焦土作戦
俺は再び地図の前に立った。
「敵の位置は?」
「重歩兵はここ。森の方も、もうこの辺りだそうですわ」
「近いな」
「砲台様を狙う急襲部隊はとにかくスピード重視で、迂回はしてるものの全速力で迫ってますわ」
「それで脚の速いコボルトとハーピィか。森の中で上下に分散されると厄介だな」
「ここまで下がれると良いですわね」
ネレイデスが指差した場所は森が開け、砂利の河原が広がっている場所だ。
「相手の数によりますけど、開けた場所ならわたくしたちはとても強いんですのよ」
「一騎当千か」
「千は無理でも百くらいなら」
「それでも凄いな」
ネレイデスは尻尾の先を擡げ、軽く振ってみせた。
「この鞭と手に持った槍と、実は敵の目を潰す毒もありますのよ」
ネレイデスは自分の犬歯を指先でコツコツと突いた。
マジか。まさか自分の恋人がそんなに強い種族とは。これでは無力な人間は立つ瀬がないな。ついうっかり怒らせてしまったらひとたまりもなく殺されてしまうだろう。
冷や汗を拭っているとプラズマ弾が空を横切っていく音が聞こえてきた。
外へ出てプラズマ弾が山なりに飛んでいく方向を確認する。少しして森の向こうから小さく破裂音が聞こえてきた。
今のは本攻撃ではなく曳光弾のような役割だ。空からフェルニゲシュが着弾位置を確認し、今頃は砲台様へ微調整の指示を出しているはずだ。
敵もそれは承知のはずで、今既に全力で回避行動を取っているだろう。その辺りをどう狙うかもフェルニゲシュの腕の見せどころだ。
「来ましたわ!」
本攻撃が空を横切っていく。先ほどとは大きさが桁違いだ。青く透明な塊が空気を引き裂いて断末魔の悲鳴を上げている。
死の火球は森の向こうに着弾し、閃光と共に火柱を上げた。その余りの大きさゆえにゆっくりとした動きに見えるほどだ。
足元には地響きが伝わり、バキバキと何かが裂けるような雷鳴のような音と共に火柱は白い爆煙をあげた。
そして低い爆発音。遅れて爆風が木立を震わせ、こちらにも爆風が届いた。
「凄いですわね」
爆風で乱された髪をかき上げながらネレイデスはぽつりと言った。俺も成熟したベヒモスの最大火力がこれほどとは思わなかった。敵重歩兵は一匹残らず焼き尽くされただろう。それどころか味方まで巻き込んでいるかも知れない。
「よし、重歩兵は片がついたな。それでは残っている飛行部隊で残存兵の確認と負傷した味方の救助を頼む」
「分かりましたわ」
プラズマの爆発は今やキノコ雲を形成し辺りには雨雲まで発生している。
地下のゴブリンたちは大丈夫だっただろうか?
「動けるゴブリンは第一防衛線の守備へ。この機に乗じて後詰めが侵入を試みるかも知れん。ゴブリンたちには『我々の土を敵に踏ませるな』と伝えよ!」
「了解!」
キノコ雲の向こうに小さく遠ざかる黒龍が見える。味方が全滅して退却しているのだと良いが、増援の要請だと面倒な事になる。こちらの黒龍に追わせるかどうするか迷うところだ。
いや、深追いはするまい。これは防衛戦なのだ。
「伝令は済んだな? それでは我々は砲台様の援護に向かうぞ!」
「かしこまりましたわ!」
俺たちはフェルニゲシュの彼女の背中に跨がり、雨雲で急激に暗くなってきた空へと飛び立った。背後では雷が鳴り始めている。
「あら貴方、雷が苦手ですの?」
ネレイデスは黒龍の心配をしている。
というか、飛んでる時に雷に撃たれたりするものなのだろうか?
いや、マイナスの電荷がなければ大丈夫な筈だ。大丈夫だよ……な?
暫く北西に進路を取ると眼下に、北の森の小川と大きな本流が合流する広い河原が見えてきた。
「間に合ったようですわね」
「ふむ」
間に合ったというのは我々が戦闘の始まる前に間に合ったという意味ではない。砲台様が敵にやられてしまう前に河原まで辿り着いたという意味である。
そう、既に衝突は始まっていたのだった。
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