現在 1
目を覚ました。
一瞬、自分が何処にいるのか分からなくて焦った。そうだ、フェルニゲシユを枕に野外で寝ていたのだった。隣にはネレイデスが寝息をたてている。暖かくはなってきたが、まだ蚊の出ないこの時期だけの贅沢である。
満天の星空を見上げてため息を吐く。考えなくてはいけない事が多すぎる。
刻一刻と変わる戦況に対応するだけでも楽ではないのだ。
魔獣たちが上げてくる報告を総合してその意味を勘案し、敵の思惑を想像する。そして次の手の予測をして魔獣を再配置するのだ。
そこに加えて新たな命令、そして自分の進退、、、
気がかりなのは自分の進退だけではない。前線の押し上げに対して敵がどう反応するか。それが未知数である。
敵が総力を上げて奪還を目指した場合、新着任したヴォイロームイスの命を守ることは俺の仕事になるのだろうか? 彼はまだ自軍、つまり自分が育てた魔獣を持っていないのだ。種苗や飼育ケースの補給の目処は立っているのだろうか。俺の飼育ケースを彼に譲ったほうが親切だろうか。
そもそも司令部は前線の運営の理解ができているのだろうか。司令部の世代が交代しているのだとして、そうした情報の引き継ぎはできているのだろうか。それとも俺の知らない新たな運用が始まっているのだろうか。
不明なことが多すぎる。
軍隊というのは作戦が敵国に漏れることを異常に恐れる。恐れるあまり、自軍の担当者すら作戦の全貌が知らされることがない。
だから俺たちのようなただの兵士は司令部を信じるしかない。
しかし俺は司令部に対して信頼が薄い。俺に言わせれば彼らは戦場から距離を置き過ぎているのだ。これでは文民や政治家と変わらないではないか。
ヴォイロームイスが碌に話をせずに先を急いだのも気がかりである。
何か隠し事でもあるのだろうか。ひょっとして彼は敵のスパイなのではないだろうか。この地がもはや戦地でないと俺に思わせて一気に攻め込んで来る気ではないだろうか。
いやいや、無駄な心配はやめよう。
時間と心労の無駄だ。
寝転がったまま大きく伸びをすると隣のネレイデスが目を覚ました。
「起こしてしまったか」
「いえ、ちょっと寒くて」
「ベッドに入ると良い」
「そうさせてもらいますわ」
ネレイデスは滑らかに起き上がった。脚のない彼女には立ち上がるという動作は必要ない。
するするととぐろを巻いていく彼女の下半身を眺めていると、ネレイデスの俺を見つめる視線に気づいた。
「どうした?」
「先ほどの提案も案外、悪くないかも知れませんわね」
「提案?」
「わたくし達が世帯を持つ、という提案ですわ」
「え、無理なのだろう?」
ネレイデスは腹の辺りに手を置き、少しのあいだ目を閉じた。
「無理でもない気がして参りましたの」
「ふむ」
「ねえ、いらして」
ネレイデスは俺に手を差し出した。
俺はその手を取る。
「良いのか?」
「まだ分かりませんわ」
「どういうことだ?」
「それは秘密ですわ。というか、わたくしにも分かりませんの」
「??」
俺は立ち上がり、彼女について行った。
フェルニゲシユはまだ静かに寝息を立てていた。
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