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回想 1

 十年前、荒野にひとり、とにかく暇だった俺はマニュアルにはなかった魔獣の幼生の世話を始めた。普通なら孵化した幼生は何十匹も一緒くたに飼育ケースに閉じ込め、数時間毎に餌を放り込むだけなのだが、俺は知能の高そうな選抜チームを部屋に放ち、糞尿の世話をし、トイレを教え込み、座らせて食器を使って飯を食うことを教え込んだのだ。話しかけ、喧嘩の仲裁をし、共食いをやめさせ、絵本を読み聞かせてみた。

 するとどうだろう、爬虫類並みの知能と言われていたゴブリンたちは序列を覚え、集団行動を学び、ボーダーコリーくらいには賢いと言える状態にまで育ったのだ。


 味をしめた俺はそいつらに農業を教え始めた。たった一年で彼らははっきりと農業の優位性を認識した。意味も分からず土を掘り返させられたその場所に大量の作物が育ち、それらが雑草よりも味が良く高栄養なのは彼らの目から見ても明らかだったからだ。

 次の種苗からは彼らに世話をさせ、ゴブリンのコミュニティの中で育てさせた。栄養状態が良いこともあって彼らは元気に巣穴を堀り、自己繁殖を活発に始めた。ゴブリンの種苗はもう必要なかった。

 一年と数ヶ月で俺はゴブリン村の村長みたいな存在になっていたのだ。


 次に届いた種苗はオークだった。

 オークは幼体でも身体が大きいので部屋に放つのは無理だったので牧草地で育ててみた。

 しかしあまり効果は芳しくない。

 この世界の常識として、オークは突進力が高いので平地向きとされていた。ちなみにゴブリンは手先が器用なので森林向けとされていた。

 つまりオークは戦車部隊、ゴブリンはゲリラ部隊という運用をされていたわけだ。

 その常識に則って俺はオークによって前線を押し上げ、それにゴブリンが追従するものと考えていた。しかしこう手元に置いてよく観察をするとオークは平野を好んでいるわけではないようなのだ。覇気が感じられず、牧草の食いも悪い。

 この頃には、簡易テントから石造りの掩体壕トーチカに引越ししていたし、農地の管理もゴブリンだけで充分にまわっていたので俺は拠点を留守にして、オークたちを近くの森林に連れて行ってみた。

 するとどうだろう。彼らは生き生きと木の実を集め、狩りをして獲物を取ってきた。

 オークは森の生き物だったのだ。

 俺は暫くオークと共に森の暮らしを楽しんだ。彼らは勝手に序列を作り、幾つかの群を作り、繁殖して新しい群は前線へ旅立っていった。こちらももう大丈夫そうだと判断した俺はゴブリン村に帰った。


 帰ると農地の一部が陥没していた。すわ、敵の襲来があったか、と頭を抱えたが、ゴブリンが巣の拡張をしていたら水源を掘り当ててしまったのだと分かった。ゴブリンたちは済まなそうな鳴き声を上げたが、水源が確保できたなんて素晴らしいと褒めてやり、オークが狩り集めた肉を振る舞いお祭りとなった。



 ある日、オークの森から帰ってくると、掩体壕トーチカに人が居て驚いた。


「カイザキ少尉、ご無事だったのですね?!」

「え、あ、はい、、、ええと、、、」

「ボフダンです。補給に参りました。前回お届けした物資が手付かずで放置してあったので不測の事態かと思い、様子を見るために暫く滞在させて頂いてました」

「あ、ああ! ありがとうございます!」


 人間に会うのが数ヶ月ぶりだったので妙な対応になってしまった。ボフダンの徽章を見ると俺と同じ少尉だった。

 それより補給二回分、つまり二ヶ月もここを離れていたのか。森は森で居心地が良いのでつい長居してしまったか。


「それよりも何です、ここは!」

「と申しますと?」

「ゴブリンに農業をやらせているのですか?!」


 ボフダンは目を輝かせているので責めているわけではないのだろう。


「はい。ゴブリンは育ててみると思ったより農業に向いているようで」

「黒龍の背から見ましたがこの農地は何処まで続いているんです?」

「いやあ、私にも分かりかねます。ゴブリンに好きにやらせておりますので」

「少なくとも数十キロは続いてますよ?」

「そうだと思います。ええと、黒龍は?」

「餌を狩りに行かせてます。既に何匹かゴブリンをいただいてますよ」

「え!」


 と、同時にゴブリンたちが雪崩れ込んできた。みな泣いている。俺の留守中に仲間が龍に喰われてしまったと泣いているのだ。


「おお、そうかそうか。怖い連中には帰ってもらうから落ち着きなさい」

「どうやら、不味いことをしてしまったようですね」

「ここから離れたところで早めに黒龍と離脱した方が良いでしょう」

「そうします。補給品はあちらの牧草地に置いてあります」

「ありがとうございます」

「次の補給で望むものはありますか?」

「水と食料はもう必要ありません。できれば高難易種の魔獣の種苗と後は、、、家禽や家畜をお願いしたいです」

「分かりました。近いうちに必ず」


 ボフダンは素早く掩体壕トーチカを出ると走り去った。危なかった。こうした時にゴブリンがどういう反応をするかは未知数なのだ。俺のゴブリンが補給兵を襲ってしまったなどという羽目になったら減給や降格では済まされないだろう。

 退去命令は今のところ避けたい。ようやくこの地が賑やかになってきたのだ。


お読みいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
ゴブリンたちめっちゃ賢いのに・・・
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