回想 4
司令部へ使いに出したグリフォンは一週間後に戻ってきた。密使か特使を連れて来ると思っていたので単独での帰還は意外だ。手紙諸々をグリフォンから受け取る。
「よしよし、良くやった。畑のネズミでも池の蛙でも好きなものをお食べ」
手紙には賞賛の文言しか書いてない。新しい指令はなし。それもそうか。俺は灯台守だものな。
しかし軍はどう動くつもりだろう?
皇都では何か囁かれていないのだろうか。
気付けば書箱の底に新聞が入っている。取り出して見出しを見た。
『魔獣師の大勝利‼︎ 敵の魔獣の無力化に成功‼︎ 』
ヤバいな。そういうことじゃないんだがな。
本文にはこうある。
「国境線上にあるブフェルナ渓谷において、我らが英雄『戦争魔獣師』の働きにより敵戦力を我が軍に寝返らせることに成功。この計画は数年前からスタートし、先日その効果が確認されたものである。この戦果に対し司令部のペトレンコ少将は次のように語る。『これにより我が軍の圧倒的優勢は明らかとなった。しかし戦力の大半を失った相手がどう出るかはまだ静観する必要がある』そしてまた氏は、国民に対し『この朗報に踊らされることなく落ち着いて戦時を過ごして欲しい』と訴えた」
俺は頭を抱えた。違う違う!
これでは相手が面子を潰されたと憤慨し、本気になってこの地を潰しに来てしまうではないか!
このままじわっと、しれっと何事もなかったように停戦に向けて調整に入っておけば良いものを!
「どうされましたの? 頭を抱えて」
「見てくれ」
俺はネレイデスに新聞を渡した。ネレイデスは黙って新聞に目を通す。
「この新聞社、というか軍部ですか? 頭のネジはちゃんと締まってるんでしょうか」
「どうすればいいと思う?」
「カイザキ様の身の振りですか? それともわたくしたち?」
「もちろん、我々のだ!」
「カイザキ様にお考えはあって?」
「全魔獣をこの掩体壕付近の森へ避難させ、迎撃態勢を取る」
ネレイデスは腕を組んで目を閉じた。そして新聞を取り上げ、日付を確認する。
「提案があります。敵が来るまでまだ猶予があります。ですので先ずは収穫を優先させましょう」
「うむ」
「その後の避難ですがゴブリンは地下へ、オークたちは各々に任せましょう。森のことは彼らの方がよく知っています」
「うむ」
「カイザキ様は司令部へ連絡を。敵が大攻勢を仕掛けてくる可能性と、我々に迎撃の用意があることをお知らせください」
「よし、すぐ動こう。魔獣たちへの指示を頼む」
「分かりました。カイザキ様は手紙をお願いします」
俺は直ぐに手紙を書き上げ、グリフォンに託した。帰ってきたばかりのグリフォンとは別の子だ。
「司令部に頼む。戦争が本格化しそうなんだ。急いで頼めるか?」
グリフォンは力強く鳴き声を上げると空高く舞い上がった。
この地の未来が掛かっているんだ。俺は大きく手を振ってグリフォンを見送った。
「手紙は出した。そちらはどうだ?」
「飛べるものには皆にこの件を伝えるよう指示を出しましたわ」
「さて、武装だが、、、」
「ゴブリンには農具がありますわ。オークにも斧や鳶口がありますし、狩猟道具もありますわ」
「防具の類は、、、」
「それも彼らに任せましょう。彼らを侮ってはいけません」
「うむ」
「カイザキ様は相手がどのように攻めてくるか、お考えは如何ですか?」
先日フェルニゲシュの背から見た限り、相手の拠点や陣地、集落は見えなかった。こちらの緩衝地帯と同じくらいのサイズの緩衝地帯を相手も作っていた場合、敵の灯台守は自軍の変化にまだ気づいていない可能性すらある。
敵国にこちらの新聞が届き、事実確認をしてから奴らが何を用意するか、、、
「航空支援を受けた陸上部隊が侵攻を仕掛けてくるだろう。しかしそれは即応部隊であって本隊は別途用意するだろう。それは、、、」
「ベヒモスですわね」
「だな。ベヒモスの種苗はあったな。しかし生態がまだ分からない。どこで育てたら良いものか」
「収穫が終われば土地なら幾らでも有りますわ。広い所で育てた方が大きくなりますでしょう」
「よし!」
腹が決まった。となれば種苗を孵化させねば。戦争に使えるくらいまでどれくらい掛かるかもマニュアルに載っていない未知な存在だが、やるしかない。
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