回想 2
ボフダンは数週間後にまた現れた。
ゴブリンを刺激しないように低空で近づき、近くの木立の陰に黒龍を下ろしたのだそうだ。
「先日は大変申し訳ないことをしました」
「いえいえ、普通の感覚でしたらゴブリンは大型種の餌ですからどうかお気にならさず。今日は餌は?」
「持参しました。水が要らないのなら補給なんて軽いものです。それより、ご希望の高難易種の種苗をお持ちしましたよ」
「こんなに早くありがとうございます」
「司令部も分析官も大変興味を持っておられます。近々視察に来られるんじゃないでしょうかね」
「それは、、、悪い意味ではありませんよね?」
「大丈夫です。ご覧なさい」
ボフダンは補給品の中から新聞を取り出した。一面の大見出しにこうある。
『魔獣師が誕生! 灰色の戦場を魔獣の手で緑の楽園に!』
これはどういうことか。しかし新聞は軍の検閲を受けているのだから新聞が好意的に扱ってくれているというのはそういうことなのだろう。
「この、魔獣師というのは?」
「魔獣を意のままに操る貴方のことですよ!」
「新語ですね」
「はい、官民両方がこの土地に注目してますよ」
「官はともかく民はちょっと、、、」
「大丈夫です。場所は伏せられてますから」
「安心しました。ゴブリンもオークも自分らの縄張りを犯されたらどう行動するか不明ですので」
「オークもいるのですか?」
「はい、森で暮らしています」
「森で?」
「彼らは森が好きなんですよ」
ボフダンは目を大きく見開いた。
「オークが森、、、カイザキさん。その話をご自分の言葉で報告しませんか?」
「報告書ですか」
「あー、、、論文の方がいいかも知れません。ゴブリンとオークの飼育記録と併せて、どう管理すれば同じようにできるかを学術的にまとめれば勲章ものですよ?」
「そうですかね」
「だって嗜好品と燃料だけの補給で戦線が維持し続けられる可能性があるのです。実際、いま貴方は自給自足ができていますよね?」
「ゴブリンとオークに食わせてもらっていることを自給自足と呼べるのならそうかも知れませんね」
「是非お願いします。ところで次の補給で欲しいものはありますか?」
「塩が大量に欲しいのです。無理であれば給与天引きで構いませんので、五十キロほど」
「塩ですか、まだ家畜も来てないのに?」
「オークは狩りが得意なのです。冬に向けて保存食の作り方を教えないと」
ボフダンは口をあんぐりと開けた。無理もない。一般常識ではオークは狩りが得意ではないことになっているのだ。
「、、、分かりました。また近いうちに必ず」
「よろしくお願いします」
こうして俺の毎日のタスクに論文書きというものが加わった。この地でやることといえば、農地を見回りすることと、ひと月遅れの新聞を読むこと。あとは補給品に入っている流行の本を読むことくらいしかなかったのだ。何かを書くという行為は中々創造的で刺激的だった。
こうした日々の中でフェルニゲシュやネレイデスを生み出すことに成功した。
高難易種はやはり育成が難しく、というのも攻撃性が高く育ってしまうものが多かったのだ。フェルニゲシュ種は既に空の足として改良が進んでいたぶんすぐに懐いてくれたがネレイデス種は中々苦労した。
孵化した幼体から性格が穏やかな子を選別してそれらを繁殖させて増やしていくのだ。
森の中を流れる川の畔には、俺に懐かなかったネレイデス種が何匹も暮らしている筈だ。近づくと威嚇されるので暫く会いには行ってない。
他にはスライムやハーピィ、コウモリなんかを育てたが、ハーピィは森を、コウモリは近所の洞窟を寝ぐらにして地道に繁殖しているようだ。コウモリの何匹かは掩体壕の天井にぶら下がって不審者の侵入を警戒してくれている。トイレを躾けられたのはコイツらだけなのだ。部屋に入り込んだ虫を捕食してくれるので大変助かっている。
まだ手をつけていない種苗はベヒモスだ。生態が分からないし巨大化するらしいので何処で飼うか、まだ決めかねている。
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