りして後ろに隠れないでよ」
「それは無理」
「わがままか。無理しなくても海でなんか採ったり部屋でゴロゴロしててもいいんだよ」
アリスは被ったフードを揺らしながら横に頭を振る。付いていくのは確定らしい。
「まぁ、あのたこ焼きおっさんがまたなんかしてくるかもしれないから助かるよ」
「ん?」
もう覚えてないみたい? 雑魚は記憶に残らないってさ。
「まぁいいや。とりあえず行こう」
「ん」
人に聞きながら領主さまの住む屋敷へと向かう。
屋敷に着くと門の中に一台の馬車が止まっていた。もしかしてこれからお出かけとか? タイミング悪かったかな?
「すいませんー」
「はい」
門番をしている男に話しかけて中に入れるか尋ねる。
「入っても大丈夫だったりしますか?」
「何の用で?」
「領主さんに会いたいんですが……」
当然ながらこの門番さんは餌付けされてないのでてきとうには通してくれない。
「約束はしておられますか?」
「あー、アポは取ってないですね」
「アポ?」
「あ、約束はしてないです。ダメですかね」
「それだと申し訳ないですけど通せませんね」
「ちょっと領主さんに話通して貰えませんか?」
「一応要件は伺いましょう」
これはなかなか通してくれそうにない感じかな? ローゼのところよりはきちんと対応してくれる辺りちゃんとしてるけど。
「あー、前にこちらに来た時にご挨拶に伺うとお話ししておりまして」
「話はしたが、今日来るとは伝えていないと?」
「そんな感じです」
「一応確認してみます」
「ありがとうございます。一応ベルドナード家でお話しした者と伝えてくだされば伝わると思いますので」
「ベルドナード家……? わかりました。少々お待ちください」
そういうと少し離れた所にいた使用人を呼び止めると要件を伝えて走らせる。
門番って使用人より立場が上なのか? いや、そんな事よりさっきローゼの家の名前を出した時の間はなんだったのだろうか……。
流石に聞いたことないとは言わないだろうけど……。
しばらくすると、先ほど走った使用人が戻ってきて門番に耳打ちをする。
それを聞いて驚きながらこちらに向き直り、口を開いた。
「通って良いとの事です」
「ありがとうございます」
すんなり許可が降りたみたいだが、そうするとあの馬車は……? 帰ってきたところとか?
「よかったらこれどうぞ」
門番さんに茶碗蒸しを渡して先ほど伝えに入ってくれた使用人に案内してもらう。
「あげた?」
「うん。こういうのが大事だからね」
昔なんかしのドラマか何かで営業する時はそこの従業員とコネクト作っておくといいってみたことある気がする。先方にだけお菓子を持ってくんじゃなくて従業員にも自腹を切ってでも配るみたいな小さな積み重ねが大事だと。
まぁ、営業マンじゃないから別に必要無いんだけど……。
「こちらになります」
そう口にすると大きな扉の前で立ち止まりドアのノックする。
「お客様をお連れしました」





