現在 2
翌朝、目を覚ますとそこはネレイデスの寝所だった。隣にはネレイデスがまだ寝ている。起こさないようにベッドを抜け出すがネレイデスは目を覚ましてしまった。
「おはようございます。こんな姿で失礼しますわ」
「構わん。体調は大丈夫か? 少しいつもと違うようだが」
寝起きなだけかも知れないが、いつもより顔が上気しているように見える。
「大丈夫ですわ。いえ、、、でももう少し横になってますわ」
「やはり無理をさせてしまったか」
「いえ、そちらは問題ありませんわ。むしろとても充足感がありますの」
「なら良いのだが、、、」
「明け透けに言うのでしたら、大変気持ちよかったですわ。こんな快感は味わったことがございません」
俺は笑ってしまった。
「本当に明け透けだな」
「こうした感想を言い合うのも大切だと新聞に書いてありましたわ。カイザキ様は如何でしたの?」
そう聞かれると照れてしまう。俺は恋愛は得意でないのだ。
「それはもう、、、最高の時間だったと言わざるを得ない、、、」
「それは良かったですわ。種族の壁って超えれるものなのですのね」
ひょっとしてこのまま懐妊などという事態もあり得るのだろうか?
その場合、産まれてくる子供はどちらに寄るのだろう?
気になることは多いが、カーテン越しにも外が明るくなってきた事が伺える。
「まもなくコウモリからの報告が入りますわね。わたくしも起きますわ」
「あ、いや。フェルニゲシユに頼むからゆっくりしててくれ」
「良いんですの?」
「うむ」
俺は床に脱ぎ捨ててあった自分の服を手早く着た。
ベッドからはみ出すネレイデスの下半身が艶かしく感じる。もう普通には見れないかもな。蛇の下半身用の服なんてどう作れば良いのか想像もつかない。
俺はネレイデスの寝所を出て自室を通り過ぎ、掩体壕を出た。そして入り口脇の洗面台で顔を洗った。
まだ日の出の時間ではなかったようだ。フェルニゲシユもまだ同じ位置で寝息を立てている。
そのまま腰を捻り、肩を回して軽い運動をする。前世ではラジオ体操というのがあったが、あれはどんな動きだったか。
東の空からハーピィが現れ、そこにネレイデスがいない事に気づき辺りを見渡す。
「今日はフェルニゲシユに頼む」
そう声を掛けるとハーピィは眠り続ける黒龍の前脚を嘴でつついた。
「うーん、もう朝か、、、あれ、主人と姉様は?」
「起きたか」
「あれ主人」
「コウモリからの報告をハーピィから聞いてくれ」
「え、姉君は?」
「まだ寝てる」
「ええ、一緒に寝てたのに!」
「良いから」
「はい、、、」
ハーピィが報告をする。
俺の耳には鳥が囀っているようにした聞こえないが細かなニュアンスまで伝えることのできるしっかりとした言語なのだそうだ。
「ご報告します。昨日夕方に黒龍に乗った人族が第一防衛線付近に来訪。前線のゴブリン部隊と衝突しそうになりましたが本国からの援軍ということで収束。黒龍と人族は森の中にキャンプを張って就寝したとの事です」
そういえば余りに早く出立してしまったので現場への連絡をしていなかったな。これは大失態だ。
「報告ご苦労。その人族はその辺りに新たな掩体壕を築く予定だからハーピィ達も何体かは彼のサポートに回って欲しい。後でグリフォンも向かわせる」
「ゴブリンたちはどうするの?」
「彼が、、、ヴォイロームイスというのだが、彼が要望するなら可能な限り手伝ってやって欲しい」
ハーピィからも質問があるようだ。
「その彼は新しい主人なの?」
「そう思ってもらって構わない。自分の身を守るのが最優先。次に仲間、次に俺、最後にヴォイロームイスだ」
「えっと、それは僕も?」
「フェルニゲシユ、お前は俺を最優先にしろ」
「ああ良かった!」
フェルニゲシユは胸をトントンと叩いた。
心臓が止まりそうだったのだろうか。
報告を終えて早々と帰ろうとしたハーピィに声を掛ける。
「腹が減ってるならその辺の畑でネズミを捕ってからで良いぞ。また増えて来たんだ」
フェルニゲシユに何かを伝えハーピィは飛んで行った。
「後でみんなで来るって」
「ふむ、まあその方が良いか」
「ネズミってすぐ増えるよね」
「産まれて二ヶ月で大人になって繁殖するからな」
「へえ、ゴブリンより早いんだ」
「彼らは繁殖するようになるまで二〜三年か」
「第一世代はもうおじいちゃん?」
「そうだな」
そう考えるともうなんらかの節目なのだと感じる。いつまでこんな戦地を維持すれば良いのだろうか。ここのように補給なしに維持できる前線が増えれば増えるだけ終戦が遠のくのは明らかだろうに。敵国も本国も何がしたいのやら。
「ねえ主人は今朝は何を食べるの?」
「昨日、砲台様の護衛隊から大きな鱒が届いてたろ。あれでスープでも作るかな」
「良いなあ」
「手伝うか?」
「うん、手伝う。一口ちょうだいね」
「お前の一口は俺たちの十食ぶんだからなあ」
「仕方ないじゃない、身体の大きさが違うんだからさあ、、、」
俺たちは並んで食糧庫へ向かった。
もう日の出時刻を過ぎたようで俺たちの背中を太陽が照らした。
なかなか良い朝だ。
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