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陽動

 敵の反転攻撃を受けて俺たちは第二防衛戦に戻る事を考えたが踏みとどまり、この掩体壕で報告を待つことにした。

 敵を認識した各部隊の連絡係は既にこちらに向かっている筈だ。行き違いになっては時間が無駄になる。


 先ずは上空から現状確認をしたグリフォンが報告に現れた。ネレイデスが通訳してくれる。


「敵は既に第一防衛線を抜けて我が陣に侵入。敵戦力はオークとオーガを中心とした重歩兵が二個中隊。ゴブリンたちが応戦してますが前進を足止めするには至ってないそうですわ」


 二個中隊か。思ったよりも規模が小さいな。しかしまあ、ヴォイロームイスを狙った急襲部隊ならばそんなものか。


「よし、ではゴブリン部隊は苦戦するフリをしながら拡散しつつ後退。敵を誘い込みながら側面と背後に回り込め。こちらのオーク部隊が南の森に控えている筈だ。その部隊と連携して挟撃して潰せ」


 グリフォンは指令を携え飛び去った。


「うーん……しかしそんな数でよく侵入を試みたものですわね。ゴブリンの数を減らすのが目的かしら?」

「確かに妙だな。歩兵だけか……ハーピィなどの航空支援はなかったのか?」

「敵グリフォンが高高度から監視はしてるそうですけど」


 妙だ。勝ち目のない前進に何の意味があるのだろうか。ヴォイロームイスを狙って動いた結果、反撃がなかったから好機とでも思ったのだろうか? 


 そこにヴォイロームイスが口を挟んできた。


「何がおかしいのですか?」

「君を空に逃してベヒモスのプラズマ弾で落とす。ただそれだけを狙った作戦なら確かに歩兵二個中隊で充分だ。航空部隊は逆に邪魔となるだろう。しかしそれをそのまま侵入させるのがおかしいと言っているのだ」

「魔獣の無謀な判断では?」

「それならそれでまあ良い。しかしそんな前例は過去に一度もないのだ」


 進んで死にたがる生物などこの世に存在しないのだ。それに魔獣は人間よりも賢い。

 そこにハーピィが報告に来た。


「北の森にも敵が侵入を開始。コボルトとハーピィとゴブリンの混成部隊だそうです。オーガとオークが足止めを試みてますが、敵は戦闘を避け、迂回しつつも速力重視の進軍のみに注力しているようです」

「重歩兵の侵入は陽動だったか!」

「狙いは……砲台様ですの?」


 それはマズい。ベヒモスはその巨体ゆえに移動が遅いのだ。ネレイデス種の護衛部隊に損害が出るだけでも大打撃だ。


「クソ! 二正面作戦に乗ってたまるか! 先に重歩兵を潰すぞ! ゴブリンは完全撤退、巣穴に逃げ込み北へ向かえ! オークもそのまま南方へ退却!」

「何をするのですか?」

「敵の重歩兵を畑ごと焼き尽くす! フェルニゲシュに観測手(スポッター)を任せる! 砲台様に伝えろ。出力最大、畑が燃えようが森が燃えようが構うなと。行け!」

「アイサー!」


 慌てたようにヴォイロームイスが立ち上がった。


「あの見事な畑と森を焼いてしまうのですか?!」


 コイツは何を言っているのだ。放っておけば前線の位置が第二防衛線まで後退してしまうというのに。そうなったら見晴らしの良いこの掩体壕までが緩衝地帯になってしまう。そうしたらゴブリンたちの畑は殆ど全て奪われたも同然だ。


「敵にくれてやるくらいなら燃やした方がまだマシだろう」

「それでは、私の……任務はどうなるというのですか?!」


 コイツが居るといちいち説明しなければならなくて面倒臭いな。


「少尉、君は明日の食い扶持の心配よりも、先ずはその命を心配したまえ。現在、我々は敵に攻め込まれ、この地の最大戦力を奪われようとしているのだ」

「そ、そんな事態に?」


 俺はネレイデスに目で合図を出した。

 ネレイデスはすぐにその意図を汲み取りヴォイロームイスの手をそっと取った。


「少尉さまはこちらに」

「ど、何処へ連れて行くんだ?」

「素人さんは余計なことをしがちですから安全な場所へ。ここでことが終わるのをお待ちください」

「これは魔獣の飼育ケースじゃないか!」

「我々が勝てば必ず出して差し上げますわ。我々が全員死んでも敵さんが捕虜として保護してくださいます。ご安心を」

「おい、やめろ!」


 ネレイデスは冷たく微笑んだ。


「現在の敵の猛攻はあなたの無計画で蒙昧な行動が引き金になっている事をお忘れなく」

「そ、そんな……」

「戦争の知識が全くない、ど素人が新たな灯台守に着任したとなれば攻め時が来たと判断するのは当然でございましょう?」

「私の……せいで?」

「仮に我々のベヒモスを無力化され、敵に支援部隊が到着したら、ここよりもずっと奥まで攻め込まれるのは間違いありませんわ」

「そ、そうなのか?」

「それすら理解できない貴方のお世話をしているような余裕は私どもにはございませんの」

「そんな! ち、中尉?!」

「祖国の無事を祈ってくれ、ヴォイロームイス少尉」


 ネレイデスは飼育ケースの閂を下ろした。


お読みいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
こんなのを寄越す時点で祖国はダメでしょ。スパイにでも鼻薬使われて無能に交代させて、同時に侵攻ってのが敵国のシナリオかね。
恐らくこのタイミングを狙っていたんだろうなぁ
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